25 名前:1/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 22:58:43.70 ID:S+2wyKKb0 [10/16]
  • 寝ているツンデレの浴衣がはだけて大変危険な状態になっていたら ~中編~

『きゃっ!?』
「うわっ!!」
 慌てて手を離した俺に、一瞬遅れてかなみが右腕で自分の胸を抱き込むように隠し、
その勢いで横向きになる。俺は慌てて後じさりして、手をかなみに向けて振った。
「違う、違う!! 何にもしようとしてないってば!!」
 焦って、まだ何も言われていないのに自分から弁解を始めてしまった。しかしかなみ
は、まだ状況がよく理解出来ていないようで、ぼんやりした顔で体を半分起こした。
『何? 何? 何なの?』
 キョロキョロと部屋の中を見回し、体を起こして布団の上に座り、顔に掛かった髪を
かき上げてそのまま頭を掻いた。
『……あれ? ここって……?』
 しかし俺はそれに答えるどころではなかった。起き上がった時に、せっかく直した浴
衣がまた乱れてしまい、胸元も下半身もさっきよりも危険な状況になってしまった。俺
は慌てて顔を背け、かなみに忠告する。
「ここ、男子部屋だから。つーか、浴衣!! 浴衣!!」
『ふぇ……?』
 一瞬置いて、かなみは悲鳴を上げた。
『き……やあああああっ!!』
 予想はしていたので、驚くには当たらない。それよりも、これからどうするかが問題だ。
『何? 何であたし、こんな格好してんのよ……』
 しかし、その答えを俺が言うよりも早く、かなみが俺を指差して叫んだ。
『ア……アンタでしょ!!』
「違う!!」
 即座に俺は否定する。こんな状況で痴漢扱いされたらかなみにも友子にも二度と顔向
け出来ないし、必死で我慢してきた自分が報われなくてしょうがない。だからこれを認
めるわけには絶対に行かなかった。
『何が違うのよ!! アンタしかいないでしょ? こんな事するの。このドスケベ、痴
漢、変態、エッチ、犯罪者!!』

26 名前:2/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 22:59:07.55 ID:S+2wyKKb0 [11/16]
「だから俺じゃないし、誰がやったわけでもないってば。お前の寝相が悪いのが原因だって」
 相手は起き抜けで、しかもしっかりアルコールも残っている状況だ。こんな時に理性
的に考えられるわけ無いので、こっちは逆に、相手のペースに巻き込まれずにしっかり
と説得しなければならない。だから俺は努めて冷静にかなみを説得に掛かる。
『嘘よ。だって起きた時、タカシが上にいたもん。絶対服脱がそうとしてた!!』
「違うって。あれは逆に浴衣を直そうとしてたんだって。お前が無防備な格好で寝てる
からさ。あのまま寝てたら風邪引くし、かといって掛け布団の上で寝ちゃってるから、
掛けるものもなかったしさ」
 かなみは俺の説明を聞き、自分の座っている布団を確かめる。しかし、すぐに頭を振っ
て否定した。
『やっぱり嘘。っていうか、それと襲おうとしたかどうかは話が違うし。最初そんな気
無くても、あたしの寝姿見てたらムラムラして浴衣を少しずつ脱がそうとしてたかも知
れないじゃない』
「だったらもっと上手いやり方あるだろ。大体、まずは帯から解くし」
 今度は、手で帯の結び目を確かめる。結局締め直すまでは至らなかったので、帯は緩
んだままとはいえ、ちゃんと締まっていた。それを確認してかなみは、少し考えてから
別の容疑を掛けて来る。
『……じゃあ、脱がす前にイタズラしようとしたとか?』
「だったらお前をまたいで座る必要なんてないだろ。むしろ傍に座っていた方がいろい
ろと弄りやすいし。またぐなら、腰を落として完全に押さえ込んだから、起きた時にあ
んなに素早く体を捻るなんて出来なかったはずだぞ」
『じゃあ、浴衣を直そうとしてたのはホントだけど、胸元をちょっと広げて中覗こうと
してたとか』
 説得が功を奏し、レイプ魔から覗き魔までハードルが下がって来た。あともう一息だ。
「正直、あんな事しなくても覗こうと思えば覗けたし。わざわざ起きるリスク背負って、
浴衣に手を掛ける必要なんてないだろ?」
『じゃあ、先に覗くだけ覗いてから、浴衣直そうとしたとか』
 どういうわけか、さっきよりかなみの顔が不機嫌そうに見える。それを不思議に思い
つつ、俺は首を横に振った。

27 名前:3/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 22:59:29.63 ID:S+2wyKKb0 [12/16]
「いや。俺は見てない。胸も下着も、ギリギリで見えなかったし、それ以上覗こうとも
してない。まあ、そこまで行くと、後は俺を信用して貰うしかないけどな」
 真面目な顔でかなみをしっかりと見て、俺は潔白を主張した。あれだけの欲望に耐え
抜いたのだから、一点のやましさも俺は持っていない。だからむしろ、信じてもらう為
には、堂々としているべきだと思った。
『じゃあ、本当にあたしの胸も下着も覗いてないの? もし嘘だったら、地獄に落ちる
って言われても、そう言える?』
「そりゃ、嘘なんてついてないからな。そう言えるって言うか、それしか言えんわ」
 これでかなみが矛を収めてくれれば万事解決だ。しかし、かなみは鋭い目付きのまま、
念押しするように質問を繰り返す。
『本当に……絶対に見てないし覗いてもいないって……そう言うのね? それがホントなのね?』
「だから何度聞かれてもそうだって。だからって示せる証拠も何もないし、後はかなみ
が俺を信じるかどうかだけだ。まあ、何を言っても信用出来ないって言うんなら……俺
にとっては残念なだけだけどな。かなみの信用に値しない男だって言われてるようなものだから」
 かなみの顔をまっすぐに見て、真剣に俺は言った。これで信じて貰えないなら、かな
みとの付き合い方すら考えなくちゃいけなくなるだろうなと思いながら。かなみは、俺
の真剣な顔つきに、少し驚いたように見つめていたが、急にその顔が険しくなった。そ
のまま、俺の胸倉を掴み、叫ぶ。
『何でっ!!』
「はい?」
 思わず、反射的に俺は聞き返した。かなみの叫んだ意図が、全く分からなかった。す
るとかなみは、俺の浴衣を握る手の力を強めると、もう一度、今度はやや声を抑えて叫んだ。
『だからっ……!! 何で、その……見なかったのよっ!!』
「は……?」
 今度こそ、俺は言葉を失って驚いてかなみを見下ろす。今まで覗き魔疑惑で散々責め
られていながら、今度は見てないことを怒られるってどういうことだと。
「いや、ちょっと待て。見なかったのって……何で……?」
 気を取り直し、かなみに質問の意図を問う。するとかなみは顔を上げ、潤んだ目で俺
を睨み付けた。

28 名前:4/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 22:59:51.13 ID:S+2wyKKb0 [13/16]
『だって……覗こうと思えば覗けたんでしょ? なのに見なかったんでしょ? それっ
てあたしに……興味ないって事だよね?』
「えっと、いやその……」
 質問が急反転しすぎてて脳が付いていかない。頭の中を整理しようとしているうちに
も、かなみがさらに追求を重ねてくる。
『普通、男だったら女の子のおっぱいやパンツ見たいって思うわよね? なのに、目の
前に無防備な女の子が転がってるのに覗こうともしないなんて、あたしってばそんなに
魅力ないの? 女の子だからって気は遣ってくれるけど、タカシにとってはエッチの対
象じゃないって、そういう事なのよね?』
「いやいやいや。そんな事は無いって。かなみはちゃんと色っぽいし、普通に見て可愛
いし男を惹きつける要素もいっぱい持ってるから」
 考えがまとまってきた事と、かなみの質問が要点を突いて来た事で、ようやく意図が
見えてきた。しかし、同時に俺は、こいつまだ酔ってんのかと思う。普通なら、かなみ
がこんな質問をしてくるとかあり得ないからだ。
『またそうやって、一般論に逃げる!!』
 俺の浴衣を掴んだまま、かなみが前後に揺さぶった。
「おいおいおい。止めろって。破けたらどうすんだよ」
 慌ててかなみを制すると、揺さぶるのは止めてくれたが、かなみは恨みがましく俺を見つめた。
『あたしはタカシがどうだったのか聞いてるのに…… ズルイよ。そうやって逃げるっ
て事は、やっぱりタカシはあたしのエッチな寝姿見ても、何とも思わなかったんだ』
 何とも寂しそうな顔で、かなみは視線を逸らした。その表情に、俺の胸が痛む。かな
みが酔っ払ったままだとしても、ここは何としても誤解だけは解いておかなければならない。
「そんな事ねーよ。かなみの寝姿見て、どれほど興奮したかなんて、口じゃ言えないほどだし」
 俺の言葉に、かなみがチラリと視線を向ける。しかし、すぐにまた逸らして、小さな
声で否定する。
『……嘘だよ、そんなの。だって、興奮したら、絶対に覗きたくなるでしょ? あたし、
全く無抵抗だったんだよ? なのにしないなんて……興味持ってない証拠じゃない』

29 名前:5/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 23:00:12.36 ID:S+2wyKKb0 [14/16]
「いやいやいや。もの凄い誘惑だったって。浴衣直すのだって、かなみの白い太ももに
視線が釘付けになって、すごい時間掛かったし、胸だって半分近く露出してて……って
も、水着で見える程度だけど、それでも浴衣の下は生なんだって思ったら、こう、何て
言うか……とにかく、大変だったんだってば」
 これを言うと、また痴漢疑惑が浮上しかねないが、とにかく今は仕方が無い。しかし、
かなみは不満気に小さく呟く。
『……でも、見なかったんでしょ? だったら、やっぱり……』
 さっきよりは自信なさげだが、まだ信じ切ってはいないようだ。しかし、あと一押し
かもしれない。俺は首を横に振って答えた。
「寝てる女の子の隙を窺って覗き見するのはフェアじゃないって思っただけで、かなみ
が見せてくれるって言うなら、そりゃ見たいよ」
 するとかなみは、驚いた顔で俺を見つめた。その顔が真っ赤に染まり、茹っている。
そのまま口をあわあわと動かし、そして急いで顔を逸らす。
『だっ……誰もタカシに見せたいなんて言ってないじゃないっ!! その……不可抗力
なら仕方ないけど……』
「でも、ギリギリとはいえ見えてないのに見たら、それは不可抗力じゃないだろ?」
 そうかなみを諭すと、彼女は俺の浴衣から手を離し、小さく頷く。
『う……うん。そうだけど……』
 どうやら、ようやく納得してくれたようだ。俺はホッとしてかなみに確認する。
「俺はかなみの色っぽい寝姿に興奮したけど、自分の欲望を抑えて、浴衣を直そうとし
てただけだ。これでいいだろ?」
 しかし、かなみは頷かなかった。何やら思案げな顔つきで下を向いているので、不審
に思って俺は様子を窺う。
「どうしたんだよ? まだ納得行かないか?」
 しかし、それには答えず、かなみはやや居心地悪げに体を動かすと、俺をチラ見して口を開く。
『……あのさ。今でもまだ……あたしの浴衣の中、見たいと思ってる?』
 また困る質問をぶん投げて来た。とはいえ、これを否定したら、さっきまでの言葉が
帳消しになりかねないので、俺は素直に頷かざるを得なかった。
「あ……ああ。今でも、その……胸元とか、視線が行っちゃうし」

30 名前:6/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 23:00:34.53 ID:S+2wyKKb0 [15/16]
 するとかなみは、俺から離れるように体をズラすと、両腕で胸を抱いて、横目で俺を
見て、小さく言った。
『……エッチ』
「何だよ。聞くだけ聞いといて、答えたらエッチだなんて、どういう了見だよ」
 何か余りにも理不尽な気がして文句を言うと、かなみは何故か、弾んだ声で返してきた。
『だって、あたしの胸見てたんでしょ? だったらやっぱりエッチじゃない』
 確かに詰られているはずなのだが、全くそんな感じには聞こえなかった。今まで散々
困らされた仕返しもあって、俺は受けた印象そのままに、意地悪くやり返す。
「まあ、エッチなのは認めるけどさ。でも、かなみも何か楽しそうじゃないか? 俺に
見られて嬉しいとか?」
 するとかなみがびっくりしたようにこっちを見た。見る間に首まで真っ赤に染まる。
『なっ……何、バカな事言ってんのよっ!! タッ……タカシに見られて喜ぶなんて、
そんな事ある訳ないじゃない!!』
 ムキになって否定しているが、見てないと言われた時の怒りようとは明らかに違って
いた。だから俺も、安心してかなみをからかおうと、ニヤニヤしながら頷く。
「そうだよなぁ。かなみは俺に見られて喜ぶようなエッチな女の子じゃないもんな」
『あ……当たり前じゃないそんなの!! てか、何ニヤついてんのよ!! その顔、超
ムカつく!! もう、バカ!!』
 憤慨して俺を罵ると、かなみはスクッと立ち上がる。
「おい。どうしたんだ?」
 一瞬、興奮したら気持ち悪くなったのかと心配するが、かなみは怒った顔のまま、振
り向いて答えた。
『何か頭ボーッとしてるし、お風呂行って来る。ここ、朝までやってたよね?』
 どうやら、具合が悪くなったようでは無さそうで少し安心したが、それでも一度寝た
とはいえ、あれだけ痛飲した後だ。気になって俺は声を掛ける。
「9時くらいまではやってたはずだけど、大丈夫かお前? まだ酒大分残ってるだろ」
『大丈夫だって。タカシに心配されるほど酔っ払っちゃ――キャッ!!』
 答えようとした傍から、かなみは足をもつれさせて転んだ。どうやら、布団につまづ
いたらしい。俺は慌ててかなみを支える。

31 名前:7/7[] 投稿日:2012/05/13(日) 23:01:24.61 ID:S+2wyKKb0 [16/16]
「危ないな、もう。やっぱ止めた方がいいんじゃないか?」
 俺の忠告にも、かなみは首を横に振る。
『ううん。だって、入りたいんだもん』
「入りたいって言ったって、足元ふらついてんじゃねーか。風呂場で滑って頭打ったりしたら大変な事になるぞ」
 言う事を聞こうとしないかなみを何とか思い止まらせようとするが、かなみはうんと
は言わなかった。少し黙り込んでから、ためらいがちに、小さく言った。
『……タカシが、支えてくれれば……大丈夫だもん……』
最終更新:2012年05月15日 00:45