86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/03(木) 06:15:01.24 ID:GZ2lu8N10 [2/4]
春休みは嫌いだった。
新しい年度を控えた休みだからだろうか。クラス替えや部活編成、実力テストやら新入生の歓迎行事やら。年度始めは色々と忙しい。それを思うと憂鬱になってくる。
「な?」
と、圭介は正面で問題集相手に奮闘する茜に同意を求めた。二人は丸テーブルで向かい合って座っている。
茜は問題集から顔を上げて、眼鏡越しに圭介を見る。知性的な目が咎めるような色を帯びていた。
「いきなり何よ。な? だけ言われても分かんないでしょ」
それもそうだ。
いや何でもない、と適当にごまかし、圭介は床に手をつき上体を反らせた。目だけを茜に向ける。白い長袖のTシャツ。袖だけが黒い。普段は後ろで二つに分けて結んでいる髪は、無頓着に背中に流してある。制服姿ばかり見ていた圭介の目には新鮮に映る。
なに見てんのよ、と茜が目を細めた。
「あのね圭介、再三言うけど、アンタのお父さんに頼まれたから仕方なく勉強見てやってんだからね?」
「はいはい分かってます分かってます」
別に好きでやってんじゃないんだからね、ってか。
親同士が仲が良いために、春休み半ば、突然二人で勉強することになった。
いやぁ家の息子は勉強が云々、だったら家の娘に勉強を云々。圭介たちの知らない間に話が決まっていたのだった。
圭介としては退屈だった春休みを女の子と過ごせるのだから悪い気はしない。しかし、茜はどう思っているのだろうか。
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/03(木) 06:16:05.11 ID:GZ2lu8N10 [3/4]
もう、と呆れたように言って再び問題集を解き始めた茜に、圭介は声をかけた。
「なぁ」
茜が顔をあげる。視線に刺があったが、構わずに聞いた。
「お前さ、春休みって好き?」
何の脈絡もない質問に、茜の眉間にシワが寄る。
「いきなり何よ。別に好きでもなんでもないわよ」
じゃあさ、と圭介は続ける。
「こんな春休み、さっさと終わっちまえと思うか?」
言い終わるなり、圭介は天井を見上げた。これじゃ自分の事を好きか聞いてるようなものじゃないかと思い、茜の顔を見る事ができなくなった。
不自然なほど天井を直視する圭介の耳に、茜の声が届く。予想していた刺々しさはなかった。
「……なに言ってんのよ」
それきり茜は何も言わず、見るとすでに顔を俯けて問題集に向かっていた。顔は見えないが。
「耳赤くないか?」
赤くないわよバカ、と言いながら茜は耳に手をやり髪を被せる。
そうだよな赤くないよな、と圭介。
赤くないわよ、と茜。
お前さ。
……なによ。
髪結んだ方が似合うよ。
……じゃあ明日からそうする。
その後はまぁ、いいから勉強しなさいよ、とか何とか。
了
最終更新:2012年05月07日 11:30