677 名前:1/5[sage] 投稿日:2012/08/26(日) 09:01:47.37 0
- ツンデレがコミケで着るコスプレ衣装を悩んでいたら その6
『決まっている。その海賊服なら、制服の上に羽織るだけだからな。こんな肩や胸元の広
がったドレスよりも、余程気が楽だ』
当然とばかりに答えると、タカシは広げた海賊衣装を自分の方に向け、私と重ね合わせ
るようにして見つめた。
「まあ、確かに美琴らしいっちゃ美琴らしい選択だけどな。でも、制服の上に着込むだけっ
て言っても、これに海賊帽被って会場あるけば、結構目立つとは思うぞ」
『何?』
タカシの言葉に、私の心に影が差す。確かに、着た時のタカシの反応が良かったとは思
うが、それは三着ともだし、これが一番地味だと思ったのだが、私は何か選択を謝ったの
だろうか。
『ちょっと待て。さっきお前が選んだ魔法少女とやらの衣装よりも目立つとか、そう言い
たいのか? いや。もしかしてそうカマを掛けて私の選択を変えたいと思ってはいないだ
ろうな?』
念のために疑いを掛けてみると、タカシは慌てて首を横に振った。
「いやいやいや。ほむほむの衣装なら大人気間違いなしだろうけどさ。作品的にはこっち
の方が地味だし。けど、海賊って昨今の流行りだし、ただワンピはコミケ的にはちょっと
地味だろうけど、これは映えるからさ」
『冗談じゃない。私は目立ちたくなんか無いんだ。何とか人目に付かずに済む方法は無い
のか?』
コミケの写真は委員長に見せてもらったが、あんな人の多い場所で恥ずかしい格好をし
て人目に触れた挙句、写真とかまで撮られるのを想像すると、身震いがする。私の問いに、
タカシは難しい顔で考え込んだ挙句、こんな答えを出して来た。
「うーん…… 普通に考えたら、多分無理じゃね?」
『なっ…… 無理とか言うな!! 私が困っていると言うのに、ロクに考えもせず思考放
棄するとは、この薄情者め!!』
経験していないだけに不安は増大し、私は必死になってタカシに訴え掛ける。しかしタ
カシは首を捻るばかりだった。
678 名前:2/5[sage] 投稿日:2012/08/26(日) 09:02:19.31 0
「いや、だってさ。多分委員長とかノリノリで派手な格好してくるだろ? 女の子だけの
サークルで、派手なコスプレ衣装で売り子やってれば、そりゃ人だって集まってくると思
うし、委員長達もそれが狙い目なんだろ? 無理だよ」
やけに事情に詳しいところをみると、タカシも委員長にコミケで撮った写真を見せて貰っ
た事があるらしい。確かに、あの嬉しそうな表情でコスプレを勧めて来た事を思い出すと、
むしろ目立つ方目立つ方へと流されそうだ。
『なら、せめて私だけでもあまり人気が出ないようにする方法はないのか? お前なら、
そういうのも詳しいだろう?』
下手をすれば、私自身も前面に押し出されかねない。それだけは嫌だとタカシに縋って
みるものの、冷たくあしらわれた。
「お前ならって……俺もコミケ参戦した事はないんですけど?」
グッと私は言葉を失う。しかし、ここで引いたら後はもう会場でマスコット状態になる
しか無くなる。私にとってはもう、タカシしか頼るものは無かった。
『それでも構わん。私よりは詳しいだろう? いい方法を考えつけ。でないと家に帰さん
からな』
「つまりそれは、美琴の部屋でお泊りオッケーということですか?」
何か違う方向で食いついて来てしまったので、私は慌てて否定する。
『馬鹿を言うな。誰も泊まらせるなどとは言っていない。食事も用意などしてやらんし、
風呂も睡眠もなしだ。いいアイデアが浮かぶまで、ひたすら私の部屋で考えているだけだ
が、それでもいいのか?』
「ずっと美琴の部屋……という事は、着替え姿も見放題ということで?」
人が真剣に悩んでいる時にエロネタ持ち出して来たので、さすがに私も頭に来て、枕で
思いっきり頭をぶっ叩いてやった。
『馬鹿を言うな!! 着替えなど無論、風呂場でするに決まってるだろう。誰がお前の前
で下着姿など晒すか!!』
「っててて…… だからって、全力で叩く事ないだろ? 首の筋が違ったらどうする気な
んだよ」
首をコキコキと回すタカシを、私は思いっきり睨み付けて怒鳴った。
『知るか馬鹿!! とにかく、部屋に居続けて良かったとお前が思えるような事は一切し
ないからな。分かったらさっさとアイデアを出せ!!』
679 名前:3/5[sage] 投稿日:2012/08/26(日) 09:04:49.33 0
横暴とも言っていいほどの居丈高な態度で怒鳴りつけると、タカシは難しそうな顔でう
つむき、少しの間考え込んでいたが、やがて自信無げに小声で呟いた。
「うーん…… 一つ、あるにはあるんだけど……あまり提案したくはないなあ……」
『とりあえず、言ってみろ。是非は私が判断する』
少しでも目立たないで済む方法があるなら、それに越した事はない。催促するとタカシ
は少し逡巡していたが、小さく頷くと顔を上げて私を見た。
「いや。女性ばかりのサークルだとさ。どうしてもああいう場って、男が寄って来て声掛
けられたりとかしやすいらしいんだ。だから、そういうのが嫌な場合は、知り合いの男性
に自分たちのブースに来てもらったりするんだって、前に何かで見た記憶があるなと思って」
『それは用心棒みたいなものか? 鬱陶しい客を追い払ったりとかする為の』
私の解釈に、タカシは否定しなかったものの、僅かに首を捻ってみせる。
「いや。そもそも男が傍にいると、その女性の旦那とか彼氏だと勘違いするらしくて、そ
れで変に声を掛けられる確率が減るとか、そんな感じらしいよ」
『なっ……!?』
旦那とか彼氏と、という言葉に、私の乙女メーターが敏感に反応してしまう。タカシと
夫婦に見られる、という一点だけで、体が極度に緊張してしまった。
『じょっ……冗談じゃないぞ。そんなそんな……恋人同士とか……ましてや夫婦だと思わ
れるなんて、断じてお断りだっ!!』
そう叫んでしまってから、唖然としているタカシの顔が視界に入り、ハッと私は我に返った。
「いや、別に美琴がそうだって言ってる訳じゃなくて、委員長ならサークル関係とかでも
知り合いいるだろうから、頼めるなら頼んでみたらって思っただけで、何でそこで美琴が
興奮して怒鳴るのかがよく分からないんだが」
『やかましいっ!! 今すぐ忘れろっ!!』
こういう時は、タカシの鈍感さが救いになる。もし、連れて行く男性が私の中ではタカ
シ限定だったなんて知れたら、今すぐ自分を矢で射抜いて死んでしまいたいくらいだ。
「うーん……よく分からんけど、まあいいや。とにかく委員長に聞いてみたら? もしか
して、もう誰か頼んでるとか、共同で出すサークルに男の人がいるとかあるかも知れない
から」
680 名前:4/5[sage] 投稿日:2012/08/26(日) 09:05:24.28 0
私は一つため息をついて、タカシの姿を頭から払拭する。こんな時、タカシが傍にいて
くれたらなんて思ってしまったのは、絶対にバレる訳には行かない。
『待ってろ。今電話してみる』
タイミングのいい事に、委員長はすぐに電話に出てくれた。手短に事の次第を説明した
が、委員長から返って来たのは、難しそうな返事だった。
【う~ん…… そこまで頼めるような男の人の知り合いってのは、いないのよね。遊びに
来てくれるくらいならあるけど、自分も出展してるか、買い物に忙しかったりするし……】
『そうか…… ところで、委員長とかはその……写真撮影とかは、いいのか?』」
【私達は好きでコスプレしてるもの。でも、やってみると楽しいわよ。矢神さんも、新し
い世界が開けるかもよ?】
『別にそんな世界を開きたくはないっ!!』
そこに突っ込みを入れたところで、委員長が思い立ったように言った。
【むしろ、矢神さんこそ、手伝ってくれるような男の人知ってるんじゃないの? 例えば、
別府君とか】
忘れようとした想像が、いきなり鮮やかに蘇って来た。
『なっ…… あ、あんな奴ダメに決まっているだろう。バカだしスケベだし……むしろ、
委員長達に迷惑を掛けるかも知れないし……』
【そんな事ないと思うけどな。別府君ともアニメの話で盛り上がったことあるけど、逆に
こっちがディープ過ぎて引かれたかな、なんて思うくらいだったのに、上手に話し合わせ
てくれてさ。優しくて、知識も豊富だし、いい人だと思うけど?】
『いや。だから委員長。幼馴染の私から言わせて貰えば、それはアイツの外面の方であっ
て、内面は最低最悪の男子だから、絶対に女の子だらけの所に入れるのは拙いと思うぞ』
【大丈夫よ。矢神さんがずっと付き合ってるんだから。それよりも、変な人対策はともか
く、男手ってのは欲しいのよね。本の冊数はそんなにないけど、設営とかも考えると、やっ
ぱり力のある人はいた方が助かるもの】
『待て。それは余計に役に立たなさそうだぞ。普段同じクラスなんだから、委員長もアイ
ツのサボり癖は知っているだろう? 絶対に隙を見てどこかでサボるに決まっている』
681 名前:5/5[sage] 投稿日:2012/08/26(日) 09:07:21.41 0
このまま委員長のペースに流されそうになるのを、私は必死で抵抗した。自分でもよく
分からないが、とにかく何でか、タカシを連れて行くことに気が進まなかったのだ。
【それも大丈夫。別府君って、男気はあるからね。私達みんなでお願いすれば、真面目に
手伝ってくれるわ。だから、ね。矢神さんからお願いしてみて?。お礼は弾むから】
懇願するように言われて、私は言葉に詰まってしまった。何か、却って泥沼にはまり込
んでしまったような気がしなくもない。そこに更に委員長が押して来る。
【別府君が嫌だって言ったら、この話はなかった事でいいから、とりあえず聞いてみてよ。
矢神さんには、お礼に無事終わったらスイーツご馳走してあげる。あと、二学期の中間も
面倒見てあげるから】
『うう……』
委員長から提案された見返りが、実に私のツボを突いた見事なもので、私は断わり切れ
なくなってしまった。勉強はともかく、私が甘い物に目がないのをどこで情報を仕入れた
のかは、不思議でしょうがなかったが。
『……分かった。別に私から誘ったりはしないからな。あくまで委員長からの依頼を伝え
るだけだが、それでいいと言うなら』
【もちろん、それでいいわ。私が相談されたはずなのに、逆にお願いしちゃって本当に申
し訳ないんだけど、宜しくお願いするね】
それで電話は切れた。私は携帯を畳むと、小さくため息をつく。一体どういう風に、タ
カシにこの事を伝えようかと悩んだ。しかし、私が言葉を発するよりも早く、タカシの方
から、突っ込みが入って来た。
「なあ。もしかして今、俺の事が話題に上ってなかったか?」
続く
最終更新:2012年09月10日 22:38