183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/05/17(火) 00:08:44.63 ID:HsO//iKg0 [1/4]
吸血鬼ツンデレ
※前回までのあらすじが入っていますが、嘘です。前回なんてありません。設定の説明に使っただけです。
ttp://tunder.ktkr.net/up/log/tun2032.txt
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前回までのあらすじ
サバゲーの会場探しに街中を走りまわっていた俺・別府タカシは、町はずれの古びた洋館に忍び込む。
暗視ゴーグルを片手にいやに真っ暗な館の中を探索していると、不意に、首に刺すような痛みが走った。
その正体はコウモリ。なんと、この館は吸血鬼の支配する恐怖の館だったのだ!
コウモリに導かれ館の最深部へと足を踏み入れる俺は、そこで、館の主人を名乗る西洋風の奇妙な少女と出会う。
彼女の名はサキュラ。由緒正しき吸血鬼の末裔で、俺の血を吸い眷属にしたというとんでもない事を言い出した!
サキュラの話は俺を絶望の底に突き落とすような恐ろしい事ばかりだったが、
話を聞くうちに、俺は自分の状況とサキュラの話との間に矛盾がある事に気づく。
矛盾を指摘し、サキュラを追い詰めていくにつれ、やがて俺は
- 血を吸う事が出来る
- 日光を浴びる事が出来る
- 流水を渡る事が出来る
- 十字架を見る事が出来る
- 爆発的な力を振るえない
と、吸血以外はまるきり人間の「中途半端吸血鬼」である事を自覚した。
サキュラは長年の封印により力がすっかり衰えており、吸血行為による眷属作りさえロクに行えない状況だったのだ。
だがそんな事は関係ない。眷属なんかにされてたまるかと、俺は一目散に屋敷から逃げ出した。
追いかけてくるサキュラの手を撥ね退け、やがて俺は自らが住む街へと帰りついたのだった。
これで全て終わり、めでたしめでたし…と、思っていたのだが。
日常に戻ってから数日、俺の頭にはずっと一人の少女の姿がちらついていた。
吸血少女、サキュラ──俺のようなニワカ者と違い、正当な血を引く本物の吸血鬼。果たして彼女は、あんなこぢんまりとした洋館で何年の時を過ごしてきたのだろう?
なんだかいてもたってもいられなくなってしまった俺は、サバゲーテクを駆使して再び屋敷の最深部へと忍び込む。そこで俺が見た物は、たったひとりで啜り泣く少女の姿。
唐突に、死んだ祖父の遺言がフラッシュバックする───すなわち、女は泣かすな、可愛い女は死んでも守れ、と。
俺は再びサキュラの前に姿を現す。そして眷属として、二度とサキュラに涙を流させないと「約束」したのだった…。
■
「ふんふんふーん、ふふんふーん」
珍妙な鼻歌を歌いながら、今日も河原を走りゆく。
目指す先は山のふもとの洋館だ。
自転車のカゴには、トマト数個とその他野菜、あとスパゲッティが入っている。
吸血鬼の主食なんぞ分からんが、とりあえずトマト入ってりゃオッケーだろう。
「おっじゃまさーん」
やがて目的地にたどり着き、油の切れたドアを力任せに押し開く。埃っぽい廃洋館に、僅かながらの光が入った。
コウモリたちは屋内退避と言わんばかりに、ばさばさと奥へ飛んでいく。
「さってと」
俺は迷わず右端の小さな個室に入り、奥のクローゼットを横にずらす。
そこから現れたのは隠し階段。吸血鬼サキュラの住まう地下への入口だ。
「階段をぉ下りるぅ~。とんとんとん~、とんとんとん~」
北島三郎のような調子で、真っ暗な階段を陽気に降りていく。
片手に食材の入った袋、空いた手にはLSDのめっちゃ明るい懐中電灯を持っていた。
「まっくろくろすけ、でっておいでー」
階段を降り切ると、地下とは思えないほど広いホールに出る。俺はでたらめに懐中電灯を振り回し、この部屋の主を呼び出した。
「……うるさいわね。もうちょっと優雅に来れないの?」
ひどく大人びた物言いと、それが全く似合わないソプラノボイス。
指を鳴らすぱちん、という音と共に、壁一面に取り付けられた蝋燭に火がともる。
それによって視界が開け、向かいの階段で手すりに腰かける少女の姿が目に入った。
肌は抜けるようなホワイト。髪は豊かな金髪に、引き摺ってしまわないかと心配になるほど長いツインテール。
ぺたんこな胸とぴったりの黒いドレス、仕上げにマントを羽織ったちっこい少女。彼女が吸血鬼サキュラだ。
「つれないねぇサっちゃん。せっかく飯作りに来てあげたのに」
「さ、サっちゃんって呼ぶなっ!サキュラ様って呼びなさいよねっ!」
顔を真っ赤にして怒るサっちゃんをほったらかして、とりあえず台所をお借りする。
今日はミートソース・スパゲティだ。ネットで作り方は調べたし、まあまず失敗する事もないだろう。
──サキュラを寂しがらせないために何が出来るかを考えて、まず俺は料理をふるまってやることにした。
俺の取りえは手先の器用さくらいしかないし、それになにより、うまい飯を食って笑顔になるのは知的生物共通の法則だからだ。
現在までのレパートリーはトマトサラダ、トマトジュース、トマト野菜炒め、トマトステーキなど。
吸血鬼をナメるなと怒られてしまうかもしれないが、サキュラが文句言わず食べてくれている以上、おそらく間違いでもないのだろう。
鍋を温め、ミートソースを作る。なんだか作っている方がお腹がすいてきた。
まずはひき肉を炒めよう…と俺が肉に手を伸ばしかけると、なんと、一匹のコウモリがつまみ食いと言わんばかりに肉にたかってるではないか。
俺はコウモリを後ろからひょいと掴み取ると、そのままくるりとホールの方を向いた。
「あっ…」
ホールでは、サキュラが「しまった」という顔をして、あからさまに目線をそらしている。
俺は鍋の火を一度止め、コウモリを片手にサキュラへ詰め寄った。
「…サキュラ様?」
「…し、仕方ないじゃないっ!大体、私みたいな吸血鬼には、お肉なんかむしろ生のほうがいいの!」
ぷいとそっぽを向いてしまう。これは明らかに、自分の非を認めたくないダダこねのアクションだ。
「…そーですか」
俺はコウモリをいじりながら、くるりと背を向けた。
「じゃあスパゲッティは俺の分だけにしましょう。サキュラ様の今日のお食事は、お皿の上に生肉ドーンでいいですね?」
「えっ…!?や、その、そういうんじゃなくて…」
途端に、サキュラは目を見開いてこちらを向く。慌てて椅子から飛び降り、背を向ける俺のエプロンを必死で掴んだ。
ごにょごにょと、なんだか様子もしどろもどろだ。
「…何か言いましたか?」
意地悪な聞き返しをしてやると、サキュラはやがて観念したように、
「……………ごめんなさい」
と、蚊の泣くような声で呟いた。
俺はそれを聞くと、にっこり笑ってサキュラの頭をわしわしと撫でてやる。
「はい、よくできました」
「う…うぅぅぅ~~~~っ!」
サキュラのお気に入りの一つだ。少し髪が乱れるくらいにやるのがコツである。
やれやれと肩をすくめ、俺はコウモリを開放してキッチンに戻ろうと背を向けた。その瞬間──。
「た…タカシのばーーーーかっ!」
「ざなどぅっ!?」
サキュラの手から、闇の塊のような者が放たれる。黒、黒、黒。それはコウモリの大群。
コウモリたちは群れをなしてスイミーの如く、巨大な人の手の形を作り出す。俺はその手に抱えられ、だいぶ乱暴にキッチンに頬り込まれた。
「やあ、まいったまいった…」
頬をさすさすとさすりながら、ひき肉、野菜などを炒め、トマトピュレを投入する。
いい匂いがしてきた。俺はタバスコを適量振り入れ、隣の鍋でスパゲッティをゆで始める。
それから数分後、美味しそうなミートソース・スパゲッティが出来上がった。
「はい、完成ですよー」
さっそく皿に盛りつけ、サキュラのもとへ運んでいく。
互いに向かい合った席に座ると、サキュラは不作法にも早速食べ始めた。まあ仮にも吸血鬼だし、神にお祈る訳にもいかないだろう。
彼女はひとくちスパゲッティを食べ、そして、
「ひゃっ!?か、辛ぁっ!!」
ひとくちでむせた。
「わっ!?あ、す、すまん!辛かったか!」
「あっ、あひゃりまえよこにょバカタカひ!」
俺はタバスコに負ける吸血鬼ってのも珍しい絵面だなぁと不謹慎な事を考えつつ、
慌てて台所から水を注ぎ、飲ませてやった。
「ほら、落ち着いて…」
「んっ、くっ…ぷはっ。…うう、ひりひりしゅる…」
「ちょっとケチャップ飛んだなぁ…ほら、口元」
ん、と突き出す唇に、俺は紙ナプキンを添えてケチャップを拭いてやる。
やはり年頃の吸血鬼にタバスコは刺激が強すぎただろうか。口元を拭いてやっているそばから、顔がどんどん赤くなっていっているのだから。
「はい、一通りは取れたよ」
俺はケチャップを拭き終えて席を離れようとすると、再びサキュラに裾を掴まれた。
「…どうした?」
「……もっと」
「え?でも…」
「…いいから、まだ辛いのが口にあるの…拭いて!」
見た目、ケチャップはもう付いてないけどなぁと思いつつ、俺は突き出されたサキュラの唇の周りを丁寧にナプキンでなぞってやる。
しばらくすると満足したのか、
「も、もういいから、離れて!」
と、突き飛ばすように元の席に戻された。
なんだかなぁ、と思うが、女性の理不尽は世の常なので気にしない事にしておく。
その後、サキュラのスパゲッティが辛い件については、スパを増やして辛さを薄めることで事なきを得た。
だが食事後半、ここで新たなトラブルが。
「……多い」
「やっぱなぁ…」
サキュラはスパゲッティーを1/3程度残してフォークを置いた。
元々小柄で少食だ。足した時から、多分余らすだろうとは思っていた。
仕方が無いので、既に自分の分を完食していた俺は、サキュラの方へほいと手を伸ばした。
「…そんじゃ残りくれ。俺が食っちゃうから」
そう言った途端に、サキュラの顔が真っ赤に染まる。
「ばっ…な、何言ってるのよこのばかぁっ!」
「うおっ!?」
再びコウモリ爆撃。が、俺はしゃがんで避けた。
「何すんだいきなり」
「当たり前でしょっ!?だって、そんな、わた、私の食べ残しを食べたいだなんて…そりゃ、下僕としては当たり前かもしれないけど、
でもその、あんたみたいなのにあげるのはまだ早いっていうか、恥ずかしいって言うか…」
サキュラがめっきり下を向いてもぞもぞしだしたので、その隙に皿をかっさらう。
「あっ!?」
その事に彼女が気づいたのは、既にスパゲッティが俺の口の中に入った後である。
「あぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」
サキュラはその様子を認識すると、顔を耳まで紅潮させて、ぼん、という音と共に椅子ごと後ろにぶっ倒れた。
俺は構わず一度スパゲッティを食いきり、皿を流しに置いてからぶっ倒れたサキュラを運ぶ。
なんだかうわごとで「間接…キス…かんせつきす……」と呟いていたが、なんだかよく分からないので無視だ。
食後は自由時間になる。いつもはサキュラから「吸血鬼のあり方」などを(一方的に)聞かされているのだが、今回は少し様子が違った。
「たまには本を読みましょう」
ということで、本日は読書デーである。
この地下の食堂から少し離れた所には書庫があり、田舎の図書館には勝てるくらいの蔵書が納められているのだ。
おまけに先代吸血鬼の収集品か、いわくつきの、いわゆる魔道書や闇の書の類がちらほらと置かれているから危険だ。
まあ俺もサキュラも魔術には興味を持たないので、もっぱら入り口近くの簡単な本を読んでいるわけだが。
「あんたには、どういう本がいいかしら」
読書と言うと個人戦だが、サキュラはどうやらチーム戦で読書に挑むようだ。
俺は本棚から比較的埃の少ない一冊の本を取り出し、サキュラへ提示してみた。
「これなんかどうでしょう。「指輪物語」」
「駄目に決まってるじゃない。そういうのは人間の読み物。吸血鬼には、吸血鬼の読み物があるのよ」
あっさり否定される。だが、俺には分かっていた。
よほど主が本嫌いだったらしく、ここの書庫は全体的に埃とカビくさい匂いで覆われている。
だがその中でも、この辺りの本棚だけが埃がなく、真新しいのだ。
その棚は西洋童話、冒険小説の類。
おまけにサキュラの寝室を見た時、枕元に「ゲド戦記」が置いてあるのを見た事がある。
この吸血鬼ときたら、王子様やヒーロー、あるいはお姫様が出てくるガチガチの西洋ファンタジーが大好きなのだ。
「…これがいいわ」
そう言って取りだしたのは、やはりというか、埃の積もった一冊の本。
ところで諸君は高校生の進路の味方、「なるにはシリーズ」をご存じだろうか?
実は我々、裏に生きる者の世界にも「なるにはシリーズ・裏版」なるものが存在しているのだ。
「ハイジャック犯になるには」「結婚詐欺師になるには」「政治家・官僚になるには」「幽霊になるには」等、そのバリエーションは多岐に富んでいる。
サキュラが手に取ったのはそのシリーズ、もちろん「吸血鬼になるには」だ。
「さあ、タカシ。読んで聞かせてちょうだい」
サキュラはそう言って俺に本を手渡すと、近くのソファに腰かけた。
俺もならい、向かいのソファに座る。何だかこうしていると、家庭教師とその生徒のようだ。
本人もそのイメージらしく、ない胸を張るようにふんぞり返っている。その微笑ましい光景に俺は思わずくすくす笑いながら、生徒のように語り始めた。
「はい。…えー、「1.吸血鬼とは何か 吸血鬼はヴァンパイア、ヴェルコラック、ノスフェラトなどとも呼ばれ、起源は古代中国の───………」
それから三十分も経っただろうか。
「「……──その性質故に、吸血鬼は流水を渡れないとされている。またみなぎ得一著する「足洗邸の住人たち。」(以下足洗邸)内では…」あれ?」
すう、すう、と、規則正しい寝息が聞こえてくる。
向こうを見れば、家庭教師のお嬢様はすっかりお休みモードに入っていた。
「……あれま」
栞をはさんで本を閉じ、サキュラのもとへ歩み寄る。
その寝顔はあまりにあどけないもので、起こす事は躊躇われた。
「…仕方ないな」
ひょいと身体を持ち上げる。背丈からある程度は想像がついたが、サキュラの身体はまるで霧のように軽かった。
俺は寝室へ運ぼうと、サキュラを抱きかかえて書庫を出る。不気味なほどに静かなホールを抜け、階段を上っていると、
「……ん…むにゃ…」
ベタな声と共に、サキュラが呟く。
「た…かし……たかし…」
「…はいはい、タカシはここですよ」
起こさない程度の声で、俺はそれに答えるようにぽん、ぽんと背中を軽くさすってやった。
「…たかし……や…いや…」
ぐすぐすと、寝息にグズりのようなものが混じる。
怖い夢でも見ているのだろうか。吸血鬼化を極めれば夢の中にも入れるかもしれないが、あいにく今の俺にはその手段が無い。
俺に出来る事は、せいぜい背中を優しくさすってやるくらいだった。
寝室につき、天蓋付きの大きなベッドの真ん中にサキュラを横たえる。
真っ白い肌が、同じくらい白いベッドシーツに映えている。その姿はまるで過ちを犯してしまいそうなほど蟲惑的だったが、俺はぐっと踏みとどまった。
女性の寝姿をじろじろと見るのは紳士に反する。俺は布団をさっと掛けてやると、とっとと退散しようと背を向けた。
そこで、本日三度目の袖つかみ。
起きているのかと思って振り向いたが、どうやら寝ぼけていただけのようだった。
「……たかし…どこ…いくの…?」
小さな唇が動き出す。
「……おいて…かないで……ひとりは…や…だ……」
唇はそれだけ紡ぐと、あとは再び規則正しい寝息を吐き出すようになった。
もしここに第三者がいたのなら、何とも言えない沈痛な面持ちで俺の顔を眺めていた事だろう。
俺は言葉では到底表現できない面構えで、ベッドに沈む小さなご主人様の事をじっと見つめていた。
「………もう少し、考えさせてくれ」
眷属として永久就職──その結論を出すには、まだ俺は若すぎる。
あと二、三年は寂しい思いをさせるかもしれない。だが、俺に関わるすべてのしがらみが無くなったら、きっと──
きっと、どうなってしまうのだろう。
俺は外の世界の未練を断ち切り、ここで彼女と生涯を過ごすことが出来るのか?
いづれは結論付けなければならない問題。だが、先送り以外に選択肢のない問題。
無理難題だな、と呟いて、俺は頭を掻き毟る。
「…まぁ、なるようにしかならんわ」
思考を放棄し、俺は寝室を後にする。コウモリたちに見送られ、廃洋館の戸を開けた。
その手に、「吸血鬼になるには」を持ちながら。
☆おまけ~蛇足的次回一波乱風味~☆
自転車は裏庭に止めてある。俺は洋館の扉から時計回りに回ろうとして、不意に後ろから声をかけられた。
「……こんな所で、何時間も、何やってんの?」
心臓が飛び跳ねる。慌てて振り向くと、そこに金髪をなびかせる少女がいた。
腰まで届くツインテール、黄色がかった健康的な肌、そして、俺と同じ高校の制服。
「かなみ……」
この姿を絶対に見られたくない存在、そして、俺を引きつける最大のしがらみ。
椎水かなみが、そこに立っていた。
続かない。
最終更新:2011年05月21日 00:30