108 名前:1/5[] 投稿日:2011/05/20(金) 06:52:31.65 ID:7/RYLMPl0 [3/8]
  • 男をいいように使うツンデレ

「うわぁ…… 結構雨脚強くなってんな。風も強いし、最悪だなこりゃ」
『兄さん』
「へ……? と。敬子じゃないか。何やってんだ、こんな所で。もうとっくに帰ったか
と思ってたが」
『何やってたんだって……それは私のセリフです。とっくに授業も終わってるのに、一
体何をグズグズしていたんですか?』
「えっと……俺は補習。中間テストの結果があんま良くなくてさ。まあ、赤点じゃあ無
かったんだけど、追試がない奴でも補習受ければ通信簿の成績には多少加味してやるっ
て言われたから」
『ハァ…… 相変わらず“バカ”なんですね。兄さんは。いいえ。バカというよりは怠
け者と言うべきでしょうか。やってやれない事はないのに、サボッてばかりな訳ですか
ら。本当に、妹としては肩身の狭い思いでいっぱいです』
「いや。元々物理は苦手だし、今回は特に難しかったから…… で、お前は何やってた
んだ? 俺と違って頭良いし、補習とかはないだろ」
『私は……兄さんを、待ってました』
「はい?」
『聞こえなかったのですか? ですから、兄さんを待っていましたと、そう言ったので
す。一緒に帰ろうと思いまして』
「……いや。聞き間違いかと思ったぜ。一体どういう風の吹き回しだよ。お前が同じ高
校に入って約二ヶ月。一度だって一緒に帰ろうとした事なんて無いくせに」
『無論です。何でわざわざ私が兄さんなんかと一緒に帰らなくちゃいけないんですか。
家でも顔を合わせるのに、登下校も一緒だなんて真っ平ゴメンです。それに、私の兄が
こんな人物だなんて、友人にも知られたくありませんし』
「なら、何で今日は一緒に帰ろうなんて言い出すんだよ。何か、今の口振りを聞いてい
ると、特別心境の変化があったとは思えないんだが」
『もちろん、特別な理由があるからに決まっています。こんな天気でもなければ、兄さ
んをわざわざ待って、一緒に帰ろうと思うなんて絶対に有り得ませんから』
「天気? 雨降りだから待つっていう事は……傘がないから、とか?」

109 名前:2/5[] 投稿日:2011/05/20(金) 06:53:12.79 ID:7/RYLMPl0 [4/8]
『えい』
 ドスッ!!
「あいって!! 何すんだよいきなり」
『バカですか兄さんは。私の左手に持ってるものにすら気付かないなんて、よっぽど注
意力がないんですね』
「イテテテ。だからって傘で突くことないだろ? それに、持ってる事くらいさすがに
気付いてるって。ただ、もしかして壊れてるのかもしれないなって思っただけだよ。結
構風もあるから、最近の安い傘じゃぶっ壊れても不思議じゃないし」
『それでしたら、とうに壊れた傘なんて捨ててます。使い物にならないものをいつまで
も持ち歩くほど、私は物持ちはよくありませんから』
「そっか。じゃあ、逆に俺が傘を忘れたんじゃないかと心配になってわざわざ待ってて
くれたとか?」
『今朝、あれだけ今日は雨が降るからと言ったのに、それで忘れるようでしたら、兄さ
んは大バカですね。そんな大バカの世話をするために、何で私が待っていなくちゃなら
ないんですか』
「うーん。雨降りの日に待つと言ったら、相合傘が定番かなとか思ったんだが、違うの?」
『当たり前です。何で私が兄さんと仲良く相合傘で帰らなくちゃならないんですか。想
像するだに気持ち悪いです。冗談じゃありません。エッチなゲームのやり過ぎで脳幹ま
で腐り果てましたか?』
「別にエロゲじゃ無くたって、昨今マンガやアニメでも一般的じゃん。それに、俺まだ
未成年だぞ? 常識的に考えて買えないだろ。小遣いも少ないし、そもそもウチはパソ
コンだってお前と共用でしっかり管理されてるじゃん」
『フン。兄さんの事です。私や母さんのみならず、法の網の目を潜って手に入れてるか
も知れないじゃないですか。そんなの分かりません』
「まあ、疑うのは勝手だがな。それより、相合傘じゃなきゃ、一体何で俺の事を待って
いたりしたんだ? 理由がさっぱり分からんのだが」
『それは兄さんが理解する必要はありません。兄さんはただ、私の事なんて気にせずに
普通に歩いて家まで帰ってくれればそれでいいんです。私はその後ろから付いて行きますから』
「何でだ? 一緒に帰るんだし、並んで帰った方がいいだろ?」


110 名前:3/5[] 投稿日:2011/05/20(金) 06:53:54.21 ID:7/RYLMPl0 [5/8]
『別に、一緒に帰るからと言って、並んで帰る必要なんてないじゃないですか。私はあ
くまで、兄さんの後ろを付いて行くだけですから。それに、そうしないと意味がありません』
「……敬子って、真面目で頭も良い常識人だけどさ。時々変な事口走るよな」
『兄さんは、私の意図が分かっていないから不思議に思うかも知れませんけど、私にと
っては非常に合理的かつ有益なんです。いずれは兄さんも気付くとは思いますが』
「いずれじゃ分からん。今説明しろよ」
『嫌です。兄さんは四の五の御託を並べる暇があったら、さっさと先に立って歩いてく
ださい。時間の無駄ですから』
「ちぇっ。何か意味わかんねーけど、とにかく前を歩けばいいんだな?」
『はい。そうする事が兄としての義務ですから』
「何が義務何だか……うぉっ? 風、強いな。下手すると傘ぶっ壊れるな、こりゃ」
『気をつけてくださいね。傘なんて壊したら、兄さんの価値はその瞬間、ゴミくず以下
に落ちますから』
「俺って一体、どんな価値なんだよ。クソ、これじゃ下はビショビショになっちまうな」
『文句言わないで、ほら。さっさと歩いてください』
「さっさと歩けったってよ。この風と雨じゃなかなか前に進めんぜ」
『あ、ちょっと待って下さい』
 クイクイ……
「何だ? 裾引っ張って」
『ここから先は並んで歩きます。あの、生命保険会社のビルまでは、兄さんが右側です』
「……さっき、並んで歩く必要なんてないって言わなかったか?」
『事情は変わるんです。あのビルまで辿り着けば、また後ろに戻りますけど』
「意味が分からんな……? お前は一体何をしたいんだ?」
『そんな事を気にする必要はありませんから。ほら、早く』
 グイッ!
「とっとと…… 乱暴な奴だな全く…… うわっ!? たた…… 今度は横からかよ。
全く、やっかいな風だよな」
『ここはビルの影響で、横からの風が凄いんです。以前、台風の時にお気に入りの傘が
この場所でやられてしまったのでよく覚えています』

111 名前:4/5[] 投稿日:2011/05/20(金) 06:54:36.01 ID:7/RYLMPl0 [6/8]
「ああ。急に風向きが変わるといきなり持ってかれるからな。橋の上とかもすごいぜ。
ぶっ壊れた傘の残骸がその場に放置されてて――」
『余計なおしゃべりはいいですから。ほら。もう目印のビルまで辿り着きましたから、
ここからはまた、前を歩いて下さい』
「お、おう。――っと!? また風向きが戻ったのかよ……って、ん?」
『きゃっ!? 兄さん。いきなり立ち止まらないで下さい!! ぶつかるかと思ったじゃ
ないですか。もう……』
「なあ、敬子。ちょっと聞いていいか?」
『お断りします。今は早く帰りたいんですから。さっさと歩いて下さい』
「いや。すぐに済むから。ひょっとしてさ。お前……俺を、風除け代わりに使ってない?」
『今頃気付いたんですか。そんな事、前を歩いてくださいと頼んだ時点で、普通は気付
くものなのですが、兄さんと来たら、相変わらず鈍いんですね』
「ああ、いや…… さっき横風が吹いた時にもしやと思ったんだが…… お前にとって、
兄の存在って風除け程度のものなんか?」
『良かったじゃないですか。私に存在価値を認められるだけでも。ものぐさで、ロクに
長所もない兄さんだって、役に立つ事を証明出来たんですよ』
「いや、ちっとも嬉しくないから。なるほどなぁ……俺に隠れていれば、少しは風や雨
も凌げるからって…… けど、俺はズボンの裾がめちゃくちゃ濡れてんだけど」
『でも、別に私が兄さんを風除けに使わなくても、どのみちそれは濡れたじゃないです
か。私が濡れない分だけ、合理的だとは思いませんか?』
「むぅ…… まあ、確かに。しかし、それだけの為に、お前は俺を待ってたのか? いっ
そ、多少濡れても、家帰って濡れた制服をさっさと脱いで、シャワーでも浴びた方が良くない?」
『そんなに大して待ってはいませんよ。兄さんが、大体何時くらいに来るかは把握して
ますから。それに、制服の被害より、傘が壊れるのがもったいないです』
「俺はお前の傘の価値以下か」
『今、自分で言ったじゃないですか。多少濡れてもどうたらって。大体、兄さんは盗ま
れたり壊れたりするからって安物の傘しか買ってないですし、持ち物も含めて全てどう
でもいい存在です』


112 名前:5/5[] 投稿日:2011/05/20(金) 06:55:50.32 ID:7/RYLMPl0 [7/8]
「やれやれ。何か兄としては悲しいぞ、おい」
『そんなに悲観しなくても、どのみち私の評価は変わりませんから。むしろ、ささいな
ことでも妹の役に立てたことを誇りに思って下さい』
「誇りに思えってもなあ…… 風除けの道具だろ?」
『いいじゃないですか。あんまり愚痴るとみっともないですよ。ほら、理解したなら、
さっさと歩いて下さい。私だって鬼ではありませんから、報酬にせめてお茶くらいは淹
れてあげますよ』
「はいはい。確かに敬子が、俺の為にお茶を淹れてくれるなんて言い出すのは珍しいも
んな。じゃあ、諦めて歩くとすっか」
『はい。あ、そこの角曲がったら、今度は私の左に並んでくださいね。出来れば、背中
をこっちに向けて、かに歩きで』
「そこまで出来るか!! 注文多過ぎんぞ、おい」
『……全く、使えない人ですね。兄さんは』
「クソ…… 人をいいように使っといてそこまで言うかよ。分かったよ、やってやらあ!!」
『(クスッ…… ごめんなさい、兄さん。でも、兄さんの広くて大きな背中に守って貰い
たいなって思ったら…… こんな時くらいしか、機会ありませんからね。頼もしく思っ
てますよ。兄さん)』


終わり
今日は快晴ですが、雨降りネタを
最終更新:2011年05月21日 01:07