485 名前:1/5[sage] 投稿日:2012/10/31(水) 07:16:14.91 0
  • 男をスルーするツンデレとスルー出来ないツンデレ ~後編~

『次に、あたしの傘小さいもの。普通にアンタと一緒に入ったら肩が濡れちゃうの。アン
タを濡らさない為にあたしが何で犠牲にならなくちゃならないのか分からないし。それに、
人目につくのもヤなの。下手に知り合いとかに見られて噂にでもなったら自殺ものよ。ア
ンタなんかとスキャンダルになるなんて、考えただけでもう、超最悪だし』
 顔を歪めて、かなみは真剣にイヤイヤと首を振った。普通なら女子にこんな顔でダメ出
しされたら結構ショックなのだろうが、かなみが俺にこういう顔をするのはいつもの事だ
し、その割に結構傍にいる事が多いので、これもコミュニケーションの一つと最近はあま
り気にしなくなっていた。
「なるほどね」
 頷きつつ、俺は考える。どうやら、工夫次第では乗り越えられそうな理由だったので、
ちょっとホッとしつつ、俺はまずは楽な方から答える事にした。
「じゃあ、絶対にかなみを濡らさないって約束しても、ダメか?」
 そう言うと、何故かかなみは体をピクッと小さく反応させた。それから慌てて顔を逸ら
しつつ、目線だけは俺の顔をしっかり捉えて聞き返してくる。
『濡らさないって……結構雨足強いじゃない。そんな事、約束出来るわけ?』
 俺は、しっかりと頷いた。
「ああ。もちろん背丈の関係があるから傘は俺が持つけどさ。柄の部分を二人の間じゃな
くて、かなみの体の中央に持って来ればさ。かなみの位置は傘の中心に来るから濡れない
だろ? 俺は入れてもらう側だし、ある程度濡れたって仕方ないって諦められるから」
『じゃあ、もしあたしが濡れたら……どう、責任取るの?』
 そう聞かれたので、俺はおどけて肩をすくめた。
「そりゃ、かなみの言う通りにどんな罰でも受けるさ。責任を果たせなかった以上は仕方
ないしな」
 するとかなみは、思案げな顔で黙り込んでしまった。しばし考え込んでから、顔を上げ
て俺を見て問い質す。
『……もしかして……もう一つの理由も、同じように答えるつもりなの? その……誰か
にバレたらイヤだからって言うのも……』

486 名前:2/5[sage] 投稿日:2012/10/31(水) 07:16:50.04 0
 そっちはリスクが少ないから、説得だけで何とかする気ではいたが、確かにそう言って
もし噂になった時の事を考えたら、同じように責任を取らなければならないだろう。そう
結論付けて、俺は頷いた。
「ああ。ま、この時間は中途半端な遅さだし、あまり帰ってる生徒もいないし。それに雨
の勢いが強いから、そんな他人に構ってる余裕はないと思うけど、万が一バレたら、同じ
ように責任取るよ」
『そっか…… ちょっとでも濡れたら、タカシを自由にコキ使えるのか……』
 どうやらこのお嬢さん。ちょっと良からぬ事を企んでいる気がする。とはいえ、そこは
俺が頑張って濡らさないよう鉄壁のガードをすればいい訳だし、背に腹は代えられない。
それより、かなみがあともう一歩踏み出す為に、もう一押ししなければならない。そこで、
俺はあともう一つ、条件を出すことにした。
「ああ。ラーメンとドーナツ奢って貰えて、万が一濡れたら、俺に自由に責任取らせてい
い。こんな雨じゃ顔バレの心配もほとんどないし。あと何が問題なんだ?」
 わざとメリットを立て続けに並べて、俺は確認する。それにかなみは煮え切らない態度
を見せた。
『うん……それはその……分かっているんだけど…… その……』
 何がかなみを迷わせているのかは分からなかったが、やはりあと一押しは必要なようだ。
俺は、スッと手を出して人差し指を立てて見せた。
「じゃあ、俺からも一つ条件を。もし、かなみがそれでも俺を放り出して帰るっていうな
ら……そうだな。今週のサ○デーとス○リッツの内容。全部ネタバレする」
『えーっ!? や、止めてよそれ!! 楽しみにしてるんだから。つか、早く貸せ!!』
 週刊漫画誌は俺に頼ってるかなみは、物凄く不満気な顔で文句を言った。それに俺は頷く。
「ああ。家にあるからさ。帰りについでに俺んち寄れば、渡してやるよ。で、どうする?
傘に入れてくれればいいことだらけだけど、入れてくれなければ漫画のネタ晴らしまでさ
れちゃう訳で。ま、決めるのはかなみだけど」
 最後はわざと突き放すように言うと、かなみはうーっ、と小さく唸ってから、まるでケ
ンカでも挑むように、居丈高な態度で答えた。

487 名前:3/5[sage] 投稿日:2012/10/31(水) 07:17:28.69 0
『わ、分かったわよ。どのみちアンタ見捨てて風邪でも引かれたら寝覚めも悪いしね。そ
こまで言うなら、入れて帰ってあげるわよ』
「よし。商談成立!!」
 出費は多少痛いが、どうやら上手く行ったようだ。俺は手を叩いて喜びを表しつつ頷い
てかなみを促した。
「じゃあ、もう帰ろうぜ。こんなトコで立ち話してても寒いだけだしよ。ほら。傘貸して」
 手を出すと、かなみは素直に自分の可愛らしい水色の傘を差し出した。
『はい。しっかりと差してよ。あたしの事、少しでも濡らしたらホントに承知しないんだ
からね』
「分かってるよ。よっと」
 ワンタッチのボタンを押して傘を開く。それからかなみを手招きした。
「ほれ、入って」
『分かってるわよ。全く、何の因果でアンタなんかと相合傘なんて…… 色々役得有りと
はいえ、やっぱり冗談じゃないわよ』
 ぶつくさいいつつ傘の下に入るかなみに、俺はそっと手を伸ばす。
「もうちょっと近く寄って。ほら、このくらいに」
 肩をそっと抱いて、グイッと引き寄せる。途端にかなみが驚いて声を上げた。
『ちょ、ちょっと!? 何すんのよ一体』
「濡らさない為には、もうちょっとくっ付かないとと思って。ほら。これで傘の中心だ」
 片手でかなみを抱き寄せたまま、もう片方の傘を持つ手を顔の前辺りに持ってくる。
『だからって……肩を抱く事ないでしょうが……』
「イヤか?」
『イヤに決まってるじゃない。こんなの……』
 その割には、全く抵抗をしないのが不思議だが。まあ、口でいやいや言いつつ、結局従
うなんてのは、そう珍しくも無い。それを知っていなければ、俺もここまでは出来なかっ
ただろう。
「ま、家に着くまでの間だ。我慢しろよな」
 そう言い聞かせると、かなみはフン、と荒い鼻息を吐く。
『全くもう……万が一にもこんな姿を友子辺りに見られたら、全く言い訳出来ないわよ……』
 クラスの友達で、ゴシップネタ大好きな女の子の名前を挙げて、かなみはぶつくさと文
句を言う。俺はわざと、雰囲気を作るように耳元で小声で言った。

488 名前:4/5[sage] 投稿日:2012/10/31(水) 07:18:01.29 0
「顔をさ。俺の方に向けて俯いて縋り付くようにすれば、恋人同士には見られても、逆に
顔は見えないから、誰かは分からないと思うぞ」
 果たして、乗ってくるかどうかは疑問だったが、少し迷ったあと、かなみは小さく頷い
た。そして、俺の腰に手を回し、顔を脇の辺りに当てて来る。
『こ……こんな事までしなくちゃならないなんて、ホント最悪……』
 口では最悪と言っているけど、声が震えているのが動揺を伝えてくる。かくいう俺も、
内心では心臓がドキドキだ。かなみ相手に異性を意識しても、まさかここまで動じるとは
思ってもみなかった。それを押し隠して、俺は敢えて気楽に言った。
「んじゃ、ま。帰りますか」
『うん……こうしてると、あんまり前が見えないから……エスコートも、頼むわね?』
「了解。任せとけって」
 頼もしげな口調で答えると、俺はかなみを寄り添わせたまま、雨の中へと足を踏み出す。
そして俺たちは、まるで本当に恋人のように、家路についたのだった。


 コンビニの休憩コーナーで、買ったファッション誌を広げつつ、私は窓から雨の外を眺
めていた。テーブルの上には、カフェオレが手も付けられていないまま温くなっている。
『遅いな……あの二人……』
 私がお兄ちゃんを置き去りにして、コンビニに立ち寄ってからもう20分以上が経過して
いる。
『お兄ちゃん、かなみちゃんの説得に戸惑ったのかな。甲斐性ゼロだから……』
 ちらり、と広げた雑誌に目をやるが、すぐに窓の外へと注意が戻ってしまう。と、その
時、学校の方から歩いてくる一組の男女の姿が視界に入った。
『あ…………』
 思わず、声が漏れた。胸がズキン、と痛む。
『あんな風に……寄り添って……』
 私が帰る時、昇降口でかなみちゃんを見掛けた。傘を片手に、下駄箱の陰から出口の方
を窺っていて、その先には私のお兄ちゃんが、雨に降られて困った様子で立っていて……
だから私は、敢えてお兄ちゃんに声を掛けて、冷たく見捨てて、かなみちゃんが声を掛け
やすいようにお膳立てしてあげたのだ。

489 名前:5/5[sage] 投稿日:2012/10/31(水) 07:19:43.90 0
『だからって……あそこまで仲良いなんて……聞いてないよ』
 肩を抱かれ、体をお兄ちゃんに預けるようにして歩いているかなみちゃん。何だかまだ
ぎこちないけれど、それが却って初々しいカップルみたいで、私の心に突き刺さる。なの
に、視線を外したくても外す事が出来なくて、私の目の前をゆっくりと横切って行く二人
を、ただ眺めている事しか出来なかった。
『何……やってるんだろうな。私ってば……ホント……』
 二人の姿が完全に消えてから、テーブルの上に両肘を突き、立てた腕の上で重ねた手の
上に額を乗せて、私は酷い自己嫌悪に陥っていた。
『……私って、ホントバカだ……お兄ちゃんのこと、バカバカ言って……だけど、色んな
意味で、本当に本当に…私の方が、バカだよ……ホント……』
 視界が霞んでいくのを、もう抑える事が出来ないまま、私はただひたすら、同じ言葉を
呟き続けていたのだった。


終わり

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最終更新:2013年04月18日 14:50