55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/20(火) 22:31:33.07 ID:O1+CxF400 [1/2]
 あー、だめだ。こんなことしてたら、絶対後で後悔するのに……。
 いや、別にたいしたことじゃない。
 ただ単に、旦那の隣で寝てるってだけなんだけど。夫婦だったら当然でしょ?
 いや、まぁ、あんまり正確じゃないのは認める。
 正しくは、『眠っている旦那の体にぴったりひっついて、胸板に顔を埋めて、くんかくんかしてる』……って感じ。
 冬の布団はもはや何らかの罠だ。暖かい温もりと、冷たい外気への恐れが、私を引き留める。その上、布団の中の温もりの半分は、
こいつの分なわけで。
 普段は絶対、絶対、ゼッタイに口にしないけど、こうしてる時が本当に至福。
 特にパジャマってのがいい。だってパジャマって、基本家族にしか見せないじゃない? 一緒に生活してる感みたいなのが、お風呂
上がりの度に半端ないわけですから。その青いパジャマをくんかくんかしたくなるのも当然じゃない? 当然だよね。当然って言え。
 でも本当、いい匂いするのよね。ボディソープとちょっぴりの汗と、あとなんか原因不明の匂い。すっごく落ち着く。
 パジャマフェチに匂いフェチとか、変態度は私もコイツのこと言えないなぁ。
 こんなことしてるの、もし起きてる時に見つかったら、どうなることk――
「おい」
「!!」
 唐突に、不意に、いきなり、声をかけられてそのままここ後頭部に手が添えられておもおも思いっきりぎゅって、ぎゅってされた!!
「なにやってたか、正直にどうぞ」
 まだ少し眠そうな声だけどどど、わたし、そ、それどころじゃないんってば!
 結婚するときに『お互い隠し事はなし』という約束をした。だから、嘘はつけない。さらにごまかしも効かないんだろうなぁ、これ。
「なぁ……」
 催促する言葉が、なんだか本当に心配そうだ。ふざけんな。病気とかじゃないっつーの、失礼な。でももうこれ、だめ、仕方ないよね。
 少し落ち着いた私の脳みそは、天才的な回答を打ち出した。 

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/20(火) 22:32:15.55 ID:O1+CxF400 [2/2]

 ――よし! 開き直ろう!!

 私はブルーのパジャマをぎゅっと握ると、でも相手の顔は見ないようにうつむいた格好で、頬ずりした。
「いや、あの……」
「うっさい。見れば解るでしょ? なんか文句あんの?」
「……ないけど」
 そうよね、あるわけないわよね。美人の奥さんがすがりついて、くっついてくれるんだから。減るもんじゃないんだから、ぐちゃぐちゃ言
ってんじゃないわよ。
「だったら……何も、言わなくていいでしょ?」
「いや、なんか急だから,悪い夢見たとか悩み事があるとか、そういうのかと」
 あー、やだやだ。悪い夢? 悩み事? それでぎゅっとすがりついてウサギちゃんみたいにプルプル震えるって? 女に幻想抱きすぎよ、キ
モいわね。
「残念、あいにく常習犯よ」
「堂々としてるなぁ、常習犯」
 胸板にすりすりしながら、私は最後の理性を総動員して、事後の策を練る。
「はあぁ、これ、あとで我に返ったら絶対悶絶するわね……」
「解ってるならやめればいいのに」
「だめ、あんたが悪い。あんたとこうしてんの、気持ちよすぎだもん。後で話題に出したら殺す。殺して離婚してやる」
「すまん、可愛いのか怖いのかどっちかにしてくれ」
 困惑する旦那。本当、気が利かないんだから。どうすればいいのか、いい加減解って欲しいわね。
「なでなでしたら、可愛いまんまだと……思うわよ? 言わなきゃわかんないの? あとエロいことしたら潰す」
「そこまで空気読めなくないってば」
 大きくて、少しごつごつとした手が優しく私の髪を梳くように動く。あー、あったかくて気持ちいい。「はふぅ」と思わずため息が出てしまう。
 結局、私は日の出までの短い時間、思う存分くんかくんかもふもふしまくって、翌朝悔悟と羞恥と八つ当たり気味の怒りを夫にぶつけることになる
のだった。


   終り
最終更新:2011年12月27日 23:08