104 名前:1/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:57:13.06 ID:9+/AMb6O0 [21/33]
  • 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その9

「何?」
 意外そうに聞き返され、ボクはビクッと体を震わせ、萎縮してしまう。しかし、口に
出してしまった以上は覚悟を決めるしかない。一瞬だけ、チラリと別府君を見上げ、ボ
クは勇気を奮って続きを口にする。
『……だって、普通の男子だったら、女子のエッチな格好とか見たら、視線が向いちゃ
うものだって、別府君も認めたよね。なのに、見なかったって事は、もしかしたら、そ
の……あんまり、そういうのに興味ないのかなって……』
 うつむいてジッと待っていると、しばらくして別府君が頭を掻くようなガリガリとい
う音が聞こえた。それから、小さく、躊躇いがちな返事が聞こえて来た。
「……あのさ。委員長に変な誤解をされたら困るから答えるけどな。俺だって男だから……
人並みにはその……女に、つーか、エッチな事にも興味はあるぞ」
 その答えは、しかし、すぐにボクに別の不安を植え付けた。エッチな事には興味があ
るのに、ボクのスカートの中は見なかったという事は、ボクにそういう魅力を全く感じ
ないという事なのだろうか? いや、多分そうなのだろうとボクは自虐的に結論付けてしまった。
『フーン。じゃあ、さっきの非難はあながち間違ってないじゃない。それとも、ボクは
別府君の興味の対象外だから、非難する資格はないって……そう言いたいわけ?』
 ひがんだ口調で言うと、別府君は何故かちょっとムッとした顔をした。
「誰も委員長が対象外だとか言ってないだろ。時々出る、その自虐癖は何とかした方が
いいぞ。正直、聞いてて……まあ、あまり愉快なものじゃないしな」
 そう言われて、ボクも別府君を睨む。
『じゃあ、別府君は下からボクを見てどう思ったわけ? 見たくないと思ったから、顔
を背けたんじゃないの?』
 自虐するなと言われても、実際そう思われていたら仕方ないじゃないと、そう思いつ
つ聞く。すると別府君は、プイと顔を逸らして小さく答えた。
「別に、見たくなかった訳じゃない。見ちゃマズイと思ったから、その……顔を背けただけだ」
『見ちゃマズイって…… それって、どういう意味?』


105 名前:2/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:57:48.34 ID:9+/AMb6O0 [22/33]
 その先を聞けば、自分が恥ずかしい思いをするとか、そういう事は一切頭から消えて
いた。ただ、別府君の気持ちが知りたくて、ボクは聞いた。すると別府君は、パッとこっ
ちを向いて、睨むようにボクを見つめて強い口調で言った。
「いいか。これはその、あくまで男としての一般論だから、俺がどうこうって訳じゃないぞ」
 そう前置きすると、今度は一転して、口調から強さが消えた。
「その……そんな格好で、下から見上げるような展開になったらな。普通に委員長だっ
て、男の目を惹くと思うぞ。だから、その……少なくとも、見たくないとか思う奴は、
いないと思うけどな」
 別府君はそう言うが、ボクが知りたいのは他の男子一般ではない。別府君がどう思ったかだ。
『で、そういう別府君はどう思ったの? ボクがさっきから聞いてるのは別府君が見た
いと思ったかどうか、なんだけど。そうやって、男子の一般論で語るのって、逃げじゃない?』
 さらに追求を重ねると、別府君が珍しく怯んだように見えた。少し困惑した顔でボク
を見つめ、グッと口を真一文字に結ぶ。そのまましばらく無言でいたが、やがて一つ、
諦めたようなため息をつくと、逆に質問してきた。
「あのさ。そこまで答えなきゃ駄目なのか? 何でそんなに今日は聞きたがるんだよ」
『だって、仕方ないじゃない。聞きたいものは聞きたいんだもの。べ、別にその……別
府君がどうこうって訳じゃないけど……ただ、一般論でごまかされたくないの。ちゃん
とした答えが知りたいって、そう思っただけだから……』
 つっかえつっかえ、慎重に言葉を選びつつ、ボクは答える。自分の本心を隠しておき
ながら、でも彼の想いを知りたいって考えるから、答え一つにこんなに苦労するんだろ
う。本当に、ズルイと言われても仕方が無いと思う。
 それだけ言ってムツッとした顔で黙り込んだボクを別府君はジッと見つめていたが、
やがて小さくポツリと言った。
「そりゃ、俺だって…… 見られたって知ったら、委員長が嫌な思いをするだろうって
思ったから、咄嗟に我慢しただけで…… 正直に言えば、まあ……見たいっていう欲望
はあったさ」
 その答えに、ボクの心臓がキュンって縮こまった。嬉しさと、ホッとする思いでボク
は顔が綻びそうになる。しかし、思いとは裏腹に、ボクは別府君をジロッと見上げて小
さく言った。
『……別府君の……スケベ』

106 名前:3/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:58:48.06 ID:9+/AMb6O0 [23/33]
 すると、その言葉を予期していたかのようなタイミングで、別府君が一つ、大きくた
め息をついた。
「ほれみろ。だから答えたくなかったのに。答えさせるだけ答えさせておいて、罵るっ
て理不尽にも程があるだろ」
 そう言って別府君は、うんざりした、やり切れない様な表情を浮かべた。ボクはそん
な彼を見上げて口を尖らせてみせる。
『だって、仕方ないでしょ? 君がどういう感情を抱いているか、ちゃんと知っておき
たかったんだから。そうしないと、今後の別府君との付き合い方を考えられないからね』
「俺との付き合い方って、どうするつもりなんだよ?」
 ぶっきらぼうに別府君が聞いて来る。それに対して、ボクは努めて冷静な顔をして答えた。
『それはね……秘密』
 しかし、答えた瞬間、我慢し切れなくなって、ついつい笑顔を浮かべてしまった。し
かし、聞かされた方の別府君は、また不満気に眉根を寄せて文句を言ってくる。
「委員長、お前な。人には恥ずかしい事を答えさせておいて、自分は秘密ってそれちょっ
と卑怯だとは思わないのか?」
 そんな彼の態度も面白くって、ボクは笑い出さないようにするのが一苦労だった。何
とか平静を保ちつつ、答える。
『女の子の心の内を根掘り葉掘り聞くなんて、マナー違反だって気づいてないでしょ。
別府君はね。もう少し女の子の扱い方を勉強した方がいいと思うの。本当に君って、無
神経でガサツだから』
 すると別府君も、負けじと文句を言い返してきた。
「女って言うのは本当にズルイ生き物だよな。人を困らせておいて、文句を言ったら逆
ギレして罵るんだから」
 不満気ではあるが、怒っているというよりは困っているその顔に、またまたおかしみ
を覚えつつ、ボクは諭すように言った。
『そう思うって事が、既に女の子に対して無理解だって分かってないでしょ? だから、
平気でそういう文句も言うんだろうけど』
 ボクの言葉に、別府君は肩をすくめてから意外にも同意して来た。
「まあ、俺が女を理解してないってのは自覚してるさ。でなきゃ、こんないらん苦労を
する必要もないはずだからな」

107 名前:4/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:59:07.24 ID:9+/AMb6O0 [24/33]
 ボクはちょっと驚いて別府君を見る。しかし、彼の顔からはうんざりしているという、
そんな感情しか読み取れなかった。ボクは、呆れたようにため息をつく。
『だったら、もう少し理解して、せめて怒らせないようにしようっていう努力とかはし
ないわけ? それとも、そんな事もめんどくさいって言うの?』
「そうだな。まあ、それも一つある」
 頷く別府君の思わせぶりな答えに、ボクは食い付かずにはいられなかった。
『それもって言う事は、他にもっと理由があるっていう事でしょう? 大体、後から苦
労する方が嫌だって言う君にしては、事前の手間暇を惜しむのは珍しいよね?』
 別府君はめんどくさがり屋だけど、サボった結果余計苦労すると分かっている事には
労は惜しまない。だからそう聞くと、彼はフンと鼻を鳴らして言った。
「女を理解しようとするほど、無駄な事はないからな。さっきはたまたま、一般論的に
ひとくくりにして言っちまったが、実際は人によって極端に違うからな。間違った理解
の仕方をすると、余計めんどくさい事になるし。だったら、自分の係わりのある奴の性
格だけを理解しようとした方が手っ取り早い」
 その言葉に、ボクはドキッとした。何故なら、今思いつく限りで、一番別府君と係わっ
ているのってボクだからだ。今の言葉をそのまま信じるなら、別府君はボクの事を一番
に気にしてくれていると、そういう事になるのだろうか? その答えが知りたくて、ボ
クは矢も楯もたまらず、疑問を口にした。
『じゃあ、ボクも少なからず別府君と係わってるんだから、それなりには理解しようと
してるって……そういう事なの?』
 すると、彼は頷いて視線を逸らす。そして小さく答えた。
「……まあ、そりゃあな。特に委員長は扱いに困る事も多いし」
『それってどういう意味なの? ボクがやっかいな女の子って、そういう事?』
 さっきまでの、胸をくすぐるような嬉しさはどこかへ吹き飛び、ショックでボクは別
府君に噛み付くように問い質した。すると別府君はボクから視線を逸らしたまま、少し
間を置いてから小さく頷き、ボソッと小声で答えた。
「……ま、ある意味ではな」
『教えてよ。どういう所がやっかいなのか。別に別府君の為に直す気なんてサラサラな
いけどさ。そこまで言われたら最後まで聞いておかないと文句も言えないし』
 睨み付けるボクをチラリ、と一瞬だけ見てから別府君は言った。

108 名前:5/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:59:24.43 ID:9+/AMb6O0 [25/33]
「生真面目でプライド高くて、すぐ怒るくせにしょっちゅう俺に話し掛けて来て、無防
備なくせに酷くウブで照れ屋だし…… 何でこんな事で機嫌悪くするのかとか、とにか
く俺には理解不能な事が多い。だから、まあそういう事だ」
 それはきっと、別府君が一つ、大きな事に気付いていないからなんだとボクは思う。
ボクが、別府君の事が大好きで、なおかつ彼にそれを知られたくないという矛盾した想
いを抱いているという事だ。ボク自身が別府君を困らせているという自覚があるだけに、
こればかりは怒るわけにも行かなかった。だからその代わりに、ボクはちょっと偉そう
な態度で切り返して見せた。
『本当に、別府君って失礼な事ばかり言うよね。人の事を理解不能だなんて。それは、
君の勉強が全然足りないからなのに、ボクが変わり者みたいに言わないでよ』
「別に変わり者とまでは思わないけどな。とにかく、どうすれば委員長を怒らせずに済
むのか、まだそれすらも分かってないし」
 困ったような顔の別府君に、ボクは思わず笑ってしまった。それから急いで、笑顔を
消す。こんな所で笑ったら、また別府君に意味不明だと思われてしまう。それから一つ
小さく吐息をつき、別府君を見上げて言った。
『それじゃあ、まだ全然勉強不足じゃない。ボクの事を理解しようと思ったら、めんど
くさがらずに、もっと話したりしないと』
 渡りに舟とばかりにそう誘うと、別府君は少し驚いた顔でボクを見つめた。
「やっぱり分かんねーな。俺が委員長の事をエッチな目で見てると知って、少しは距離
を置こうかと、てっきり俺はそう考えてたんだがな」
 するとボクは、何故か急に気恥ずかしくなって体が火照るのを感じてしまった。変な
誤解――いや。この場合はむしろ、正しい認識をされないうちに、ボクは慌てて言い繕う。
『そ、それはその……別府君もそういう目で見るんだって分かったから、ちょっと警戒
はしようかなとかその程度で……どうせクラス委員同士で話さなくちゃいけないんだか
ら、そこまで避けたりはしないってば』
 挑むような目付きで見つめるボクを、別府君は真顔で見つめ返して頷いた。
「まあ、別にそれは委員長の好き好きだから、勝手にしろ。それに、俺としてもその……
さっきみたいに無防備に過ぎるとちょっと困るから、少しは気をつけてくれたほうが助
かるしな」


109 名前:6/6[] 投稿日:2011/12/30(金) 19:59:56.13 ID:9+/AMb6O0 [26/33]
 さっき、と言われて危うく別府君にスカートの中を覗かれそうになったのを思い出し、
ボクは慌ててスカートを押さえた。顔が火照るのを感じつつ、彼を睨み付けてボクは言った。
『と……当然でしょそんなの!! ボクのスカートの中なんて……おいそれとなんて見
せてあげないんだから!!』
 すると別府君がまた訝しげな顔を見せる。果たしてまたボクは何か変な事を言ったの
だろうか? そう不安になった時に、午後の授業の予鈴が鳴った。


続く





137 名前:1/5[] 投稿日:2011/12/30(金) 21:35:59.56 ID:9+/AMb6O0 [29/33]
  • 男がエッチな事に興味があるのかどうか知りたくなったツンデレ その10

 別府君が時計を見て時間を確認する。
「さて……と。そろそろ戻らないとマズイな。クラス委員が二人して遅刻したらシャレ
にならんだろ?」
 そう聞かれて、ボクは頷く。それから、残念そうにワザとらしく空を見上げて言った。
『あーあ。別府君のせいで、ちっとも景色が堪能出来なかったじゃない。どうしてくれるの?』
 すると、戻ろうとした別府君が足を止めて振り向き、文句を言って来た。
「ちょっと待て。元はと言えば、委員長が無防備に下から覗ける位置に立っていたのが
悪いんだろう? 見たか見ないかはともかく、言い合いの根本原因まで俺のせいにされ
るのは納得行かないぞ」
 その理屈は確かにその通りだったので、ボクは咄嗟に言い返せなかった。しかしこの
まま言い包められるのは悔しかったので、ちょっと考えてから反論する。
『それはそうだけど……でも、別府君が最初っから素直に自分がエッチだって事を認め
れば、ここまで言い合いは長くならなかったもの。それをカッコ付けて興味ないフリな
んてするから悪いんでしょ? 反省してよね』
 素直じゃないのはむしろ自分の方なのだが、それは棚に上げておいてボクは別府君の
悪いところだけを指摘した。
「お前な。言い合いが長くなったのは…… いや、いい。確かにムキになった俺も悪かっ
たのは事実だからな。それより、いい加減戻るぞ」
 言い返そうとして別府君は途中で止めた。もう教室に戻らなくちゃいけないのにここ
で言い合いを蒸し返す暇なんてないからだろうけど、ボクだったら我慢出来ずに絶対言
い返してしまうだろう。その点別府君の方が大人だと思う。
『ちょっと待って』
 梯子に向き直る別府君を、ボクは慌てて止めた。怪訝そうな顔で、別府君がボクを見る。
「どうした? 早く行かないとホントに授業に遅れるぞ?」
『あの、一言だけ。えっと、その……確認なんだけど、別府君は一応その……自分に非
があるって認めたんだよね?』
「俺に、じゃなくて俺にも、だがな。お互い、まあその……悪い所はあったってことで、
委員長だって悪かったのは事実だからな」

138 名前:2/5[] 投稿日:2011/12/30(金) 21:36:19.27 ID:9+/AMb6O0 [30/33]
 思わず抗議しそうになってボクはグッと堪える。ここでまた自分の主張を繰り返すと、
本当に時間がなくなってしまう。だからボクは、無理矢理にでも話を進めた。
『……その事はまだボクは認めてないけどね。でも、それは後。とりあえず別府君には、
ちゃんと犯した過失の分だけは責任取って貰わないと』
「は? 何でそうなるんだよ。そもそも、責任取れって言われるほど悪い事してないだ
ろ。いや、その……実際、完全に覗き見したとかなら分かるけど、見てないのに何でそ
こまでしなくちゃならないんだ」
 いかにも不当だとばかりに別府君は文句を言った。だけど、そう言われる事は分かっ
ていたので、ボクは逸る心を抑えて話に集中することが出来た。
『大丈夫。責任って言っても大した事じゃないから。別府君には、罰として明日のお昼
休みも、ボクがここで景色を見るのに付き合って貰うから。ダメというのはなしね。こ
れは罰なんだから』
 一気にボクは、言いたい事を言い切った。だって、せっかくの景色を別府君と二人で
見れないなんてもったいないもの。だけど、こうでもしないときっとめんどくさがって
来てくれないだろうから、だからボクは、無理矢理にでも罰なんて形にしたのだ。
「……まあ、その程度なら拒否するほどでもないけどな」
 しばらく、ボクの剣幕に押されたかのように呆気に取られた顔でボクを見ていた別府
君が、呟いた。
「けど、せっかくの昼寝の時間が潰れるのは痛いな。俺にとっては貴重な時間なんだが」
『一日くらい我慢してよね。全くもう……どんだけめんどくさがりやなんだか……』
 ボクは小さくため息をついた。ボクと一緒にいるより昼寝の方が大事と言われると、
分かってはいてもちょっとは傷付いてしまう。
「じゃあ、そういう事で戻るぞ」
 別府君の言葉に、顔を上げてボクは頷いた。すると別府君は、梯子を指してボクに道
を譲るように脇に避けた。
「今度は委員長から先に下りろ。別に俺は待たなくていいから、先に戻ってていいぞ」
 別府君の指示に、ボクは彼を睨み付けて抗議した。
『ダ……ダメだってばそんなの。万が一ボクが足を滑らせて落ちても、助けてくれる人
がいないじゃない』
「落ちなきゃいいだけの話だ。気をつけて下りれば、落ちる事なんて無い」

139 名前:3/5[] 投稿日:2011/12/30(金) 21:36:38.57 ID:9+/AMb6O0 [31/33]
 しかし、ボクは頑として納得しなかった。何でだか分からないけど、とにかく別府君
に先に下りて欲しかった。
『そんなの分からないもの。ボクはそんなに運動神経良くないんだし。とにかく、別府
君から先に下りて』
「いいのか?」
『え?』
 別府君が確認して来たので、何の事かとボクは聞き返す。
「その……俺が下で待ってたら、うっかり上を見た時にスカートの中が見られるかも知
れないぞ?」
 ちょっと照れたように言う別府君の言葉に、ボクもまた、カッと体を火照らせた。ま
さか見られてもいいとは言えないけど、そんな風に意識してくれるのは嬉しい。
『それこそ、見ないようにすればいいだけの話じゃない。ただ……万が一の時は、しょ
うがないけど……』
「万が一って?」
 別府君の問い掛けに、ボクは視線を逸らして答えた。
『ボクが落ちてきた時って事。悲鳴を上げたら、さすがに見上げちゃうだろうし、上を
見なきゃ受け止められないだろうし』
「確かにな。じゃあ、その時は文句言わないって約束するな?」
『しょうがないもんね。ほら、さっさと下りてよ。もう2分しかないんだから』
 そう言って、ボクは別府君を急かしたのだった。

 無論、ボクが落ちることは無く、ものすごく不機嫌そうな別府君と二人、辛うじて先
生が来る前に教室に滑り込むことは成功したのだった。


 放課後。ボクが帰り支度をしていると、教室のドアが開いて友香がやって来た。
『ヤッホー、葉山さん。首尾はどうだった?』
『そりゃあもう、バッチリです。友香さん、見ますか?』
『もっちろん』
 差し出されたデジカメの画像を、友香が見て驚いたような顔をする。

140 名前:4/5[] 投稿日:2011/12/30(金) 21:36:57.72 ID:9+/AMb6O0 [32/33]
『うわ、すっごい。ベストショットじゃんこれ。へー、別府君って朴念仁かと思ってた
けど、こんな顔するんだ』
『凄いでしょう? それよりも、この委員長の顔が最高じゃないかと思って。こんな可
愛い委員長、見たことないですよね?』
『おおう。これは――あだっ!!』
 ボクはノートを持って近付くと、友香の頭をベシンと叩いた。
『もう。二人して何を騒いでいる訳? しかも何か、やたらとボクの事が出てるみたいだけど』
『友香さん。今日、一番の功労者が来ましたよ』
 葉山さんにニッコリと微笑まれて、ボクはキョトンとした顔で見返した。
『へ? 功労者って……何の?』
 意味が分からなくて聞き返すと、友香がニヤニヤした顔で小突いてくる。
『まったまたあ。別府君がエッチかどうが確かめる為に屋上まで行ったんでしょ? 証
拠写真、バッチリ撮れてるわよ』
『あ……!?』
 そういえば、ボク自身も別府君がボクをどう見てくれてるかを考えるのでいっぱいいっ
ぱいで、二人に写真を撮られているのをすっかり忘れていた。
『ちょ……ちょっと見せてっ!!』
 慌てて頼み込むまでもなく、葉山さんがデジカメの画像をボクに示す。そこには、ボ
ク達の画像が、バッチリと写っていた。別府君の照れた顔や、ボクの真っ赤になった顔までが。
『どう? 良く撮れてるでしょ。今回は委員長が頑張ってくれたから、私も張り切って
撮っちゃった』
 嬉しそうな葉山さんに掴みかからんばかりの勢いで、ボクは聞いた。
『こんな写真、どっから撮ったの? だって二人とも傍にいなかったのに』
 すると、友香が特別棟の方を指で指して言った。
『あっちの屋上の出入り口の屋根の上。距離はあったけど、アングル的にはバッチリなのよね』
『今日は、お父さんの望遠レンズ付きのデジカメを借りて来たんです。うちのお父さん、
趣味で写真に凝ってるから』
 確かに、今日のデジカメは何か本格的なカメラに見える。更に、葉山さんが取り出し
てボクに見せてくれた望遠レンズは、超本格的なプロが使うような物だった。


141 名前:5/5[] 投稿日:2011/12/30(金) 21:38:01.75 ID:9+/AMb6O0 [33/33]
『お陰で、委員長の可愛らしい写真とか、別府君が普段見せないような表情まで、バッ
チリ撮れたわ。ありがとう、委員長』
 嬉しそうに葉山さんが笑顔でお辞儀をする。その後ろで、友香がよくやったとばかり
に親指を立ててみせる。しかし、ボクはそれどころじゃなかった。
『ちょっと、どんな写真撮ったのか、全部見せて!!』
 葉山さんに頼み込むと、彼女はいともあっさりと頷いてデジカメの画面をボクに示す。
『ほら。これが梯子の上まで行った時の別府君の顔。一生懸命我慢してるなんて、素敵
よね。あと、委員長の恥ずかしがってる顔とか……』
 一枚一枚、写真を見るたびに恥ずかしさが増して行く。これ以上耐えられなくなって、
ボクは葉山さんに懇願した。
『お願い!! もういいから消して!! こんなの世の中に残ってるってだけで恥ずか
しくて生きて行けないから!!』
 しかし、いともあっさりと葉山さんはボクの懇願を拒絶した。
『ダメよ、そんなのもったいない。委員長のこんな可愛らしい写真を消すなんて出来な
いわ。むしろ、キチンとプリントアウトして、保存しておかないとね』
『アルバム買ってさ。それに入れようよ。悠の青春のメモリアルとして』
 友香のとんでもない提案にボクはびっくりして首を思いっきり横に振った。
『止めてそんなの絶対ダメ!! とにかく、これは消すの!! お願いだから』
『ダメだよね~、そんなの』
『もちろん、ダメですよね』
 笑顔で顔を見合わせて言う二人に、ボクは泣きそうになりながら縋りついた。
『そんな残酷な!! も……もういいよ!! ボクが消すから!! って、これってど
こをどうしてどうすれば消去出来るの? あああああ、もう分かんないってばあ!!』
 機械オンチなボクが絶望の悲鳴を上げる中、二人は楽しそうに、写真の感想を言い合
いながら、どれをプリントしようか相談し続けたのだった。


終わり
最終更新:2011年12月31日 15:13