859 名前:1/5[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 12:32:03.64 0
『……兄さん』
「げっ…… け、敬子? その……一体何で……えっとその……お前が、俺んちに……?」
『その前にまずは、私から質問させて下さい。一体、朝早くからどこへお出掛けだったん
ですか、兄さんは。今日は大学も休みのはずですよね?』
「へ……? い、いやその……山田んとこ……ってか、大学の友達と朝まで飲んでてその
まま泊まったんだよ」
『そうですか。お酒を飲んでご友人宅に、ですか。妹がわざわざ時間を割いてやって来た
と言うのに、こんな時間までのん気に自堕落な生活を送っていたんですね?』
「ちょ、ちょっと待て。そもそもお前、来るなんて俺に連絡して無いだろ? 分かってれ
ば、せめて昨夜のうちに帰ってたけど、さすがにアポなし訪問で怒るのは筋違いじゃね?」
『分かってますけど、朝から一時間も暑い中、待ちぼうけにされた怒りは、兄さん以外に
ぶつけようがありませんから。あと、もう一つ質問させて頂きますけど、さっき言ってた
ご友人と言うのは、当然男性ですよね?』
「へ……? いや、まあそうだけど……それが何か?」
『いえ。まさかとは思いましたけど、よもや兄さんが女性を酒に酔わせて不埒な行為を行っ
たなどとなったら、これ以上世間に迷惑を掛けないよう、妹の私が責任を持って兄さん
を消し去る以外ありませんでしたから。どうしましたか? 兄さん。もしかして、今の言
葉が嘘だったとかじゃありませんよね?』
「ま、まさか。友達って間違いなく男だし。そんな犯罪起こりっこねえって。だからそう
心配すんな」
『そうですか。まあ、犯罪者の兄といえ、殺したら私も犯罪者になりますからね。そうで
なければそれに越した事はありませんが』
「怖い事言うなよな。大丈夫だって。世間に後ろ指差されるような事はしてないからさ」
「(……サークル仲間の女子も一緒に雑魚寝してた事がバレたら、絶対殺されるよな……)」
「ところで、敬子は何でわざわざうちに来たりしたんだ? 今まで、こっち来たことなん
てなかったじゃん」
860 名前:2/5[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 12:32:34.71 0
『あ、当たり前です!! 何で私がわざわざ電車賃使って、兄さんのアパートに遊びに来
なくちゃならないんですか。意味不明です!!』
「いや、だから聞いてるんだけど。どういう風の吹き回しかと思って」
『……そ、それは……兄さんが悪いんです……』
「俺が? 何で? 俺、何かやったっけ?」
『したって言うかしなかったって言うか…… だって、兄さん今年の夏休みに、一日もう
ちに帰って来なかったじゃないですか。だからその……』
「いや。それは敬子にも言ったじゃん。金欠だし部活の合宿旅行もあるから、その為にバ
イトしなくちゃなんなくて、だから今年は帰ってる余裕ないって」
『それは聞きましたけど、だからと言って、一日たりとも顔を見せないってどういう事で
すか? 特急使わなくたって二時間もあれば帰って来れるし、往復で千円も掛からないのに』
「それは、余分な金は使いたくなかったし、それに帰るとどうしてもだらけがちになるか
ら、あんま生活のリズム崩したくなかったってのもあるし。いや、まあ敬子に寂しい思い
をさせたのなら謝るけど」
『なっ……!? 何をバカな事を言ってるんですか兄さんはっ!! 私が寂しい思いなん
てするはずないじゃないですか。私はただ、学費や生活費を出してくれている親に、全く
顔を見せないなんて親不孝も甚だしいと言いたいだけです』
「ちゃんとお母さんにも了解は得たって。いや、そりゃ電車賃くらい出してくれるって言っ
たけどさ。でも、今年のお盆はお父さんとお母さん二人で沖縄行くって話じゃなかったっ
け? 何かお父さんがまとまった休みが取れたからとか何とかで」
『そ、そうですけど、別にお盆に限る必要ないじゃないですか。それが一日も帰って来な
いとか、本当に何考えているんですか』
「わ、分かった分かった。悪かったよ。そうか。お父さんお母さんが旅行って事は、敬子
一人だったって事だもんな。寂しい思いさせて申し訳なかったとは思うよ」
『だから私は寂しくなんてありませんでしたってば!! むしろ兄さんなんていない方が
せいせいするんです。何度も同じ事言わせないで下さい。あんまりしつこいと怒りますよ?』
861 名前:3/5[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 12:33:06.21 0
「もう十分怒ってるように見えるけどな。で、俺の事なんていない方がいいって言ってる
のに、何で俺んちまで来たのか、その理由をまだ聞かせて貰ってないんだけど」
『だから、言ったじゃないですか。兄さんが全く夏休みに帰って来ないからだって』
「いや、それだけじゃちょっと分からないんだけどさ。それだと、俺の顔が見たくて来たっ
て思いたいけど、敬子は別に俺がいない方がいいって言うし。何か話が矛盾してないかって」
『何で私が兄さんの顔を見たがらなくちゃいけないんですかっ!! わ、私は嫌だって言っ
たんです。なのに母さんが、来ないっていう連絡の後、全く兄さんからの連絡がないから、
生きてるか死んでるかだけでいいから様子見て来いって言い出して…… 私は来たくなん
てなかったんですからね。本当なんですから』
「分かったよ。とりあえず、暑い中立ってたら熱中症になっちまうだろ? まずは上がれ
よ。冷たい飲み物とか出すからさ」
『それじゃあ、失礼してお邪魔させて貰います。大体遅いんですよ。理由聞くのだって、
最初に上げてからにすればいいのに』
「だって、まさか敬子が玄関先に立ってるなんて思わなかったから。と、ちょっと待って
ろ。パパッと部屋片付けちまうから――っておい。何で先行くんだよ」
『兄さんが普段どんな生活をしているか、ちゃんとチェックしないといけませんからね。
流しは綺麗みたいでしたけど、部屋は――って、ほら。やっぱりベッドとかグシャグシャだし』
「昨日は遅刻しそうだったからさ。いや、だから片付けるからさ。せめて廊下で待ってろよ」
『兄さんの片付けって、脇にのけるくらいじゃないですか。いつだって適当なんですから。
私がちゃんと片付けま――って、な……何なんですかこれはっ!!』
「ほら、早速見つけやがった。てか、真っ先にそこ行くってどんな嗅覚してんだお前は。
もしかして好きなのか?」
『好きな訳ないでしょうこんなの!! 何だってこんなエッチなDVDのパッケージを床
に放り出したままにしてるんですかっ!! 恥を知って下さい、恥を!!』
862 名前:4/5[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 12:33:38.32 0
「だって、家と違ってお母さんや敬子が部屋に入って来るわけでも、ましてや他に女性が
部屋に上がる事なんてないしさ。誰かに見られるなんて思ってもなかったし。しかもアポ
なし訪問とかで」
『見るとか見られるとかじゃありません!! そもそもこういう破廉恥な物を持ってる事
自体が問題じゃないですか。こんなドスケベな人を私は兄だなんて思いたくありません』
「……我が妹ながら、純情にも程があるだろ…… 積極的に興味を持つかどうかは別にし
てもさ。今時、若い女の子だって、男のエログッズの一つや二つ見つけたって、当たり前
だと思って動じないんじゃね?」
『だ、だからって兄さんが持っていいことの理由にはならないじゃないですか。あと、そ
の口ぶりだと他にもありそうですね? 全部出して下さい。処分しますから』
「あのな。内容が低俗だろうがなんだろうが、俺が買った物なんだぞ? 何だってお前に
処分する権利があるんだよ」
『カッコ良く正論でごまかそうとしてますけど、所詮エロDVDですよね? そんなゴミは
処分して当然です。あと、何の権利かと言えば、私はお母さんから兄さんがちゃんと生活
してるかどうかの確認を任されていますから。いわば親の全権代理人です。文句があるな
ら、お母さんに言って仕送り止めさせてもいいんですよ?』
「ちくしょう。勝ち誇りやがって…… 分かったよ。出せばいいんだろ」
『普通に本棚にしまってあるって、どんだけ恥知らずなんですか。みっともないとか思わ
ないんですか?』
「一応、見えないように奥の方にはしてあったろ? ほれ。これで全部だよ」
『四……五枚…… 本当にこれだけですか? まだどこかに隠し持ってるとかないですよね?』
「ねーよ。少なくともDVDに関してはそれだけだし」
「(つか、全部HDDに吸い出してはあったからな。パッケージが無くなっちまうのは惜し
いが……敬子が満足しないだろうから、仕方ないか……)」
『全く、こんなくだらないもの……エイッ!!』
ベキッ!! ベキッベキッベキッ!! バキバキッ!!
「うわぁ…… 何か親の敵みたいに割りまくってるな……」
『だってこんな物で兄さんが満足してるなんて……じゃなくて、こんな不潔なものが単に
大嫌いだからです。本当にそれだけですから』
863 名前:5/5[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 12:34:14.58 0
「いや、まあ女の子でこういうのが好きって公言する子はほとんどいないと思うけどさ。
何か言い訳じみて聞こえるんだよな。お前の場合」
『いっ……言い訳って、何の言い訳ですか!! 意味が分かりませんってば』
「まあそう気にするなって。あくまで何となくってだけだから。それより、ほれ。麦茶だ
けど、飲むか?」
『いただきます。全く、兄さんのせいで喉がカラカラですから』
「おー。いい飲みっぷりだな。もう一杯行くか?」
『人を大酒飲みみたいに言わないで下さいっ!! 私はまだ高校生なんですから、お酒な
んて飲んだ事ないんですからっ!!』
「ちょっとした冗談にいちいちカリカリするなって。ほれ」
『いただきます……って、そういえばこれ、兄さんの使ってるコップですか?』
「そうだけど。別に聞くまでもないだろ? 一人暮らしなのに他に誰のコップだよ」
『そ、そうですよね。いえ、そうなんですけど……』
『(ちゃんと洗ってはあるんだろうけど……でも、兄さんが普段口を付けているコップ……
それに私、あんなに勢いよく口を付けちゃって……)』
「どうした? 大丈夫だよ。食器とかはちゃんと洗ってあるから。さっき、流しも見たろ?」
『わ、分かってますよ。そもそも、そんな事当然です。妹とはいえ、ちゃんとお客様なん
ですからね』
ゴクッ……
『(飲んじゃった…… 兄さんの口を付けたコップで……)』
「まだあるけど、飲むか?」
『いえ。もう結構です。あんまり水分取りすぎも良くないですから』
「そっか。で、今日どうする?」
『はい? ど、どうするって……何がですか?』
「いや、だからさ。せっかく来たんだし、どっか一緒行くか? せっかくだし、行きたい
トコ連れてってやるよ。あと、昼飯でも食ってさ」
後編に続く
最終更新:2012年09月10日 23:00