613 名前:1/4[sage] 投稿日:2012/08/18(土) 18:36:20.84 0
  • ツンデレがコミケで着るコスプレ衣装を悩んでいたら その3

 最初の一着目を着終えた私は、姿見の前に立ちため息をついていた。
『ハゥゥ…… こんな姿をタカシに見せるのか…… 全く恥さらしもいい所だな……』
 白とグレーを基調とした学校の制服のような衣装だが、ところどころ、凝った意匠が為
されている。さらに黒のレギンス、眼鏡、三つ編みに飾りのないヘアバンドを着けた私の
姿は、何だか大人しい文学少女のように見えた。
『こんなのが本当にタカシに――じゃなかった。オタクに受けるとでも言うのだろうか……』
 私は携帯に目をやる。あまり待たせると、タカシの方から催促が来かねない。仕方無し
に、私はタカシを呼び出すことにした。
『もしもし? ああ。準備は出来たからさっさと来い。グズグズしてたりしたら承知しな
いからな』
 電話を切ると、私は所在無げにベッドに座った。まだ実際にタカシに見られているわけ
でもないのに、想像だけで恥ずかしさの余り身悶えしそうだ。
「美琴。俺だけど、入っていいか?」
 ノックと同時に声がする。覚悟を決めて待っていたはずなのに、体がビクッと反射的に
動いてしまう。弓道で鍛えた精神修養でもって心を沈めてから、私は静かに答えた。
『……いいぞ。入れ』
「それじゃあ失礼して――おおっ!?」
 ドアを開けてタカシが入って来る。そして私を見た瞬間、驚いた声で目を輝かせた。
『なっ……何だ? そんなに……その……おかしいか……?』
 両腕で体を抱き締め、私は顔をそむけつつ聞いた。いや。本当はタカシの態度からどう
いう感想が来るかは予想出来ているが、自分からそんな振りなど出来る訳なく、卑下する
ような質問になってしまった。
「いやいやいや。素晴らしい。まさにリアルほむほむだ!! しかもその普段の美琴に似
合わぬ恥ずかしがりっぷりがいかにも昔のほむほむっぽい」
 タカシの言ってる事が、アニメを見ていない私には些か理解出来なかったが、キャラの
イメージと合っているらしいというのは分かった。

614 名前:2/4[sage] 投稿日:2012/08/18(土) 18:36:51.88 0
『へ……変な興奮の仕方をするな!! 気持ちが悪い。感想を言うにしてももう少しまっ
とうな感想を言え!!』
 強がって文句は言ってみるものの、タカシが私の格好に興奮している事に、私の体も興
奮してしまっていた。恥ずかしくてもうこのまま消えてしまいたい。だというのに、タカ
シは更なる要求を私に課して来た。
「とりあえず立ってみて。普通でいいからさ」
 その普通で、というのがどれだけ大変なのか、タカシには分かっているのだろうかと内
心愚痴りつつ、私は勇気を振り絞って立ち上がった。
『くっ…… こ……こうでいいのか?』
「ああ。そのままジッとしてて」
 頷くとタカシは、しげしげと私の格好を眺めた。
「フーン。これ、手作りかあ。スゲーな、委員長の友達ってのも。いやでも格好もいいけ
ど、こんなに美琴のイメージが変わるとも思わなかった。眼鏡はまあ、勉強の時は掛けて
るけど、三つ編みなんて逆に新鮮でいいよなあ」
『そ、そんなに人をジロジロと見つめ回すな。失礼にも程があるぞ』
 前から横から後ろからタカシに見られて、堪え切れずに私は文句を言った。こんなにも
じっくりとタカシに見つめられる事なんてなかっただけに、心臓がバクバク言っていて、
気を抜くとのぼせて倒れてしまいそうだ。
「ゴメン。でも、美琴に衣装を選んでくれって言われた以上、真剣に見ないとさ」
 ちょっと申し訳無さそうに言いつつも、タカシは見るのを止めなかった。だが、自分か
らお願いしている以上、そう言われてしまえば何も言い返すことなく、ただ黙って目を閉
じ俯き、体を硬くして視線に耐えるしかなかった。
「うん。えーと……そうだな。ちょうどいいのが無いし、これでいいか」
 タカシは一度私から離れて窓際による。そこには、母が布団を干した時に使った布団た
たきがそのまま立てかけられていた。タカシはそれを手に取った。
『……? 何だそれは。一体そんなものをどうする気だ?』
 タカシの意図が全く読めずに、私は若干の不安を覚える。一瞬、変な空想が頭を過ぎる。
しかしそれを払拭する前に、タカシは布団たたきの柄の方を私に差し出した。
「じゃ、これを持って構えてみて。剣を持つみたいな感じで」
『……剣? こんな物を武器にするのか?』

615 名前:3/4[sage] 投稿日:2012/08/18(土) 18:37:31.89 0
 私の問いに、タカシは首を横に振った。
「いや。ホントはゴルフクラブなんだけど、それの代わりで。イメージくらいは掴めるし」
『ゴルフクラブというのも意味が分からんな。それだって武器じゃないだろう』
「アニメでそういうシーンがあるんだよ。ま、とにかくやってみて」
 果たしてどういう意味があるのか分からなかったが、とりあえず悪い想像通りでは無かっ
たので、私は大人しく布団たたきを受け取ると、両手で刀を握るように構えてみせた。
『こ……こんな感じでいいのか?』
 イマイチ解せぬ気分でポーズを取ると、タカシは満足そうに頷いてみせた。
「いいよいいよ。そのままジッとしてて」
 そう言って、まるでカメラのフレームに収めるように膝立ちになって指で四角を作って
その中に私を収める。
「いやー。まさか美琴がここまで嵌まるとは思わなかったな。ちょっとおどおどした感じ
で構えるところとか実にいい。普段の美琴では絶対に出ない守ってあげたい感が堪らないぜ」
『だっ……誰がお前なんかに守って貰うかっ!! もういいだろう。いい加減そのポーズ
は止めろ』
 しかし、私の制止に反して、タカシは写真を撮るようなポーズを続けていた。
「いや。こんな可愛い美琴を見るのはなかなかないし、もうちょっと見させてよ。クソッ。
デジカメ持って来れば良かったな。携帯の画面じゃ小さくてもったいないし」
 可愛い、という言葉に私の体がビクンッと反応してしまった。呼吸が苦しくて体も熱く
てもう限界だ。これ以上続けられたら、体が持ちそうに無い。
『クッ……止めろと言っているだろうがこのバカ!!』
 最後の力を振り絞るように、私は構えた布団たたきをタカシに向けて振り下ろした。
「あいたっ!! み、美琴っ!! 何すんだよ」
『何すんだじゃない!! 私が止めろと言っているんだから、すぐに止めないかっ!!
でないと承知しないぞ』
「あいたっ!! 痛い痛い!! わ、分かった。止めるからそれで叩くの止めろ!!」
 後ずさり、手で必死に自分を構うタカシを睨みつけ、私は叫んだ。
『なら、とっとと出て行け!! 次があるんだ。もたもたしていると、また叩くぞ』

616 名前:4/4[] 投稿日:2012/08/18(土) 18:38:03.53 0
「わ、分かったよ。じゃあ、次も楽しみにしてるから!!」
 そう言い置いて、タカシは慌てて部屋から飛び出して行った。私は荒い息をつきつつ、
布団たたきを床に落とすと、ベッドにへたり込むように座った。
『全くあのバカが…… こ、この私が可愛いなどと……守ってあげたくなるなどと…… 
わ、私はそんなひ弱では…… でも、タカシが守ってくれると言うのだったら、その背中
に縋るのも悪くはない……かも……』
 乙女的思考に陥りそうになった事にハッと気が付き、私は慌てて頭を振って払拭したのだった。



まだ続きます
最終更新:2012年09月10日 22:33