28 名前:1/9[] 投稿日:2013/04/06(土) 20:35:12.41 ID:xAF6alnsO [9/41]
―――ピンポーン
女「はーい、どなた?」
男「おう、俺だ俺。開けてくれー」
女「なんだ、タカシか……(ガチャ)こんな時間に、なんか用なの?」
男「おう。んーとな、実はかなみに折り入って頼みたいことがあって」
女「なぁに? お金なら貸さないわよ?」
男「……すまんっ、かなみ! 何も聞かずに俺の言うことを聞いてくれ!」ガバッ
女「な……なんなのよ、会うなりつむじ見せたりなんかして。いきなり過ぎてドン引きなんだけど」
男「いやぁ……実はかなみに、俺の嫁になってもらえないかと思って相談に来たんだ」
女「……はあ?」
男「つってもあれだぞ! 本当に籍を入れるとかじゃないぞ! あくまでフリだからな、フリ!」
女「話が全然見えてこないんだけど。もう少し詳しく説明なさいよ」
29 名前:2/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:37:11.91 ID:xAF6alnsO [10/41]
男「実はな……今働いてるバイト先で新しい後輩が出来たんだけどさ」
女「うん」
男「そいつ含めて、彼女持ちじゃないのが俺しかいなかったんですよ」
女「ふーん、で?」
男「そうなると俺だけ彼女いないなんて言い出せなくてさぁ……ついつい
見栄張って、彼女どころか学生結婚してるなんて嘘ついちゃったのよ」
男「そしたら今日、バイト仲間連中が嫁の顔見たいから飲みに来るって言い出して聞かなくてさ……」
女「あっきれた! 自業自得もいいとこじゃないの!」
男「自覚はしてるよぅ……けど、こんなこと頼めるのかなみしかいないし」
男「礼は弾むから、今日だけ俺の擬似嫁になってほしいんだよ。頼む!」
女「はぁ……なんであんたってそんなに考え無しな訳? 馬鹿じゃないの?」
男「今日さえしのげばバレても構わないんだよ! お願ぇしますだかなみ様ぁ~!」
女「あんたって本当なんていうか……ノータリン? スカポンタン? 例える言葉が浮かばないわ」
男「かなみの罵倒がグサグサ心に突き刺さる……」
30 名前:3/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:38:59.04 ID:xAF6alnsO [11/41]
女「そうねぇ……そんな面倒に巻き込むんだったら、高級スイーツ十日間おごりで手を打たないでもないわよ?」
男「うげぇっ……まぁ背に腹は代えられないか。それでいいなら喜んで」
女「よし、決まりね。そうと決まったら、早速あんたん家行って掃除しなくっちゃ!」
男「えっ。掃除しなくてもそこそこ綺麗だと思うけど」
女「馬鹿ねぇ。あんな中途半端じゃ、お嫁さん役の私が恥かくじゃないのよ」
男「つーか、昨日も俺の部屋来て掃除してくれましたよね?」
女「それだけじゃ不徹底なの! さ、支度するから退けなさい!」
男「うぇーい……つか、かなみが俺の告白受けてくれてりゃ、こんな嘘つかなくても良かったんだけどな」
女「はぁ? 何よそれ、自分の不都合を人のせいにするつもりなワケ?」
男「そんな気はないけどさ。そこまでしてくれるのに、なんで俺から告ったらノーなんだよ?」
女「あのねぇ、幼稚園からの幼なじみと引っ付きましたなんて、人様に話したら笑われるわよ?」
男「そうかぁ? 普通だと思うけどなぁ」
女「私は絶対嫌なの! さぁ、どいたどいた!」
男「うーん……まぁいいけど」
31 名前:4/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:40:35.38 ID:xAF6alnsO [12/41]
~数時間後、タカシ宅前~
後輩「ちゅーっす!」
同僚「お疲れぃ」
男「よう、お前らお疲れさん」
後輩「わざわざ出迎えてもらってすんませんねー」
同僚「お前ってそんな気が利いてたっけ?」
男「いやぁ……嫁が出迎えくらいしてやれって喧しくてさ」
後輩「マジッスか! で、その噂の奥さんは?」
男「部屋ん中で待ってるよ。お前らも早く入れって。寒いだろ?」
同僚「まぁ待てよ。こっちもあと一人まだ来るんだから」
男「んん? あと一人……?」
後輩「あ、来た来た! 店長ぉ~! こっちッスよー!」
男「うぇっ!? 店長ォ!?」
店長「よっ、別府。俺も来ちまったよ」
32 名前:5/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:43:04.35 ID:xAF6alnsO [13/41]
<説明しよう!タカシのバイト先の店長は気さくで面倒見が良く、誰からも慕われる快男児なのだ!>
<もちろんタカシにとっても憧れの人物であると同時に、嘘のつけない相手でもあるのだ!>
男「な、なんで店長がここに……?」
店長「こいつらが一緒に別府の嫁を見ようってうるさくてな。迷惑だったか?」
男「とんでもない! 店長こそ、年度末の忙しい時期なのによく来れましたね」
店長「ま、社員の家庭環境を見とくのも店長の勤めってことだよ」ハハハ
男(あっぶねぇ……かなみに嫁役頼んでて良かったぁ~!)
後輩「ねぇねぇ、ぼちぼち中入りましょうよ。俺早く別府さんの奥さん見てぇッスよ」
同僚「そうだぞー。客人をこんな寒空の下で待たせていいのかー」
男「うっせぇぞ、お前ら。それじゃ、どうぞ店長」ガチャッ
店長「お邪魔します」
女「こんばんはー、どうぞお入りになってください」
後輩「うぉ!?」
同僚「おいおいマジかよ! 別府の嫁さん超美人じゃんかよ!」
34 名前:6/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:48:11.13 ID:xAF6alnsO [14/41]
女「はじめまして。別府の妻の、かなみと言います。今後ともよろしく」←全力の営業スマイル
後輩「ほぇ~……マジぱねぇッスねぇ。モデルかなんかみたいな美人さんじゃないすかぁ」
同僚「別府死ね! 今世紀最大の不幸に見舞われて死ね!」
男「お前だって彼女いんだろーがよ! お前こそ死んじまえ!」
女「コート、お預かりしましょうか?」
店長「あぁ、大丈夫……しかし、俺も驚いたな。別府にこんな綺麗な嫁さんがいたとは」
男「えっ……あ、まぁそうっすね。俺の自慢の嫁ですよ」
女「あら? 今日いらっしゃるのは二人って伺ってたんですけど……」
店長「すみません、こいつらの店の責任者です。ご迷惑でなければ同席したいんですが……」
女「いえいえ、迷惑だなんて! ゆっくりしていってくださいね」
男(かなみめ、猫かぶりやがって……けどこれで第一印象は完璧だな)
35 名前:7/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:50:24.62 ID:xAF6alnsO [15/41]
―――
後輩「それでは若輩ながら、私が乾杯の音頭を取らせていただきますっ!」
後輩「かんぱーい!」
男「うぇーい」
同僚「かんぱい!」
店長「乾杯」
後輩「いやでも本当に信じられないッスよ。あんな奥さんいるなんて超ォ~うらやましいッス」
同僚「一体どんな悪どい手を使って嫁さんをたぶらかしたんだ?」
男「人聞きの悪いこと言うない。ちゃんとした恋愛結婚だよ」
店長「奥さんも学生なのか。ちゃんと飯は食えてるのか?」
男「はぁ、まぁその辺は抜かりなく……こいつも大学までは出たいって言ってるんで」
女「おつまみどうぞ。お酒足りなくなったら言ってくださいね」
後輩「奥さんも飲みましょーよー! 野郎ばっかじゃ味気ないッスもん!」
同僚「ささ、どうぞ御一献」
女「じゃあ、一杯だけいただこうかな」
36 名前:8/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:53:17.38 ID:xAF6alnsO [16/41]
女「(コクッ、コクッ)……ふぅ、美味し」
後輩「奥さん奥さん、良かったら俺、別府さんとの馴れ初め聞きたいんッスけど」
同僚「俺もそれ気になるわー。どうやったら別府ごときに不釣り合いな夫婦が成立したのか」
男「うるせーわいっ!!」
店長「あんまりプライベートを詮索するのはどうかと思うがな」
女「いいえ、構いませんよ?」
男(頼むぞ、かなみ。事前に打ち合わせした通りにな)
女「……まぁ馴れ初めって言っても、昔からの腐れ縁ってだけなんですけどね」
男「そうそう。俺とこいつ、小中高大通してずーっと一緒だった幼なじみなんだよ」
店長「ほう……それは珍しいな」
同僚「なんだよそれ。下手くそなラブコメみたいな展開だな」
後輩「ベッタベタッスねー」
男「喧しいわ。事実なんだから仕方ないだろ!」
38 名前:9/9[sage] 投稿日:2013/04/06(土) 20:54:13.88 ID:xAF6alnsO [17/41]
同僚「で、プロポーズはどっちから?」
男「そりゃもちろん俺からだよ。一生一緒に添い遂げてください、だったかな?」
後輩「おぉ~! おっとこまえ~!」
男「ま、惚れた弱味ってんですかねー! わははは……」
女(……なんか調子こいててムカつくわぁ。念のため釘刺しとこ)
女「あら、でも夫婦の主導権は私が握ってますのよ?」
後輩「うぇ? 奥さん、意外と旦那を尻に敷くタイプッスかぁ?」
女「えぇ。特に、“夫の嘘”とか許せないタイプで。自分でも少し大人気ないかなぁと思うんですけど……」チラッ
同僚「おいおい別府ぅ、こんないい奥さんにどんな嘘ついたんだよぉ?」
男「べ、別に大した嘘じゃあないけどよ……」チラッ
女(ふん、あたふたしちゃって。いい気味ね)
男(こいつ、意味ありげな目配せしやがって……)
最終更新:2013年09月02日 18:19