388 名前:双子・告白・髪飾り(序の1)1/4[sage] 投稿日:2012/07/21(土) 20:59:53.88 0
私と彩花は双子の姉妹だ。私が姉で彩花が妹。だけどそんな事はどうでも良くって、私
たちはいつも一緒で、姉妹であるのと同時に一番の親友として過ごして来た。性格だけ
は正反対で、ガサツで行動的な私に対して彩花は真面目でおしとやかだったけど、他は
何でも気が合った。食べるものも、好きな音楽やテレビ番組も、本も得意な教科まで。
そして、そんな私たちだったから、当然好きな男の子も、一緒になるのは当然だった
のだ。
「ねえ、香菜美。これ、着けた方が可愛いかな?」
ベッドに寝転がってファッション誌を眺める私の横で、姿見を前に彩花が一生懸命衣
装合わせをしている。
「それ、こないだ買ったシュシュ? 可愛いとは思うけどね」
顔を上げて感想を言うと、彩花は何かが引っ掛ったのか、首を傾げた。
「思うけど、って……何かあるの?」
「あ、ううん」
自分としても何となく言った言葉だったので、小さく首を振る。
「ただ、たかがタカシと映画見に行くのに、そこまでオシャレする必要あるかなーって」
すると、思いもかけず彩花は、真剣な顔で私の方を向いた。
「たかがって、男の子と映画見に行くってのは、デートじゃない。だったら、ちゃんと
オシャレして可愛らしさアピールしないと」
「デ……デートぉ?」
思いがけない彩花の一言に、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。しかし、彩花
は大真面目に頷いた。
「だって、私たちもう高校生なのよ。今までは、近所の幼馴染ってだけで良かったけど、
そろそろ真剣にならないと。タッくんカッコイイし、他の女子に告白されちゃったらど
うするのよ」
「いや、年とか関係ないし。大体アイツなら焦る事ないって。他の女子に告白されるな
んて有り得ないし」
彩花の取り越し苦労とばかりに冗談めかして首を振るも、彩花は乗って来なかった。
389 名前:双子・告白・髪飾り(序の1)2/4[sage] 投稿日:2012/07/21(土) 21:00:25.01 0
「またそうやって現実から目を逸らそうとする。私たちが好きになった男の子なのよ?
他の子が目をつけないと思う?」
「たちって言うな。たちって」
否定したって彩花の前では無駄なのを分かっていても、ついつい私はそう言ってしま
う。すると彩花は、いつものようにムッとした顔で私を睨み付けた。
「また香菜美ってばそうやって自分にウソをつくんだから。私の前でごまかしたって意
味ないの、分かってるはずでしょ?」
「そんな事言ったって……」
言い返そうとしたが、彩花の全てを見通したような視線の前に、私は沈黙するしかな
かった。そもそも私は彩花がタカシを好きなのを知っていたから、自分の想いは内緒に
しておこうと思っていたのだ。なのに、彩花がある日、突然こんな事を言ってきたのだ。
――香菜美、タッくんの事好きでしょ? だって、私がタッくんの事好きなんだから、
当然香菜美もそうだと思って。
もちろん私はごまかして乗り切ろうと思ったけど、双子である彩花に通用するはずも
なく、その日から私たちの関係に、恋のライバルというのが追加されたのだった。
「そうやって、ツンケンしてると、私がタッくんの事、独り占めしちゃうよ?」
本気なのか冗談なのか、彩花がそう言って軽く笑う。ただ、それが私を焦らせようと
思って言っている事は間違いないので、私は口を尖らせて不満を露にした。
「い、いーわよ別にその……彩花だったら仕方ないし、タカシだってきっと彩花の方が
好きに決まってるもん」
するとおもむろに彩花が私に向き直り、手を私の額に伸ばすと、指でバチンと弾いた。
「いった!! 何すんのよ彩花!!」
「だって香菜美ってば、そうやってすぐ強がるんだもん。私が独り占めしたら、本当は
寂しいくせに」
抗議しようと思ったが、止めた。彩花の言ってる事は本当だったし、年中一緒にいて
誰よりもお互いを良く知っている彩花相手にごまかし続けたって無駄なのだから。仕方
なく、私は恥ずかしさを押し殺そうとベッドの上のぬいぐるみを取って抱きかかえた。
「……だって、彩花ならしょうがないもん。私より可愛いし、優しいし、性格いいし、
おしとやかでむやみに怒ったり、人を小馬鹿にしたりしないもん……」
390 名前:双子・告白・髪飾り(序の1)3/4[sage] 投稿日:2012/07/21(土) 21:01:05.80 0
「でも、香菜美みたいに場を明るくしたり出来ないし、おしゃべり上手じゃないし、活
発でも行動的でもないわ。私一人だったらきっと、内気で友達も出来ない暗い子だった
と思う」
自分の欠点を並べ立てる彩花の顔を見上げると、彩花は笑って頷いた。
「私たちってちょうど、長所も短所も半分に分かれて出てきたみたいね。多分、二人合
わされば、完全無欠のスーパーレディになれたかも知れないのに」
「冗談。彩花と一つで出て来るなんて絶対ヤダし。かと言って、片方が残りかすみたい
なダメ人間になるってのも嫌じゃない?」
本当は何よりも、今の彩花がいなくなるのが嫌だから、だなんてのはさすがにちょっ
と気恥ずかしくて口には出せなかった。それなのに、彩花の方は笑顔で頷くと、いきな
り私に抱き付いて来て言うのだ。
「うん。私もヤダ。だって、一人で完璧な人間より、香菜美と一緒にいる方が絶対楽し
いもの。だから、今のままの方がいいわ」
「うっとうしい。離れなさいよね」
彩花の体に手を添えてグイッと力強く押す。すると、すぐ間近で彩花が不満そうに私
を睨んだ。
「最近、香菜美冷たくなった。全然スキンシップさせてくれないし」
「もういい加減女の子同士でベタベタする年頃でもないでしょ。そういうのはタ……好
きな男にでもやって貰えばいいじゃない」
何故か名前を口に出すのがためらわれ、私は若干ぼかした言い方をした。無論、彩花
がそれを聞き逃すはずもない。
「なるほど。香菜美も抱き締められるなら私じゃなくてタッくんがいいと、そういうわ
けね?」
「誰もそんな事は言ってない!!」
ムキになって主張するが、内心ではタカシに抱き締められたいと思っている私がいる
事を認めざるを得なかった。ついでに、彩花がタカシとだけいちゃいちゃするようにな
ったら、それを寂しいと思う私がいる事にも。
「口には出さなくても、そう思ってますって顔に出てるもん。でも、タッくんを香菜美
の独り占めにだけは絶対させないからね?」
391 名前:双子・告白・髪飾り(序の1)4/4[sage] 投稿日:2012/07/21(土) 21:02:08.64 0
さっきまでの甘えた態度から一変して、彩花はライバルの顔になって私から離れた。
「誰がするか。そんなもん」
ツン、と口を尖らせてそっぽを向く。その私の顔の向く方に体を移して、彩花が不満
を漏らす。
「まーたそんなウソついて。そんなに意地張ってるなら、本当に私が独り占めしちゃう
よ?」
「すればいいじゃない。私に邪魔する権利なんてないもの。彩花の好きなように告白で
もなんでもすればいいのよ」
売り言葉に買い言葉で、私はついついケンカを売るように言ってしまった。すると、
彩花が不意に真面目な顔になる。そのまま私を見つめて黙っていたので、私の方が不審
に思って聞いてしまう。
「ど……どうしたのよ? 真剣そうに考えちゃって」
すると彩花は視線を落とし、小さく考え深げに呟いた。
「……だったら、しちゃおうかな。告白……」
まだまだ続く
最終更新:2012年09月10日 22:04