136 名前:1/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:20:21.05 0
お題作成機:メイド、地震、ケーキ
ヴィーッ!! ヴィーッ!! ヴィーッ!!
『えっ……!? タカシ様、何ですこの音は……』
「緊急地震速報だな。でかいの来るぞ」
『えっ、地震? ウソ、ヤダそんな――』
グラッ!!
「お、来た……」
『キャアアアアアッ!!』
ガタガタガタガタガタ。
「結構でかいな……けど、もう収まってきた……か……?」
カタカタカタカタ……カタ……
「フゥ……この程度なら震度3……くらいか。おーい、芽衣。大丈夫か?」
『神様神様助けて助けて助けて助けて神様助けて助けて助けて……』
「……しょうがないなあ。芽衣、もう揺れ収まったぞ」
ポン。
『ふぇっ!?』
「安心しろ。震度3程度だったから、大した地震じゃない」
『そうでしたか。それなら良かったですけど…… って、タカシ様、今どこをお触りになっ――』
ガツッ!!
『~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!』
「お、おい。芽衣、大丈夫か? 今すごい音がしたぞ」
『…………ったたたたた…… だ、大丈夫じゃありませんっ!! いったあああああ……』
「待ってろ。今、タオル濡らして持って来てやるから」
ジャー……バシャバシャ……キュッ……
「ほれ。これでぶつけたところ冷やせ」
『……申し訳ありません…… け、けど、タカシ様が悪いんですよっ!!』
「俺が? ただ、地震が収まったことを知らせただけだぞ」
『だって、私のお尻を撫でたじゃありませんか!! セクハラです。犯罪です。いくら私
が使用人だからと言って、やっていい事と悪い事があるんですよっ!!』
137 名前:2/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:21:22.95 0
「……いつから世の中では、背骨の付け根辺りも尻と呼ぶようになったんだ? あと、撫
でたんじゃなくて軽く叩いただけだし。大体、上半身をリビングボードの下に潜らせてた
ら、他に叩けるような場所もなかったろ?」
『そもそも、何で叩く必要があったんですかっ!! 声を掛けてくれればそれだけで良かっ
たのに……』
「だって、いつも芽衣ってばそれだけじゃ正気に返らないじゃん。一度耳元で大きな声で
呼んだら、それはそれで怒られたし。この間隅っこで震えてた時は背中叩いたけど、あの
時はそんなに怒らなかったろ?」
『それは叩く場所にもよりますっ!! 女性の腰を気安く触るなんて、いくら主人とはい
え越権行為が過ぎます。いきなりあんなトコ触られたら、どんな女性だって怒りますよ』
「そうかなあ。腰骨の辺りって、ダンスとかで女性を軽く抱く時にも触れたりしない?」
『そういうのは時と場合によりますっ!! と、とにかくその……今のは失礼ですっ!!』
「ホント、頑固だなあ、芽衣は。それに頭ぶつけたのも、触られてびっくりしたからじゃ
なくて、その後怒ろうとしてだろ? 触ってビックリしたのならともかく、それは芽衣の
ドジなんじゃ……」
『ドジって言わないで下さい!! セクハラ紛いの事をした挙句に、私のせいにするなん
て、どれだけタカシ様は反省がないんですかっ!!』
「分かったよ。少なくとも、因果関係に絡んだ事は事実だし、気安く触ってゴメンとだけ
は言っておくよ。それより、大丈夫か?」
『頭でしたら、おかげ様で大分痛みも引いてきました。ちょっとコブになっているかも知
れませんけど、それだけです』
「いや。頭ももちろんだけど、芽衣は昔っから地震苦手じゃん。いつも収まってもしばら
くは怯えが止まらなかったりするしさ。今日はむしろ、怒ったりしたから、怯えも治まっ
たかなって」
『む……無論です。子供の頃はともかく、今はもう立派な大人なんですから、これくらい
の事でいつまでも怖がってなんていられません』
「いや。つい最近も物音にビクビク反応してたりしてたじゃん。少し休んでおいた方が良
くないか?」
『タカシ様はおくつろぎ中かも知れませんが、私は仕事中なんですよ。所定の休憩時間以
外に、仕事が残っているのに休むわけにまいりません』
138 名前:3/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:22:31.82 0
「いや。俺は休んだ方がいいと思うけどな。平気だと思っていても、どこかに落ち着かな
い気持ちが残ってたりすると、ミスに繋がるし」
『タカシ様に私の何が分かるって言うんですか。いくら何年も二人で一緒に暮らしている
からといって、ふう……いえ、その……か、家族でもないのに、知ったような気にならな
いで下さい』
「はいはい。でも、無理はするなよ。こういう時は、一つ一つゆっくりと、慎重にな」
『そんな事、タカシ様に言われるまでもな――』
ピン、ポーン!!
『きゃあっ!!』
スガリッ!!
「落ち着け。玄関のチャイムの音だから」
『そ、そんなの分かってます……っていうか、何でタカシ様が私にくっ付いているんですかっ!!』
「いや。芽衣がビックリして俺に縋り付いて来たんだが……」
『違いますよっ!! タカシ様が大げさに心配して縋り付かせようとしたんでしょう?
そうに決まってます!!』
「分かったから、とにかくインターフォンに出て。お客様かも知れないし」
『わ、分かってますよ。いちいち指図しないで下さい。もうっ!!』
『……はい、別府ですが……ああ、はい。今開けますので……』
ピッ!!
『宅急便の配達でした。ちょっと出てまいります』
「ああ、宜しく。てか、気を付けてな」
『は? 何を気をつけてって言うんですか。たかが玄関まで行くだけなのに、何を言って
るんですか、もう』
ガツッ!!
『あいたっ!!』
「ほら。リビングのドアが半開きだったから注意したのに、予想通りぶつかるなんて……」
『い、今のはタカシ様が余計な事言うからですよっ!!』
ピンポーン……
「忠告しただけなのに…… まあ、ほら。いいから行って。配達の人、外で待ってるからさ」
『分かってますってば!! 本当に、タカシ様ってば口喧しいんですから!!』
139 名前:4/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:23:46.22 0
パタパタパタパタ…………
『ハンコ、ハンコ忘れたわ。えーっと、確か戸棚の一番上の引き出しの中……あ、あった。これだ』
ガッ!!
『イタッ!!』
「どうした? 今度は何だ?」
『ひ、引き出し閉めようとしたら指を……何でこんなトコで挟むんだろう……』
「焦ってるからだろ。冷静になって、深呼吸してから玄関に出て来い」
『ご、ごちゃごちゃうるさいですってば!! タカシ様に言われると余計に混乱するんで
すから、しばらく黙ってて下さい。いいですねっ!!』
ガッ!!
『あいったああああ……こ、小指ぶつけた~~~~~~っ……』
ヒョコヒョコ……
「うん。こりゃ、ダメだな。仕方ない。あれ……試してみるか」
『いったたた……何箇所、ぶつけたんだろ…… カップも割っちゃったし……タカシ様に
は心配掛けたくないから、大丈夫だって強気な態度取ってみせたけど……ホント私って打
たれ弱いなあ』
バタンッ……
「ただいまーっ」
『んきゃあっ!! あたっ!!』
「どうしたんだ、芽衣。またどっかぶつけたのか?」
『今のはその……タカシ様が急に帰って来られるから、ビックリして貼りかけの絆創膏剥
がしちゃっただけで……って、どこ行ってたんですかタカシ様は。お出掛けになられるな
ら、私に一言仰って下さっても宜しいじゃありませんか』
「ああ、ゴメン。声掛けると、それだけでミスを誘発しそうだったからさ」
『タカシ様はいつだって、唐突なのが悪いんです。お声を掛けるタイミングさえ見計らっ
ていただければ、ミスなんてしません』
「それにしては、満身創痍っぽいんだが……くるぶしとか、腕とか、指とか……」
140 名前:5/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:25:11.93 0
『か……家事をやっていれば、たまにはこういう時もありますっ!! べ、別に地震のせ
いとか、関係ないですからね』
「ふうん。じゃあ、普段から芽衣はドジッ娘メイドだと、こう主張するのか?」
『だ、誰もそんな事言ってません。ドジッ娘じゃなくたって、誰だってたまには不調の時
くらいありますから。っていうか、ドジッ娘メイド言わないで下さい。それは私に対する
侮辱です』
「はいはい。ところでさ。ケーキ買って来たんだけど、食べない? あと、お茶も買って
きたから」
『一体、どういう風の吹き回しですか? タカシ様って別に甘い物も食べますけど、ご自
分でわざわざ買いに行かれる事なんてほとんどないじゃありませんか』
「ああ。何か、急に食べたくなってね」
『……ウソ、でしょう?』
「何でそう思うの? 心当たりでもある?」
『タカシ様が、そういうお優しい笑顔なさる時は……大抵、裏がありますから……』
「酷いなあ。まるで俺が、真っ黒な人間みたいじゃないか」
『そうですよ。おまけに、私の為だなんて言ったら、言い返されるのまで見越してご自分
が食べたかっただなんて嘘ついて。これで性格が黒くなかったら、何だって言うんですか』
「……そこまで見透かされちゃっているなんて、俺も隠し事が下手なんだなあ」
『……何年、お仕えしていると思っているんですか。いえ、お仕えする前からのお付き合
いですから、それこそ物心ついてからずっとと言っていいのに、見透かされないとお思い
のタカシ様の頭が、能天気です』
「ちぇっ。厳しい物言いだなあ。せっかく、芽衣の大好物の山田ベーカリーの紅茶のシフォ
ンケーキ買って来たのにさ」
『本当ですかっ? あそこのシフォンケーキって本当にしっとりとして生地がふわっと柔
らかで、それでいて弾力があって、さらに英国から直に取り寄せた茶葉を細かく刻んで練
り込ませているから、一口含むと紅茶の芳香な香りが口いっぱいに広がるんですよね。私
もシフォンケーキは作れますけど、あのしっとり感とふわっとした感じはどうやっても出
せないんですよ』
「だろ? 前に芽衣が友達と熱心に話し込んでいたのを覚えててさ。それで買って来たんだ」
141 名前:6/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:26:20.87 0
『かと言って、それで私が素直にお礼を言うとでも思いますか? 思わずつい、シフォン
ケーキについて語ってしまいましたが、それでごまかされたりはしませんよ?』
「いや、別にごまかすつもりなんてないんだけど…… 芽衣の為に買って来たってのは、
もうバレちゃったんだし」
『その理由もちゃんと仰っていただけなければ困ります。理由もなく、主人から施しを受
けるわけには参りませんので』
「うーん…… 単に、芽衣を喜ばせたかったとか、それじゃあダメかな?」
『ダメですね。もちろん、買って来た以上はちゃんと頂きますけど、お金についてはちゃ
んと家計から出させていただきます。タカシ様の次回の仕送りで、ちゃんと返済致しますから』
「細かいなあ、芽衣は。こういう時は素直に喜んで貰った方が、男には受けがいいと思うけど」
『私は別に、男性受けを良くする為に演技しようなんて微塵も思ってはおりませんので、
そういう忠告は余計なお世話だとはっきり言っておきます。それよりも、どういうおつも
りでケーキなどを買って来られたのか、その理由を聞きたいです』
「……また、慰めや同情ならお断りですとか、そういう事を言うつもりなんだろう?」
『よくお分かりですね。図星だから答えられないと、そういう事なのでしょうか?』
「うーん。まあ、近いけど、違うかな。芽衣が地震が苦手で、少し大きな地震の後だと、
なかなか不安から離れられないのを慰めたいってのは確かだけど、それに絡んでもう一つ、
理由があるんだよ」
『どういう理由ですか? もったいつけずに、さっさと仰ってください』
「うん。その手足の怪我や、キッチンの割れた食器が証明しているように、不安で気もそ
ぞろなのに、無理矢理仕事を続けようとするから、芽衣はこういう時普段やらないような
失敗をたくさんしてしまうよね?」
『たっ……たくさんは言い過ぎです!! そりゃあその……少しぶっつけたり手を滑らせ
たりはしましたが……きょ、許容範囲かと……』
「腕だけで3箇所は湿布や絆創膏貼ってるし、足はもっとだろう? 十分だよ。だけど、
前に一度、休憩中に地震が来た時は、仕事に戻ってからも失敗がほとんどなかった時があってさ」
『……そんな事、ありましたっけ? 記憶にございませんが……』
142 名前:7/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:29:28.42 0
「芽衣の方が自覚してなかったみたいだね。たまたまお茶してて、その後も夕食の支度ま
で仕事がなかったから、ずっと俺と二人でおしゃべりしてて、で、その日はほとんど失敗
せずに済んでさ。だから、もしかしたら、ケーキとお茶とおしゃべりが、芽衣の不安を和
らげられるんじゃないかなって、そう思って用意してきたんだ」
『やっぱり、同情なされてるんじゃないですか。いつも言っておりますが、タカシ様は私
に無用の心配をし過ぎです。そりゃあ本来、使用人として主人に気に掛けていただけるの
は冥利に尽きるという物ですが、タカシ様は少し過度なのではないかと思いますが』
「そりゃあそうさ。芽衣は我が家の家事の全てを支えてくれているからね。不安で気もそ
ぞろな時に無理に仕事して、失敗されると困るんだ。ちゃんと仕事してもらうためにも、
しっかり不安は解消して貰わないとね」
『……そう言われると……一言もありませんが……』
「だから、これは仕事として命令する。今から休憩して、ケーキを食べながら俺としばら
くおしゃべりする事。それで、気が紛れたと感じたら、仕事に復帰するように。いいね」
『……仕方ありません。命令とあらば、従うしかありませんが……それにしても、飲み物
まで買って来ることはなかったんじゃありませんか? お茶くらいだったら、私が淹れます』
「今の芽衣にお茶を淹れさせるのは、色々と危険だからね。たまにはコンビニで買った市
販のお茶もいいだろうと思って」
『……では、せめて食器くらい用意させて頂きます。私も、自分の気持ちくらいは分かっ
ていますので、慎重に慎重を期しますから』
「ああ。それと、一つ。これだけはハッキリさせておきたいんだけど」
『はい、何でしょうか?』
「芽衣はいつも、自分を使用人使用人と言うけどさ。確かに今の立場はそうだけど、俺に
とって芽衣は、子供の頃からの幼馴染で、使用人とは言っても別府家にとっても重要な人
で、何より俺が親父の後を継ぐ上での、大切なパートナーであると思っているから。だか
ら、心配するのは当然なんだって、それだけは理解して欲しいんだ」
143 名前:8/8[sage] 投稿日:2012/06/20(水) 12:31:04.41 0
『なっ……!? そ、そんな大げさな…… た、確かに私は生涯に渡ってタカシ様のお傍
にお仕えして、サポートをするお役目を仰せつかってはおりますが、パートナーは言い過
ぎです。そんな、対等な関係ではありえませんっ!!』
「そうかな? 親父も芽衣の親父さんの事は大切なパートナーだって言って憚らないんだ
ぜ。俺だって同じだし、依存度で言ったらそれ以上かも知れないんだから」
『だ、だからって今、そういう事を仰らないで下さいっ!! か、却って動揺して失敗し
たりしたら、タカシ様のせいですからねっ!! もうバカ!!』
『(タカシ様があんな事を…… も、もちろん人生のパートナーだからと言っても、勘違い
しちゃいけないんだろうけど、でもそれだけで十分だし、むしろ私の気持ちだけは、絶対
に悟られないようにしないと…… でも、あれだけ私の事を見透かされているし、もしか
したら…………う、ううん。ダメダメダメ!! それだけは……許されない事なんだから……)』
『ハァ…… タカシ様……』
終わり
最終更新:2012年09月10日 21:32