143 名前:1/6 :2011/12/22(木) 06:21:15.71 ID:6rMw0rWb0
- 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その8
「は? 付き合うって、何にだよ?」
別府君がこっちを向いて聞く。それにボクは、ほぼ真上を指した。
『あそこ』
屋上へ出る階段の出口の屋根の上には、金属製の梯子で登れるようになっていた。ボ
クの指す方向を見た別府君が、視線をボクに戻して聞いた。
「あそこって……あんなとこ上って、どうするんだ?」
『……今日、天気良いでしょ? だから、あそこからだったら、もうちょっと良い景色
が見れるかなって……』
実はこれは思い付きではなく、前から一度、別府君と二人で上ってみたいとは思って
いたのだ。だから、ボクにしてはスムーズに理由が言えたのだが、別府君はボクの顔を
少し見つめてから、考え込むように言った。
「で? それに俺が付き合わなくちゃならない理由は?」
『一人で上ってたら、虚しくなるじゃない!! いいでしょ? 別に付き合ってくれたってさ!!』
睨み付けてそう怒鳴ると、困った顔で頭を掻き、別府君は視線を逸らした。
「……まあな。別に、早く教室戻った所で、何する訳でもないしな」
そう言いつつ、言葉にため息が混じるのをボクは聞き逃さなかった。どうせめんどく
さいとか思われてるんだろう。ボクって別府君にとってそういう存在でしかないのかと
思うと、何か悲しい気分になった。しかし、それをグッと心の奥に仕舞い込み、ボクは
先の事だけに考えを廻らす。
『それじゃあ、ボクが先に上るから……別府君は後から上って来て』
そう言って梯子に手を掛けると、別府君が慌てたように制してきた。
「待てよ。俺が先じゃダメなのか?」
ホントはボクもそうしたいけど、これも作戦の内なので、仕方無しにボクは首を横に振る。
『ダメ。だって、万が一、ボクが足を滑らせたら誰が受け止めてくれるの?』
自分で言ってて情けなくなるし、理由としてもちょっと苦しいものがあるが、この程
度しか思いつかなかったのだから仕方が無い。
「いくら委員長が運動神経鈍くても、さすがに落ちるって事ないだろ」
144 名前:2/6 :2011/12/22(木) 06:21:39.58 ID:6rMw0rWb0
そう言う別府君を、ボクは無言で睨み上げた。もはや言葉よりも目で訴えるしかない。
そしてそれは功を奏した。
「分かった。いいからとっとと上がれ」
うっとうしそうに手を振りながら、別府君が諦めたように言う。その態度が気に食わ
なかったけど、そこはグッと堪えてボクは梯子に手を掛ける。そこで別府君の方を見て、
釘を刺した。
『言っておくけど、ボクが全部上りきるまで上ってきちゃダメだからね。それと、上を
見るのもダメ。終わったら声掛けるから、それまで絶対に見ちゃダメだからね。いい?』
こんなスカート履いて下から見られたら、確実に中を見られてしまう。ましてや、す
ぐ後から付いて来られたら、目の前だ。さすがにそれだけは、ボクとしても妥協出来な
い物があった。
「分かってるから、さっさと上れ。つか、だから俺が先じゃダメか聞いたのに……」
別府君がグチグチと文句を言うから、ボクはつい、ムキになって言い返してしまった。
『うるさいな、もうっ!! 別府君が上見なければいいだけでしょ? いちいち文句言
わないでよね』
それから、梯子に手を掛けて上る。風が吹くたびにスカートが舞って、酷く心もとな
い気分になり、ボクは下を向いて別府君を見た。
『ちょっと!! 今、見たりしてなかったよね?』
「見てねーから!! 気にしてる暇あったら、さっさと上れ!!」
即座にそう怒鳴り返されてしまう。そしてまた、見られたくない恥ずかしさと、見て
欲しい期待感が入り混じる変な気分になってしまう。
――やっぱり……ボクがスカート短くしたくらいじゃ、別府君の興味なんて惹けないん
だろうな…… もし、これが葉山さんだったら……
またしても自虐的な想いに囚われていたら、思わず伸ばした手が梯子を掴み損ねてしまった。
『わたっ!!』
焦って変な叫び声を上げ、同時にもう片方の手と両脚を踏ん張って、体を梯子にくっ
付けるようにして耐える。
「どうした!?」
下から別府君の声が聞こえてくる。慌ててボクは答えた。
『何でもない!! 何でもないから見ちゃダメだってば!!』
145 名前:3/6 :2011/12/22(木) 06:21:58.29 ID:6rMw0rWb0
今のでもしかしたら見られてしまっただろうか? だとしても別府君には罪はないけ
ど、それを考えると恥ずかしくて堪らなくなる。
「見そうになったけど、見てないから!! だから、さっさと上れ」
果たして、その言葉もどのくらい本当なんだか。いや。いっそウソであって欲しいな
どと一瞬思ってしまい、ボクは慌ててその思いを打ち消した。
――ヤダな、もう…… 何だか、どんどんボクの方がエッチになって行ってるよ……
意識すればするほど、視線が気になって仕方なくなってくる。ボクはもう、上ること
だけに集中して、急いで上まで上りきった。
『いいよ、もう上がって来て』
そう下に声を掛けてから、ボクは立ち上がって周りを見た。
『へぇ……』
思わず感嘆の声が出てしまう。同じ屋上でも、一つ高い所に上って見た景色は、また
一段と広く見えた。空気が澄み渡っているおかげで、遥か遠くの山並までが、濃い影と
なって地平の彼方に浮かんで見える。
『……いい景色……』
上を見上げると、真っ青な空が広がり、ここかしこに、僅かに雲が浮かんでいる。
『何だか……吸い込まれそう……』
こうしていると、何だか広大な世界の中にいる自分がひどく小さくて、飲み込まれそ
うな気分だ。もう一度、周囲をぐるりと見渡し、遠くに見える都心のビル群やその向こ
うまで視線を凝らす。その時だった。
「おい」
すぐ足元から声がして、ボクは思わず飛び退いた。
『きゃあっ!? な……何っ!!』
「何、じゃねえよ。そこに立ってられると上れねえ」
ちょうど別府君が梯子の一番上に来て、手を掛けたままボクを見上げていた。しばし
呆然と彼と目を合わせ、それからボクはハッと気が付いてスカートを押さえた。
『なっ…… 何、下から見てんのよっ!! ていうか、今見たでしょ絶対に!! この
バカバカバカ!! エッチスケベ変態!!』
「いいからさっさとどけ!! 話はそれからだ」
146 名前:4/6 :2011/12/22(木) 06:22:17.78 ID:6rMw0rWb0
逆に凄まれて、ボクは仕方なしに後ろへ下がる。ゆっくりと別府君が体を押し上げる
ように上って来ると、慎重に屋根の上に立つ。ボクはスカートを押さえたまま、別府君
を睨み付けていた。
――あああああ……もう、ボクのバカバカバカ!! 何だってあんな場所に立ち尽くし
ていたんだろう……
もちろん、普段では見れない、一段高い景色に見とれていたからだが、それにしたっ
て、少し注意を働かせれば良かっただけの事なのに。ボクは自分の愚かさ加減に呆れる
と同時に、別府君に八つ当たりをしてしまった事に、激しく自己嫌悪を覚えてもいた。
――別に、別府君だって、見ようと思ってた訳じゃないだろうに……
しかし、同時に羞恥心もまた、拭いがたいほど大きく、ボクの心を占領していた。す
ると別府君が、軽く首を横に振ってから、ボクを見て言った。
「あのな。さっきのあれは……その……あんな所に突っ立ってられたら上れないから言っ
ただけで、って言うか、あれは委員長の不注意だと思うぞ。俺のせいじゃない」
『分かってるよ!! そんなの……』
理不尽に罵った事を謝らなくちゃいけないと言うのも分かっている。だけど、どうし
ても、心のどこかでそれを拒否してしまうのだ。だって、スカートの中を覗かれて、そ
の上で謝らなくちゃならないなんて言うのも、どうしても納得が行かないから。
「それとな。こうなった以上は一応聞いておきたいんだが……」
『何?』
珍しく別府君が口ごもったので、ボクは聞き返した。彼にも聞きづらい事なんてあっ
たんだと、軽い驚きを覚える。
「いや。何だって、その……今日はそんなにスカート短くしてるんだよ。普段は膝丈く
らいの長さだってのにさ」
それは、聞かれるかも知れないとは思っていた質問だった。かといって、まさか別府
君がエッチな事に興味を持っているかどうかを調べる為とか言えないので、ボクは考え
ておいた別の答えを言う。
『……罰ゲームなの。大貧民やって、大富豪になった人が、大貧民に一つ、好きな事を
命令出来るっていう……』
「相変わらずくだらねー事やってんな。お前ら」
147 名前:5/6 :2011/12/22(木) 06:22:38.95 ID:6rMw0rWb0
ウソとはいえ、呆れた顔で即座に切り捨てられると、サクッと心臓を矢で射抜かれた
ような自己嫌悪に陥る。ボクは不満げに言い訳をした。
『しょうがないじゃない。そういうルールになっちゃったんだから。ボクだってやりた
くてやってる訳じゃないんだから』
そんなボクに、別府君は呆れたように一つため息をついた。
「まあ、それはお前らの勝手だがな。だからと言って勝手に短くしておいて、しかも人
に上って来いと言っておいて、顔を上に向ければ中が覗ける位置に立っていて、それで
エッチだの変態だの罵られるのはいい迷惑なんだがな」
珍しく別府君が長々と不満を口にする。どうやら、この手の非難を浴びるのは、日頃
いちいち言い訳もめんどくさがる別府君ですら耐えられないようだった。とはいえ、ボ
クだって、見られた上に文句まで言われては、立つ瀬がない。
『でも、故意に見たのは事実なんでしょ? だったら、立派に覗きっていう性犯罪が成
立するじゃない。ボクの非難も正当だと思うけど』
何とか自分を有利にしようと、理不尽な理屈で押して掛かると、別府君は小さく舌打
ちした。
「これだから女って奴は…… あのな。不注意でも、わざわざ下着が見えるように立っ
てたんだから、仮に見たとしても、それは覗きじゃないだろ。もし委員長の言い分が通
るなら、そっちがわざと見せたって、性犯罪が成立しちまうじゃねーか。あと、一つ言っ
とくが、俺は見てないからな」
ボクに反論を言わせまいと、一気に別府君がまくし立てる。しかし、何よりも最後の
一言が衝撃的で、覗き云々なんて吹き飛んでしまった。
『……見てないって……ウソでしょ? だってあの位置に立ってて、顔を上げればまと
もに視界に入ってくるのに、見てないとか有り得ないんだけど』
疑わしげに別府君を睨み付け、ボクは詰問する。しかし別府君は、普段と変わらぬ、
むっつりとした顔で、冷静に答えた。
「何と言われようと、スカートの中までは見てない。そりゃ、あの位置だからさすがに
見えそうにはなったけどな。咄嗟に視線を外したから、下着までは見なかったぞ」
『な……何で、見てないのっ?』
思わず、反射的に聞いてしまってから、ボクは口を押さえた。我ながらバカな質問を
したと思うが、口に出してしまった以上後の祭りだ。
148 名前:6/6 :2011/12/22(木) 06:23:10.84 ID:6rMw0rWb0
「何でって……つか、お前、見られたかったのか?」
驚き、唖然とした顔で別府君が逆質問をして来る。ボクは羞恥で一気に体が火照るの
を感じた。慌てて全力でそれを否定する。
『ち、違うってば!! 別に見られたかったなんて……そんな事ある訳ないでしょっ!!
ただその……お、男の子だったら、本能的に視線が行っちゃうものじゃないの?』
何とか答えつつも、あまりに恥ずかし過ぎて、ボクはまともに別府君の顔を見ること
が出来なかった。声もどもりがちなボクに、別府君はあっさりと答えを返す。
「確かに、委員長の言う事は一理あるけどな。けど、多分見たら怒るだろうって思った
から、咄嗟に視線を逸らしただけだ。まあ、わざとじゃなくても、あと少し視線を上に
上げていたら、見えただろうけど」
しかし、ボクはその答えに納得が行かなかった。見たいと思うなら、自然と視線はそっ
ちに流れてしまうものじゃないだろうか。ボクが授業中や他の時間でも、ついつい別府
君に目が行ってしまうように。そもそも、何でボクがこんな事をしているのか、その根
本的な疑問がここに来て急に知りたくて仕方が無くなってしまい、ボクはとうとうその
質問を口にしてしまった。
『……あのさ。別府君って、女の子に興味……ないの?』
続く
最終更新:2011年12月27日 23:18