407 名前:双子・告白・髪飾り(序の2) 1/3[sage] 投稿日:2012/07/24(火) 02:39:43.73 0
「え……?」
私は、驚いて彩花を見つめた。僅かに頬を染め、下を見つめたまま考え込むようなそ
の表情に、冗談めかしたようなところは一切見当たらない。すると彩花は、顔を上げて
私を見つめた。
「だって、好きにすればいいじゃないって言われたら、好きにするしかないもの。他の
誰かに取られる前に、タッくんをちゃんと押さえとくためにも、せめて私の気持ちだけ
でもハッキリさせておいた方がいいかなって……」
何となく、ぐわんと何か硬いもので、思いっきり頭を殴られたような衝撃を受けた。
私はその、告白とかそういうので白黒決着を着けるのは、もっと大人になってからでも
いいと思っていた。今はまだ、彩花と三人で、ふざけ合ったりケンカしたり、そういう
ぬるま湯の関係を過ごしていたいと思っていたのに、彩花は違ったようだ。
「ほら。ショック受けてる」
まるでおかしがるような彩花の言葉に、私は怒鳴り返した。
「誰もショックなんて受けてない!! そりゃその……まさか乗ってくるとは思わなかっ
たから、ちょっとは驚いたけど……」
「本当に? 私にタッくんを取られちゃっても、それでもいいの?」
私の言い訳を信用せず、彩花はさらに追及してくる。それに対して答えるのを、私は
しばし躊躇った。ごまかしが効かない彩花に強がっても意味はない。通用しない以上、
根掘り葉掘り聞かれて真実が暴かれるなら、自分の口から告白してしまえと思った。か
なり照れ臭かったけど、そこはグッと我慢だ。
「…………嫌だけど、彩花なら仕方ないかなって。素材同じの、性格の良い私みたいな
もんだから…… 彩花だったら、取られても文句言わないよ」
これは正直な気持ちだった。それに、彩花ならタカシと付き合い始めても、絶対私を
おろそかにしたりしない。私の気持ちを汲んで、キチンと向き合ってくれるはずだ。何
故なら、私がタカシと付き合っても、彩花の事を絶対に省いたりしないから。
「私も、そうだよ」
彩花が、私に同意して頷く。
「私も、香菜美にタッくんを取られるなら仕方ないかなって。タッくんがそれを選ぶな
ら、香菜美だったら、私は引く事が出来る。けど、やっぱり一番がいいけどね。香菜美
だってそうでしょ?」
408 名前:双子・告白・髪飾り(序の2) 2/3[sage] 投稿日:2012/07/24(火) 02:40:20.50 0
同意を求められて、私は答えを躊躇った。そりゃ、一番がいいに決まってるけど、そ
れを口に出来るほど、私は性格が素直じゃない。
「……タカシが、私の方が良いって言うなら、仕方ないじゃない。付き合うわよ。けど
……彩花みたいに、ごり押ししてまでじゃない」
「ごり押しって、言うに事欠いて失礼な」
彩花がプッと頬を膨らませる。とはいえ、本気で怒っているようではなく、すぐに表
情を戻した。
「だって、タッくんの気持ちは大切にしたいもの。だから、私が好きだって気持ちは伝
えたい。けれど、とりあえずは、知ってもらえればいいかなって」
「ふーん……そなんだ……」
今日結論が出る訳じゃない。そう知っても、あまり心は慰められなかった。
「どう? 私が告白しちゃっても構わない?」
わざとらしく、彩花は私に念押しする。まるでそうする事で私が動揺するのを楽しん
でいるように。だから私は悔しくて、また強がってしまった。
「だ、だから好きにすればいいって言ってるじゃない。何でそう、何度も同じこと聞く
のよ? イヤミなの? ちょっと性格悪いわよ」
すると、彩花は少し困った顔で肩をすくめた。
「それがね。偉そうな事言っておきながら、いざとなると勇気出る自信、なくてさ。何
か良い方法、ないかなって。かなみならどうする?」
「何でそんなことあたしに聞くのよ。一応言っとくけど、好きにしなさいとは言ったけ
ど、積極的に後押しする気もないんだからね」
冷たく言い放つと、彩花は初めて不満そうに私を見つめた。
「もう!! 妹の一大決心なんだよ? お姉ちゃんとしてもう少し親身になってもよくない?」
「もう自分のことは自分で決められる年でしょ? 都合のいい時だけお姉ちゃん扱いするな」
いつもは双子として、何でも平等が基本の私たちなのに、困った時だけお姉ちゃんと
言って頼ってくるのは彩花の悪い癖だと思う。
「香菜美だって、困った時は私に相談してくるじゃない。ね、お願い。何かいい方法、
ないかな?」
409 名前:双子・告白・髪飾り(序の2) 3/3[sage] 投稿日:2012/07/24(火) 02:41:49.12 0
本気で頼まれても、私としては出来れば告白なんてして欲しくない訳で、それで一緒
になって考えてくれと言われても無理がある。しかし、同時に彩花が真剣に悩んでいる
のに何も手を差し伸べないというのも、悪い気がする。その時、ふと思いついたことを
私は口に出した。
「それじゃあ、何か条件付けしてみるっていうのはどう? 例えば、タカシがお昼にラー
メン食べたら必ず告白するとか」
「何よ、それ。ロマンチックの欠片もないじゃない」
彩花は面白がるように笑って口元を押さえた。しかし、すぐに考え深げな顔になる。
「けど、条件付けか……うん。そのこと自体は悪くないアイデアかも」
例えは悪かったけど、提案自体には興味を持ってくれたことで、私はちょっと得意げになる。
「でしょ? どうよ。ほんの何十分かだけど、先に生まれてきただけの知恵はあるでしょ?」
「うん。あるある」
全く自慢にもならない自慢をしたのに、彩花は嬉しそうに同意してくれた。こういう
性格が、すっごく可愛いと双子ながらに思ってしまうわけで、私なら絶対文句をつけて
しまうところだ。
「それでさ。しなかったら、何かペナルティ付けとけば? そうすれば、タカシの行動
が後押しになってくれると思うし」
「でも、それってもし、タッくんが決めた行動を取らなかったら、私は告白出来ない事
になるんじゃない?」
首を傾げる彩花に、私は突き放すように答えた。
「したいならしたいでいいじゃん。今は、勇気が出なかった時のためにって話なんだか
ら、そもそも出来るなら条件付けする必要もないわよ」
「それもそうよね。うーん……」
あごに手をやり、難しい表情で考え込む。出来れば、タカシがしなさそうな難しい条
件の方がいいかな、なんて無責任に期待を掛ける自分が中にいる事に気付き、私は顔を
しかめた。そんなに不安だったら、彩花にも好きにしろだなんて言わなきゃいいのに、
本当にこういうところは、自分で自分にうんざりする。
「決めたわ」
彩花が顔を上げる。私はつい、勢い込んで聞いてしまった。
「何なに? どうするの?」
すると彩花は、ニッコリと微笑んで、私に頷いた。
「うん。タッくんがね。この髪飾りを褒めてくれたら、私、その時に告白することにするわ」
最終更新:2012年09月10日 22:07