75 名前:1/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:13:43.69 0
「あちぃ……」
燦々と降り注ぐ夏の終わりの日差しを浴びて、彼は農道を歩いていた。
「全く、かなみの奴急に来いとか言いやがって。何でこんなクソ暑い真昼間に……」
隣に住む幼馴染の女の子のややキツめで整った顔立ちを思い出し、彼は顔をしかめた。
隣、とは言っても家と家との間は数百メートル離れており、間には広い田んぼが両家の間
に広がっていた。
「土地は隣同士だけどよ。こんなのお隣さんとは呼べないよな」
彼の両親や祖父母は、彼女の家をお隣と言うけど、彼は絶対にそれは違うと思っていた。
隣同士というのは、家と家が隣接して初めて成立するものだと。そんな事を内心愚痴って
いるうちに、さっきから見えていた彼女の家がようやく間近になった。玄関先で彼女の母
が、庭の植物に水をやっている姿が見える。
「こんにちは、おばさん」
年頃の女子の母親とはいえ、小学校に上がる前から何度も遊びに来ている家だけに、彼
にとっては気安い間柄である。いつものように挨拶すると、彼女は振り返って彼を見ると
微笑んだ。
『あら、タカちゃん。遊びに来たの? かなみなら部屋にいるわよ』
彼は頷くと、冗談交じりのしかめつらしい顔をして見せた。
「遊びに来たって言うか、呼び付けられたんですけどね。ついさっき、携帯で今からすぐ
来いって。今暑いからもう少し後じゃダメかって聞いたんですけど、ふざけんな。あたし
からの誘いを拒否るとかあり得ないって怒鳴られて」
肩をすくめると、母親は困ったように家の二階――彼女の部屋のある方――を見上げて、
ため息をついた。
『全く、あの子にも困ったものね。いつになったら、女の子らしさっていうか、女子力を
身につけてくれるのかしら?』
「さあ」
同意する彼と目を合わせて、母親は笑った。彼女の母親との間だと、変なお世辞は却っ
て空々しくなってしまうだけだ。
「それじゃあ、遅くなるとかなみの怒りが倍増するんで、上がらせて貰いますね」
76 名前:2/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:14:22.04 0
お辞儀をして、そう断わると彼女はホースの水を止め、慌てたように彼を押し止めた。
『ちょっと待ってて。と……階段のトコで』
そう言うと、パタパタと駆けて縁側でサンダルを脱ぎ散らかして家の中に入っていく。
そういう所はきっと娘に引き継がれたのだろうなと思いながら、彼はお邪魔しますと挨拶
をして玄関から入り、言われたとおりに階段のところで待っていた。程なく、台所から母
親が姿を見せた。手に持つお盆の上には、濃い茶色のお茶――恐らく麦茶だろう――の入っ
たグラスが二つと追加用のガラスのポット。それに、皿の上にぶどうが二房盛ってあった。
『悪いけど、これ持って上がって。澤田さんところから貰ったぶどうがちょうどあったか
ら、かなみと二人で食べてね』
「すみません。ありがとうございます。ご馳走になります」
お礼を言って、彼は両手でお盆を受け取ると、注意して階段を上った。彼女の部屋の前
に立つとノックをしようとして両手が塞がっているのを思い出し、声を掛ける。
「かなみー。入っていいかー?」
すると、すぐに返事があった。
『いいわよ。どうぞ、勝手に入って』
「悪いけど、ドア開けてくれ。今、ちょっと手が塞がってて」
彼の頼みに返事はなかった。やや、間があってから、ドアがカチャリと音を立て、外側
に開く。
『何なのよもう。開けていいって言ったでしょ? めんどくさいわね』
仏頂面をして、彼女が文句を言う。部屋の中からは彼女のお気に入りのロックナンバー
が流れ、奥を窺うと雑誌が広げっ放しになっていた。どうやら、おくつろぎ中だったよう
だ。呆れた気分で、彼はお盆を掲げて見せた。
「ほれ、これ。二人で食べろっておばさんが」
たちまちのうちに、彼女の顔が喜びで綻んだ。
『やたっ!! 巨峰じゃないこれ。あたし、好きなのよね~』
上機嫌で取って返すと、彼女はポン、とベッドから床に一つクッションを放る。彼が彼
女の部屋を訪れた時にいつも使っている物だ。
『座って。用事の前に、まずは食べちゃいましょ。冷たいうちに食べとかないともったい
ないもんね』
77 名前:3/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:14:53.29 0
ウキウキした声で彼を促すと、彼女は先に自分のクッションに座り、一粒房から取り、
皮から実を搾り出すように剥きながら口に含んだ。
『うん。美味しい。やっぱり初物っていいなぁ』
彼女に倣って、彼もぶどうの実を一粒口に含む。冷たくて甘くてほのかに酸っぱさもあっ
て、それはむしろ抵抗感ではなく爽やかさを感じさせた。
「お? ホント美味いな。これ」
もう一粒取りながら、彼は彼女に感想を言う。すると珍しく、素直に笑顔で彼女は頷い
た。
『でしょ? あたしが大好きだって知っててさ。お母さんのお友達が毎年実家から送って
くるのをお裾分けしてくれるようになったの。他のぶどうも好きだけど、これだけは一年
に一度しか食べられないから、特別なのよ。そういうのをご馳走してあげてるんだから、
感謝しなさいよね』
「はいはい。いや、本当に美味しいし、有難く思ってるよ」
ちょっと恩着せがましい言葉に、やっぱりいつもの彼女だとおかしく思いつつ彼は頷い
た。彼女が満足気にぶどうを食べ続けているのを黙って見つつ、果たして何で自分が呼ば
れたのかを考える。勉強道具が広げてある訳でもないし、ゲームの攻略法が分からないか
らと呼ばれた様子もない。退屈してるなら、何かしら暇つぶしを持って来るように事前に
要求するし、めんどうな家の用事を手伝わされでもするのだろうか。
『早く食べちゃって。別にぶどうご馳走する為にアンタを呼んだんじゃないんだから』
気が付くと、彼女のぶどうの房は、もう綺麗に無くなっていて彼女は二杯目の麦茶で口
を潤しているところだった。
「さすがにそれは分かってるよ。かなみがそんな親切じゃないってのもな」
憎まれ口を叩き返すと、彼女の顔がみるみるうちに不満そうな色に染まる。
『わ、悪かったわね。親切じゃなくって。ていうか、失礼よ、それ。誰が親切じゃないっ
て? 確かにタカシに分けてあげるような親切心は持ち合わせてないけどさ。他の人には
そうじゃないんだからね』
「いや。だから、俺に対しては、そんなに親切じゃないんだろ? 別に間違ってないと思
うけど」
言い負かした、とちょっと得意気になる彼に、彼女の表情が悔しげになる。
78 名前:4/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:15:24.67 0
『目的語を省略しないでよね。わざとぼかしておいて後から付け加えるように言うなんて
ズルい』
憤慨して、彼女はグラスに入った麦茶を一気にあおる。
「省略したって、状況とか前後の言葉で誰に対しての言葉かくらい察しないとな。そりゃ、
俺だってかなみが学校でも、近所の手伝いとかでも積極的に手助けしてるってのは良く知っ
てるし」
からかいつつもさりげなく褒め言葉を混ぜられ、怒りと照れが同時に襲ってきて彼女は
歯噛みした。
『そういう言い方、卑怯!! もういいから、おしゃべりしてないで早く食べちゃってよ
ね。さっさと用事済ますんだから』
敗北宣言とも取れる捨て台詞を吐いてから、彼女はとっとと言い合いから撤退した。あ
まりからかっても怒りを買い過ぎるだけなので、彼は言われたとおりに残り僅かになった
粒を口に含みつつ、我慢し切れなくなって聞いた。
「で、その用事って何なんだよ。何すればいいかくらい、説明くらい出来るだろ? お前
はもう食い終わってるんだし」
すると、思いがけず、彼女が驚いたように目をパチクリとさせて彼を見た。それから、
落ち着かない様子で彼女の視線が宙を迷い、床へと落ちる。
『え、えーっと……用ってのはね。その……』
もごもごと口ごもって答えようとしたものの、やがて言葉は消え入り、彼女は黙ってし
まう。訝しく思って彼がどうしようか聞こうと思ったその時、彼女は首を激しく振ってか
ら、彼を睨むようにジッと見つめて言った。
『やっぱりダメ!! 口で説明するより、実際にやった方が早いから。だから、早く片付
けちゃってよ』
「わ、分かったよ」
思いもかけず自信の無いような彼女の態度に、普段と違うものを感じて、彼は黙って残
りを食べ始めた。こんな態度の彼女を見る事なんてほとんど無かったから沸き立つ疑問は
抑えられなかったが、彼女が頑ななのは知っているだけに、こうなったら絶対に食べ終わ
るまでは教えてくれないのは分かっていた。
「ほれ、食い終わったぞ」
79 名前:5/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:15:55.58 0
実が全部取られて枝だけになったぶどうを持ち上げて示すと、あぐらを掻いたまま体を
横に向けて窓の外を無言でジッと睨むように見ていた彼女が、ジロリと横目で彼に視線を
向けた。
『遅い。待ってる方の身にもなってよね』
「そんな事言ったって、あんまり詰め込んで食べるともったいないだろ。これでも急いで
食べた方なんだから、勘弁してくれよ」
そう言い訳しつつ、麦茶を口に含む彼から視線を元に戻し、彼女はため息をついた。そ
れから、よっと勢いをつけて立ち上がると、やや斜め横に向き、彼を上から見下ろした。
『それじゃ、そこにそのまま座って見てて。あたしが聞くまで、何も言わないでね』
「は?」
咄嗟に彼が聞き返す。用事があると言われて来たのに、何もせず座ってろと言われたの
だから、疑問に思っても致し方ない。が、彼女はまた怒った様子で彼を怒鳴りつけた。
『いいから言う通りにして。すぐ……済むから……』
「まあ、そう言うなら……」
納得は行かなかったが、彼はそう言わざるを得なかった。渋々ながら頷く彼を見ると、
彼女は視線を逸らし、唇をギュッと真一文字に結んで床を見つめた。思っていたよりも体
は緊張していて、心臓がドキドキする。しかし、ここまで来た以上はもう前に進むしかな
い。グッと心の中で気合を入れると、彼女は両腕をクロスさせて、着ていたTシャツの裾
を一気に捲り上げた。
「お、おい!? 何やって――」
黙っていろと言われたにもかかわらず、彼女がTシャツを捲り上げた瞬間、彼は思わず
声を出してしまった。白いお腹にくびれた腰つき。そして更にその上が捲れ上がり、彼の
視線に飛び込んできたのは、可愛らしいフリルの付いた、黄色のパステルカラーのビキニ
だった。
Tシャツの袖から腕を外し、完全に脱ぎ終えると、彼女は綺麗に形を整え、簡単に畳んで
床に置いてから、言葉を失ったまま呆然と彼女を見ている彼に、不機嫌そうな視線を向け
て聞いた。
『黙っててって言ったでしょ? 何よ一体』
すると彼は、慌てて手を振ってそれを退けた。
「い、いや。何でもない。続けてくれ」
80 名前:6/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:19:23.69 0
フン、と一つ荒い鼻息をしつつ、彼女はショートパンツに手を掛ける。この不機嫌さは、
わざとだった。予告無しに服を脱ぎ出した事で、彼を動揺させようという思惑は、どうや
ら成功したらしい。
『はい、お待たせ』
ショートパンツも畳んで、Tシャツの上に置いてから、彼女は体を起こして彼に正面を見
せて立つ。部屋の中で晒された彼女の水着姿を声もなく見つめている彼に、彼女は両手を
腰に当てて偉そうなポーズを取り、彼を見下ろした。
『何、ボーっと見てんのよ。何か言ったらどう?』
偉そうに命令口調で指図する彼女に、その肢体に見惚れていた彼は、ハッと我に返って
視線を外す。
「い、いやその……言えって、何を言えって言うんだよ?」
困惑した彼の言葉に、彼女はまた、呆れたような大きなため息を一つ吐く。
『ハァ…… 女の子が水着姿晒してるんだから、色々と思うことあるでしょ? 可愛いと
か綺麗とか色っぽいとかさ。何でもいいから素直に感想言いなさいよって事。それくらい
理解しなさいよね』
さっきの仕返しも含んで、ちょっとバカにするように彼女は言った。すると、急におか
しくなって、彼が思わず笑みを零しつつ、冗談っぽく文句を返して来た。
「お前、感想を要求するのは良いとしてもさ。普通自分から言っちゃうか? 可愛いとか
綺麗とか色っぽいとか」
そこを指摘されて、彼女の体が一気に火照る。真っ赤になった顔で彼を睨みつけると、
彼女は怒鳴りつけた。
『う……うるさいわね!! あれは物の例えで……っていうか、いいじゃないのよ別に、
そういう感想求めたって。あたしだって女の子なんだから、やっぱりその……可愛いとか、
言われたいのよっ!!』
そして、クルリと背中を向けてしまう。実は彼女も、正直言ってここまで恥ずかしさを
覚えるとは思ってもみなかったのだ。川や海で遊んだ事は何度もあるし、水着姿だって何
回も見せてはいるが、こんな風に自分の部屋で、初めて着た水着を二人っきりで彼に見せ
る事がこんなにもドキドキするという事に、彼女自身動揺していた。
「いや、その……」
81 名前:7/7[sage] 投稿日:2012/09/16(日) 18:20:14.00 0
彼女の態度に、からかった事を彼はちょっと反省していた。何と答えれば彼女の気を良
くすることが出来るかちょっと考えたが、正直に答える事にした。お世辞を言っても、多
分彼女には分かってしまうだろうし、仮にバレなくても、自分の気が引けてしまう。なら
ば、仮に機嫌が直らなくても、この方が後悔はない。
「正直、突然の事でさ。何ていうか……驚いちゃって、つい見入ってたから……感想とか、
思いついてないんだ。悪いけど……」
背中を向けたままの彼女を見つめる。田舎育ちなのにほとんど日焼けしていない白い肌
は、肩から腰までほとんど全てが露出している。ビキニの紐と、臀部をピチッと覆った、
これもフリル付きのパンツだけがそれを覆い隠していた。すると、彼女の肩がピクッと震
え、彼女が僅かにこっちを向く。
『……じゃ、じゃあさ……』
彼女は胸の下で腕を組み、体を縮み込ませる。恥ずかしさに、弱気に流されないように
ともう一度心を引き締めてから、クルリと体を反転させ、片手を下ろし、視線を斜め下に
向けて俯く。胸がドキドキするのを感じつつ、彼女は口を開いた。
『今からでも……あたしをしっかり見て、そして、ちゃんと感想を言って』
明日に続きます(´・ω・)ノ
最終更新:2013年04月18日 13:53