411 名前:双子・告白・髪飾り その2 1/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:16:36.72 0
「で、映画の前に昼飯でいいんだよな?」
電車を降りて改札を抜けると、タカシが一度立ち止まって私達に確認する。私はそれ
に頷いて答えた。
「だって、上映二時半からじゃない。二時に映画館に入るとしても一時間以上あるし。
ていうか、その為に早めに集まったのに、わざわざ確認する必要あるの?」
「ああ、いや。念の為にと思ってさ。で、何食いたい?」
すると、彩花が真っ先に手を上げた。
「はいはい。私、ラーメンがいいな」
「はぁ?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。正直、彩花の口からその意見が出てくる
とはまるで予想していなかったからだ。
「何? 私、何かおかしい事言ったかな?」
向こうも意外そうな顔で首を傾げて私を見つめる。私は首を左右に振って気を取り直
すと、ごまかすようにこめかみの辺りをポリポリと手で掻いてわずかに視線を逸らしつ
つ答える。
「べ、別におかしくはないけど、ちょっと意外って思っただけで…… タカシもそう思
わなかった?」
「は? 俺?」
唐突に振られて戸惑った態度を見せるタカシだったが、すぐに気を取り直したのか、
ちょっと考えてから答えた。
「うん。まあ彩ちゃんがラーメンってのはちょっと意外かもな。パスタとかサンドウィッ
チとか、そっちの方をイメージするし。どっちかと言えば、香菜美の方が言い出しそう
だと思ったけど」
「何で私なのよっ!!」
その言い方にはちょっと引っ掛かるものがあったので、私は即座に突っ込む。
「フン。どーせ、私の方が女の子らしくないとかそういう事言いたいんでしょ? タカ
シのバカ。バーカバカ。ホント、失礼なんだから」
412 名前:双子・告白・髪飾り その2 2/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:17:07.90 0
「おいおい。誰もそんな事言ってないだろ?」
悪態を吐く私に、タカシは心外そうな態度を見せる。しかし、私は挑みかかるように
睨み付けると、さらに文句を言い続けた。
「口には出してなくても、顔にそう書いてあるもの。彩花は女の子らしくてオシャレな
雰囲気が似合うけど、私はガサツだって」
「香菜美はひがんでるのよね。タッくんに私と比較して、女の子らしく思われてないっ
て思ったから」
クスクス笑いながら指摘する彩花に、私はハッと我に返る。それから急いで二人に弁
解した。
「ちっ……違うわよっ!! 別にタカシに何と思われようが構わないけど……っていう
か、単にムカついただけよ。こんな男らしさの欠片もないような奴に、女の子らしくな
い扱いされたから!!」
ムキになったり必死さが見えたりしていないだろうかと、私はちょっと不安に思って
タカシを見た。すぐ傍で彩花が面白そうな顔をして見ているのが癪に障ったが、ここで
怒ると墓穴を掘りそうなので、グッと我慢する。
「別に、ラーメンが好きとか、パスタが好きとかで女の子らしさを決めるつもりなんて
ないけどな」
サラッと自然な雰囲気でタカシが答えた。私は一瞬、ハッとしてタカシを見たが、す
ぐに反撥心が湧いて出て、また睨み付ける。
「嘘よ。仮にそういうつもりが無かったとしても、心の片隅で絶対私と彩花を比較して
見てたに決まってるわ」
そう決め付けられても、タカシはムキになって言い返すことは無かった。小さく肩を
すくめて、チラリと彩花に意味ありげな視線を送ってから、私に向かってやや呆れた表
情をしてみせた。
「お前がそうとしか思わないってんなら仕方ないけどさ。そもそも、女の子らしいとか
らしくないとかって、好み一つで決まるものなのかな? どう思う?」
「ど、どう思うって聞かれても……そんなの分かんないわよ。っていうか、逆質問なん
てズルい」
答えが思いつかなくて、ぶちぶちと文句を言うと、タカシは微笑んで見せた。
413 名前:双子・告白・髪飾り その2 3/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:17:40.66 0
「いや。香菜美のいう女の子らしさってどういうものなのかなって思って。単に可愛ら
しい服着て、オシャレなお店好んでいれば女の子らしいってのもまた違うんじゃないかっ
て俺は思うんだけど」
「じゃあ聞くけど、アンタの考えてる女の子らしさってどういうものなのよ?」
苛立ちよりも興味の方が勝って、私は聞く。するとタカシは難しい顔をして考え込む
ように途切れ途切れに答えた。
「うーん…… そう言われても、あくまで俺視点からでしか答えられないけど……細や
かな気配りとか出来たりとかってのは、一つあると思う。後は、実は繊細で傷付きやす
かったりとか、性格がまめだったりとか…… まあとにかくさ。食べ物とか服のセンス
で決めるようなもんじゃないとは思うよ」
「今のって、私に該当するようなもの、一つもなくない?」
半ば不満に、半ば不安に思いつつタカシに質問すると、タカシはすぐに否定してきた。
「いや、そんな事ないぞ。香菜美って俺の髪型とか服装が乱れてるとすぐにチェックし
て直せ直せってうるさいじゃん。まあ、指摘の仕方ってのもあるけど、でもそういう細
かい所は女の子らしいと思うけどな」
「それは、アンタがだらしないと私まで同類に思われて嫌だからよ。っていうか、アン
タそれって、悪い意味で女の子らしいとか思ってないでしょうね? うざったいとか」
「お前ってすぐ悪く取るよな。確かに言われた時はそう思うこともあるけどさ。概ね、
感謝してるんだぜ。動機はどうあれ、注意してくれるってのはありがたい事だし」
いささか呆れつつも、素直にお礼を言われて私は何か、酷く気恥ずかしくなった。
「フ……フンッ!! べ、別にそんな……アンタの為を思ってやったとか、そんなんじゃ
ないんだから……」
ついつい視線を外してうつむいてしまった。ちょっと顔が火照っているのを自覚する。
と、背後から唐突に抱きつかれた。
「良かったね、香菜美。タッくんに女の子らしいって、ちゃんと思われてて」
「だあーっ!! あ、彩花!! いきなり抱きついてこないでよ、うっとうしいわね!!」
顔の間近に顔を寄せて、彩花は嬉しそうに笑った。振り解こうともがいてみせるも、
巻きついた両腕は離れようとしない。
414 名前:双子・告白・髪飾り その2 4/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:18:11.66 0
「だって、私も嬉しいんだもん。香菜美が褒められるのは。だから、喜びを共有しよう
と思って」
「だからって抱きつく事はないでしょ? 全く、高校生にもなって甘えてくんな!!
いっくら双子だからって、人目あるってのに」
「そんなの気にしてたら、香菜美と仲良く出来ないじゃない。いーの。今は、香菜美に
くっ付きたい気分だったんだから」
「分かったから離れなさいってば!! 私はうっとうしいの。彩花が喜んでくれてるの
は良く分かったけど、私は別に嬉しくもないし」
「嘘。照れて視線逸らしてたの、ちゃんと見てたもの。他の人はごまかせても、私の視
線はごまかせないわよ」
「そういう事言わないの!! タカシが誤解したらどうすんのよ!!」
こんな事で変に勘繰られたくないとタカシを見たら、いつの間にか私達とちょっと距
離を置いて、携帯なんかを開いて見ていた。
「ちょっと、彩花。タカシにまで他人のフリされてるじゃないのよ!! ほら!!」
体を揺すって彩花を振り解くと、今度は素直に私から離れ、彩花はタカシに詰め寄った。
「タッくん酷いっ!! 何で知らん振りしてるのよ!!」
「い、いや。俺、割って入る余地無かったからさ。二人の話が終わるまでは係わんない
方がいいかなって思って」
慌てて弁解するタカシを前に、私はちょっと意地悪な気分で口を挟んだ。
「フーン…… どうせ、私達と同類に見られるのが嫌だからって、素知らぬ顔決め込ん
でたんじゃないの?」
「えー。タッくんってば、私達のこと、そういう風に見てたんだ。信じられない。私は、
タッくんも一緒だと思ってたのに」
彩花に詰め寄られ、タカシは必死で否定しつつ、私に向かって抗議して来る。
「違うってば。誤解だから、彩ちゃん。つか香菜美、お前分かってて火に油注ぐような
事言ってるだろ。ふざけんなよ」
「なんで私のせいになるのよ? 私達のやり取り無視して離れた場所で携帯いじってた
んだから、言い訳の余地もないと思うんだけど」
415 名前:双子・告白・髪飾り その2 5/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:19:19.47 0
タカシが真剣に困っているのが内心ちょっと面白く思いつつ、私は軽く一蹴する。彩
花に睨み付けられ、私にはそっぽを向かれ、味方がいないのを確認したタカシは、ガクッ
と首を折って敗北を認めた。
「分かった。悪かったよ。少なくとも他人のフリしてた事は謝る。けど、こんな往来で
姉妹でベタベタしてれば目立つって事も、少しは分かってくれよな」
どうやら、多少は自分を正当化したかったらしく、タカシは一言余分な忠告を付け加
える。とはいえ彩花には一言ある私もそれには同意だったので、彩花に文句言おうと振
り向いたその途端、彩花が私にくっ付いて来た。
「あら? 私達仲良し姉妹なんだもん。別にいいと思うんだけど。それに香菜美。あの
程度のやり取りなら、どこでも当たり前にやってる事だもん」
「だから当たり前にやらないでっつってんの。人目引いて恥ずかしいから、タカシだっ
て他人のフリしたりするのよ。分かる? 全部彩花が悪いんだからね」
軽く腕を振って彩花を振り払うと、彩花は私の体からは離れたものの、恨みがましそ
うに私を睨み付けた。
「ズルイわよ、香菜美。上手い事タッくんの味方して点数稼ぎしようとするなんて。こ
のひきょーもの」
「誰が卑怯者よ。タカシなんて関係ないわ。単に彩花に人前で私にくっ付くなってそれ
だけよ。もう高校生なんだから、いつまでも甘えるのなしだって」
「ヤダ。いくつになっても私達の関係は永遠だもん。変わるなんて認めたくないわ。も
ちろんタッくんもね」
「で、飯どうすんだよ。ラーメンでいいのか?」
いつまでも終わりそうにない私達のやり取りに、いい加減飽き飽きした声でタカシが
割り込んでくる。私もいい加減打ち切りたかったから、今回はタカシに乗らせてもらう
事にした。
「私は別に構わないわよ。ラーメン好きだし。行くならモールの中じゃなくて、商店街
のほのぼの亭がいいな。あそこの辛味噌ラーメンすっごい美味しいから」
「ホント? 香菜美が美味しいって言うなら絶対美味しいに決まってるわ。じゃあそこ
にしましょうよ。うん」
416 名前:双子・告白・髪飾り その2 6/6[sage] 投稿日:2012/10/25(木) 07:20:01.18 0
即座に食い付いて来た彩花を見て、タカシは何だか子供を見るような顔つきで僅かに笑うような吐息を漏らして頷く。
「いいよ。俺は特にリクエストはないから、行きたいトコがあるならそこにするか」
「じゃあ決まりね。タッくん、香菜美。行こ? 私、もうお腹空いちゃったから」
彩花が片手で私の腕を、もう片手でタカシの腕を取る。私はそれに一瞬顔をしかめて
から、ふとタカシを見た。するとタカシもちょうど私を見つめたので、視線が交錯する。
声に出さずに表情で彩花への不満をタカシに示すと、タカシは呆れた感じで首を横に振
り、肩をすくめてみせた。
「ほら、早く」
彩花に急かされつつも、一瞬、タカシと共通の意志が交わせた事に、私はちょっと嬉
しさを覚えたのだった。
続く
最終更新:2013年04月18日 14:43