1/3[sage] 投稿日:2012/07/29(日) 04:59:12.96 0
 さっき着けるかどうかで悩んでいたシュシュを手に取って、私に見せる。私はそれを、
つい怪訝そうに見つめてしまう。
「これを褒めてくれたら?」
「そう。彩ちゃん、いつもと雰囲気違っていいよね。可愛いよって、そう褒めてくれた
ら私、告白出来る勇気を貰える気がするから。だからそうするわ」
 さもいい思い付きだとばかりに、彩花は手を合わせる。しかし私は、彩花とシュシュ
を交互に見やって首をひねる。
「……タカシが褒めるかなあ? 言っとくけど、アイツって結構鈍感よ。美容院行って
髪型変えたって、新しい服着て行ったって、全然褒めてくれたことないし」
「それは香菜美が、タカシの為に髪型変えた訳じゃない~とか、怒鳴るからでしょ?」
 図星を突かれ、私は小さく呻いた。
「だ、だってそれは本当の事だし…… オシャレするのは別にタカシに見せるのが目的っ
てだけじゃないんだから……」
 とはいえ、それが目的の最上位に来ているというのは、多分彩花にはバレているのだ
ろう。しかし彩花はそれに突っ込みを入れることはしなかった。ただ、したり顔で頷く
と、厳しい顔つきで私を見つめ、人差し指を振って忠告して来た。
「だから、褒められるのを自分から拒絶してたら、タッくんだって言いにくいに決まっ
てるでしょ? むしろ自分からアピールしなきゃね。それもさりげなく」
「さりげなく……ねえ?」
 胡乱気に繰り返す私に、彩花は頷く。
「そうよ。褒めて貰いたかったら、女の子の側からちゃんとアピールしなくちゃ。相手
のせいにばかりしてたら、何の進展もしないんだから」
 強い口調でそう主張すると、彩花は両手でシュシュを持ち、まるで生き物を相手にし
ているかのように言い聞かせる。
「頼むわよ。ここで褒めて貰えるかどうかで、今日からの私の運命が変わるんだから」
 そして、鏡の前に立つと、シュシュで器用に長い髪を結ぶ。ちょっとテンション高め
の彩花を、私は落ち着かない気分で眺めていた。タカシは鈍感だが、決して礼儀知らず
ではない。気付きさえすれば、褒めるところはちゃんと褒めてくれるのだ。
――もし、彩花が告白したら……私は、どうすればいいんだろう……

428 名前:双子・告白・髪飾り(序の3) 2/3[sage] 投稿日:2012/07/29(日) 04:59:44.19 0
 後から私も好きだなんて、告白するのもなんだかみっともないし、そもそもそんな勇
気もない。かといって、二人が付き合い始めるのを指を咥えて見ているだけなんて嫌だ。
しかし同時に、フラれて悲しんでいる彩花を見たくないのも事実だった。
「それでね。もし、タッくんが褒めてくれたのに、私が最後まで告白出来なかったら……」
 彩花がペナルティの事に言及した時、私は物思いに耽ったままでいて、全くその声が
耳を素通りしていた。それに気付き、彩花が不満げに声を上げる。
「ちょっと、香菜美。私の話、聞いてるの?」
「へっ……? えっと……まあ、一応……」
 私はごまかし笑いを浮かべて頭を掻いたが、彩花はごまかされなかった。
「嘘でしょ。全く……ちゃんと聞いていてよね。私の一世一代の決心なのに」
「ハハハ。ゴメン。聞いてるから、続けて」
 自分の不安にかまけていて、彩花の話を聞いてあげないのは確かに申し訳なかったと
思い、私は素直に謝る。彩花だって、不安でないはずがないのだから、姉妹として思い
やるのは当然のはずだった。
「じゃあ、もう一度言うね。もし、タッくんが髪飾りを褒めてくれたのに、私が最後ま
で告白出来なかったら、その時は、香菜美に先に告白の権利を譲るわ」
「私に告白しろって言うの!?」
 驚いてつい大きな声で聞き返す。すると、彩花は指を口に当てて、シーッとやった。
「香菜美。声、大きい。お母さんたちに聞こえちゃうよ」
 私は思わず口に手を当てて押さえ、それから彩花に近寄ると、睨み付けながら顔を寄
せて小声で文句を言った。
「止めてよね。何でそこで私が告白しなくちゃいけないのよ」
 しかし、彩花は首を横に振った。
「違うわよ。権利を譲るだけ。別に今日告白しなくたっていいわ。ううん。告白するも
しないも、香菜美の自由。ただ、香菜美がタッくんと付き合うにしろ付き合わないにし
ろ、優先権を上げるっていうこと。だから、二人の仲がはっきりするまでは私は身を引
くわ」
 つまり、私とタカシの仲が決着するまで、彩花はもう告白しないと、そういう事かと
私は理解した。仮にこのままお互いが告白せず、何年過ぎ去ろうとも。
「フーン。随分と覚悟、決めてるじゃない」

430 名前:双子・告白・髪飾り(序の3) 4/3[sage] 投稿日:2012/07/29(日) 05:02:48.55 0
「あれ? てっきり、タカシなんかにオシャレする必要ないって言うかと思ったから、
時間指摘しなかったけど、なんだ。香菜美もちゃんとオシャレするんだ」
 明らかにからかわれていると分かって、私は思わず歯軋りする。
「べ、別にタカシの為なんかじゃないわよ!! ただ、学校行くのとは違うんだから、
それなりにキチンとしとかないと、私がだらしない子だって思われちゃう。ましてや、
彩花が隣にいるんだもの。余計に目立っちゃうわ」
 思いつく限りの言い訳を口に出すと、彩花は楽しそうに笑って頷く。
「はいはい。それじゃあ、早くしてよね。待ってるから」


次からようやく本編へ
最終更新:2012年09月10日 22:08