61 名前:1/4[] 投稿日:2012/06/04(月) 22:55:49.32 ID:YYHjDDAs0 [5/9]
お題作成機:後輩・おねんね・えっちな本 その4

『へっ!?』
 ガバッと顔を上げ、驚いて先輩を見る。先輩は意外と茶化した顔ではなく、真面目な顔
つきで私を真っ直ぐ見ていた。それが、私と視線が合った事で、僅かに自信無げに逸らされる。
「いや、その……男に女っぽく見られたいって事はさ。好きな奴がいるって事だろ? で、
苦労してエッチな本買ってまで勉強して……成果の方はどうだったのかなって……」
 先輩の表情が複雑だったのが、何となく理解出来た。確かに誰も対象がいないのにそこ
までして色っぽい仕草を身につけたいとはなかなか思わないだろうし、だとしたら、私に
好きな人がいると考えるのが自然だ。実際そうなのだし。
『……それは……まだ…………ですけど……』
 もしかしたらからかわれるかもと思いつつ答えると、意外にも先輩は、ちょっと安堵し
たようなため息をつく。
「そうか…… まあ、頑張れよ」
 その言葉に、胸がチクリと痛む。もしかしたら、先輩は自分の事は勘定に入れていない
のだろうか? それとも、わざとそういう事を言っているのだろうか? 何だか、ため息
の雰囲気と矛盾しているようにも感じるが、あれも私を恋愛対象と見ての事なのか、単に
妹分に好きな人がいると聞いて、兄のような複雑な気分になっただけなのか、判断がつかなかった。
――確かめて……みようかな……?
 そんな考えが頭を過ぎる。だって、もしこのまま先輩が私に先輩以外の好きな人がいる
と勘違いされたままだとしたら、そんなの寂し過ぎる。だったら、今ここで、はっきりさ
せた方がいい。
『……今……試しても、いいですか?』
 決めると同時に、スルリと言葉が出た。先輩が驚いて顔を上げる。
「何?」
 私自身、そんな簡単に口に出たことに驚いていたが、言ってしまった以上は仕方が無い。
覚悟を決めて、私はもう一度、今度ははっきりと具体的に口にする。
『……だから、私の勉強の成果がどのくらい出ているか、試させて下さい。今、ここで、
先輩相手に』
「いや、俺相手にって……いいのかよ?」

62 名前:2/4[] 投稿日:2012/06/04(月) 22:56:09.91 ID:YYHjDDAs0 [6/9]
 強気な態度の私に、先輩は戸惑いを見せて聞き返す。それで私も何だか照れ臭くなって、
つい不機嫌そうにプイッと顔を逸らしてしまう。
『……だって……そういう事言える男の人って、先輩しかいないじゃないですか……』
「ああ。そうね。テストみたいなもんだもんな」
 先輩のその物言いが、何だかちょっと不機嫌そうに聞こえた。それで私は、自分が失言
した事に気が付く。私の事が好きであっても無くても、他の男の練習台に使われるとなっ
たら、面白くないだろう。ここは何としても、誤解は解かなくては。
『……そうです。最終テストのつもりで、行きますから……』
 緊張して、喉がカラカラに渇いているのを私は感じた。胸が高鳴り、体が熱くなる。ま
るで、本気で告白するかのようだ。いや、本気で告白するのだと、私は自分に言い聞かせ
る。これはリハーサルじゃなくて、本番なんだと。
「おう。それじゃあ、見ててやるから、真面目にやれよ」
 先輩の言葉に、私はコクリと頷く。正座を横に崩して座り、右手でミニスカートをギリ
ギリまでたくし上げ、股間のところでギュッと押さえる。両腕で胸を挟み、左手は肩のと
ころでギュッと握り、身を硬くしてうつむいてから、僅かに顔を上げ、上目遣いに先輩を
見て、囁くように、告げる。
『……先輩……その……わっ……私の事……その…………好きにして……いいですから……』
 ドクンドクンと早鐘のようになる心臓の鼓動と、熱く滾る血液だけしか感じることが出
来なかった。何だか本当に先輩に抱いて下さいってお願いしている気になって、私は先輩
の次の行動を、目をつぶって待っていた。するといきなり、おでこをビシッと何かが当たった。
『いたっ!! 何するんですか先輩っ!!』
 顔を上げると、立ち上がって腰を屈め、怒ったように私を見る先輩と顔が合った。
「ドアホッ!! いくらエロマンガ見て勉強したからって、飛躍し過ぎだろが!!」
『だってだって!! 仕方ないじゃないですか!! ただ好きだって言ったって、子供の
戯言だって思われたら嫌だから…… だからちゃんと、エッチも出来るんだよって主張し
たかったし……』
 拗ねてうつむき、おでこをさすさすと擦る。すると先輩は大仰にため息をつき、背中を向けた。
「まあいい。とりあえず、マンガの仕草は十分に身に付けたのは分かった。けど、それで
エロイかどうか判断するのは、相手の男次第だからな。後は実践で、合否を判断するんだな」

63 名前:3/4[] 投稿日:2012/06/04(月) 22:56:31.39 ID:YYHjDDAs0 [7/9]
 これで話はおしまいとばかりに手を振る先輩の背中に、私は勢い込んで声を掛ける。こ
んな誤解されたままで終わりにされたら、今までのことは何の意味もなくなる。
『……じゃあ、ダメですよ。先輩が合格かどうか判断してくれなくちゃ……』
 片手はスカートの裾を握ったまま、不安げな態度で私は、うつむいて言った。
「なに?」
 先輩が、驚いた声を上げるのが聞こえた。そのまま、何の言葉も無いのを待ってから、
私は言葉を続けた。
『……だって……私が、アピールしたかったのは……先輩……なんですから……』
 言い切ってしまうと、ドッと不安だけが打ち寄せてくる。もし、先輩が私を妹みたいに
しか思ってなかったとしたら……大失敗もいいところだ。これだけ勉強しても、私は子供っ
ぽさから卒業できてなかった事になる。
「椎水」
 呼び掛けられて、私は顔を上げた。いつの間にか先輩が、私の目の前でしゃがんですぐ
傍で私を見つめていた。
「……本当にいいのか? 俺が判断しても」
 真面目な声で問い掛けられ、私は一瞬臆した。しかし、答えは一つしかない。小さく、
おずおずと頷く。
『……はい……お願いします……』
 ゴクリ、と唾を飲み込む。間近で私を見つめる先輩の視線に吸い込まれそうな気がした。
そうしたら、本当に私の体が先輩に引き込まれる。いや、先輩の顔が私に近付いて来たの
だった。それはギリギリで止まり、そして一言、こう言った。
「合格だよ、椎水」
 そうして先輩は、私の唇に、自分の唇を重ね合わせた。


『結局……映画……行けなかったですね……』
 ベッドの中で、隣にいる先輩に、不満そうに私は言う。夢中になって抱き合った結果、
既に陽はほぼ西に沈んでいた。
「そう残念がる事じゃないだろ。これから機会はいくらだってあるんだし」
『それはそうですけど……』

64 名前:4/4[] 投稿日:2012/06/04(月) 22:57:28.22 ID:YYHjDDAs0 [8/9]
 晴れて恋人同士になったとはいえ、今日と言う日は一日しかない。もっとも、今まで過
ごした時間も濃密だったけど、映画に行ってスイーツ食べて、一緒に散歩して、ロマンティッ
クな時を過ごしたかった気もする。
『いっそ、一日が倍あれば良かったのに』
 我ながらバカな事を言ったと思ったのに、意外にも先輩は同意してきた。
「そうだな。そうすれば、かなみも少しは助かっただろうに」
『はい? どういう意味ですかそれ?』
 助かる、という意味がさっぱり分からず聞き返すと、先輩は机の上に広げっぱなしだっ
た勉強道具を指す。
「数学の問題。俺が寝てる間も1問しか解けてなかったみたいだな。果たして今からやっ
て、テスト範囲全部終わるかな」
『あーっ!! わ、忘れてたーっ!!』
 ガバッと起き上がると、全裸のままベッドから飛び出る。それを先輩が見咎める。
「おいおい。服くらいちゃんと着ろって」
『わわわっ!! ていうか、見ないで下さいよスケベ!!』
 思わず胸を隠してしゃがみ込む私の方を見ないようにしつつ、先輩がさり気なく言った。
「さっきまでエロ言葉連発してた女の言う言葉じゃないだろ、それ」
『エッチの時は別なんです!! もう!!』
 服を身に着けつつ、先輩に向かって怒鳴る。それから、つかつかとベッドに近付くと、
掛け布団を剥ぎ取った。
『先輩も起きて下さいってば!! 一緒にやるんですから』
「は? 俺、そろそろ帰って自分の勉強しないとマズいんだけど」
『何言ってるんですか。散々人の体弄んで、これで数学赤点だったら先輩のせいですから
ねっ!! ほら、早く服着て下さい。もうっ!!』
 先輩の手を引き、ベッドから引き摺り出してから、私は急いで勉強を再開したのだった。

 しかし、こっちの方は奮闘空しく、私の中間テストの結果は、敢え無く玉砕したのだった。


終わり。
最終更新:2012年06月08日 00:55