※664.9スレ
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/10/27(土) 21:47:44.15 ID:7HpElDYt0
書く時間もないのでせめてお題だけでも
- ハロウィンなのをすっかり忘れてお菓子を買っていなかった男
- お菓子をもらっても悪戯を決行するツンデレ
535 名前:ほんわか名無しさん[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:11:56.12 0
- ハロウィンなのをすっかり忘れてお菓子を買っていなかった男(664.9スレ目>>28より)
「Trick or Treat!」
「えっ?」
俺の部屋にやって来るやいなや、よくわからないことを言い出した彼女――俺の妹分で
あり、元教え子でもあり……そして現恋人である、まりに対して、俺は素っ頓狂な声で応
じた。
「“えっ?”じゃないわよっ。今日ハロウィンでしょハロウィン! なにグータラ寝てん
のよ!」
「別に、ハロウィンにグータラ寝ててもいいだろ……」
俺は、ベッドから起き上がると、寝起きでぼんやりしている意識と視界をクリアにすべ
く、手で両目を擦り、改めてまりの方を見やる。
どうやら、学校から帰ってすぐにやって来たらしく、制服姿のままだったが……ハロウィ
ンを意識してか、頭には童話に出てくる魔女がかぶっているような、黒い三角帽子を乗せ、
そして、胴体には、これまた黒いマントを着込んでいた。
「ノリノリだな、お前……」
「何よっ、悪い!? …………に、似合ってない、かな……?」
「ああいや、似合ってるよ。流石まりだな、可愛い可愛い」
怒ったかと思えば、不安そうに表情を曇らせた彼女の頭を軽く撫でてやる。すると、ま
りはさっきまでの表情が嘘のように、にんまりと年頃の少女らしい笑顔を見せた。……
“嘘のように”、というか、この反応を見るに、どうやら本当にさっきまでの不安げな顔
は演技だったようだ。
つまりは、俺に可愛いと言わせるために、わざと……。
「ったく、お前はなんて言うか……いつまで経っても、まりだな」
「はあ? なにそれ、どういう意味よっ……てゆーか、撫でるんだったら、帽子の上から
じゃなくて、ちゃんと撫でてよ」
「はいはい、仰せのままに」
「もぅ、また子供扱いしてえっ……ふん、馬鹿コウジ」
その反応が子供っぽいっていうんだよ、とは言葉にせず、言われた通り、帽子を左手で
持ってから、再び右手で優しくまりの頭を撫でる。
撫でながら、目の前の彼女を見下ろすと、まりは、飼い主に撫でられている時の猫と、
まるっきり同じように目を細めて、気持ちよさそうに薄く微笑んでいた。
536 名前:ほんわか名無しさん[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:14:16.34 0
撫でる側の俺からしても、まりの艶のあるきれいな黒髪は、さらさらしていて心地良い
し、甘いシャンプーの香りもして、ずっと撫でていたくなる。
そんなことを考えながら、まりの姿をぼんやりと眺める。
いつも明るい彼女らしい、赤いリボンを使って、頭の左右でまとめた黒蜜のような髪も、
どこかいたずら好きな子供を思わせる、可愛らしいその顔も、昔から変わらない、俺の大
好きなまりそのままだ。ただし、背だけは、高校に入ってからの数ヶ月で、少し伸びていた。
高校に入って、か……。そういえば、彼女が無事、志望していた高校に合格し、入学し
てから、もう半年以上経つのである。思えば、この数カ月の間にも色々なことがあった。
主に、気分屋で小悪魔な彼女に、振り回されまくった思い出ばかりだが。
「むぅ……コウジ、なんか妙なこと考えてない?」
「――いや、そんなことないぞ。ただ、その……お菓子の買い置きあったかな、と思ってさ」
頭をなでる手から、俺の気分を何となく察したのか、鋭く指摘するまりに、俺は動揺が
声に出ないよう意識しながら、それっぽく言い繕う。
「なにそれ!? お菓子用意してないのっ?」
「ああ。今日がハロウィンだってことなんか、お前が来るまですっかり忘れてたし……そ
もそも、クリスマスやバレンタインと違って、ハロウィンってそんなに定着してないだろ」
「じゅーぶん浸透してるわよ! コウジの認識が古いだけでしょっ」
「そうかあ?」
「そうよ!」
そんなことはないだろうと思いつつ、左手に持ったままだった三角帽子を、まりの頭に
戻してやる。
「しかし、この帽子もマントも良く出来てるな。生地も、パーティー用品って感じじゃな
いし」
「ああ、これ? こうゆう衣装作るの好きな友達がいてね。その子、作るのは好きだし得
意なんだけど、着る方はそうでもないから、ただとっておくのも、もったいないからって
私にくれたの」
「なるほど。すごいな、その子」
もしかして、去年のクリスマスに、まりが着ていたサンタの衣装も、その子が作ったの
だろうか。
537 名前:ほんわか名無しさん[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:15:20.50 0
「えへへ、そうでしょそうでしょ? だから、早くハロウィンになって、これを着たいな
あって最近ずっと思ってたのよねっ……なのに、コウジときたら……ハァ……」
これ見よがしに、だけど存外本気らしくため息をつくまりに、俺は少しうろたえてしまう。
「うっ……。あー、煎餅ならあるぞ?」
「要らないわよっ! 何が悲しくてハロウィンに煎餅なんか食べなきゃならないのよ!」
「えー、お前、煎餅好きだっただろ?」
「そういう問題じゃないのっ。普通、ハロウィンには、甘い洋菓子でしょ!」
「そういうもんかね」
「そういうもんなの!」
すっかりお冠でいらっしゃるお姫様に、内心で肩をすくめながら、仕方なく妥協するこ
とにする。
「わかったわかった。じゃあ、これから近くのコンビニにでも行って、お菓子買ってくるか」
「じゃあ、とっとと着替えなさいよ。私、寝間着のコウジとなんか、外歩きたくないからねっ」
「へいへい」
せっかく、大学の授業が早く終わったから、午後はのんびりしてられると思ったのに。
それにしても……。
「……」
「なに? どうしたの、コウジ?」
「別に、俺は気にしないんだけどさ……お前は、俺の着替えが見たいのか?」
「な、な、ななっ……そ、そんなわけないでしょ、馬鹿コウジ!! 外で待ってるから、
さっさと支度してきなさいよね!」
どうも気づいてないようだったまりを、軽くからかってやると、彼女は思った通り顔を
真っ赤にして、部屋の外へ出ていった。
そんなこんなで、俺の家から歩いて十分ほどのコンビニへと、まりを連れてやってきた
わけだが……。
「チ□ルチョコとかでいいか」
「あ、ハロウィン限定パンプキンプリンだってっ!」
「……」
勿論そんなもので済ませる気はなかったが、ボケを完全にスルーされると悲しいものが
ある。
538 名前:ほんわか名無しさん[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:16:33.22 0
「ふつーのでいいだろ」
「ハロウィンのためのお菓子を買いに来たんだから、限定の方を買うに決まってるでしょ!」
「……まあいいけどさ」
こいつの家庭教師をお役御免になった後も、他のバイトをしているから、それなりにお
金はあるし、普通のより少し高い限定プリンとやらを買っても、別に構わないのだが……。
「こういうの買うのは、お菓子会社に踊らされてるみたいでなんかなあ」
「なんか言った?」
「なんでもねーよ。じゃあ、買うのはそれでいいな? 暗くなる前に、さっさと帰ろうぜ」
「はあ? 何言ってんの? これだけで私が満足するわけないでしょ、馬鹿コウジっ。ほ
ら、カゴ持ってよ。お菓子コーナー行くわよ」
「お金払うの俺なんだけどなー……」
「なんか言った?」
「……なんでもねーよ…………はぁ」
結局、カゴがいっぱいになるくらいの、チョコレートやらビスケットやらキャンディで
できた山が、まりによって積み上げられることになった。そろそろ、冬物の服買おうかと
思ってたのに……。
「そうだっ、ねえねえコウジ、あんまんも買ってよ」
「ハロウィンには洋菓子って言ってませんでしたっけ?」
「これは、ハロウィン関係なしのおやつなの!」
「それなら、煎餅でも」
「あ、店員さん、あんまん一つ」
「……こいつは」
まあいいけどさ。
「へへー、いっぱい買ったわねー」
「そーですね」
最近の気温並みに、冷え込んでしまった懐を思うと、意図せず気のない返事になってし
まう。
「な、何よ、たくさん買ったから怒ってるの?」
「べつに怒っちゃないさ」
539 名前:ほんわか名無しさん[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:17:59.86 0
何かに怯えるように、心配そうな表情を浮かべるまりを安心させるために、優しく頭を
撫でてやる。ちなみに、例の帽子とマントは、流石に外で着るのは恥ずかしいのか、俺の
部屋に置いてきていた。
「んみゅ……な、なら、いいんだけどさ」
「んみゅって」
気持ちよさそうな声に、ついついからかいたくなってしまった俺は、軽く笑いながら、
まりにそれを指摘した。
「なっ――しょ、しょうがないでしょ! その、……撫でられると、勝手に出ちゃうんだ
もん……」
恥ずかしそうに、顔を赤らめるまりは、依然として俺に撫でられるがままだった。
「あ、そうだ。さっき買ったあんまん食うか? 家着いてからだと、ちょっと冷めちゃう
かもしれないぞ」
「ん、そうね、ちょうだいコウジ」
「はいよ」
と言って、俺は、左手に持ったビニール袋から、スイーツマウンテンの頂上に鎮座して
いたそれを、まりに手渡した。
「いっただっきま~す」
「おう、いただけいただけ」
「はむっ……あちゅ……んー、あまーい」
「……美味そうだな。俺も、自分の分買えばよかったかな」
人間とは不思議なもので、店内で見たときはさして魅力を感じなかったものでも、人が
食べているのを見ると、自分も食べたくなってきてしまった。
「んー、欲しいなら、一口だけあげるわよ?」
「お、マジか。食う食うっ」
「はい、あーん」
まりは、そんな言葉を吐きながら、俺に自分の食べかけのあんまんを差し出してきた。
……人通りは少ない道だが、車は割と通るので、正直恥ずかしいし勘弁して欲しいんだ
けど……。
そんなことを表情と目で訴えようとしてみたのだが、まりは俺のメッセージにまったく
気づいていない。いや、気付いていないふりをしているのだ。なんかニヤニヤしてるし。
(ええい、しょうがない!)
540 名前:ラストです。今さらだけど、これ覚えてる人いるのかな……[sage] 投稿日:2012/11/03(土) 23:20:02.98 0
今さらひっこみがつかなくなった俺は、勢い良くあんまんにかぶりつく。
途端に、口内へ熱い餡が流れ込んでくる。
(あちっ、あちちちち!)
悲鳴を上げたくなるほどに熱かったが、そんなことをすれば間違いなくまりにからかわ
れるので、半泣きになりながらも気合であんまんを咀嚼し、飲み込む。正直、味は全然わ
からなかった。
ニヤつきながら、そんな俺の醜態を見ていたまりは、あえて何も言わずに再びあんまん
をもぐもぐと食べ始める。
くそぅ、なにか仕返しをしてやりたい……。
「あ」
そう考えながら、まりと隣り合って歩いていると、ふと、ちょっとしたアイディアが浮
かんできた。
「なに? どうしたの?」
「あー、いや……」
無邪気に可愛らしく小首をかしげる、まりを見ながら、考えてみる。本当に“こんなこ
と”で、今さらこいつが動揺するだろうかと。却って、俺が、からかわれるんじゃないか
とも思えるし、うーむ……。
(まあ、言ってみるか)
「これって間接キスだよな」
「へっ!? な、な、なななっ、にゃに言ってんのよっ、馬鹿コウジ!! そ、そんなの、
もう気になんないしっ……だ、だいたい、今まで、普通のキスだって結構してるし! ……
そ、そんな、もう、小学生じゃないんだからっ……!」
勝った、と内心でガッツポーズする。まりは、言葉とは裏腹にと言うべきか、忠実にと
言うべきか、顔をリンゴのように赤く染めて、何度もどもりながら、まくし立てた。
「それもそうだな、悪い悪い。……ほら、冷めないうちに、残りも食べたらどうだ?」
「……っ!」
俺の言葉に、さらにこれ以上ないくらい赤くなって、あんまんを見つめるまり。俺は、
ニヤけそうになるのを必死でこらえながら、何食わぬ顔でその様子を見つめる。
(駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ……し、しかし……)
「もぉー、ニヤニヤすんなあっ、この馬鹿コウジ!!!」
結局、こらえきれなかった俺に対する、まりの叫声が、秋の空に響くのだった。
最終更新:2013年04月18日 14:58