68 名前:1/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 19:11:53.23 ID:C/0tJFUQ0 [15/42]
  • 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その1

 お昼休み。お弁当を食べていた時、突然友香が変な事を聞いて来た。
『ねえ、悠。別府君てさ。エッチな事に、興味とかあんの?』
『は……?』
 予期せぬ事を聞かれ、ボクは思わず、箸でつまんでいた鳥の唐揚げを落っことしてしまう。
『委員長。危ないっ!!』
 すかさず葉山さんが、お弁当のフタで唐揚げを受け止める。それから、無事助かった
唐揚げをボクの前に差し出した。
『はい、委員長。ダメよ、食べ物は大切にしなくちゃ』
『あ、ありがとう。っていうか、友香が急に変な事言い出すから悪いんじゃない』
 ジロリと友香を睨み付けると、彼女は口元に笑みを浮かべつつ、いささか前のめりに
ボクを見つめると、小声で言った。
『だってさ。別府君って、そういう所が全然見えないじゃない。悠以外は女子と仲良い
訳でもないし、男子同士の話題で、クラスの女子で誰が可愛いとか、アイドルの子達の
話題とかも、会話に参加してる時はあっても、特に楽しそうって感じでもないし』
『……良く見てるね。実は友香って、別府君の事が好きなんじゃない?』
 もちろん、本気の言葉じゃない。いつもからかわれてばかりいるから、たまにはちょっ
と仕返ししてあげないとと思って言った言葉だ。しかし、友香はボクにニヤリと意味あ
りげな笑みで返したかと思うと、サラリと切り返してきた。
『そりゃあね。大事な親友の彼氏候補ですから』
『なっ……!?』
 別府君とカップリングされるのは今に始まった事じゃないし、むしろ、再三再四から
かいの対象になっているのだから、いい加減慣れてもおかしくないのに、ボクは未だに
動揺してしまうのを抑えられなかった。
『だっ……誰が彼氏候補だって言うの? 別府君なんて、ロクに共通の話題も無いから
話してたってつまらないし、どこかへ誘ってくれる気振りすら見せないし、一緒にいる
だけで面倒くさそうな顔するし…… ボクじゃなくたって、彼氏にしようなんて思う女
の子はいないと思うよ』
『でも、委員長は好きなのよね?』

69 名前:2/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 19:12:15.80 ID:C/0tJFUQ0 [16/42]
 横から楽しそうに葉山さんが口を挟む。
『じょ、冗談言わないでよ。そりゃあ、委員長と副委員長だし、他の女子に比べれば仲
良く見えるかもしれないけど、それと好きかどうかは別問題なんだから。勝手にボクの
好きな人だなんて決め付けないでよね』
 何度同じ事を言っただろうか。ちょっとうんざりする気分ながら、ボクは答える。いっ
そ、せめて友達にくらいは彼が好きだって正面切って言えるような性格だったら、ど
んなにか楽なんだろうなと、時々思わないでもない。でもやはり、そういう想いを誰か
に知られる事は、物凄く抵抗を覚えてしまうのだ。
『はいはい。その御題目はもう聞き飽きたわよ。で、好きかどうかはともかくとして、
悠はどうなの? 別府君が女の子にちゃんと年頃の男子並みの興味があるのかどうか、
知りたくはない?』
 そう聞かれてボクは逡巡する。そりゃあ、誰だって女の子なら、好きな男子の事くら
い知りたくて当然だと思う。だけど、同時に知るのが怖い事だってあるのだ。もしも女
の子にそんなに興味が無かったら? 興味はあるけど、年上好みだったら? 胸の大き
な女の子にしか興味が湧かなかったら? 考えれば考えるほど、良くない方向ばかりが
浮かんでくる。
『うんうん。やっぱり興味あるわよね~』
 ボクが考えに耽っている間に、友香が一人納得してしまって、したり顔で頷いていた。
『ちょ、ちょっと待ってよ。ボク、興味あるなんて一言も言ってないんだけど』
 慌てて抗議するも、友香はフフンと不敵に笑うと、人差し指をボクの顔の前で軽く振
りつつ答えた。
『なーに言ってんのよ。考えてる時点で、知りたいって思う気持ちがあるって事じゃな
い。どうせ、悠の事だもん。自分が別府君好みの女の子からかけ離れていたらどうしよ
うとか、そんな事をグダグダ考えていたんでしょ?』
『違うってば!! べ、別に別府君が年相応に女の子に興味があるかないかなんて、関
係ないし…… そんなのボクの知った事じゃないから……』
 即座に否定しつつもボクは不思議に思う。どうして友香はボクの考えてる事を的確に
言い当てられるんだろうと。ボクの思考回路って、そんなにも単純なんだろうか? だ
としたら、他の人にも簡単にも読まれていたりするんだろうか?


70 名前:3/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 19:12:45.93 ID:C/0tJFUQ0 [17/42]
『うんうん。それじゃあ、ちょっと調べてみましょうよ。別府君が、エッチな事に興味
を向けるかどうか』
 葉山さんが両手を合わせて嬉しそうに言う。ボクの思惑と全然真逆な方向にまとめよ
うとする彼女に、ボクは思わず文句を言ってしまう。
『ちょっと。ボクは興味ないって言ってるのに、何でそういう方向になるの? 意味が
分からないんだけど』
『だって、私は興味あるもの。友香さんだってね』
 振られた友香も、うんうんと頷く。
『だって、別府君って一見凄くストイックに見えるじゃん。まあ、そういう所が他の女
子の密かな人気にも繋がってるんだろうけどさ。けど、そういう人の裏の顔って見てみ
たいなとか思うよね』
『やっぱり、そう思うわよね』
 二人して意見の一致を見て、微笑み合う。ボクは視線を逸らしてうんざりした気分で
ため息をついた。どうしてこう、下世話な事が好きなんだろうか。ホント、懲りないなと思う。
『で、悠はどうするの?』
 友香に聞かれて、ボクは顔を上げて聞き返す。
『え……ボクが、何?』
『いや。だから参加するかどうかって話』
 真顔で聞かれて、ボクはキッと友香を睨み返した。
『だからボクは興味ないって言ってるじゃない。さっきからちょっとしつこくない?』
『じゃあ、仕方ありませんね。私達、二人だけでやりましょうか?』
 葉山さんの言葉に、ボクはハッと彼女を見る。すると今度は、友香が頷いて同意した。
『だよね。悠は興味ないしやりたくないって言うんだから仕方ないか』
 その時、お昼休みを終える予鈴が校内に鳴り響く。
『じゃあ、友香さん。後でまた、作戦会議しましょう』
『うん。それじゃあね~』
 もはやボクは蚊帳の外に置かれてしまった。ヒラヒラと手を振り、自分の教室に帰っ
ていく友香を、呆然と見つめている事しか出来なかった。


82 名前:1/4[] 投稿日:2011/11/23(水) 20:10:13.91 ID:C/0tJFUQ0 [20/42]
  • 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その2

『で、何で悠がここにいるのかな?』
 次の日の放課後。友香と葉山さんが別府君に何をするのか、気になって仕方が無くて
後を付けようと思ったらあっさり見つかって、今ボクは、友香の質問を受けていた。
『え、えーと……いやその……たまたまだよ。たまたま』
『フーン、そう。たまたま……ねえ?』
 意味ありげに笑う友香を、ボクは逆に睨み付けた。
『何、その笑い方。言いたい事があるならハッキリ言ってよね』
 すると友香は、笑みを消し、視線を鋭くしてボクに言った。
『じゃあハッキリ言うわよ。興味があるんなら、最初っからそう言えばいいのに。無理
して興味ないフリをしないでちょうだい。大体、悠って態度でバレバレなのに、全然自
覚してないんだから』
『ち、違うってば、えーと、その……ボクはその……ふ、二人が暴走して別府君に迷惑
を掛けないように見張ってようと思っただけで、別府君がエッチがどうかだなんて事には……』
『フーン。悠って、そんなに別府君思いだったんだ。知らなかったなぁー』
 そう指摘されて、ボクは顔がカッと火照るのを感じた。今のは確かに言い訳としては
失敗だった。しかし他に言う事もなく、うつむいて困惑していると、友香が指でボクの
額を押し、グリグリと突いた。
『素直になっちゃいなさいな。あたしらだって興味があるのに、別に恥ずかしがる事で
もなんでもないでしょうが。ほらほら』
『う~っ……!!』
 どうにも答えようがなくなってしまい、行き詰っていると、今度は葉山さんがボクの
肩に手を回し、ギュッと抱き締めてきた。
『この際だもの。委員長も参加させちゃいましょう。もう、興味あるかどうかなんて関
係ないわ。ねえ』
 思わず葉山さんの顔を見ると、間近で優しく微笑みかけて来る。彼女の言葉に同意し
て、友香も言った。
『そうね。もうめんどくさいし、とっ捕まえたんだから捕虜として扱ってもいいか』


83 名前:2/4[] 投稿日:2011/11/23(水) 20:10:33.59 ID:C/0tJFUQ0 [21/42]
『え? え?』
『それじゃあ、行きましょうか。そろそろ、別府君も帰る頃でしょうし』
『そうね。じゃあ、作戦開始としますかね』
 こうしてボクは、無理矢理友香達の、別府君がエッチな事に興味があるかどうかを調
査する会に強制参加させられたのだった。


『で、具体的には何をするわけなの? 正直、皆目検討も付かないんだけど』
 半ばうんざりする気持ちながら、ヤケクソに聞くと、友香は手提げのバッグから、一
冊の本を取り出した。
『ま、まずはね。オーソドックスにこんな所からいこうかなと』
 友香の手にする本は、表紙を見るだけで内容が分かってしまった。女性の裸がたくさ
ん載った成人向けの本。いわゆるエロ本だ。
『これを、別府君の通学路の中でも人気の少ない場所に捨てておくの。それで、彼がど
ういう反応をするのか、見てみましょうっていうわけ』
 葉山さんが即座に補足する。
『そんな事で別府君がエッチな事に興味あるかどうか分かるの?』
 ボクは視線を本から逸らして、二人に聞く。正直、エロ本なんて見たこと無いボクだ
ったけど、表紙を見ただけでもハードそうな内容だと分かる。コンビニなんかの成人コー
ナーに置いてある本はたまたま目に入る事もあるが、それよりもずっと濃そうな表紙だからだ。
『まあ、この程度で分かるなら、楽なんだけどね。まずは第一段階って所で』
 友香の言葉に葉山さんも頷く。それから、両手を合わせてちょっと嬉しそうに私に向
かって聞いて来た。
『委員長は、この本を見つけて、別府君がどういう態度を取ると思う?』
『……無視、するんじゃない?』
 パッと思いつく、一番ありえそうな答えを言う。すると葉山さんは、ウンウンと頷き
つつも、好奇心に満ちた顔をしてボクに言った。
『確かにそのイメージはあるわ。でも、別府君だって立派な男子だもの。きっと、道端
に落ちていれば、何がしかの反応を見せるに決まっていると思うの。その瞬間を、これ
で押さえるのよ』

84 名前:3/4[] 投稿日:2011/11/23(水) 20:10:56.38 ID:C/0tJFUQ0 [22/42]
 彼女は、ポケットからコンパクトデジカメを取り出してボクに示す。すると今度は、
友香が自信有り気に頷いて、次から次へと目を覆いたくなるようなエッチな本を出して来る。
『フッフッフ。見なさい、このラインナップ。女子高生、巨乳、制服物、熟女、ハード
コアから、ホモに至るまで何でもござれよ』
 ガサッと手提げ袋を開けて中身をボクに見せる。ボクは呆れた気分で友香を見て言った。
『……あのさ。ところで、一体これだけの本をどこで仕入れてきた訳? まさか、本屋
さんで買って来たの?』
 するとさすがの友香も慌てて答える。
『まっさかぁ。ほとんどは家の近所に捨ててあった奴よ。何か、マンションのゴミ捨て
場にちょくちょく捨ててあんのよね。それ知ってたから、ちょっと拝借して来たって訳』
『よくそんな恥ずかしい事が出来るよね。それに、ゴミ捨て場から持って来るのも窃盗
じゃなかったっけ?』
 ボクの指摘に友香はウッと一瞬言葉を飲み込み、バツの悪そうな顔をするが、すぐさ
まフンと鼻息も荒く言い返してきた。
『仕方ないじゃない。あたしだって女の子なのよ。さすがにこれだけの本を本屋さんで
仕入れて来るなんて出来ないもの。大体、こーいう本って、無駄に値段高いのが多くて
さ。いくら目的の為には手段は問わずって言ってもさ。さすがにこれだけの為にお小遣
い使うわけに行かないもの』
 その前にそもそも、こんな風に別府君の後を付け回して調べる事そのものが、よっぽ
ど無駄なのではないだろうか。そう突っ込もうと思った時、葉山さんが先に口を挟んだ。
『あら? これだけ、だなんてそんな事を言ってはいけませんわ。委員長の大切な想い
人の性癖を調べるのは、友人としての大切な役目ですもの。その為の調査資料に、経費
を惜しんではいけないと思うんだけど』
『あのね、葉山さん。何度も言うようだけど――』
 想い人と言われて、ボクはまた反論しようと口を開く。自分自身では認めていても、
どうしても友人にそうやって認定されるのには抵抗感があった。しかし、その抗議を遮っ
て、友香が口を挟んできた。

85 名前:4/4[] 投稿日:2011/11/23(水) 20:11:17.67 ID:C/0tJFUQ0 [23/42]
『さっすが、葉山さんは言う事が違うわ。いくら重要な資料だって言っても、書店でエッ
チな本買えるなんて、どれだけ度胸据わってんだか』
『え――?』
 その言葉に、ボクは驚いて友香から葉山さんに視線を移す。すると友香が、ボクに耳
打ちするように、声を潜めて教えてくれた。
『あのさ。さっき、一冊だけホモのがあったじゃん。さすがにあれだけは、ゴミ捨て場
に落ちて無くてさ。そうしたら、彼女、自分で買って来るって言って、ホントに用意し
て来ちゃったのよ』
 半ば呆れた調子の友香に、葉山さんはさも嬉しそうに両手を胸の前で組み合わせて、
微笑んだ。
『ええ、もうステキな体験だったわ。彼に告白した時だって、あんなにはドキドキしな
かったもの。一応変装はしたけど、それでも、あんな本を買う女って、回りの人からど
う思われるんだろうって思ったら……もう本当に、消えてなくなりたくなるくらい恥ず
かしくって……でも、レジで紙袋に入れられた本を渡された時の達成感と開放感と言っ
たら…… 男の人って、エッチな本を買う時ってみんなあんな想いをしてるのかしら……』
 何かうっとりとしたような顔で体験談を語る葉山さんを前に、ボクは呆れてこめかみ
を押さえた。全く、こんな美少女が男同士のエッチな本を買うなんて、誰が思うだろう。
『全く…… ホント、あの行動力にはあたしもちょっと敵わないわ』
 さすがの友香も、ボクと同じく呆れた様子で言った。しかし、葉山さんはそんなボク
らの態度を知ってか知らずか、興奮してボクに迫って言った。
『頑張りましょう、委員長。私がここまでしたのだもの。絶対に、別府君の性癖を暴い
てみせましょうね』
 ガッシと手を握られ、強気にボクを見据えて話す彼女に、ボクは勢いに飲み込まれて
反論する事すら出来なかった。
『あ……う、うん……そうだ……ね……』
 思わず頷くと、葉山さんはニッコリと微笑んで頷き、それから友香の方を向いて、頷
いてみせた。
『それじゃあ友香さん。作戦、決行するわよ。そろそろ別府君も来る頃だし』
『了解。それじゃあ、悠もね。行くわよ』

103 名前:1/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 21:14:56.45 ID:C/0tJFUQ0 [28/42]
  • 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その3

 行くわよと言われても、ボクは別に何をする訳でもない。友香が一冊、エッチな本を
手にし、ふせんを剥がす。どうやら、事前に開いておくページを選んでいたらしい。
『ほらほら、悠。男の子ってこういうの好きそうじゃない? どうよ?』
 ワザとらしくボクに見せる友香に、ボクはそっぽを向いて怒る。
『いいから、さっさと置いてきなってば!! 別にボクはそんなの一切興味ないんだから』
 とはいえ、もしかしたら別府君が興味を持つかも知れないと思うと、全く興味がない
とは言い切れなかった。ほんの少し、横目で見ると、制服を着た可愛らしい女の子が
、大きな胸を露にし、めくれたスカートの中にも何も着けていない格好で、扇情的なポ
ーズを取っている。
――別府君もやっぱり……好きなのかな? こういうの……
 自分を省みると、ため息が出る思いだ。可愛くもないし、スタイルもあんまり良くな
いし、胸だってお尻だって、全然エッチっぽくない。
『お待たせ。葉山さん。準備はいい?』
『カメラ班。バッチリオッケーでーす』
 葉山さんがカメラ片手に軽く手を振って合図する。
『いやー。何かこういうのって、いざとなるとドキドキするわよね。悠?』
 友香に声を掛けられたが、自分の思いでいっぱいいっぱいになっていたボクは、答え
る余裕すらなく、固唾を呑んで通りをジッと見つめていた。
『やれやれ。まだ来てもいないのにこれじゃあね…… っと、来たかな?』
『ターゲット、確認』
 葉山さんの声も、心なしか緊張して聞こえる。やがて、向こうから別府君がやって来
るのが見えた。いつものように早足で、肩にバッグを担ぎ、つまらなそうな顔でまっす
ぐ歩いている。いつの間にか、内心でボクは祈っていた。
――お願い。興味を示さないで……
 ドキドキしながら、固唾を呑んで見守る。
『さあ。どう出るかな……』


104 名前:2/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 21:15:20.11 ID:C/0tJFUQ0 [29/42]
 小声で、友香が呟くのが聞こえる。興味津々な響きに、ボクは恨めしさすら覚えた。
こんな事に引っ張り込まれたお陰で、ボクはこんなに緊張する一瞬を過ごしているとい
うのに。他人事だと思って、のん気なものだ。
『いよいよよ。カメラ、オッケー?』
『ええ、大丈夫よ。行けるわ』
 ペースを落とさず、別府君が落ちているエッチ本に近づく。そして、視線も顔色も変
える事無く、彼はあっさりとその場を通り過ぎてしまった
『悠、隠れて』
 擦れるような声で言いつつ、友香がボクの腕をグイッと引っ張った。
『キャッ…… い、痛いな、もう……』
 小さく悲鳴を上げて、友香を睨み付ける。すると友香は厳しい顔で人差し指を口に当
て、黙れと仕草で示した。ボクは渋々頷き、息を潜めて隠れ場所にしゃがみ込む。しば
らくそのままでいると、葉山さんが頷いて言った。
『オッケーよ。もう言ったわ』
 その言葉に、ボクは小さくため息をつく。しかし友香は、即座に葉山さんの傍に寄って言った。
『どう? しっかり撮れた』
『写真は問題ないわ。でも……』
 そう言いつつ、葉山さんがデジカメの画像を友香に見せる。すると、友香も難しい顔
つきになった。
『うーん…… 何か、見てるんだか見てないんだか、微妙な視線だわこれ…… 悠はど
う思う?』
 意見を求められて、ボクはデジカメを覗き込んだ。うつむき加減で歩いているから、
視界に入っているかもしれないが、はっきりとそっちを見た画像は一枚も無い。
『これは、興味なしと判断した方がいいのかしら?』
 葉山さんが首を捻るが、友香は首を横に振った。
『分かんないわよ。道端だから、常識が欲望を抑え込んだだけかも知れないじゃない。
もしくは、単に女子高生は興味無しとか。いずれにしても、もうちょっと試してみないと』
『もうちょっとって言っても…… もう行っちゃったじゃない。今からじゃ、とても先
回りなんて出来ないよ?』


105 名前:3/3[] 投稿日:2011/11/23(水) 21:16:43.76 ID:C/0tJFUQ0 [30/42]
 ボクが疑問を呈すると、友香は肩をすくめて答えた。
『まあ、今日はもう無理よね。また明日、出直すわよ』
 その言葉に、ボクは心底、うんざりした口調で言った。
『まだやるつもりなの? 別に、もうこんな事しなくてもいいと思うんだけど……』
 いっそ、ボクだけのけ者にして貰ってもいいくらいの気分で言ったが、残念ながらそ
うはならなかった。葉山さんが、ボクの両肩に手を置くと、真面目な顔でジッと見つめて言った。
『委員長。真実を知るためにはね。忍耐と努力と根性が必要なの。頑張りましょう、一緒に』
 その真実が、出来れば知りたくないんだけどなと思いつつも、葉山さんに反論する事
も出来ず、ボクはただ、勢いに押されて頷くしか出来なかった。
最終更新:2011年11月29日 00:47