729 名前:1/4[sage] 投稿日:2012/08/28(火) 22:46:07.59 0
- ツンデレがコミケで着るコスプレ衣装を悩んでいたら その7
私はビクッと体を震わせ、どう言ってごまかそうかと反射的に思考を巡らせ、そして途
中で気付いた。今は逆にごまかさず正直に話すべき時で、むしろタカシからキッカケを作っ
てくれた事に。
『……全く、盗み聞きとはいい趣味だな。女同士の会話に耳をそばだてる奴には、いずれ
天罰が落ちると思え』
「いやいやいや。俺の提案について電話したんだし、そりゃ気にもなるでしょ? 盗み聞
きどころか、当事者なんだしさ」
だからこそ、聞かれて嫌だったのだ、と私は内心毒づく。まさか、話がタカシに及ぶと
は思わなかったから席を外さなかったのだが、あんな話題になると分かっていたら、最初
から場所を変えて電話したのに。だがもう、今となっては全てが後の祭りだ。
『黙れ。結果ならちゃんと終わったら報告する。それに、お前はそもそも無関係だったの
だから、聞き耳を立てる必要もなかっただろうが』
「いや、だってさ。最初は聞き流してたんだけど、いきなり美琴が動揺しだしたから。で、
注意を向けたらバカだのスケベだのって、これは俺の事かなあって」
予想通りの答えに、私は頭を抱えた。己の精神力の弱さが、つくづく情けなくなる。
『わ、私は動揺などしてはいないぞ。その……いきなり委員長がお前の名前を出したりし
たから、まあ少しは驚きはしたがな。あとはいたって冷静だ』
強がってはみたものの、タカシにどこまでそれが通用するか。
「はいはい。で、委員長が何て言ってたって?」
サラッと流しつつ、全てを心得たような態度でタカシは話を先に進めるよう促す。その
スカしたような態度が気に食わなくて、私は更に抗弁を続けようとした。
『ちょっと待て。お前、私の言う事を全く信じていないだろう? いいか、私は普段弓道
で――』
「分かってるよ。美琴は動揺なんてしていないって言うんだから、それを信じるって。そ
れより委員長との電話の中身を話してくれって」
幼馴染だから分かるが、コイツは私の言う事など絶対信用していないが、同時に私が絶
対にそれを認めないことまで分かっているのだ。何か手玉に取られているようで歯軋りす
る思いだが、これ以上ムキになっても、却って私を不利にさせるだけだった。
730 名前:2/4[sage] 投稿日:2012/08/28(火) 22:46:38.82 0
『フン。仕方ないな。これ以上お前との不毛なやり取りで時間を浪費する訳にもいかない
からな。話を先に進めるとするか』
しぶしぶ、私は抵抗を諦めてため息混じりに答えた。しかし、それはそれでタカシに何
と伝えれば良いのだろうか? まさか私からお願いなど、恥ずかしくて死んでも嫌だし。
しかもこんなコスプレ姿で。悩んだ挙句、私はあくまで伝言と言う形で、タカシに伝える
事にした。
『結論から言おう。生憎、委員長たちの知り合いには、そこまで頼めるような男の知り合
いはいないと言う事だ』
「そっか…… 意外と、そういう横の繋がりあるかと思ったんだけどなあ。まあ、前に見
せてくれたコミケの写真でも男と写った写真は無かったけど、でもアレはそういう写真は
避けただけって可能性にも掛けてみたんだが……」
難しい顔で考え込むようにブツブツと独り言のように言葉を漏らすタカシを見つつ、私
は次の言葉をどう切り出そうか迷っていた。しかし、今言わないと、どんどん機会を逸し
てしまう気がする。そう、これはあくまで伝えるだけだと言い聞かせて、私は口を開いた。
『それでだ。むしろ逆に委員長から、私の方が男の知り合いがいるはずだから、彼に頼ん
でみたらどうかと言われてしまってな』
するとタカシは、パッと顔を上げた。しばらく無言で私の顔をジッと見つめてから、視
線を逸らし、何だかとぼける様に疑問を呈してくる。
「男の知り合い? 美琴って奥手で堅物だから、男友達とかほぼ皆無じゃん。それがコミ
ケに来てくれるような知り合いだなんて……誰かいたか?」
『だっ……誰が奥手で堅物だっ!! 言うに事欠いて、人をバカにするにも程があるぞっ!!』
タカシの揶揄するような言葉に思わず反射的に怒鳴りつけてしまうと、タカシは両手で
まあまあと私を宥めた。
「悪い悪い。今のは冗談として、でもクラスや部活で一緒の男子でも、そんなお願い出来
るほど親しい奴なんていないってのは事実だろ?」
首を捻るタカシを、私は疑わしそうに見つめた。果たしてコイツは本当に自分を勘定に
入れていないのか? それとも分かった上でそら惚けているのか? その答えを知りたく
もあって、私はとうとうタカシを指して言った。
『……いるだろうが。ほら、そこに』
731 名前:3/4[sage] 投稿日:2012/08/28(火) 22:47:09.98 0
「俺?」
タカシがキョトンとした顔で自分を指す。私はコクリと頷いて肯定した。
『ああ。委員長が、名指しでお前をご指名だ。いずれにせよ、手伝ってくれる男の人がい
れば、色々と助かるから是非お願いして欲しいとな』
どもったり、変に呂律の回らない言葉にならないよう注意しながら、私は一気に委員長
からの依頼をタカシに伝えた。上手く口が回らなくて、私が動揺しているなどとタカシに
思われたら最悪だ。そして、言葉を切って、タカシの反応を固唾を呑んで見守る。
「うーん……」
意外にも、どちらかと言うと否定的なしかめ面で、タカシは唸りつつ考えていた。
「コミケ……ねえ。行った事ねーって言うか、あんまり興味ないしなあ……」
『意外だな。経験のある無しはともかく、スケベなお前だったら、可愛らしい女の子のコ
スプレ姿を見れると喜ぶんじゃないかと思ったが』
内心、不安に思っていたことを口に出す。するとタカシはいともあっさりと言い返した。
「いや。それは美琴のコスプレ見れればそれで十分だし」
『なっ……っ!?』
驚きと羞恥で、一気に体温が二、三度上昇する。コイツは今、何気に女の子を篭絡出来
る発言をした事に気付いているのだろうかと疑問に思いつつ、とにかく私は必死で否定し
た。
『ば、馬鹿を言うな!! 私のコスプレなど大したことはないし……大体、お前を喜ばせ
ようと思ってとか、そういう意図で着た訳じゃない!!』
「いや。それは分かってるけどさ。でも、テレビとかでコスプレの女の子が出る機会も増
えたけど、そんなに目を引くような子もいないし」
『う……』
反論しようとして、言葉が出ずに小さくうめく声だけが口から漏れる。タカシの中では、
テレビに出るような女の子より私の方が上だとでも言うのだろうか? もし事実だとした
ら……そんな事を言われたら、どうなってしまうのか、自分で自分が怖くなるくらいだ。
『だ、だからと言って、私より可愛い子などいくらでもいるだろうが。それに、何でも同
人誌だからと言っても素人ばかりじゃなく、プロも出してるらしいじゃないか。そういう
のを欲しいとか思わんのか?』
危険な話題から、私は必死で話を逸らす。するとタカシはあっさりと頷いた。
732 名前:4/4[sage] 投稿日:2012/08/28(火) 22:48:09.24 0
「まあ、欲しいとは思うものもあると思うけど、何もわざわざビッグサイトまで行って買
いたいとも思わんし。この暑い中を満員電車に乗ってさ。しかも会場も混雑してるから、
熱気でムンムンするらしいし」
『なるほど。お前はそんな男だらけで暑苦しい場所へ私を一人で放り出そうと、そういう
訳なんだな?』
何だか急に不安になり、同時に余りにも素気無い態度を取るタカシを睨みつける。する
とタカシは、慌ててそれを否定した。
「いやいやいや。男だらけじゃなくて、今じゃ女性も多いし。現に委員長のサークルって
女性ばっかなんだろ? 委員長とかいるんだから大丈夫だって」
そんな慰めも、私にはほとんど役に立たなかった。あくまで委員長のお願いを代弁して
いるだけ、と言い聞かせてきていたのに、いつの間にか私の中ではタカシが必要不可欠な
存在になってしまっていたのだ。
『だが、彼女だって忙しいだろう? 売り子に買い物。それに彼女だってコスプレするっ
て話だから、そっちの対応もあるだろうし。そうなると知り合いなんていないに等しいで
はないか』
「いや。もともとは委員長の知り合いの男がいれば、そっちに頼むはずだっただろ? 知
り合いがどうのとか関係なくね?」
タカシの指摘に、私はハッと気付かされる。だが、今更自分の間違った発言を取り消す
訳にも行かなかった。
『やかましい!! お前が私を不安にさせるような事を言うから悪いんだろうが。それに、
どのみち頼める男はお前以外いないのだ。どうせ普段ロクな事をしていないのだから、た
まには人助けくらいしろ』
逆ギレ気味に怒鳴りつけると、憤慨した気持ちが抑えきれないとばかりに私はフン、と
鼻を鳴らした。するとタカシは、私の顔をジッと覗き込むように窺ってくる。
『な、何だ? 人の顔をジロジロと見るな。気持ち悪いぞ。このバカ』
照れて悪態を吐くも、一向に気にしないようで観察を続けつつ、タカシが質問してきた。
「美琴自身は、どうなの? 俺に来て欲しいと思ってる?」
続く。
最終更新:2012年09月10日 22:44