465 名前:1/3[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 02:23:09.80 ID:W3NxTNcw0 [1/3]
  • 力尽きたツンデレ


「んぅ……」
「お~い、ちなみさんや~。起きてますか~?」
「……ん……起きて、ます……」
 深夜に、レコーダーに撮り溜めておいた映画を消化していたら、突然ちなみが起きてき
た。起きて『……眠れなくて……ヒマだから一緒に見ます』と言い出したまでは良かった
が、見せ場のアクションが過ぎてからは一気に眠気が押し寄せたらしく、
「もう映画終わったぞ?」
「…………すぅ……」
 映画が終わったころには、このザマである。
「おいおい、自分の部屋で寝ろって」
 軽く揺すってみる。
「このままだと風邪ひくぞ?」
「ん……んぅっ……! ――――すぅ……」
 だが、揺するのを嫌がった後は、起きてくれるでもなく、再び眠りに入ってしまった。
そうとう睡眠欲が限界点だったらしい。……律儀に隣で座ってないで先に寝ろというに。

 とはいえ、放っておくわけにもいかないし、持ち上げて部屋まで運んでしまおうかと思
うが……抱きかかえたら殺される気がしたのでやめておく。
「……すぅ……」
 そんな脳内会議を知るはずもなく、ちなみはいよいよ睡魔の中に旅立ったらしい。ゆっ
くりと肩が上下して、完全に熟睡モードだ。
 困ったことに、袖を思いっきり掴んだまま熟睡モードに入ったらしい。
「とりあえず毛布取ってきてやるから一旦離せ、ほら」
「……んん……や……!」
「『や!』じゃねぇっての、離さんと風邪ひくぞ?」

466 名前:2/3[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 02:26:11.82 ID:W3NxTNcw0 [2/3]
「……んぅ……ふぁ……」
 何度か掴まれた腕を振ってみるが、やはり完璧に寝てしまっているらしく、しっかり服
をつかんだまま離してくれない。困った妹だ。
 結局諦めて、手を伸ばして近くに置いてあった上着を掴み、ちなみにかけてから、撮り
溜めした別の映画を見て時間を潰すことにした。




「……ん、……ふぁ……」
「おはよう。ちなみ……あぁねむ……」
 兄の睡眠時間という尊い犠牲の甲斐あって、よほど気持ちよく寝られたのだろう。ちな
みが起きたのは、結局日が昇りきってからだった。
結果的には、さらに映画まるまる1本分寝られなかったわけで……どうやら、今日の授業
は、全部睡眠学習になりそうだ。
「……これは……兄さんの上着……え、ここ、ベッドじゃない……あれ……?」
 起きた妹のほうはといえば、ようやく思考が定まってきたらしく、目元をこすりながら
状況の把握につとめていた。
「昨日……あ、日付的には今日か……映画見てただろ。あのあと寝ちゃってたんだよ」
「……えぇと、そうです。……映画を見て、眠くなって……あ……ぅ……!」
 真っ赤になって恥ずかしがっているちなみ。
 どうやら、日頃悪口ばかり言っている兄の前で醜態をさらして、プライドに障ったらし
い。少々ばつが悪そうに指をつき合わせ、もじもじしていた。
「とりあえず……少しくらい寝れそうだから……部屋返って寝ていいか?」
「……あ、はい」
「んじゃ、また後でな。おやす――――っておい、手、離してくれよ。袖引っ張られたま
んまじゃ部屋戻れないんだが……」
 きゅっと袖を掴んだまま離してくれないちなみ。
 気まずそうな表情を見るに、べつに嫌がらせがしたいわけではないらしい。
「……その、言いにくいのですが……ずっと力を入れて握ってたようなので……」

467 名前:3/3[sage] 投稿日:2011/05/19(木) 02:27:57.10 ID:W3NxTNcw0 [3/3]
「手を握ったまんま固まっちゃったとか?」
「……ええ、その、恥ずかしながら……しばらく……動かせそうにないです」
 視線を落とすと、言葉を続けるにつけ、どんどん小さな声になっていく。本当に恥ずか
しそうだ。
 だが、このままでは本気で一秒も寝れないかもしれない――と思ったところで、ちなみ
が珍しく気を遣ってくれた。
「……あの、ですから……手が離せるようになるまで……このまま……寝ちゃっていいで
す。……動けるようになったら、毛布……かけておきますから」
 ちなみはものすごく照れくさそうにしているが、そろそろ睡魔が限界を突破しそうだ。
 いつもより優しい妹の厚意に感謝をしつつ、ありがたく寝させてもらうことにした。
「んじゃ、悪いけどこのまま寝るわ。じゃ、おやすみ……」
「……あ、あの」
「ふぁ……ん、何だ?」
「……あの、枕……」
「あ? ああ、大丈夫大丈夫。腕でも使うさ」
「……いえ、膝、あいてますから……罪滅ぼしもかねて……どうぞ。……あ、今日だけで
すよ?」
「そうか? なんだか照れるが……んじゃ、マジで眠いし遠慮なく」
 そして、すぐに睡魔がやってきて、
『……ふふ……ちょっとだけ、嘘ついちゃいました……許してくださいね?』
 そんな妹の言葉が聞こえたが、違和感を覚えて聞き返す前に、意識が落ちていった。


 その後の睡眠は短い間だったが、いつもより少しだけ、いい夢を見ることができた気が
する。
最終更新:2011年05月21日 00:46