561 名前:1/5[] 投稿日:2012/08/12(日) 11:53:13.25 0
  • 夏休みなのに男が一人で仕事してたらツンデレがやってきた

 ガチャッ……
「ん? 誰?」
『あ、何だ。別府さんですか…… セキュリティが解除されてるから誰がいるんだろうっ
て思ったら……』
「椎水さん? どうしたの、夏休みなのに」
『え? 私はちょっと、忘れ物を取りに。別府さんはどうしたんですか?』
「どうしたもこうしたも、見ての通り仕事だよ」
『休みにまで仕事ズレ込ませるなんて、相変わらず要領悪いですね。ホントに』
「いや、今日納品立会いだったから。で、さっき戻って来て伝票関係整理して、どうせだ
からついでに溜まった雑用も少し片付けようかなって……」
『サビ残なのに、よくマメに働きますよね。ホント、まさに社畜って別府さんみたいな人
の事ですよね』
「サビ残言うな。むしろ時間一杯働けば、代休取れるし。来月下旬は少し暇になるし、一
日くらいゆっくりしようかなって」
『フーン。今年は結構長い休み取る人多いから、旅行とか行く人も多いって言うのに……
まあ、別府さんは関係ないですよね。どうせ、予定とか何にも無いんでしょうし』
「どうせ言うな。まあ、確かに何にもないけどな。ちょっと実家に顔出すくらいで…… 椎
水さんは何か予定あるの?」
『わ、私はその……今日はこれから学生時代の友達とお茶するんです。あと、明日は地元
の友達と女子会で…… まあ、そんなトコですけど……』
「ふーん。何か、普通の休みでも出来そうな予定ばかりだな。あんまり人の事言えないよ
うな……」
『よっ……余計なお世話ですよっ!! 本当に何の予定も無い別府さんよりは……これで
も、マシです』
「まあ、別に遠出するばかりが休みの過ごし方でもないけどな。で、忘れ物って何?」
『これです、これ』
「これって、ダイアリー? スマホ時代に、結構古風なもの使ってんだな」

562 名前:2/5[] 投稿日:2012/08/12(日) 11:53:43.92 0
『何言ってるんですか。手書きだからいいんですよ。あと、私まだガラケーですし。申し
訳ありませんけど』
「いや、別にそんなわざわざ自分で卑下する事ないと思うけど」
『何言ってるんですか。別府さんがバカにするような言い方するからですよ。私自身はこ
れでいいと思ってるんですから。大きなお世話です』
「いや、ゴメン。そういうつもりは無かったけど、気に触ったなら謝るよ。ところで、約
束はいいの?」
『まだ時間ありますから。外暑いし、会社で休もうと思って……そうそう。これ、食べな
きゃ、溶けちゃう』
「そのコンビニ袋の中身ってアイスか。もしかして、差し入れとか?」
『何バカな事言ってるんですか。そもそも別府さんがいるって知らないのに、差し入れ準
備するわけないでしょう? まあ、知ってても買ってなんか来ませんけど』
「うーん……最後の一言はともかく、まあそうだよな。っていうか、でかっ!! レディ
ボーデンのストロベリーかよ。それ、一人で食うの?」
『どうです? 豪勢でしょ? 私、これ大好きなんで、たまーにやるんですよ。でも、家
だとお母さんからみんなで分けなさいって言われるし、さすがに会社じゃ出来ないし。今
日は一人だから思いっきり食べられると思って買って来たんです』
「……その様子じゃあ、分ける気ないな」
『無論です。あーっ……おいしっ♪』
「何か、超幸せそうな顔してんな」
『だって幸せですもん。別府さんが見てなければもっと幸せです。だから、こっち見てな
いでさっさと仕事に戻って下さい』
「はいはい。じゃあ、ま、俺はいないもんだと思って、幸せな時間を満喫してください」

~十数分後~

『……別府さん。ちょっといいですか?』
「何? 椎水さん。まさかゴミ捨てて来てとか、そういう話じゃないよね?」
『そんな事一言も言ってないじゃないですか。大体、職場の先輩にそういう事頼まないだ
けの常識は持ってますってば』

563 名前:3/5[] 投稿日:2012/08/12(日) 11:54:15.21 0
「まあ、今のは冗談だけどね。で、何?」
『……いや、その……冷たいものとか食べたいなーとか、思ってません?』
「いや、別に。事務所だとクーラー効いてるし」
『どうしてそこで否定するんですか。さっきは差し入れかと勘違いして目を輝かせてたのに』
「あれはどっちかと言えば、優しさを期待してたってトコかな。食い物そのものよりも」
『うわ。どれだけ過剰な期待抱いてるんですか。別府さんに分け与える優しさなんて、こ
れっぽっちも有り得ませんし』
「まあ、そうだろうけどさ。で、俺が冷たいもの欲しかったらどうだっていうの?」
『……これ、食べませんか? 残り物ですけど……』
「どうしたんだ? さっきまであんなに目を輝かせて美味しそうに食ってたのに。つか、
あの勢いなら当然完食出来ると思ってたけど」
『そうなんですけどね…… 前は平気で全部食べ切れたのに、何か体が冷えちゃって、無
理して食べるとお腹壊すかな、なんて。この部屋、ちょっと冷房効き過ぎじゃありません?
ちゃんと28度に設定してますか?』
「してるよ、ちゃんと。もしかして、昔と違って体が追い付かなくなって来たとかじゃない?」
『しっ……失礼な事言わないで下さい。まだ25歳なんですから。別府さんのようにアラサー
じゃないですもん』
「ゴメンゴメン。冗談だって。まあ、くれるというなら貰うけどさ。でも本当にいいの?
何だったら、会社の冷蔵庫に入れて取っといてもいいんじゃない?」
『だ……だって、夏休み中放置したら、なんか変質しちゃうかもしれないじゃないですか。
食べかけなんだし…… それに、別府さんとか男の人ならともかく、他の子に知られるの
何かヤだし…… だからどうぞ。このスプーンもあげますから。食べやすいように、アイ
ス用じゃなくて、スープとかに使うでかいのですから』
「ああ、ありがとう…… でも、本当にいいの?」
『何べんも同じ事をしつこいですよ。私がいいっていってるんですから、早く受け取って
下さい。早く食べないと溶けちゃうじゃないですか』
「いや。えーとさ。その……これって、俺と間接キスする事になるけど……いいのかなっ
て、事なんだけど……」

564 名前:4/5[] 投稿日:2012/08/12(日) 11:54:46.37 0
『――っ!? な……ななな……何言ってるんですかっ!! こっ……子供じゃあるまい
し……社会人にもなって、普通そういう事意識します?』
「いや。男からすれば、人によって差はあるにせよ、少しは意識すると思うけどなあ。ま
してや、若くて可愛い子だったりすれば」
『サ……サラッと気持ち悪い事言わないで下さいっ!! い……いーんですよ。私が別府
さんの食べかけ食べるわけじゃないですから…… そうやって意識されるのはイヤですけど』
「分かった。じゃ、溶けないうちに残りを頂くよ。って、ほとんど食べちゃってるんだな」
『ま、まだ普通のカップに2杯分くらいは残ってますってば。そんな、大食い強調するよ
うな言い方は止めて下さい』
「悪い。また気に障るような事言っちゃって。うん、これ本当に美味しいな。今度機会が
あったら、また食べようよ。次はご馳走するから」
『な……何で私が別府さんとなんか…… あ、で、でもその……ご馳走してくれるって言
うんだから、まあそれなら仕方ないかな……』
「ハハ…… ま、こんな風に事務所で二人でアイス食べられる機会なんてそうそうはない
と思うけどね」
『まあ、確かにそうですけど。それじゃあ私、そろそろ行きますね。ゴミ、ちゃんと捨て
といてくださいよ?』
「分かってるよ。やっぱりゴミ捨てお願いされちゃったな」
『ちゃ……ちゃんとアイスだってあげたじゃないですか。だからこれはギブアンドテイクっ
て奴ですよ。別に別府さん使った訳じゃないですから』
「そうムキになるなって。じゃあ、いい夏休みを」
『……いい夏休みかぁ…… 普段通りだと、特に思い出も出来ないかなあ…… あっとい
う間に過ぎちゃうだけで』
「まあ、体休めるだけでも十分だと思うけどね。お盆なんて短いし。椎水さんも最近忙し
いしね」
『確かにそうですけど、でもなあ…… やっぱり、お出かけとかしたいなあ。誘ってくれ
るような、素敵な男性でもいればいいんですけどね』
「え?」

565 名前:5/5[] 投稿日:2012/08/12(日) 11:55:33.08 0
『あっ…… べべべべべ、別に、その……別府さんの事言った訳じゃないですよ? そう
いう人がいればいいけどなあっていう、それだけですっ!! 変な勘違いしないで下さいっ
てば!!』
「いや、ゴメン。そこまで意識したつもりはなかったんだけど。まあ、俺も一緒に過ごせ
る彼女とかいたら、もっと充実した休みが送れるかも知れなかったけど。まあ、今年はも
う間に合わないけどな」
『…………別に……まだ間に合わないわけじゃ……』(ボソッ……)
「何? 今、何か言った?」
『いえ、何も言ってません。それじゃあ、私行きますから。ちゃんと仕事頑張って下さい
ね。サボらずに』
「分かってるよ。休み明けに苦労したくないしね」
『変なもの食べて、食あたりで苦しんで終わるとか無しですよ。別府さんって、ズボラそ
うですから気をつけて下さいね。夏ですから、食べ物当たりやすいですし』
「ありがとう、心配してくれて。それじゃあ、お疲れ様」
『はい、お疲れ様です。失礼します』
 バタン。


「フゥ…… あれ、誘い受けかなあ…… いや、まさか椎水さんがね。でも……まあ、どっ
か誘うくらい、やってみてもいいかもな。勘違いの可能性は高いけど、彼女も暇そうだっ
たし。まあ、断わられたらそれはそれでいいくらいのノリなら…… ちょっと、彼女の
行きたそうな所、調べてみるかな……」


『……昨日、別府さんが電話してる声で、今日出勤するって知ってたから寄ってみたけど……
やっぱり私って下手だなぁ…… あんな思わせぶり発言するなら、最初から素直に誘って
下さいって言った方が…… でも、それが出来ないから苦労してんのよね…… ハァ……
誘ってくれればいいけどなあ……』


終わり
最終更新:2012年09月10日 22:26