70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/12/25(日) 23:29:09.04 ID:DesVbsoF0
  • ツンデレと聖夜を一緒に過ごしたら
 今日は、多分世界一有名な人間の誕生を祝う日であり、日本だと本来の意義をかけ離れてカップルがイチャイチャする日であり……まあ要するにクリスマスである。
 そして、この俺には彼女なんてもんはついぞ出来たことがない。
 だから、今、鍋を挟んで向かい合っている、小柄だが元気の良さそうな娘は、決して俺の恋人ではないのである。
「はぁ〜あ。こんな日にコウジと鍋だなんて、全然クリスマスって感じしないわね」
 そんな風に生意気そうな口調で言葉を吐き出した彼女こそ、俺の教え子だったり、年の離れた幼なじみだったりする少女、まりだ。
「うるせー。文句あるなら食うなっての。こっちはお前が予定より早く来るからって、急いで準備したんだからな」
「しょ、しょうがないでしょっ、こんな風と雪じゃ駅前までなんか行ってらんないわよ!」
 そう、本来の予定ならば、まりは学校の友達と駅前のカラオケで、ちょっとしたクリスマスパーティーをやるはずだったらしいのだが……
「まあ確かに、こんな吹雪くとは俺も思ってなかったけどよ……」
 今日は晴れ続きだった最近の空模様が、まるで夢だったかのように大荒れに荒れてしまったのである。
 おかげで、今日外出するのはさすがに危ないということで、遊ぶ約束がパーになってしまったまりは、予定よりずいぶん早く、近所にある俺の家までやって来たというわけだ。
「ほんっと大変だったんだから! 前も見えないし、傘なんて差したら飛ばされちゃうのが目に見えてるし……百メートルも離れてないのに、ここまで歩いてくるのだって、すっごく苦労したんだからね!」
「わかったわかった、その話はもういいって……」
「何よっ、そのめんどくさそうな顔はっ!? こんな可愛い女の子が吹雪の中、わざわざ会いに来てやったんだから、もっと感謝しなさいよね!」
「自分で可愛いって言うか、普通……」
「な、何よ……か、可愛くないって言うの……?」
「いや、可愛いに決まってるだろ」はい降参。そんな風に上目使いで聞かれて、可愛くないなんて言えるわけがない。
(ったく、つくづく俺はこいつに甘いな……)
「そ、そーなんだ、可愛いに決まってるんだ、ふーん……にへ……にへへ……」しかも、なんかまりのやつは軽くトリップしてるし……。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/12/25(日) 23:30:41.38 ID:DesVbsoF0
「おーい、そろそろ鍋が良い頃合いだぞー」
 しばらく経ってから、未だに一人でにやけているまりに声をかける。
「へっ!? あ、そ、そうね、この為に来たんだもん、不味かったりしたら承知しないんだからね!」
 いやお前、さっき俺に会いにとか言ってただろ……とは、とても口に出せそうにない俺である。おい誰だ、ヘタレっつったのは。
「まあ、それなりに良い食材を揃えたつもりだよ。お前の口に合えば良いんだけどな」
「……もしかして、高いお肉とか買ってきたりしたの?」
「んなこと気にすんなって。どうせ、お前が来なくたって、一人で食うつもりで買っておいたんだからさ」
 さっきとは違う意味で、不安そうな目でこちらを見やるまりに、俺は笑って、頭を撫でてやった。
「ぅ、んみゅ……そ、そう。じゃあ、遠慮なく食べちゃうからねっ」
「ん、遠慮なく食え食え。育ち盛りなんだからよ」
「むぅー、またそうやって子供扱いするーっ」
 可愛らしく膨れるまりと、軽く笑い合いながら、俺たちはクリスマスの、クリスマスらしくない晩餐を始めたのだった。

終わりっぽいけど続く
最終更新:2011年12月27日 23:33