73 名前:1/5 :2012/06/06(水) 06:58:50.06 ID:Wv70ssfp0
お題作成機より:幼馴染・お風呂・夢 〜後編〜
『……も、もういい? こっちに背中向けて座ってくれた?』
「ああ。準備オッケーだよ」
『そ、それじゃあ――』
「ああ。いつでもやってくれ」
『……………………』
「ん? どうしたの、かな姉。始めていいよって」
『ふぇっ? わ、分かってるわよ!! 二度も言わなくたって……』
「いや。何かボーッとしてるみたいだったから。何考えてたのかなって?」
『べ、別に何も……ただ、アンタの裸見るの、凄く久し振りだったから……』
「あれ? 最後にウチの家族と一緒に海行ったのって、いつだっけ?」
『……もう随分前でしょ? 3年くらい前だったような……』
「そんな経つっけ。まあ、俺も夏はいろいろと忙しいから、そんなくらいかも。で、久々
に俺の裸見て、どうしたの? もしかして見惚れちゃったとか?」
『バ……バカッ!! 誰がアンタのなんか……ただ、こんなにゴツかったかなって……』
「そりゃ、一応鍛えてますからね。これでも、目標はプロだから」
『そ、そのくらい知ってるわよ!! アンタが毎日一生懸命トレーニングしてるのだって……
でも、こんなに筋肉、付いてたんだなって……背筋とか凄いし』
「まあ、普通の奴からすりゃあな。でも、これでも全然足りないんだぜ。コーチからももっ
とフィジカル鍛えろって言われてるし」
『……これでも、全然足りないんだ』
「ああ。体当てられて、押し込まれると簡単にボール取られちゃう事もあるし。体押され
てバランス崩しても、ファール取って貰えないからな。だからただ筋トレすればいいって
だけじゃなくて、もっともっと効果的に体幹鍛えなくちゃいけなくって」
『ふーん。大変なんだね』
「ふーんって。何か超他人事って感じだな」
『だって実際他人事だし。まあ、正直そこまで頑張れるってのは、一般的に考えれば凄い
とは思うけどね』
「ちぇっ。俺が頑張ってるのって、一応かな姉も関係してんだけどな」

74 名前:2/5 :2012/06/06(水) 06:59:11.00 ID:Wv70ssfp0
『あたしが? な、何が関係してるって言うのよ?』
「忘れちゃった? いや。忘れたなら、それはそれで別にいいんだけどさ…… 昔、かな
姉に約束したこと、あったじゃん」
『…………もしかして、日本代表になるとか言ってた、あれ? ワールドカップで日本が
一勝も出来ずに敗退しちゃって……』
「良かった。忘れてても構わないとは思ってたけど、やっぱり覚えてもらってた方が励み
にはなるしな」
『なっ……何言ってんのよ!! 言われたから、たまたま思い出しただけで……普段はそ
んな事、ちっとも思い出したこと無かったし。てか、アンタの方こそまさか、約束守ろう
として……』
「いやいやいや。約束があろうが無かろうがさ。サッカー選手になるのは俺の夢だって、
それもずっと言ってたじゃん。ただ、やっぱりどうしても練習キツイ時とかさ。サボりた
くなる時とか逃げたくなる時もあるけど、そういう時に、自分への戒めに、役立ってたから」
『それにしたって、バカよ。そんな子供の頃の約束なんて、必死になって守ろうとしなく
ていいのに』
「いや。かな姉にとってはどうでもいいんだろうけど、俺にとっては重要な事なんだ。人
に約束した以上は、果たせるかどうかはともかく、果たす為に極限まで努力し続けたいし」
『……やっぱ、アンタってばバカ。そんな風に、カチンカチンな考え方してると、先々苦
労する事になるわよ?』
「別に、それでもいいよ。自分で決めた苦労だったらいくらでも背負い込む覚悟は出来てるし」
『全く……まだ高校生だってのに、口先だけは一人前なんだから』
「それは、かな姉には言われたくねーな。ていうか、かな姉はもう少し自分の言葉に責任
持たないと」
『なっ……!! 何よ失礼ね!! それじゃあまるであたしが、すっごい適当な事ばかり
言って生きて来たみたいじゃない』
「いや、みたいじゃなくてさ。だって、その時何て言ったか覚えてる?」
『……え? えーと、さ、さあー? そんな昔の事覚えてないわよ』
「かな姉ってば、じゃああたしもサッカーやってなでしこジャパンに入るって言ったじゃ
ん。けど、すぐ飽きちゃって」

75 名前:3/5 :2012/06/06(水) 06:59:32.41 ID:Wv70ssfp0
『だ、だーって、ボールを足で蹴っても全然思い通りになんないし、アンタは超上手くて
ムカつくし、だから……』
「まあ、それだけならともかくさ。他にもいろいろあったじゃん。今度は女子バレーの選
手になりたいとかさ。あと、歌手になりたいとか、女優になりたいとか、芸人になりたい
とか……あと、パティシエになりたいってのもあったな。お菓子いつでも食えるからって」
『うっさいわね!! いいじゃないの別に、夢くらい幾つ持ったって、損するもんでもな
いでしょうが!!』
「いや。かな姉の場合、すぐにテレビとかに影響されちゃうじゃん。でも、その場の勢い
だけですぐ熱が冷めちゃうし」
『だ、だって、バレーはそもそも身長が無いし、歌下手だし、歌作る才能も無いしさ。女
芸人は大変そうだし、お菓子作りは好きだけど……でも、苦労の割りに、報われ無さそうだし』
「いっそ、グラビアアイドルでも目指せば良かったんじゃね? かな姉って、見た目可愛
いしスタイルもいいから、原宿とか渋谷あたり歩けば、スカウトの目にも留まるかもよ」
『じょーだん。あたしは人前で大勢の人に肌晒す気も無いし、バラエティ番組で芸人にイ
ジリ倒されるのも好きじゃないわよ』
「へえ? 俺の前では平気で水着姿になってるクセに?」
『そっ……!! それは、その……ア、アンタは昔から見せてるから、だからその変に意
識しないで良いって言うだけの話で……今日だって、ドッキリ仕掛ける為にしょうがなく、
こんな格好してるだけで……』
「いや。どんな理由だろうと、個人的には目の保養になったから良かったけどさ」
『め、目の保養とか言わないでよっ!! さっきからもう……さりげなく可愛いとかスタ
イル良いとか……ああもう!! アンタなんかに言われたって、全然嬉しくないんだから!!』
「あいてててててっ!! そんなガリガリ強く擦るなって。皮膚が剥ける!!剥ける!!」
『ゴ、ゴメン……って、アンタが悪いんだからね、もうっ!!』
「悪いって……意味わかんないし。何で褒めたのに怒られるんだか」
『うるさいっ!! だ、大体いちいち安っぽいのよ。そんな事であたしの歓心買えると思っ
たら大間違いなんだから……』
「べ、別にそんなつもりじゃないし。それに、褒めたっつーか、正直に思ったこと言った
だけなんだけど」
『そ、そういう言葉がムカつくって言うの!! あー、もうっ!!』

76 名前:4/5 :2012/06/06(水) 06:59:53.38 ID:Wv70ssfp0
「あいてっ!! 何でいきなり叩くんだよ!!」
『知らないわよバカ!! あああああ、このやり場の無い感情をどこに向ければ……って
そうだ。タカシ。ついでに頭も洗ったげるから、シャンプー貸しなさいよ』
「へ? い、いや。それはいいって。頭は自分で洗うから」
『黙んなさい!! あたしがやるって言ってんだから、素直に従う!! そしたらアンタ
は、あたしの洗い残しの場所を洗っときなさいよね』
「はいはい。全く、横暴なんだから」
『どこが横暴なのよっ!! 女の子が洗ってあげるって言うんだから、もっと喜べってさっ
きも言ったでしょうが』
「はいはい。ほら、シャンプー」
『よし。じゃあ、掛けるから、垂れてきても目に入らないようにしっかりつむってなさいよ』
「了解。あんま乱暴に洗わないでくれよ」
 ワシャワシャワシャワシャ
『どう? 気持ちいい? 痒いトコとかない?』
「うーん。正直、床屋さんに洗って貰うほうがよっぽど気持ち良いような」
『し、仕方ないでしょ? 向こうはプロなんだから比較しないでよね?』
「アハハ。冗談だってば。十分気持ちいいよ。そういえば、美容師になりたいってのもあったよね?」
『あー? そんなのも言ったっけ? でもムリムリ。人にカミソリ当てるのなんか怖くっ
て。前になんかのサスペンス映画でさ。散髪用のカミソリでスパッてのがあって、もうト
ラウマになっちゃって』
「ホント、かな姉って色んな事に影響されやすいよな。すぐ飽きて次の事に興味移っちゃ
うから、長続きしないけど」
『感受性が豊かって、言って欲しいわよね。けどさー。やってみるとどれもこれもなかな
か大変っていうか…… ホント、バカ正直に夢を追い続けてるアンタを、その事だけは凄
いって思うわよ』
「まあ、練習辛いし、思うように行かないこともいっぱいあるけど、でもやっぱり楽しい
からな。かな姉は今なんか、やってみたい事とかってないの? 楽しそうとか興味あることとか」
『うーん。あんまないなあ。大学じゃ一応映研入ってるけど、友達がらみだし、これで将
来映画撮りたいとか思わないしなー』

77 名前:5/5 :2012/06/06(水) 07:00:17.87 ID:Wv70ssfp0
「何か、もったいないな。何でもいいけどさ。好きなことあって、それに打ち込めると結
構楽しいと思うんだけど」
『何言ってんのよ、偉そうに。ちょっと自分がサッカー得意だからってさ』
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃ…… まあ、気に触ったなら謝るけど」
『いいわよ、別に。それに、あたしだって目標がない訳じゃないんだから』
「へえ? もし良かったら聞かせてよ。その目標っての」
『え? い、言うの? 今ここで?』
「いや。別に嫌だったらいいけど。俺に聞かせたくないのに、わざわざ言う必要もないし」
『い、言うわよ!! 別に隠したいってほどじゃ…… ただ、そんなにご立派な目標でも
ないし……』
「どんな目標だっていいじゃん。それが、かな姉のやりたい事だったらさ」
『ま、まあ…… えっとね。その……具体的にどうこうってのはその、無いんだけど……
あたしはさ。何ていうか……一生懸命夢に向かっている人がいてさ。その人が、私が応援
してあげたいって思うくらい、真剣だったら……その人の事を後ろから支えてあげて、一
緒に夢を叶えてあげるのも、いいんじゃないかなって……』
「え……それって……」
『ま、まだその……具体的に誰ってわけじゃないわよ!! ただその……そういう、裏方
の方があたしは性に合ってるかなって…… 自分じゃ偉い事は出来そうにないけど、誰か
にとっての一番であれば、それでいいかなって……』
「そっか。具体的に誰の事をって決まってるわけじゃないのか」
『そ、そうよ!! もし、そういう人がいたらって……今はまだ、例え話なんだからね』
「……あのさ」
『な、何よ?』
「いや、何でもない。かな姉にとって、夢を一緒に叶えてあげたいって思えるような人が、
見つかるといいなって」
『いるわよ、絶対。アンタに言われなくたって、見つけてみせるんだから。絶対にね』

終わり
数年後、欧州への飛行機に乗るタカシの横に、可愛らしいお嫁さんの姿があったとかなかったとか
最終更新:2012年06月08日 01:05