40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/11/25(日) 23:20:35.31 ID:pWweSLe60 [5/5]
なんか今日は妄想がほとばしってますなあwww
よきかなよきかな
長いのと百合なのでロダ貼りで
祝日の醍醐味といえば、何と言っても遅くまでベッドの中で寝ていられる事であるのは、
社会人――特にサラリーマンやOLならば常識中の常識である。しかも今日は、勤労感謝の
日だ。働く小市民に国家が制定した、年に一度の堂々と惰眠を貪っていい日のはず。だと
いうのに、我が可愛らしくも非道な妹は、朝7時きっかりに起こしに来るのである。
『姉さん。起きて下さい、朝ですよ』
「うーん…… あと二時間……ううん……五時間……」
秋も深まると、人肌に温もった布団の中というのは、とてつもなく離れがたくなるのは、
日本人のみならず、世界中の文明人の常識だと思う。だというのに、悪魔のように妹は、
私をそこから引き剥がそうとするのだ。
『五時間とか、バカですか。一体いつまで寝ている気なんですか、姉さんは。本当に毎朝
毎朝、懲りずに同じことばかりやって』
敬花の呆れる声を布団の中で聞きつつ、私はしっかりと反論した。
「同じじゃないでしょ? いつもは5分とか10分だもの。今日はお休みだからいつもより
パワーアップさせてるつもりなんだけど」
『5分だろうが5時間だろうが、いつまでも布団の中でグズグズしてるのはちっとも変わら
ないじゃないですか。ほら。さっさと起きて下さい。姉さんの為にもう一度朝ご飯の準備
なんてめんどくさいんですから。一度で済ませたいんです。ほら、早く』
「うーん…… 朝ごはんいらない。今日は睡眠が朝ごはんより重要なの。だから寝かせて。
お願い」
『ダメです。休みになるたびに毎回同じこと言って。姉さんを放っておくと果てしなくグー
タラになるんですから。休みだからと言って規則正しい生活しないと、美容にも健康にも
良くないんですよ』
無論、そんな事敬花に言われるまでも無い。20代も半ばに差し掛かると、そろそろ色々
と気になるお年頃だし、雑誌だのネットだの、情報収集したくなくても嫌でも目に付く事
である。だが、それを置き去りにしても、私は眠いのだ。
「そんなもの、毎日帰宅が夜10時過ぎな時点で、とっくに悪い事しまくりよ。今必要なの
は、何よりも不足している睡眠なの。分かる?」
『それを言うなら、姉さんの世話で起きてる私だって十分不足していると思うんですけど。
姉さんってほっとくとお風呂にも入らずビール飲んで雑魚寝するんですから。一体どこの
親父ですか』
布団から僅かに頭を出して、仁王立ちで私を見下ろす妹をチラ見する。まさしく軽蔑す
るような眼差しがとっても痛いです。
「しょうがないじゃない。疲れれば疲れるほど、健康に悪い事をしたくなるのよ。敬花も
働くようになれば分かるって」
『働くというのが大変な事は、無論私だって理解してます。けれど、成功されている人は、
私生活においてもキチンとしていると思いますけどね。姉さんの仕事ぶりは知りませんけ
ど、私生活のだらしなさはそのまま仕事にも反映されているんじゃないかと、むしろ心配
しているほどです』
一度敬花には、私の仕事振りをキッチリ見せる必要があるのかも知れないと考え、私は
すぐに、内心首を横に振った。要領の良さなら天才的な敬花だから、きっと事務作業の面
で私をボロクソに非難するに違いない。
「一応、悪い査定が出ない程度には頑張ってますよ。だからお願い。今日だけは惰眠を貪
らせて。何たって、勤労感謝の日なんだし、敬花も今日一日くらいはお姉ちゃんに感謝し
ようよ」
ついに私は、最後の切り札を場に出した。しかし果たしてこれだけで敬花が諦めて私を
寝かせてくれるなどという期待をしてはいけない。ほら。今だって冷たい視線を私に浴び
せ掛けているし。
『……一体、私が何を姉さんに感謝しろと言うのですか?』
バッサリと刃渡り25センチのバタフライナイフで切って捨てるような言葉を平気で吐い
て来る敬花に対し、私は頑張って抵抗の盾を振り上げる。
「だって、ちゃんとお家にも給料の一部入れてるじゃない? 敬花だって恩恵受けてるで
しょ? それに、誕生日にもクリスマスにも敬花にプレゼント買ってあげてるじゃない。
全部お姉ちゃんが働いて得ているお金からなんだよ? その事で今、恩を着せる気はない
けどさ。でも、せめて今の睡眠だけは欲しいの。お願い」
布団の中で両手を合わせて懇願する。だが残念ながら、敬花の視線は一向に和らぐ様子
を見せなかった。これが母親なら、この辺りで呆れて退場してくれるのだが、いかんせん
敬花は筋金入りの頑固者なのだ。
『自分でお給料を稼ぐ身になっていながら、実家にパラサイトしているんだから、お給料
を入れるのは当然じゃないですか。むしろ姉さんの金額だと足りないくらいです。それに、
プレゼントに関しては私からもしっかりあげているはずですけど? バイト代からしっか
り捻出して』
大学も3年になって授業が減った敬花は、その分家で母親の手助けをして家事をする事
が増えたせいか、最近は私がいくら入れているかまでキッチリ把握していたようだ。しか
も、これでアルバイトでお金稼いでさらに就活も熱心にやっているというのだから、頭が
下がる。
「うう…… でも、でも、勤労感謝の日ってのはさ。ほら。国の定めた祝日じゃない? 敬
花と違って私は税金納めてるし。だから、敬花もそこは日本という国家の意を汲んでさ。
働く者に慈悲を頂きたいなと」
自分でもちょっと無理矢理なお願いかなと思っていたのに、意外な事に敬花は表情を消
した顔で、コクリと頷いた。
『分かりました。確かに姉さんも、ささやかながら国と社会に貢献している訳ですから、
そこは素直に認めてあげましょう』
余りにも意外な展開に、私は疑いを禁じえなかったが、かといってこの状況を捨て置く
事も出来ない。私は遠慮なく体を丸めると、敬花に背中を向けて目をつむった。
「なら、365日のうちのたった一日をささやかな休養に当てても大丈夫だよね? 大丈夫。
お昼までにはちゃんと起きるから」
『その前に一つ、私から言わせて貰ってもいいですか?』
ほら、来た。だが、敬花には言わせるだけ言わせればいい。その前に寝入ってしまえば
こっちの勝ちだ。だが、敬花もそれを分かっているのか、私の耳元に顔を近付けると大声
を出した。
『勤労感謝の日だからって言うなら、私だって労わって貰いたいですね。特に、姉さん限
定で』
「んん……?」
無視をして寝たフリをしても良かったが、このままだと揺さぶり起こされそうだし、何
よりも敬花の言葉自体が気になって、私は目を開けると敬花の方へと視線を向けた。
「私限定でって……どゆこと?」
すると敬花の顔がパッと赤くなったような気がした。ガバッと体を起こして私から離れ
ると、何かを否定するように、慌てて両手を顔の前で振る。
『ち、違います!! 限定って言うのは何も特別な意味ではなくて、朝晩休日と、これだ
け姉さんの世話をしているんだから、姉さんは逆に私を労わるべきだとそういう意味で……』
なるほど。どうやら自分が私に甘えたがっているとバレないように、必死で言い訳をし
ていると言うわけだ。それなら、いっそ敬花も巻き込んでしまえと思い、私は体を起こす
と、敬花に向かって両手を広げた。
「だったら、敬花も一緒にだらけちゃおうよ。ほらほら。おねーさんが添い寝してあげる
からさ」
誘惑する私を前に、敬花はギュッと目を瞑って顔を逸らし、少しの間葛藤に耐えていた
が、やがて私の手をパンッと払うと頬を染めたまま、怖い顔で睨み付けた。
『だから私の手間を掛けさせないで下さいって言ってるんです!! 姉さんが起きないと
いつまで経っても朝ごはんの支度が出来ないんですから。早く起きないと、また実力行使
に訴えますよ』
「えー…… じゃあ、あと10分。どれだけ大人しく寝かせてくれたら、ちゃんと起きるか
らさ。それくらいなら待てるでしょ?」
もちろん、10分で起きる気は毛頭ないが、今は静かに寝直せる状況を作りたい。だけど
やはり、敬花は許してくれなかった。
『1分たりともダメです。ほら。早く起きて下さいってば』
ついに敬花は布団に手を掛け、引き剥がしに掛かった。足で掛け布団を挟んでブロック
するも、足裏の部分だけをめくってくすぐってくる。
「にゃああっ!!」
くすぐったさに力が抜けると、スルリと掛け布団が足から抜けた。そのまま布団と毛布
を持ち上げられ、体重を掛けて引っ張られる。
『無駄な抵抗は止めて、さっさと諦めて下さい。本当に往生際が悪いんですから』
「やあん。寒いよお。布団返してってば」
胸の前で腕を組んで、布団を抱き締めながら抵抗するが、立ってしっかり足でふんばり
ながら、布団を体に巻くように引っ張る敬花に勝てる訳もなく、ズルズルと上半身ごと引
っ張られた。
『いい加減にしないと、姉さん。そのまま体ごとベッドから引き摺り落としますからね』
「ちょっ!! 待って待って!! 危ない、危ないから。わわっ!?」
ベッドの縁まで引き摺られて、もう少しで落ちる寸前で布団から手を離し、ベッドに片
手でしがみ付く。
『ハァ……ハァ…… 全くいい加減に……って、何て格好してるんですか姉さんっ!!』
「ほえ?」
顔真っ赤にして目を見開いたまま、体をわなわなと震わせている敬花を前に、私は自分
の格好を見直した。別に敬花に怒られるような格好などしていないと思ったが、見るとパ
ジャマのシャツは胸の下までめくれあがり、ズボンもずり下がってパンツが覗いている。
「敬花が無理矢理引っ張るから、服が乱れただけじゃない。そんな騒ぐ事でもないと思う
けど?」
『わ、私のせいにしないでくださいっ!! そもそも姉さんがちゃんと起きればこんな事
には……って、早く服直してくださいってば!! いつまでそんな格好でいるつもりなん
ですか!!』
興奮して喚き散らす敬花を前に、私は乱れたパジャマを直す代わりに体を起こしてベッ
ドの上にペタンと座り込んだ。
「……何もそんな動揺すること無いと思うんだけどな。女の子同士なんだしさ。ほらほら」
パジャマの第一ボタンを外して胸をちら見させると、ほぼ同時に敬花が顔を逸らした。
『ど、動揺なんてしてません!! 余りのだらしなさに怒ってるだけです!! バ、バカ
な事を言わないで下さい!!』
「だってほら。言葉どもってるし、顔真っ赤だし、こっち見れてないし」
指差して指摘するも、敬花はこっちを見ようともせず、吐き捨てるように否定した。
『みっともなくて見ていられないだけですっ!! 私はもう行きますけど、すぐに来なかっ
たら、もう朝も昼もご飯抜きですから。お茶も淹れてあげませんし、何にもしませんからねっ!!』
言い終えると同時に、足音も荒々しく部屋から出て行ってしまった。残された私は、頭
をポリポリと掻きつつ、敬花の態度を思い出してクスリと思わず笑みを浮かべてしまう。
「全く、バレバレなのに素直じゃないんだから。さて。仕方ないから起きますか。布団の
温もりも無くなっちゃったしね」
諦め交じりに呟きつつ、私は体を目覚めさせる為に、ウーンと唸りながら思いっきり伸
びをしたのだった。
『で……ご飯食べたら、またゴロ寝ですか。一体どれだけ姉さんはグータラするのが好き
なんだか…… ホント、呆れますね』
朝ごはんの後、部屋着の格好でソファにゴロンと横になり、適当にテレビ番組を流しつ
つ、心地良く惰眠を貪ろうとした私を見下ろし、敬花が呆れてため息を吐いた。
「だってせっかくのお休みなんだもの。ゴロゴロしたいじゃない。敬花も今日はグータラ
しようよ。お姉ちゃんが許す」
『今日はお母さん達がいないから、お昼も私が作らなくちゃいけないし、洗濯だってある
のに……』
相変わらずお堅い妹だが、それをほぐすのが姉の仕事だ。
「いいじゃない。お昼はピザでも頼もうよ。お金は私が出すからさ。それに洗濯なんて明
日まとめてお母さんにお願いすればいいでしょ? だからほら。一緒にゴロゴロしよう」
両手を差し出して誘うと、敬花は誘惑に釣られたのか、一瞬迷う表情をしてから、断ち
切るかのようにプイ、と横を向いた。
『洗濯は姉さんの言う通りでいいとしても、お昼は嫌です。ピザなんて太るだけですし。
それに、ご飯の残りがあるから、それで炒飯作るつもりでいたんですから』
朝がパンだったから、てっきり昼は麺類とかそういうものだと思っていたが、どうやら
その為に敬花はしっかりご飯の残りを冷蔵庫にしまっていたようだった。それは確かに、
早めに食べた方がいいような気もするが、かといってまた敬花に働かせれば、終日お説教
食らう事になりかねない。
「いーよ。残りご飯なんて夜まで取っておいても多分大丈夫でしょ? 夜はお父さん達も
帰ってくるんだし、お鍋にでもしてさ。残りの汁で雑炊にすればいいじゃん。ピザが嫌な
らガストの宅配にするとか」
しかし、敬花は頑なに首を横に振った。
『ダメですよ。何だって姉さんはすぐに楽な方、楽な方へと持って行きたがるんですか。
いくらお休みだからって、少しは体を動かさないと、却って体に良くありません。大体、
せめて私の為に外へお食事に誘ってくれると言うならまだ話は分かりますけど、デリバリ
ーで済まそうという辺りが、姉さんのダメっぷりを顕著に表してますよね』
「ふうん? そっか。敬花はお姉ちゃんとデートがしたいのかー」
今日はあまり外へ出たい気分ではなかったのだが、敬花の反応が見たくて、わざとそこ
を突っ込んでみた。案の定、敬花は急に顔を真っ赤にして否定しだす。
『ち……違いますっ!! 大体、姉さんと二人きりでお出掛けしたからと言って、女同士
だし姉妹なんだから、デートでも何でもありませんし、バカですか姉さんは。あくまで私
は人としての甲斐性の問題を言ってるだけで、私が行きたいとか一言も言ってないじゃな
いですか!!』
口では頑張って否定してるけど、照れているのは明々白々だ。我が妹はこういう所が実
に可愛い。
「そおなんだ。残念。敬花が、私……姉さんと……デートがしたいです……って、こうさ。
頬染めながらうつむき加減に視線逸らしておねだりしてくれたら、お姉ちゃん、普段より
頑張ってお化粧してオシャレしちゃうんだけどな。どお?」
ニコッと笑顔を見せて誘いかけるも、敬花は握り拳を胸の前で合わせると、私に向かっ
ていきり立って怒鳴りつけてきた。
『嫌ですっ!! そんな事絶対に、死んでもしたくありませんからっ!! 大体姉さんな
んかとデートなんてしたくもありませんし!!』
本当に、この子はひねくれ者というか素直じゃないと言うか。ムキになればなるほど墓
穴を掘ってる事に自分でも気付いていないというのがとてつもなく愛らしい。もっとも、
私としても敬花とのお出掛けは明日にして今日はゴロゴロしたいのが本音だったので、す
ぐにわざとつまらなさそうな声を出して、ソファの上で寝直す。
「なーんだ。敬花が行きたくないって言うなら、別にいいもん。不貞寝してやるから」
『またそれを理由にしてグータラする!! 姉さんにも少しは私を労わろうって気持ちは
ないんですかっ!!』
呆れた顔で傍に立ち、仁王立ちする敬花に、私は寝返りを打って背中を向けた。
「あったけど、全拒否されたじゃない。デリバリーも嫌だ。外食も嫌だ。じゃあどうしよ
うもないもん」
『ありますよ。例えば、その……姉さんが、代わりにお昼ご飯作ってくれるとか。そうし
たら私は楽出来るじゃないですか』
ふむ。どうやらここまでの流れから言って、どうやら敬花は私の手料理が食べたいらし
い、と脳内解釈する。普段ほとんど料理はしない私だが、一応女子として、炒飯や焼きそ
ばやカレー程度なら作る事は出来る。もっとも、敬花のそれと比べると、何を取っても劣って
しまうのが悲しいところだが。
「無理。だってお姉ちゃんだって疲れてるもの。だからやっぱり二人で楽出来る方法考え
ようよ」
自分の体と相談するまでも無く、即答で私は拒否した。敬花は私にお昼を作って貰いた
いらしいが、私としては疲れた体に鞭打って料理した挙句、出来に散々文句を付けられな
がら明らかに味の劣る炒飯を食べるなんて、そんなM気質は持ち合わせていない。
『姉さんはすぐそうやって楽する事ばかり考えて。だからダメ人間なんですよ。いっそ、
勤労感謝の日だからこそ、家事をしっかりやって労働の大切さを学ぶべきじゃないです
か?』
もっともらしい口調で耳元で喚かれ、私は片手で耳を塞ぎ、イヤイヤと首を振った。
「もう毎日残業しまくりで十分労働の尊さは身に染みてますから…… 家でまで味わいた
くないです……」
お願い。甘えて来ないなら、もう私を放っておいて。そう願いながら訴えると、敬花の
気配が微妙に変わった気がした。すると、その気配に応ずるように、意外と物分り良く、
敬花が妙に優しい声を出した。
『分かりました。私に何の貢献もしてくれないとはいえ、確かに姉さんも毎日働いている
のは事実ですものね。体が疲れているというのはもっともです』
私は薄目を開けて敬花を視線に捉え、次の言葉を待った。今、ここで何かを言って好転
しかけた状況を悪化させたとあっては元も子もない。
『だけど、自分の姉を日がな一日みっともなくゴロゴロさせているのは、私の気が済みま
せん。だから、私が姉さんの疲れを取ってあげます』
「へっ……!? な、何するの……?」
私は体を僅かに起こして、足元の方へと移動する敬花を見た。すると敬花は、おもむろ
に私の素足を取ると、持ち上げて足裏に指を這わせつつ笑顔を見せた。
『何するのって、マッサージです。疲労回復にはこれが一番でしょうから』
答えと同時に、足に激痛が走った。
「あいっ…………たああああああっ!!」
余りの痛みに思わず体を仰け反らせ、バランスを崩して上半身をソファから落としてし
まう。
「キャンッ!!」
背中から落ちて悲鳴を上げると、敬花がさすがに心配そうな声を掛けて来た。
『ちょっと、大丈夫ですか姉さん? 頭とか打ってないですか?』
「大丈夫…… 一瞬息が詰まったけど、それだけだから」
自分の体を動かして、背中以外に痛みが無いのを確認すると、敬花はホッとしたように
頷いた。
『全く…… 急に暴れるから落ちたりするんですよ。でもまあ、これでやりやすくなりま
したけど』
「ふぇっ?」
腰から上がソファに残っているので、今私はほとんど逆さまの状態である。敬花はニッ
コリと笑って頷くと、土踏まずの上の部位を親指でギュッと押した。またしても驚異的な
痛みが、しかも今度は連続して続く。
「イタイイタイイタイイタイ!! 敬花止めてちょっ……あーーーーーーーっ!!」
絶叫する私を無視し、敬花は指で丹念に、一番痛い所を探り当てて揉んでいく。
『ここって、胃のツボなんですって。姉さん、暴飲暴食で相当胃に負担掛けてるから、そ
んなに痛がるんですよ。やはりもう少し食生活には気を遣ってもらわないと』
「いいったいってば!! もうちょっと優しく、優しくうっ!!」
懇願しても、敬花の指は一向に力を緩めてくれない。酷い。我が妹がここまでサディス
トだなんて思わなかった。しかし、そう言って敬花を非難する余裕すら、私には無かったが。
『胃がこれだけ痛がると言う事は、当然腸もかなり負担来てるはずですから……ここも痛
いと思いますけど』
「うぐうっ!! いっっっっっっつつつぅ~~~~~~~っ!!」
今度は足の中心部のやや下辺りから外側、そしてかかとの上の柔らかい部分までを順繰
りに圧迫されて、私はくぐもった悲鳴を上げる。逃れようにも体は逆さでしかも片足は敬
花がしっかり持っているから、残った片足だけではもがく事は出来ても体勢を変えて逃れ
る事など不可能だった。
『姉さん。痛いのは、姉さんの日頃の不摂生が原因です。両足の裏をしっかりとマッサー
ジすれば疲労も取れるはずですから、たっぷりと時間を掛けてマッサージしてあげますか
らね。こういう事もあろうかと、足のツボは全部覚えましたから、安心して下さい』
悪魔の微笑を浮かべる妹に、私は涙を浮かべて首を振った。
「ムリムリムリムリ。つか、やるならもっと優しくしてってば。あと、リンパとかも――
っ!! いったあああああああっ!!」
『肩も相当凝ってるみたいですね。全部終わったらサービスでリンパもマッサージしてあ
げますから、楽しみにしていて下さいね』
敬花の笑みが、悪魔の微笑みにしか見えない。フルフルと首を振る私に頷いてから、敬
花は容赦のない足ツボマッサージを私に加え続けたのだった。
「ハア……ハア……ハア……ハアッ……ハア……」
いっそ死んだ方が楽なんじゃないかと思えるくらいの激痛を散々食らわされた後で、さ
らにこれも驚異的に痛かったリンパマッサージまで終えて、私は焦点の合わない目付きで
虚空を見つめていた。敬花は、さも疲れた様子で肩を回し、マッサージで凝った指をほぐ
している。
『どうですか、姉さん? 十分疲れは取れたでしょう? これで、お昼の炒飯を作る気力
くらいは出たと思いますけど。それとも、まだマッサージします?』
手を構える敬花に、私はプルプルと首を振って拒否をした。
『そうですか。じゃあ、そろそろお昼も近いですし、用意の方お願いしますね。私は少し、
姉さんの代わりにゆっくりしますから』
「ちょっと待って。敬花」
私はゆっくりと体を起こし、立ち上がる。背中を向けて自分の部屋に向かいかけた敬花
が、私の方に振り返る。その姿に、私は力なく、しかし精一杯の笑顔を向けた。
「ありがと、敬花。疲れてる私を癒そうとして、頑張ってマッサージしてくれて。おかげ
でちょっと気力も出たよ」
お礼を言われたのが驚きだったのか、敬花は一瞬ポカンとした後、パッと顔を紅潮させ
た。そして慌てて手を振る。
『お、お礼なんてそんな……私は自分の為に……っていうのはその、だらけてる姉さんは
あまり見たくなかったから、だから疲れを取れば少しはシャキっとしてくれるかなって思っ
ただけで、だからお礼を言われる筋合いなんてないですし、それよりちゃんとお昼さえ用
意してくれればそれでいいですから……』
私はウンウンと頷きながら、敬花に近寄ると、その手を取って耳元で囁くように言った。
「うん。でもそれだけじゃなんだからさ。私も、お礼をしようと思って」
言葉と同時に、敬花の背中に手を回し、ソファの方へと押しやる。力いっぱい押したの
で、バランスを崩した敬花は、前のめりにソファに突っ込んだ。
『ちょっと、何するんですか姉さん!! お礼って一体――――キャッ!!』
起き上がろうとするところを、私が足を取ったので、敬花は半身の状態でソファに倒れ
込む。私は、驚く敬花にニッコリと微笑んだ。
「うん。だから、マッサージのお礼に、私もお返ししてあげようと思って。敬花には普段
世話ばっか掛けてるからね。私が疲れを癒してあげないと」
『わ、私はいいですってば!! 疲れているところなんてありませんから――イタッ!!
イタタタタタ!! 姉さん、イタイ、イタイですっ!!』
足の指の付け根あたりを押すと、敬花がもんどりうった。
「ほら。やっぱり目が疲れてる。本ばかり読んで、あまりケアしてないでしょ。それに、
肩も」
今度は足の小指付け根の外側を押す。
『イタイイタイ!! 姉さん!! もっと優しく!!』
「敬花のはもっと痛かったよ? 大丈夫。足ツボは私もマッサージ器持ってるから知って
るし。しっかりと癒してあげるからね」
今度は敬花が涙目で首を振る番だった。私もお返しとばかりに、悪魔の微笑を浮かべる
と、丹念に時間を掛けて、敬花をマッサージしてやったのだった。
『いったああああああっ!! 姉さん、止めて下さいホントに痛いですからイタイイタイ
イタイイタイイターイッ!!』
終わり
何だかんだで仲良し姉妹です。つか、マッサージネタは手を変え品を変え書いてはいるが、
何度妄想しても飽きないねえ
最終更新:2012年12月05日 23:15