649 名前:・ツンデレが写真のモデルで男とカップルになったら その4 1/5[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 23:47:06.84 0
 その夜。食事と風呂を終え、落ち着いてネットでも見ようかと思った時、携帯が鳴った。
「うわ。先輩から電話かぁ……」
 メールではなく、直接掛けて来るところからみても、明らかに昼間の件に関する文句だ
ろう。これは長くなるなと予想しつつ、僕は着信ボタンを押した。
「もしもし。別府ですけど……」
『もう、最悪よっ!!』
 名乗るなり、いきなり耳元ででかい声で怒鳴られ、僕は慌てて携帯を耳から離した。
「うわっ!? 何ですか、いきなり。どうかしたんですか?」
 わざととぼけて聞くと、先輩はムッとした調子で、またも怒鳴りつけて来る。
『どうしたんですか、じゃないわよっ!! 昼間の事、分かってるんでしょ?』
「……いや、まあ大体想像は付きますけど……」
 あまり知らないフリも出来ないので、そう答えるとそこから一気に先輩の文句に拍車が
掛かった。
『なら分かるでしょうが!! 人前で、よりにもよって部活のみんなの前で、別府君とあ
んな風にくっ付いて、写真まで撮られるなんて最悪もいいところじゃない。もう、本当に
恥ずかしかったんだからっ!!』
「そうですか? 僕は先輩と一緒にモデルが出来て、嬉しかったですけど」
 そう切り返すと、一瞬先輩が絶句した。照れた先輩の顔を想像していると、ややトーン
を落としつつ、それでもぶつくさと先輩が不満を続ける。
『あ、あたしはイヤだったもん。しかもあの写真が学校案内のパンフの見開きに使われる
なんて信じられない。あああ……考えるだけで、余計に恥ずかしくなってきた。もう、死
にたい』
「でも、可愛く撮れていたじゃないですか。本当に自然に僕と勉強している時のような感
じで。誰が見ても、この大学可愛い子いるなって思うと思いますよ。まあ、モデルだろう
と疑って掛かる人もいるとは思いますけど」
 べた褒めする事で、先輩の気分を和らげてあげると、案の定戸惑ったような先輩の答え
があった。

650 名前:・ツンデレが写真のモデルで男とカップルになったら その4 2/5[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 23:47:37.71 0
『うーっ…… モ、モデルだなんて言い過ぎよ。お世辞も過ぎると逆に気持ち悪いんだか
ら。そりゃ、アンタより見映えがいいのは当然だけどさ。けど、写真写りがいいのは調ちゃ
んが上手だからだし…… そもそもアンタが口車であたしを乗せるから、あんな事になっ
ちゃったんだからっ!!』
「口車とか言わないで下さい。僕だって、撮影を早く終わらせようと思ったら、何とか先
輩の気をほぐしてあげなきゃいけないなって、結構必死だったんですから」
 先輩の非難に言い訳すると、先輩は一瞬返事に間を置いて、それから何だか拗ねたよう
な口調で返してきた。
『ふ、ふ~ん。アンタも、早く撮影、終わらせたかったんだ。このあたしと一緒にモデル
出来るっていう光栄に預かっていたというのに』
 どうやら先輩は、自分は嫌だ嫌だと言っているくせに、僕に嫌がられるのは非常に気に
食わないらしい。
「それはそうですけど、でもあまり時間を掛けていると、周りのみんなにも迷惑ですから
ね。先輩は照れちゃって、なかなか自然に勉強してる雰囲気が出そうになかったですし」
『照れてるんじゃなくて嫌がってたのっ!! な、何でアンタ相手に照れなくちゃいけな
いのよ』
 先輩がムキになって抗議してくる。だが、傍から見れば頬を赤らめて抵抗する素振りは、
どう見ても照れているようにしか見えなかっただろうと思う。だが、そういう指摘はせず、
僕は別の方で質問する事にした。
「そうですか。でも、何で嫌がってたんですか? 僕とくっ付く事が、ですか? それと
も周りのみんなに見られていたからですか?」
 すると先輩は、またしてもウッ、と返事に詰まる。今度は少し考えてから、渋々と言っ
た体で返してきた。
『それは、その……見られているからに決まってるじゃない。も、もちろんアンタとくっ
付くのだってイヤよ? だけど、まあそれは我慢出来るとしても、その光景を人に見られ
るなんて冗談じゃないわ』
「でも、おかげ様でみんないい写真が撮れたって喜んでたじゃないですか」
『よくないっ!!』

651 名前:・ツンデレが写真のモデルで男とカップルになったら その4 3/5[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 23:48:08.68 0
 先輩の努力を称えるも、それを彼女はバッサリ否定して来た。声が余りに大きくて、僕
は思わず携帯を耳から離したほどだ。
「そんな、大声で否定しなくても……」
 先輩を宥めようとするも、僕の言葉を遮って先輩は文句を並べ始めた。どうやらこの電
話の最大の趣旨はそこにあったらしい。
『アンタはいいわよ。女子とくっついて写真撮ってもらうだけなんだから。だけど、あた
しはアンタみたいな冴えない男と写真撮っただけじゃなくて、後からもう、散々からかわ
れたんだから。イヤになるくらいにね』
「そうなんですか?」
 とぼけたフリをして聞き返しつつも、何となく僕は心の中で頷いた。同じ1年の同期の
子達はともかく、特に二年の先輩方が、あの光景を見て放っておくわけはあるまいと。
『そうなんですか、じゃないわよ。他人事みたく言わないでよね』
 聞きとがめて先輩が文句を言ってきたので、僕は素直に頭を下げた。
「すみません。で、何があったんですか?」
 僕が聞く姿勢を見せると、そこから先輩が、堰を切ったように一気に不満を吐き出し始
めた。
『もう、最悪だってば。あの後、あたし達一年は涼城さんにスイーツご馳走になったじゃ
ない。もう、ずっと写真撮った時の話ばかり。すごくお似合いだったとか、まるで恋人同
士みたいで妬けたとか、まだ付き合ってないのとか、いっそ付き合っちゃえばいいのにと
か、この機会に距離縮めちゃえばとか、おまけに椎水さんってなんであんなに別府君に冷
たいのって言われて、そしたら実は愛情の裏返しでしょ。椎水さん照れ屋だからとか散々
言われてさ。おまけに男を落とす時はこうすればいいとか、広上さんが寄って来てスキン
シップの実演までされて、散々おもちゃにされたわよ。それもこれもどれも、アンタのせ
いなんだからねっ!!』
「いやー。大変でしたね、それは……」
 喫茶店で女の先輩たちに囲まれて弄られている先輩を想像して、僕は同情するように慰
めを言った。とはいえ、その光景を遠目からなら眺めていたいとも同時に思った。きっと
照れたり怒ったりと可愛い先輩が見れたのに。
『だから、他人事のように言うなって言ってんでしょうが。全部、ぜーんぶアンタが悪い
んだからねっ!!』

652 名前:・ツンデレが写真のモデルで男とカップルになったら その4 4/5[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 23:48:40.18 0
 怒鳴り声のでかさに耳がキーンとなりそうになり、僕は思わず携帯を耳から離す。先輩
が黙ったのを確認してから、そっと耳に当てて抗弁した。
「何で僕が悪いんですか。選ばれたのはクジなんですから、引き当てた先輩も同罪でしょ
う?」
 こんなところで言い掛かりを付けられて、いいように使われるとなると困るので、そこ
はハッキリと理解させておかなければならない。しかし、無論その程度の事で納得してく
れる先輩でもなかったが。
『女子の方が先に引いたんだから、アンタが頑張ってハズレクジを引くよう努力すれば良
かったじゃない。なのに、よりにもよって当たりクジを引くアンタが悪い。しかも男子の
方が確率悪いのに』
 ウチの部の一年の内訳は男子四人女子三人で、しかも調ちゃんはカメラマンだから、確
かに先輩の言う通りなのだが、仮に当たりの方が多いとしても、やはり運は運だ。それを
自分のせいにされてはたまらないと思う。しかし、僕はそれ以上そこにはこだわらず、別
の方面から切り崩す事にした。
「じゃあ、先輩は僕以外の男子と一緒の方が良かったんですね? でも、それが例えば山
田君だったとしても、騒がれるのは一緒の事だと思うんですけど」
『全然違うわよっ!!』
 僕の言葉を即座に否定してから、先輩が思わず息を飲むような音がした。ややあって、
さっきより声を落とし、拗ねたような言葉が続く。
『……少なくとも、他の男の子だったら、アンタみたく口車に乗せてあんな恋人みたいな
写真まで撮られる事なかったもん。絶対に』
「つまり、先輩は僕だったから、リラックスして写真撮られちゃったって事ですよね? 何
か、ちょっと嬉しく思いますけど」
 言葉で先輩の心をくすぐってみると、また少し間が空いてから、全力で先輩が否定に掛
かって来た。
『ちっ……違う違う違う!! アンタだからとかそんな事絶対にないから!! へ、変な
勘違いしないでってば!!』
 今、先輩の顔は絶対に真っ赤になっているだろう。こうして話をしているのが電話なの
が実に残念だ。

653 名前:・ツンデレが写真のモデルで男とカップルになったら その4 5/5[sage] 投稿日:2012/11/14(水) 23:52:48.75 0
「でも、先輩の言葉をまとめると、そういう結論になりますけど。相手が僕で、先輩の気
持ちを言葉でほぐしてあげたせいで、つい油断していつもの調子で慣れ親しんだ態度を取っ
ちゃったら、それをみんなに見られた挙句に、写真にまで撮られちゃったと。他の男の
子だったら、そこまで気を許す事はないって事ですよね」
 一つ一つ、丁寧に確認すると、先輩の困ったような呻き声が聞こえてくる。
『そ……そりゃ確かにその……アンタは他の人より断トツに付き合い長いしさ。しょっちゅ
う家にも遊びに行ってるし、たまにはあたしの部屋に上げた事もあるし、だからその……
まあ、他の男の子よりは、多少は気軽に付き合えるけどさ。だからと言って、アンタだか
ら特別とかそこまで思ってないんだから。ホ、ホントなんだからっ!!』
 いちいちムキになって強調するから、余計に怪しさが増す事に先輩は気付いているのだ
ろうか? だからきっと、部活の他の女子にも余計に弄られてるというのに。
「まあ、僕だから信じてあげますけどね。だけど、僕だって撮影を早く終わらせようと努
力しての事ですから。決して、みんなの前で先輩と仲良しの写真を撮られたいとか、そん
な事を思っての事じゃありませんからね?」


続く
最終更新:2013年04月18日 15:09