498 名前:1/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:46:45.58 0
  • 互いに自分の気持ちに気付いていないツンデレと男

『タカシ。今日、放課後付き合ってよ』
「お? 何だよ。かなみからお誘いなんて珍しいじゃん。どんな風の吹き回しだよ」
『いーから、四の五の言わずにいいよって言え。あたしが奢ってあげるから』
「へ? かなみがご馳走してくれるってますます持って怪しいよな。いや、待て。こうい
う時はいつも――」
『そ、それ以上言うなっ!!』
「ファゴファゴファゴ」
『全く……まだ周りに人がいるのに、誰かに聞かれたりしたらどうすんのよ。ただでさえ
噂好きな連中ばっかなのに』
「フゥ…… だからっていきなり口と鼻押さえるなよ。窒息死するかと思ったぜ」
『別にアンタが窒息死しようがあたしは一向に構わないけど、とりあえずあたしの愚痴だ
けはちゃんと聞いてから逝ってよね』
「冗談。愚痴は聞いてやるけど死ぬのは真っ平だっつーの。じゃあアイスコーヒーとスペ
シャルバーガーで手を打ってやる」
『贅沢。コーヒーだけで我慢しなさいよね。バーガーは自前で』
「だってお前の為に、放課後の二時間って貴重な時間を潰すんだぜ。それくらい払って貰
えなきゃ受けれないな」
『ぐっ…… じゃあ、報酬は労働対価って事で。一時間で終わったら、コーヒーだけだか
らね』
「了解。それで手を打つとするか」


「で、今回で何人目だっけ?」
『…………五人目…………』
「マジかよ。ホントお前ってマジでモテルよな。高校三年間で五人も男をとっかえひっか
え出来るって、どんだけ悪女なんだよ」
『悪女言うな!! 私がたらし込んだ訳じゃなくて、向こうから告白してきたんだし。あ
と、一人目は中学の時だから、四人よ』

499 名前:2/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:47:16.69 0
「それでも十分スゲーって。で、今回はどっちが原因なんだ?」
『……振ったの、あたしだから……多分、あたし』
「またかよ。お前の方から振ったのって三人目か。ホント、お前って贅沢って言うかワガ
ママって言うか、一人二人ならともかく、三人目まで来ると、何か性格に重大な欠陥があ
るとしか思えないわ」
『お……落ち込んでる人捕まえて、性格破綻者扱いってどういう事よ。もう少し言い方あ
んでしょ?』
「慌てるな。あくまで仮定の話だ。つか、今回は何が原因だよ」
『……ちゃんと聞いてくれる? 茶々、入れたりしない?』
「とりあえず、全部聞こう。感想入れるのはその先だな」
『……あたしはさ。こう、男の子と付き合うからには……何ていうのかな。真剣にお付き
合いしたいわけ』
「まあ、ふざけて付き合うなんて失礼にも程があるしな。当然だろ」
『でしょ? だから、何ていうのかな。付き合って行くにしても、順序立ててって言うか、
ちゃんとお互いの性格とか知り合って、相性も確かめつつ行為にも及びたい訳ですよ』
「その行為ってのは、あれか。キスしたり、エッチな事したりってそういう事か?」
『女の子に対して単刀直入に言い過ぎ。つっても……まあ、そういう事……なんだけどさ……』
「んで、どうしたのよ? 無理矢理押し倒されそうになったりしたとか?」
『そこまではなってない!! けど……まあ、遠からずってとこもあるけど……』
「キスでも迫られたりしたのか? でも、彼氏なんだし、やっぱ男としちゃしたいとは思うぜ」
『でも、付き合ってまだ一ヶ月しか経ってなかったのよ? デートだってまだ四回目で……
なのにアイツってば、最初のデートから手握ってきたり肩や腰に手を回してきたりして……
まあ、それくらいなら、付き合ってるんだしって我慢もしたけどさ……』
「お前は何で拒否ったんだよ? 付き合うの、オーケーしたんだろ? だったら、ソイツ
の事好きだったんじゃないのか?」

500 名前:3/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:47:48.13 0
『別にそこまでじゃなかったもん。告白されて、断わる理由もなかったから……いいよっ
て、だけで。大体西高の人でさ。部活の練習試合見学してて、一目惚れしたって言われた
ら、あたしだってドキッとするじゃない』
「じゃあ、付き合ってもいいってくらいの感覚か。で?」
『だからさ。あたしとしては、時間を掛けたかった訳よ。だって、互いに何も知らないの
よ? そりゃ、顔可愛いとか仕草が可愛いとか声が綺麗とか褒められれば、あたしだって
女の子だもん。ちょっとはのぼせ上がったりするけど、そこは慎重に行きたかったの』
「かなみって、何するにしても石橋は叩いて渡る系だもんな。で、向こうはどうだったん
だよ?」
『だから言った通りよ。付き合ってるんだからいいだろってな感じで、スキンシップを求
めて来る訳。デートの時も午後から夕方とか夜くらいの時間で、必ず雰囲気のある場所を
入れて来てさ。逆にそういうのが鼻に付くって言うか……』
「お前が固そうだったから、雰囲気作って心を開かせようとしたんじゃねーの? 努力し
てんじゃん。彼氏も」
『元カレね。けど、あたしが慎重なのはそういう事じゃないのよ。まずはお互いが心を開
いて話し合えるようになってからでも遅くないじゃない。一年や二年……ううん。もっと
長く付き合うかもしれないんだし、もうちょっと待ってくれたっていいじゃない。なのに
さ……アイツってば……』
「業を煮やして迫って来たわけだ。で、どうしたんだよ? お前は」
『……突き飛ばして、逃げ帰っちゃった……』
「ありゃ、まあ……」
『……で……そのまま一晩寝ないで考えて、もう無理ってメール送って……それっきり。
電話は着拒にしたから……』
「うわぁ…… そりゃ、向こうに同情するわ……」
『何でよ!? そりゃ、あたしだって付き合うって言ったのに向こうのご期待に添えられ
なかったのは分かってるわよ。でもだからって、あたしが悪いって言うの?』

501 名前:4/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:48:19.26 0
「いやいやいや。俺はかなみの性格良く知ってるからさ。お前の事は理解してるけど、け
ど男だからさ。手握りたいとかキスしたいとかエッチしたいって気持ちも分かるから。だ
から、お前の……元カレ君はさ。お前以上に落ち込んでるんじゃないかなーって。失敗し
た事、分かってるだろうし」
『うっ…… そ、それは……あまり考えないようにしてる…… だって、振っておきなが
ら気遣いするって、却って残酷だし……』
「女の子にもいろいろいるからな。付き合ってるのにスキンシップ一つしてくれないって
怒り出す子もいるかも知れないし。空野さんももしかして……って、いや。それはいいか。
まあ、単にお前に対するアプローチの仕方を間違っただけかも知れないしな」
『……そうかもね。でも、もういいの。一晩考えて、手とか握られたり肩抱かれたりした
時の自分の気持ちを散々考えたけど、嬉しいって気持ちは無かったから……』
「じゃあ、かなみとしてはソイツと付き合ってみた結果、そんなに好きじゃなかったんだ
ろ? なら悩む必要もないじゃん」
『分かってるわよ。けど、やっぱりちょっと罪悪感もあってさ。だから、ちょっとこう、
愚痴を吐き出したかった訳よ。分かる?』
「まーな。しかし、俺はお前の愚痴吐き場かよ。付き合ってない恋愛とか友達関係まで含
めると何度目だか分からんぞ」
『いいじゃない。幼馴染なんだしそれくらいしてくれたって。つか、それが無かったらア
ンタ、生きてる価値ないし』
「愚痴聞いてやってる人間に対して何て言い草だよ、おい。別にお前に価値を認めて貰わ
んでも、俺は生きていけるぞ」
『アンタはそうでも、周りには迷惑だっての。貴重な酸素を消費して二酸化炭素を排出し
てるし、食べ物だって食べてるし。アンタが日本のCO2排出量増やしてんのよ? 分かる?』
「そこまで大げさな事じゃねーだろ。人間の体内から排出する二酸化炭素なんてたかが知
れてるし。つか、自分は棚に上げておいて俺だけ批判かよ」
『あたしはアンタよりはせめて価値ある人間でいたいからね。あ、でもあんまり馬鹿にす
ると空ちゃんに怒られちゃうか…… ビックリよね~ こんなアンタにでも、好意寄せて
くれる女子がいたなんてさ』
「あ、ああ…… まあな……」

502 名前:5/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:48:53.15 0
『去年だっけ。びっくりしたな~ アンタ紹介してくれなんてお願いされてさ。あたしは
あの時、三人目の彼氏と付き合ってた頃だったけど……もう一年以上になるのか。よく続
いてるわよね。感心するわ、本当に』
「いや、実はかなみ。その事なんだけどさ……」
『何よ? 奥歯に物の挟まったような言い方して。そういえば、さっきもアンタ、空ちゃ
んの事、何か言おうとしてたわよね? 何かあったの? ケンカでもしたとか?』
「……実はその……俺たちも、別れたんだ……」
『ウソ!? マジで?』
「えーと……まあ、マジです……」
『何で? そんな……い、いつの話よ?』
「……先月。まあ、3週間くらい前……かな?」
『何でよ? まさか、アンタ空ちゃん泣かせたりしたんじゃないでしょうね? そんな事
したりしたら……』
「まあまて。振られたの、俺の方だし……」
『ホントに……? それこそ信じられないわよ。だって、好きだって言ってたの、空ちゃ
んの方じゃない。それに、アンタがオーケーした時、本当に凄く嬉しそうな顔してて…… 
そんなのあり得なくない?』
「……まあ、俺もちょっとまだ、気持ちの整理付いてなくてさ。本当は、ちゃんとお前に
は報告しなくちゃいけなかったんだけど……」
『ホントよ、全くそんな大事な事なんで言わないのよ。で、何て言われたのよ?』
「……タカシ君って、私の事……全然見てくれてないよねって、そう言われた?」
『見てくれないって……アンタ、そんなに空ちゃんの事ほったらかしにしてたの?』
「いや。週末は必ず会ってデートしてたし、放課後も都合付く限りは一緒に帰ってたし、
電話だってメールだって頻繁にやり取りしてて……そんな事無かったと思うんだけど……」
『うーん……まあ、確かに見てる限りだと睦まじそうに見えたけどねえ。だからこそビッ
クリもしたんだけどさ。何で空ちゃん……タカシの事振ったりしたんだろ?』
「いや、だから俺も良く理解出来てないんだけどさ。だからさっき思った訳よ。もしかし
て空野さんは、もっと俺に積極的になって欲しかったのかなって。俺は、かなみの紹介だ
しさ。下手なことして関係壊しちゃいけないって思ったから、遠慮してたけど……」

503 名前:6/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:49:26.38 0
『それもあるかもね。だって、向こうから好きだって言ってきた訳だし、空ちゃんはタカ
シの事ずっと見てて好きだって思った訳だろうし、あたしとは訳が違うから……』
「せめて、理由だけでももう少しちゃんと聞けたら、振られたにしてもスッキリ出来るん
だろうけどさ」
『うーん…… 今度、それとなく聞こうかな? あたしも仲介役としては、ちゃんとした
理由が知りたいし……』
「もし聞けたら教えてくれよ。頼む」
『やーよ。そんな約束なんて出来ないし、そもそも女同士だから話せる理由かも知れない
じゃない。アンタなんかに言える訳ないでしょ?』
「チェッ。性格悪いな、お前って。そんなんだから、見た目に騙されただけの男が寄って
来ては裏切られるんだよ」
『何よ。アンタなんてそもそも甲斐性無しじゃない。人生で唯一かも知れない好きだって
言ってくれる子逃しちゃってさ。ホント、ヘタレもいいとこよね』
「うるせーよ。言ってろ、この性格ブス」
『ふざけんじゃないわよ。ヘタレ、インポ、甲斐性なしのダサ男』
「……何か、無駄な罵り合いしてんな。俺たち……」
『……あーあ……ホント、馬鹿みたいよね…… あ、そうそう。奢りの件だけど、アイス
コーヒー一杯分だけね』
「何でだよ? 二時間は付き合っただろうが。ちゃんと全額キッチリ出せよな」
『だって、アンタの愚痴も聞いてあげたじゃない。だからその分チャラって事』
「分かったよ。じゃあ、コーヒー二杯頼んだから、その分な」
『冗談言わないでよ。だったらアンタの愚痴聞いた分、あたしのパフェ代出しなさいよね』
「そっちの方が高いじゃねーかよ。そもそも俺は聞かれたから答えただけで、別にお前に
今日話す気なんて無かったし」
『でも結果的には話したんだから、ちゃんと払え。相殺ならあくまでコーヒー一杯分だけ
だからね』
「そもそも愚痴聞いたかどうかじゃなくて、俺の時間潰した代金なんだから、内容関係な
いし。こういう事やってると、次からもう愚痴聞いてやらんぞ」
『だからそれじゃ、アンタの価値が無いって言ってるでしょうが。大人しく条件認めなさ
いよ』

504 名前:7/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:50:47.89 0
「ダメだね。最低、アイスコーヒー二杯分。これ以上は譲れん」
『一杯だっての』
「二杯」
『一杯!!』

~数日後、別の喫茶店にて~

【霞、別府君と別れたんだって? 何で? あんなに熱入れてたのに】
[……正直言うと、今でも好きだよ……]
【じゃあ何で? 自分から別れる事無かったじゃん】
[だって……辛いもん。デートしてても……例えば服とか見ててもさ。別府君って、気が
付くとかなみちゃんが似合いそうな服見てるしさ。アクセサリーとかだって…… それに、
本人無意識で気づいてないけど……よくかなみちゃんを引き合いに出すし……]
【あの二人、仲良いモンね。本人達は断固として否定するけど】
[……タカシ君、優しいからさ。私の事、喜ばせようとして一生懸命になってくれてるけ
ど……それって何か違うと思うし。それに、どうすればいいかって、かなみちゃんに聞い
てるんだよ? 本当に大事な事は……私に聞いて欲しいのに……]
【でも、霞を喜ばせようとしてるんだから、本人に聞くのは本末転倒だって思ってるんじゃない?】
[分かるけど……でも、それって違うと思うの。タカシ君が一番に信頼してて、いつも心
の中にいるのはかなみちゃんで……多分かなみちゃんも、そうだと思うの…… 一番性質
が悪いのは、本人達が無意識で、気付いてないって事]
【でも、だからって霞が身を引く事ないのに……】
[だって私だって辛いもん。好きな人の心の中に、他の女の子がいるんだよ? それ、分
かってて付き合える? 私には……無理だよ……]
【うーん…… 確かに、ちょっとキツイかもね。しかも、本人気付いてないってんだから、
気持ちを覆す余地も無しか……】

505 名前:8/8[] 投稿日:2012/08/05(日) 13:52:11.45 0
[おまけにかなみちゃんがさ。何でタカシ君と別れたのかって。言えないじゃない。こん
な事。だから、せめて意地悪しちゃった。かなみちゃんのせいだよって。そしたら、ビッ
クリした顔して、何でって聞くから、自分の胸によく手を当てて考えてみてって。多分鈍
感だから、散々悩んでる事だと思うけど。それ思うと、ちょっとスッとするかな]
【アハハ。意外と霞も意地悪だ】
[だって……それくらいせめてしないと……気持ち収まらないもん……]
【はいはい。今日はおねーさんが慰めてあげますからね。美味しい物、好きなだけ食べて
いいよ】
[うん。ありがとう……友希ちゃん]



終わり
最終更新:2012年09月10日 22:15