178 名前:1/4[] 投稿日:2012/06/23(土) 20:10:27.59 0
- 妹に何でお前って家族に対しても敬語使うのって聞いたら
「てやっ!! こりゃっ!! クソッ!! ……あぶねっ、死ぬ死ぬ死ぬ!! とりゃあっ!!
よっしゃ、何とか殺したぜ」
『兄さん』
「あん? 何だよ、敬子。ノックもせずに」
『一応はしました。ゲームに夢中で気付かないの分かってましたから、返事を待たずに入っ
て来ただけで』
「あ、そうかスマン。で、何だよ?」
『母さんが、部屋に戻る前に、せめて自分の食器くらい片付けてからにしなさいって怒っ
てましたから、それを伝えに来ただけです』
「ああ。いや、だってまだみんな飯食ってる最中だったから、一人でガチャガチャ片付け
るのも悪いかなって。ただ、ちょうどゲームもいいトコだったから、なるべく早く続きや
りたかったし」
『兄さんの都合なんて知りません。私はただ、母さんに伝えるように言われた事をそのま
ま言っただけです。言い訳なら母さんにして下さい』
「冗談言うなよ。ゴチャゴチャ言うなら、今後一切、ご飯も片付けも自分でやりなさいっ
てお袋にキレられちまうだろが」
『だからって、それを私に言われても困ります。何の係わりもないのに愚痴を聞かされる
なんて、時間の無駄なだけです』
「ちぇっ。本当にドライだよな、お前って。兄妹なんだし、お互い他人の愚痴くらい言い
合ったっていいと思うんだけど」
『……私は別に、父さん母さんやクラスメートに対して愚痴を言いたくなるような不満は
持ち合わせていませんから』
「まあ、お前がしっかりしてるのは分かるけど、逆に他人のせいで迷惑掛けられたりとか、
そういう愚痴ってのはないの?」
『ええ、特に誰にも』
「……俺には?」
『兄さんがだらしないのは百も承知ですけど、別に今更ですし、それに私が面倒見なくちゃ
いけない訳じゃないですから、どうでもいい事です』
179 名前:2/4[sage] 投稿日:2012/06/23(土) 20:11:37.31 0
「そうなんだ。昔はもっと怒って来たような気がしたけどな。色んな事で」
『……子供だっただけです。兄さんの昔話に付き合うほど暇じゃないので、失礼しますよ』
「あ、ちょっと待って」
『何ですか兄さん。ちゃんとした用件があるなら、手短にお願いします。ただの無駄話な
ら付き合う気はありません』
「いや。今気付いたんだけどさ。一つ聞いていいか?」
『気付いたって……何を、ですか?』
「いや。何でお前って、家族相手でも何で敬語使うんだろうって不思議だったんだけどさ。
ちょうどお前が俺に対してよそよそしくなった時期と一致しない? 敬子が中学生になっ
たくらいだったと思うけど」
『それが何か? というか、どんなしゃべり方しようが私の勝手だと思いますけど』
「まあ、そう思ってたから、今まで特に何も言わなかったけどさ。お袋に言っても、年頃
なんだし色々あるんだろうから放っておきなさいってだけで」
『でしたら、ずっとそうしてくれた方が良かったんですけど。理由なんて個人的な事です
し、いちいち話したくもありませんから』
「フーン。もしかして、単に敬語で話すキャラってカッコイイなっていう厨二的な理由だとか?」
『誰がですかっ!! バカにしないで下さい。そんな憧れとかキャラ付けとか、くだらな
い理由でこんな話し方にはしませんっ!!』
「じゃあさ。何で敬語でしゃべるようになったのか教えてくれよ。でないと、敬子厨二病説が――」
『脅迫とか卑怯じゃないですかっ!! 別に、兄さんの知り合いとか私には係わり無い世
界の人ですし、知りもしない人にどう思われようがどうでもいいです。そんな事くらいで
私がしゃべるとでも思ったら大間違いですからね』
「ちぇっ。意外と口固いな、お前」
『意外ってどういう意味ですか。まるで私が軽率に物事をペラペラとしゃべる人間である
かのような言い方は止めて下さい』
「はいはい。昔はちょっとカマ掛ければすぐボロ出したのになあ。すっかり可愛げのない
性格になっちまって」
『悪かったですね。兄さんに可愛げないって言われても、別に何とも思いませんから』
「そう言いつつ、今ちょっと拗ねてない」
『なっ……!? バ、バカな事言わないで下さい。そんな事で拗ねる意味が分かりません』
180 名前:3/4[sage] 投稿日:2012/06/23(土) 20:12:14.85 0
「今、一瞬動揺し掛けたろ?」
『してません。勝手に脳にフィルター掛けて私を見るのは止めて下さい』
「うーん。陥落しなかったか。たまには感情を表に出す敬子も見たかったんだけどな」
『残念ですけど、諦めて下さい。兄さんの揺さぶり程度で動じる私じゃありませんから』
「分かったよ。じゃあ、もう一つだけ俺の推測言っていいか? これで外れたら、敬子が
敬語話すようになった理由を聞くのも諦めるから」
『分かりました。どうせ当たりはしませんから、聞くだけなら』
「そうか。それなら聞くけどさ。もしかしたら、もう中学生だし家族とじゃれ合うような
仲だなんて恥ずかしいしかっこ悪いから卒業しようって、それで意識を変えようと敢えて
敬語使い始めたとか?」
『な……っ!?』
「お、驚いてるな。どうだ。図星ったろ? 何となくそんなんじゃないかなーとは思って
たんだけどさ」
『な、何をそんな得意気な顔をしてるんですかっ!! 誰もまだそうとは一言も言ってないのに!!』
「そりゃ、口ではな。でも、お前の顔見てりゃ分かるって。さっきの呆れたような顔とは
全然違うもん。どう考えても当たりか、そうでなくてもかなりイイ線突いてると見たんだが」
『何をバカな事を言ってるんですか。兄さんの推測に驚く事と答えは全然別です』
「そうムキになって隠す事ないって。中学に入った頃ってそういうの多いからさ。大人に
なったのに兄弟と仲良くしたり、いつまでも父親や母親にベタベタしてるの恥ずかしいっ
て。まあ、そういう事考えちゃう事自体が、まだ子供なんだけど」
『何を知った風な口を利いているんですか。兄さんだって私と二つしか違わないクセに、
大人ぶらないで下さい』
「でも、高校生になると、また違った景色が見えてくるもんだぜ。お前もなれば分かると思うよ」
『ほら。そういうのが大人ぶってるって言うんです。大体、反抗期くらいは私だって知っ
てますし、そんな事くらいでいちいち言葉遣い変えたりはしません』
「あれ、違うのかよ? それにしては、ガチで驚いているように見えたんだが」
『……それは、一瞬当てられるんじゃないかって……そう思ったからです。実際は違って
ましたけど』
「え? じゃあもしかして、当たらずとはいえ遠からずだったって事?」
181 名前:3/4[sage] 投稿日:2012/06/23(土) 20:13:38.28 0
『そこまで近くありません。ちょっと掠った程度です』
「掠ったって、どこら辺が? 参考までに教えてくれよ」
『……ハァ…… またいちいち詮索されるのがうっとうしいから、答えてあげます。別に
家族と仲良くするのが恥ずかしいだなんて思ってはいませんけど、兄さん限定でいえば、
距離を置きたかったからという事は間違っていません。後は外れです』
「う~ん…… まあ、ある時期から急によそよそしくなったからそれは分かるけど、本人
の口から言われた上に、しかも俺だけだったとは……何か地味にショックなんだけど」
『に、兄さんがどう思おうが私の事情ですから……そんな事は知りません!!』
「知りませんってなあ…… せめて理由だけでも教えてくれるか? それまではケンカも
したけど結構仲良くゲームしたりテレビ見てわいわい話したりしてたじゃん。何で急にそ
んな風に思ったのかをさ」
『……それには、答えられません。絶対に、です。例え兄さんがどんなに詮索しても、勘
繰られるような事すら、絶対にしませんから』
「おおう。物凄い本気度だな。何かオーラすら立ち上ってるように見える」
『ええ。本気で言ってますから。質問が終わりなら、私はこれで失礼しますけど、いいですよね?』
「あ、ああ。その……引きとめて悪かったな」
パタン……
「うーん。何なんだ、あの気迫は……」
『……ハァ……まさか、知られる訳には行かないですよね。兄さんの事が、好きなんじゃ
なくて、愛してしまったから……距離を置こうって決めたなんて…… あのままお兄ちゃ
んって呼んで甘えたりしてたら……気持ちが抑えられなくなるから……我慢しようって、
それで口調もわざとよそよそしくして…… でも、距離は置けたけど、気持ちの方は……
全然……むしろ募る一方です……兄さん……』
終わり
最終更新:2012年09月10日 21:39