649 名前:1/5[sage] 投稿日:2012/08/22(水) 02:36:19.57 0
  • ツンデレがコミケで着るコスプレ衣装を悩んでいたら その5

「よし。ここはやっぱりほむほむだな」
『ほむほむ……と言うと、最初の衣装だな?』
 てっきり最後の衣装にするのかと思ったが、タカシの趣向は単に派手好きではないらし
かった。
「いや。やっぱり好きなキャラだしさ。あのひ弱感が普段の美琴とギャップがあり過ぎて
可愛くてたまらなかったし」
『だからそういう言い方をするな!! それともお前は私がもっと女らしくなよなよして
いた方がいいとでも言うのか?』
 まるで普段の私がダメ出しされたような気分で難癖を付けると、タカシは慌てて首を横
に振った。
「いやいやいや。普段の美琴はあれでいいんだよ。だからこそのギャップな訳で、弱気な
美琴とか信じられないし」
 しかし、そう言われても私は疑いの目を向ける事を止めなかった。
『フン。どうだかな。本当はお前も大人しくて慎ましやかな女の子の方が好みなんじゃな
いのか? 私のように武道を嗜んでいて、やたらいちいち細かいことにまで文句を付ける
様な女じゃなくてな』
 変装した自分に嫉妬すると言うのもおかしな話だが、何故かそんな気分で問い詰めてみ
ると、タカシは何だか呆れたように肩をすくめてみせた。
「何だ。そういう事を気にしてるんだったら、少しは理不尽な事で怒るの止めたらいいの
に。別におしとやかにしろとかそんな事は言わないけどさ」
 それがいかにも私をバカにしているように思えて、私の中で何かがプツッと切れた。
『やかましいっ!! 文句言われるのはほとんど全てお前が原因じゃないか。それを差し
置いて怒るななどと偉そうな事を言うな。このバカ者が!!』
「いや、まあ……うん。いいんだけどさ。俺はそういう美琴が好きで一緒にいるんだから」
 何かを言い訳しようとして、タカシは止めて自分で収めようとしてしまう。それが気に
食わなくて、私はさらに文句を続けようとした。
『何がいいんだ? 言いたい事があるならはっきりと言え。そういう優柔不断っぽいとこ
ろが私はきら……』

650 名前:2/5[sage] 投稿日:2012/08/22(水) 02:36:50.82 0
 嫌いだ、と言おうとして、私は言葉を途切れさせた。さっき、アイツは何と言った? 私
の事が好きだと……
 それに気付いた瞬間、私の脳が一気にスパークする。
「ん? どうしたんだ美琴。説教はもう終わりか?」
『やかましい!! ちょっと待て!!』
 思考が固定化し、体の力が抜けてくず折れるよりも早く、私は必死で脳をフル回転させ
た。待て、早とちりするな。あの好きというのはきっと単に友人としてとか幼馴染として
とかその程度のはずだ。あくまで親しみの域を出ないはずだと、無理矢理自分を納得させる。
「美琴、どうしたんだ? 具合が悪いならちょっと休んだ方がいいんじゃないか?」
 私の様子がおかしい事に、タカシが心配して様子を窺ってくる。しかしそれに答えず私
は顔を上げてタカシを見た。
『タカシ。一言言っておくぞ?』
「はい? 何だ?」
 キョトンとした顔で見られるのも構わず、私は一気にまくし立てる。
『いいか? 女子に対してだな。軽々しく好きだなんて言葉を口にするな。わ……私だか
ら下手な誤解を生まずに済んでいるが、他の女子に言ってみろ。お前は気軽な気持ちかも
知れんが、場合によっては大問題になる可能性もあるんだ。いいか? お前はともかく言
われた相手にも大きな精神的負担を与える事になるんだぞ? 分かったな』
 自分の思い込みを裏付ける意味も込めて、私は懇々と冷静にタカシを諭したつもりだっ
た。しかしタカシは、ニコリと笑顔を見せて頷く。
「ああ。それなら大丈夫さ。まあ、そんな事言うのは美琴に対してくらいだしな」
『んなあっ!!』
 ボンッという擬音が上がりそうな勢いで、一気に私の体温が三、四度上がる。乙女心メー
ターが一気に振り切れる中で、私は必死に思い込もうとした。落ち着け。奴は私が気軽に
物を言える相手だと、そういう意味で言っている天然なんだと。
「どうしたんだ美琴。本当に……その、大丈夫なのか?」
『もういい!!』
 熱を測ろうとおでこに手を差し伸べようとする彼の手を、私は叫びながら勢いよく払った。

651 名前:3/5[sage] 投稿日:2012/08/22(水) 02:37:22.03 0
『と……とにかく、他の女子には絶対に言うな。分かったな?』
「りょ……了解……」
 私の剣幕に気圧されて、タカシはニ、三度首を縦に振った。それを見て、私は大きく息
を吐いて気持ちを落ち着かせる。さっきのタカシの言葉を反芻するのは、奴が帰ってから
だ。それまでは思い出すのは厳禁にしなければならない。
『ならばよい。それで、コミケで着る服の話しだがな……』
 話を本題に戻すと、結論を言う前に私は一度、タカシの選んだ魔法少女の衣装に目を走
らせる。そして目を逸らしてから、タカシの方を向いて、自分の決意を告げた。
『私は……この、海賊服の方にしようと思う』
「は……?」
 タカシがキョトンとした顔で私を見る。それから、些か不満気な顔で抗議するように言っ
て来た。
「何だよ。俺の選んだ服を着るんじゃなかったのかよ。それじゃあ、俺が服選んだのって、
何の意味があったんだ」
『決まってるだろう? 選択対象から外す為だ』
 それを聞いた途端、タカシがガクッと首を折った。
「そっちかよ…… そうと知ってりゃあ、あんな風に熱心になって選んだりしなかったの
によ……」
 愚痴めいた言い方にため息が混じる。その様子に、さすがに説明もなしに落ち込んだま
ま帰らせるのは悪いと思い、私はちゃんと説明することにした。
『まあ、待て。真剣になって選んでくれなければ困るから、わざと最初にそう言わなかっ
たのだ』
「……どういう事だよ? 俺が選んだ服だけは着たくないとか、そういう事なんじゃない
のか?」
 確かに、普段の私の接し方からすれば、そういう誤解も致し方ないと思う。しかし、今
日の私は、それをキッパリと否定した。
『違う。その……私は、コミケなどという人が大勢いる場所で、出来る限り目立ちたくな
いのだ。分かるか?』
「まあ……そりゃ、分かるよ。美琴って意外と人見知りなトコあるし」

652 名前:4/5[sage] 投稿日:2012/08/22(水) 02:37:53.57 0
『それが分かれば話は早い。つまりだな。お前が選ぶ衣装となれば、きっとその……人目
を惹くような物だろうと。だからそれを外して、お前の一番反応の薄い衣装にしておけば、
あまり衆目に晒されずに済むだろうと、そう思っただけだ』
 丁寧に説明したのが功を奏したのか、タカシの顔に、多少の元気が戻ってきた。
「……なるほど。いや、まあ……確かに美琴の言う事は当たってるわ。確かにこの中でも
一番の人気アニメのキャラだし。まあ、その中で一番かどうかはともかく、美琴の容姿な
ら、このキャラが一番似合ってるからな」
 どうやら自分の推測が当たっていた事に、私は多少の満足を覚えつつ頷く。
『だろう? お前は根が単純だからな。恐らくそういうキャラが好きだろうとは思ってい
た。私が衆目を浴びるかどうかは分からないが、少なくとも人気キャラを避ければ、多少
なりとも目立たなくする効果はありそうだからな』
 そもそも、タカシに見せるための衣装を選んだ訳ではないから、私にとっては別に一番
地味な衣装でいいのだ。タカシが好きな衣装を着た私は、タカシだけが見てくれればそれ
で十分なのだから。
「なるほどな。一応、美琴なりに俺の意見を参考にして考えた上で選んだって事か」
 どうやらタカシには私の考えが伝わったようで、私はそれを肯定して頷いた。
『ああ。だから、選ばれなかったからといって、お前が卑下する必要は何も無いぞ。気に
する事はない』
 多少は慰めてやったつもりだったのだが、タカシはまだ複雑そうな表情で肩を落とした。
「そうは言っても、一番俺が似合うと思った服が外す対象に選ばれるってなると、やっぱ
り嬉しくはないもんだぜ」
『男なんだから、決まった事にいちいちグダグダと愚痴を言うな。さあ、部屋から出ろ。
私はさっさと着替えたいんだからな』
 未だにドレスのコスプレ衣装のままだったので、私はタカシに向けて追い払う仕草をし
てみせた。しかしタカシは、部屋から出る代わりに挙手のポーズをしてみせる。
「はい、美琴さん。質問です」

653 名前:5/5[sage] 投稿日:2012/08/22(水) 02:39:13.98 0
『……何だ? それは、私が着替え終わってからじゃマズいのか?』
 不愉快そうに睨みつけると、タカシは手を振って否定した。
「ああ、いや。そこまでのもんじゃないけど、聞いとかないと何かモヤモヤした気分が続
くのも嫌かなと。それに、すぐ済むし」
『すぐに済むのならさっさと言え。私はさっさとこの衣装から解放されたいんだ』
 するとタカシは、床に広げて置いたままの海賊服をそっと持ち上げると、私の前に示し
てみせた。
「いや。何で美琴はこっちを選んだのかなと思って。俺が選ばなかったのは、これと今美
琴が着てるドレスの二着じゃん。その選択基準を知りたいなと思ってさ」


さらに続く
最終更新:2012年09月10日 22:36