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680 名前:1/3[] 投稿日:2011/05/14(土) 19:40:42.14 ID:gq7m31D80 [2/4]
 季節の変わり目は、どうも天気が不安定になる。
 私は急に降りだした小雨から身を隠すため、適当なシャッター店の軒先に避難した。

「あーあ。ツイてないなぁ…」

 一人、そんな事をぼやく。
 降水量は1~3mm程度だろうか。走れば帰れないほどではないが、そこまでするのも面倒くさい。それに私は濡れるのが嫌いだ。

 仕方が無いので軒先でぼーっとしていると、向こうからコウモリ傘片手にのんびりと歩いてくる一人の男の姿が目に入った。

「…おや、かなみか。こんな所で何やってんだ?」

 別府タカシ、私の幼馴染だ。

「…見れば分かるでしょ」
「雨宿りか?そこまで大げさな雨には見えないがね」
「私は濡れるの嫌いなの。野良犬みたいなアンタと一緒にしないで」
「えーっと…それ、どういう意味?」
「みすぼらしくずぶ濡れになってるのがお似合い、ってことよ」
「きっついなぁ…」

 ふん、と私は鼻を鳴らして、一度空を仰ぎ見た。
 雲は少しずつ、大きくなっている。このままだと本降りになるかもしれない。

「…今のうちに、帰った方がいいと思うけど」

 心を見透かしたように、あいつが言う。
 私も今そうしようとしていた所だ。だけど残念、あんたにそう言われると、私はどうしたって反抗したくなる。

681 名前:2/3[] 投稿日:2011/05/14(土) 19:42:12.37 ID:gq7m31D80 [3/4]
「………余計なお世話よ。とっとと帰れば?」

 気遣ってくれた相手を冷たく突き放す私。
 だけどまったくいつものことで、あいつはやれやれと肩をすくめ、それから少し考えるようなそぶりをした。

「そーかい…だったら、ほら」

 手に持った傘をこちらに突き出す。水の粒のいくつかが、あいつの髪に当たって跳ねた。

「…何よ」
「傘、貸してやるよ。野良犬は濡れてもどうってことねえし」

 そう言って、にやりと笑うあいつ。
 …ああ、もう。言ったのは私なのに、なんかあいつから言われると腹が立つ。人の台詞を取るなと言ってやりたい。

「…いらない」

 そして私は、またもや意地を張り通す。

「遠慮すんなよ」
「いらない、って言ってるの。アンタに借りなんか作りたくないし、別にこれくらい、平気だし」

 もう何が平気なのやら。

682 名前:3/3[] 投稿日:2011/05/14(土) 19:43:54.02 ID:gq7m31D80 [4/4]
「…ふーん。ま、いーけどな」 

 あいつはそういうと、くるりと私に背を向けてしまう。
 その背中に思わず声を掛けそうになってしまうのは、私のどうしようもない甘えなのだろう。
 待って。ごめんなさい。やっぱり貸して。…あるいは、もっと一緒にいて。
 掛ける台詞は幾千通り。だけども私は、そのうちの一つだって言えやしない。

 今にも消えそうな背中に手を伸ばしかけていると、不意に目の前の背中が喋り出した。

「ああ、そうそう…」

 わざとらしいほど棒読みな口調で、あいつは続ける。

「断られたので傘は貸さないけど、勝手に入ってくる分には気にしないぞ?」

 そんな台詞が耳に入り、私は思わず微笑んでしまう。
 幼馴染で、面倒くさい私の事がよく分かってて、ああもう、これだからあんたって奴は。

 私は何食わぬ顔で、図々しくも、さっとあいつの傘の中に入り込んだ。
 二人っきりの下校、一つっきりの傘。
 そして持ち手を挟んだ向こう側には、悪戯な笑みを浮かべたあいつがいる。

 なんの笑みだ、と思う前に、自分の行動を省みてみる。
 …あんな下手な誘いに乗ったのは私だ。誘わせる原因を作ったのも私だ。
 …今、改めて思うに、ひょっとして、今の私は、あいつから見て、かなり子供っぽかったんじゃないだろうか?

「素直じゃないなあ、ホントに」
「……うるさい」

 そんな事は分かっている、と思いつつも、私は恥ずかしさからくる顔の熱を、なかなか冷ます事が出来なかったのだった。
最終更新:2011年05月16日 02:49