160 名前:1/4[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 06:07:55.74 0
「ほら」
『なっ……何が、ほら、何ですか。意味が分かりません』
「いや、だからさ。あだ名で呼んでも、最初はビックリしたけど、でも全然嫌がってなかっ
たし、むしろ喜んでなかったか?」
『そっ……それはその……お屋敷のメイド達と私じゃ立場が違うじゃないですか。みんな
はあくまでその……旦那様に仕えるメイドですもの。旦那様にあだ名で呼ばれたら、きっ
と拒否されるに決まってます』
「うーん…… 親父がメイドをあだ名で呼ぶとは考えにくいけど、でも心配はしても拒否
したりはしないんじゃないかな? 主人が望んで言ってる以上、止めはしないと思うけど」
『と、止めるかどうかなんて、そんなの分からないじゃないですか。大体、悠さんとかは
旦那様に対しても、たまに軽い態度取ってメイド長に怒られてるじゃないですか。参考に
なりません』
「悠だけじゃなくて、英子ちゃんとか他のメイドも、すごいウケてたし」
『最悪です。これで私がまた一つ、お屋敷に戻れないネタが出来てしまったじゃないですか』
「めいめいは真面目なだけに弄られやすいからなあ……」
『だから、めいめい言うの止めて下さいっ!! あと、私は本来は決して弄られキャラじゃ
ないんですから。全部、タカシ様が悪いんですからね』
「え? 俺が何かしたっけ。別にめいめいのドジッ子ぶりをお屋敷で話したりとかしてな
いと思うけどな」
『タ、タカシ様が何かなさったとか、そういう訳じゃありませんが……って、今ドジッ子っ
ておっしゃいましたよね? 私は決してドジなんかじゃありませんよ? たまに考え事し
て失敗する時だってありますけど、それは使用人としても許容範囲のレベルですから』
「分かってるよ。今のは冗談だってば。めいめいがどれだけ一生懸命尽くしてくれてるか
は、俺が一番良く知ってるから」
『か……からかうのは止めて下さいっ!! あと、そのあだ名。いつまでお続けになられ
るつもりですか?』
161 名前:2/4[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 06:08:31.01 0
「ああ。せっかく考えたんだし、今日一日くらいは使ってみようかなって。後は時々、気
まぐれで」
『いい加減止めて下さい!! その呼び方で呼ばれると、仕事に張りが無くなります』
「じゃあ、今日はもう終業でいいよ。大丈夫。別に時間分削ったりとかしないから」
『お金の問題じゃなくても、そんな事出来ません!! 大体、まだ夕食の支度もお風呂の
準備もしていないんですよ? やる事いっぱいあるのに、お休みとか出来ません』
「そういうトコ、融通が利かないって他の子に言われるんだよ。お屋敷のメイドさん達な
ら、有給の早退扱いなんて喜ぶと思うけどな」
『あの人達は、大勢いるから代わりがいるじゃないですか。タカシ様にお仕えしているの
は私一人なんですから、私がやらなかったら、やる人がいません』
「だから、別に誰かが絶対やらなくてもさ。夕食なら出前頼めばいいし、お風呂は近くに
あるスーパー銭湯にでも行こう。たまには天然温泉の湯もいいじゃん」
『出前なんて、大抵ロクなものがないじゃないですか。脂っこくてカロリーが高いのばか
りで。タカシ様のお体に触ります』
「一応言っとくけど、別府家だよ? どんなお店だって、ちゃんとお金払えば持って来て
くれるさ。この間行ったフランス料理の……フェブルマン・アン・コミーテってお店もさ。
もしご家庭でご賞味くださるなら、是非シェフを派遣しますとか言ってたし」
『そういうのを無駄遣いと言うんです。一体どれだけのお金を一回の夕食に掛ける気なん
ですか』
「まあ、今のはあくまで一例としても、有名なお蕎麦屋さんとかでもいいじゃない。だか
ら、今日はめいめいはこれでお休み。それでいいよね」
『よくありませんってば。タカシ様が許可を出されても、私にはやる事がいっぱいあって
休んでいられないんですから』
「よし。じゃあ、ここはじゃんけんで決めようか」
『何でじゃんけんなんですかっ!! 意味が全く分かりませんっ!!』
「だから、芽衣が勝ったらめいめいって呼ぶのは止める。芽衣も普通に仕事していい。そ
の代わり、芽衣が負けたら俺がめいめいって呼ぶだけじゃなくて、芽衣も俺をあだ名で呼
ぶって事で。あと、敬語も禁止ね」
162 名前:3/4[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 06:09:14.84 0
『ちょ、ちょっと待って下さい!! 何で私までタカシ様をあだ名で呼ぶ事になっている
んですかっ!! 何でそこで罰ゲーム増やすんですっ!!』
「いや、だってさ。俺がめいめいって呼ぶだけなら、勝負しなくたって出来るんだよ? そ
れを敢えて、めいめいの為にじゃんけん勝負に持ち込むんだから、めいめいにもそれなり
のリスクを負って貰わないと」
『じゃあ、勝負を拒否した場合は、どうあってもめいめいと呼び続けると、そうおっしゃ
られるんですね?』
「うん。さあ、どうする芽衣? 受けるか、引くか。俺は別に引いて貰った方がリスク少
なくていいけどね」
『(ううう……負けたら、私までタカシ様をあだ名でだなんて、そんな失礼で恐れ多い事出
来る訳無いのに……でも、逃げたらずっとめいめいって呼ばれる事に…… さっきからそ
う呼ばれるたびに、心の中がくすぐったくって折れそうになってしまうのに……)』
「というかさ。勝負逃げたら、めいめいって呼ばれながら仕事するのか。大丈夫なの、め
いめい? さっきもあんなに動揺してたのにさ。めいめい、お風呂まだ?とか聞かれて、
まともに対応出来る?」
『ででっ……出来ます……ともっ!! さ、さっきのは不意を突かれたからで、心さえ静
めれば……きっと……多分……うう……』
「自信ない感じだね。でも、勝負受ければ少なくともドジッ子メイドを披露する事は無く
なるよね。だって、負けたらお休みだから、めいめいって呼ばれても緊張で失敗する事は
無い訳だし」
『ムカッ。何ですか、さっきからその勝ち誇った態度は。私が勝てば、めいめいだなんて
バカなあだ名も無くなるじゃないですか。なのに、私が負けた時とか逃げた時の話ばかり
して、正直主人の物言いとはいえ、ちょっと頭に来ます』
「まあ、負けたら何にもなくなっちゃう訳だけど、それはいつも通りだから想像するまで
もないしね。で、心は決まった?」
『分かりました。その勝負、受けます』
「お? やる気になったんだ。偉い偉い」
『茶化さないで下さい。めいめいだなんて呼ばれるのは真っ平ゴメンですから』
「まあ、そう来なくちゃね。芽衣が嫌がってるのを一方的に俺だけが言うのは、実は正直
ちょっと気が引ける気もしてさ。けど、これで何の気兼ねも無くなったから」
163 名前:4/4[sage] 投稿日:2012/09/26(水) 06:10:11.98 0
『タカシ様と対等の勝負……というのは、メイドとしては申し訳なく思いますが、これは
私も引けませんので』
『(そう……勝てばいいのよ。勝てば……でないと、ずっとめいめいなんて呼ばれて褒めら
れたりしたら……私……どうなっちゃうか……)』
「それじゃあ、一発勝負で行くよ。いい?」
『は、はい。では……失礼して、勝負させていただきます』
「では行くよ。せーの」
「『じゃーんけーん……』」
続く
果たしてめいめいの運命は……
最終更新:2013年04月18日 14:05