12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/12(土) 23:28:25.51 ID:8qAvVxQ00 [2/4]
  • ツンデレにポッキーゲームをしようと誘ったら

「むみさん、今日何の日だか知ってる?」
 いつものように、僕の部屋で静かに本を読んでいたむみさんに問いかける。
「知っているけど?」
「おっ、意外だね、むみさんが知ってるなんて」
「べ、別に、朝のニュース番組で言っていたから、知っていただけよ」
 何故だか慌てたように答えるむみさん。
「そう? まあいいや、知ってるなら話が早いし」
 僕は、いそいそとポッキーを取り出して、
「じゃあ、ポッキーゲームを――」
「何が、じゃあ、よ。やるわけないでしょう、馬鹿ね」
 氷点下の視線で睨まれ、すげなく断られる。まだ、最後まで言ってもいなかったのに。
「えー、今日は、世界中のカップルがポッキーゲームをする日だよ?」
「……どこから出た情報よ、それ? だいたい、ポッキーって、海外には流通してないと思うのだけど」
「……言われてみると、確かに」
 まあ適当に言ったことだし。
「……はあ、貴方と話していると、頭が痛くなってくるわ……」
「あ、じゃあ、僕が撫でて――」
「結構よ。貴方に頭を撫でられたら、余計に気分が悪くなるわ」
 チャンスとばかりに伸ばした手も、冷たく振り払われる。
「ちぇっ、そんなこと言って、むみさん撫でられるの大好きじゃんか」
「だ、誰が、好きだって言うのよ!? ただ気持ち悪くなるだけよ、あんなものっ」
「はいはい……」
 むしろ、いつも撫でてあげると、気持ち良さそうにしているのに……。まったくもって素直じゃない女の子である。
 僕は、心中でため息をつきながら、さっき出したポッキーをかじる。
「まあ、そんなところも可愛くて、大好きなんだけどね……」
「な、こ、この馬鹿っ、いきなり何を言ってっ!?」
 頬を赤く染め、むみさんは、こちらに身を乗り出すようにして怒鳴った。そのせいで、傍らに置いていた鞄の中身が――大して多くはなかったが――床にぶちまけられてしまう。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/12(土) 23:29:21.34 ID:8qAvVxQ00 [3/4]
「あっ」
「っと、むみさんは座ってて良いよ、僕が拾うから……ん?」
 投げ出された、教科書や本に混じって、僕の目に止まった物。それは……
「……へえ、むみさんも買ってたんだね、ポッキー」
 自分の声が、とても意地悪く聞こえるだろうと自覚しながら、そう口にした。
「た、たまたま、何となく食べたくなったから、買っただけよ、そ、それがどうかしたかしら?」
「ふーん、普段からダイエットで甘いものは控えてるむみさんが、たまたま朝のニュースでポッキーの日だと知った上で、たまたま何となく食べたくなって、しかもたまたま、僕の部屋に来る前にポッキーを買っておいた、っていうこと?」
「う、ぁ、な、何が言いたいのよっ?」
 十中八九、むみさん自身わかっていながら、責め立てるように聞いてくる。むみさんがどう答えるかより、その真っ赤になった顔が、何より真実を雄弁に語っている。
 それは、つまり――
「――むみさんも、僕とポッキーゲームをしようと思って買ったんでしょ? だけど、自分からは恥ずかしくて、とても言い出せなかったと」
「そ、そんなわけないじゃないっ! な、何で、あ、貴方なんかと、そんな、ふざけた遊びをしようだなんて……ば、馬鹿馬鹿しい……」
 むみさんは、羞恥のせいか、声を弱々しく震わせて、そっぽを向いてしまう。しかし、相変わらず、その顔は熟した林檎のように真っ赤なままで、もう何て言うか、抱き締めたいほど可愛い。
「もう意地を張るのはやめて、大人しくポッキーゲームしようよ。ホントはむみさんもやりたかったんでしょ?」
「あ、貴方の勝手な欲求を人に押し付けないでほしいのだけど」
 返ってきたのは、またもや冷たい返事で、怒っているというポーズなのか――僕には、恥ずかしがってるようにしか見えないけれども――むみさんは、変わらずこちらを向こうともしない。
(まったく、しょうがないなあ、むみさんは…………あ、そうだ)
 その時、妙案が浮かび、僕は、またポッキーを一本取り出して、ぽりぽりとかじる。
「ポッキーゲームより良いことを思い付いたよ、むみさん」
「? な、何よ?」
 疑問を口にしながら、こちらを向いたむみさんから――
「……ん、ぅんっ!?」
 ――いきなり、唇を奪った。
 驚いて、逃れようとするむみさんの頭を手で押さえ……強引に、舌で唇をこじ開け、その中を蹂躙する。
 そして、『さっき口にした物』をむみさんの口内へと流し込む。
「ん!? ……ふ、ぅ、んっ」
 最初は拒絶するように思えたむみさんも、次第にこちらを受け入れ、求めてくる。互いの舌を、そしてチョコの甘味を、これ以上なく味わい尽くす。
 そうして、長いキスを終えた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/12(土) 23:30:57.75 ID:8qAvVxQ00 [4/4]
「……はぁ、はぁ……こうっ、やってさ、口移しした方が、全然良いと思わない?」
「……ん、ぁ、はぁ……ば、ばか、ばかぁ……さ、最低っ、最低よ、貴方……こ、この、変態……!」
「ふふ、むみさんも途中から乗ってきた癖に」
「ち、ちがっ、違うわよ! わ、私は一方的に、その、された、だけで……」
 言われて、尚更さっきの行為を思い出したのか、ただでさえ赤い顔が、耳まで朱に染められる。
「もう、嘘ばっかり……それで、どうしようか? むみさんのも合わせて、まだまだ、殆どまるまる二箱あるんだけど?」
「……ぅ、そ、そんなの、あ、貴方が好きに食べれば良いじゃない……」
 顔をそらし、この期に及んで、まだそんな素直じゃない台詞を口にするむみさん。僕は、彼女の耳元に、口を寄せ、ゆっくりと囁く。
「僕は、『むみさんと』食べたいんだけど?」
 むみさんは、全身をびくりと震わせた後……恥ずかしさのあまり、言葉にして答えることはできないのか……ただ、こくりと小さく頷いた。

 結局、お互いの口元がチョコまみれになるまで、仲良くポッキーを食べたのだった。
 その後、「まあポッキーよりも、むみさんの口の方が美味しかったけどね」と言ったら、しばらく口をきいてくれなかったけれど。
最終更新:2011年11月13日 18:04