8 名前:1/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:19:49.04 ID:q5te+lN70 [2/9]
「ただいまー…… あー、疲れた……」
『お帰りなさい、タカシ。すぐに着替えて、シャワー浴びて来て下さい。すぐにご飯ですからね』
「りょーかい。腹減ったあ…… 今日の飯、何なの?」
『ビーフシチューですよ。ほら。無駄口叩いてる暇があったら、さっさと身支度を整えて
来て下さい。汚いままで食卓に座るのは姉さんが許しませんからね』
「分かってるって。いちいち言わなくてもいいからさ」
『言わなきゃダメだから言ってるんじゃないですか。口答えするんじゃありません』
「はいはい。ったく、うるさいんだからよ……」
「お待たせ、姉さん」
『やっと来たんですね。全く、お鍋が焦げ付くかと思ったじゃないですか。今、よそいま
すからちょっと待ってて下さい』
「ん? 何か今日のご飯、黄色くない?」
『ああ。サフランライスにしたんです。ビーフシチューに合わせようと思って。彩りが良
いと思いません?』
「へえ。つか、今日何かあったっけ?」
『はい? いいえ。何にもありませんけれどそれがどうかしましたか?』
「いや。何か珍しく手の込んだ料理作ってるからさ。最近は受験勉強とかで忙しくて、簡
単なものばかりだったのに」
『べ、別に私だってたまには料理に手間隙掛けたくなる時があるんです。ただそれだけですから』
「フーン…… まあいいや。とにかく食おうぜ。腹減って死にそうだし」
『大げさすぎます、タカシは。それと、お腹が空いているからってあまりがっついて食べ
るんじゃありませんよ? ちゃんとゆっくり、よく味わって食べないとダメですからね』
「はいはい。それじゃあいただきます……っと」
カチャカチャ……フーッ…… ハムッ……モグモグ……
『……………………』
「ん? どうしたの姉さん」
9 名前:2/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:20:22.89 ID:q5te+lN70 [3/9]
『は? な……何ですか?』
「いや。何で食わないのかなって思って。何かこっちばかりジッと見てるけどさ」
『たっ……食べるに決まってるじゃないですか!! タカシの方を見ていたのは、ちゃん
と言いつけどおりゆっくり食べるかどうか監視していただけです』
「いちいちジロジロ見られてると気になるんだよな。言う事聞くから、姉さんも食事しててくれよ」
『べっ……別にずっと見てるつもりなんてありません。私だって熱いうちに食べたいです
から。大体、タカシの食べてる姿なんて、別に見ていたいものでもありませんし』
「はいはい。それよか、ちょっとテレビ点けていい? 見たい番組があってさ」
『食事中にテレビ見るなんて行儀が悪いですから後にしなさい――って、もう点けてる
し!! 止めなさいって言ってるのに、何で人の言う事聞かないんですかタカシは!!』
「今日はアメトーークがスペシャルだから見ておきたいんだよ。今日だけだからさ」
『タカシは私の作ったご飯よりもテレビの方が大事だって言いたいんですか? テレビな
んて、録画しておいて後で見ればいいじゃないですか。わざわざ食事中に見る必要なんて
ありません』
「いや。つい今さっきまで忘れててさ…… それに、リアルタイムで見ておきたいし。い
いだろ? 朝は別にテレビ見ながらでも何も文句言わないんだから」
『朝はお天気だとか、交通情報だとか、確認しておかないといけない情報が多いから点け
ているだけです。単なる娯楽と一緒にしないでください』
「それだけならNHKでいいじゃん。民放点けてるって事は、やっぱそれなりに姉さんも見
たがってるって事だろ? 同じことだって」
『朝は家事やったり学校行く支度しながら忙しいんです。そういう時は真面目なニュース
より適当な情報番組の方がいいし、大体食事の時だけテレビ消すのも何か急に静かになっ
て落ち着かないじゃないですか。でも、わざわざ点ける必要なんてないです』
「まあ、そう固い事言うなって。今日だけだからさ。大体姉さん、そんなんだから学校で
も鉄の女だのサッチャーだの余計なあだ名付けられるんだって。もう少し融通利かせようぜ」
『誰が融通の利かない石頭ですかっ!! そんなのは決まりごとも守れないくせに偉そう
に自分の事ばかり正当化するわがままな人たちが勝手に呼んでるだけです。もしかしてタ
カシもそう思ってるとかじゃないでしょうね?』
「ま、まさか。俺は姉さんの事良く知ってるし、さすがにそこまでは思ってないけどさ。
ただ、家なんだし、もうちょっと緩くしてもいいんじゃないかなって。な、頼むよ姉さん」
10 名前:3/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:20:53.80 ID:q5te+lN70 [4/9]
『……分かりました。どうせ、このままご飯食べたって、どうせテレビが気になってよく
味わいもせずに食べちゃうでしょうから、今日は特別に許可します…… けれど、ちゃん
と味わって食べないと許しませんからね』
「はいはい。分かってるから」
~次の日~
「お待たせ。へえ、今日はトンカツか。姉さん、今日も頑張ってるじゃん」
『な、何か特別みたいなこと言わないでください。私はちゃんと献立を考えて作ってるだ
けですから。それと、今日はテレビ見ながらとか許しませんよ。ちゃんとご飯の時は食べ
る事に集中しないとダメですから』
「今日はこの時間は特に見たいテレビもないから大丈夫。じゃあ、いただきます」
『いただきます』
「……………………」
『ちょっと、タカシ』
「へ? 何、姉さん」
『お米を食べる時は、ちゃんと茶碗を左手に持って食べなさい。そういう食べ方はみっと
もないですよ』
「分かってるってば。ちょっと待ってくれよ」
『待つって、食事の時間でしょう? 一体何をやっているんですかっ!! テーブルの下
に手を入れて。ちゃんと出しなさい』
「もうちょっとだから……エイッ、と。ふう……」
『で、何をやってたんですか。ご飯もそっちのけで。言い訳次第によっては許しませんよ?』
「いや、その……ちょっとLINEに返信してただけだからさ。もう終わったからちゃんと
食べるよ」
『ライン? ラインって何ですか。ちゃんと姉さんに分かるように説明して下さい』
「えーとさ。俺も上手く言えないんだけど、仲間うちで登録して出来るソーシャルネット
……用は掲示板みたいなもんでさ。誰がこの書き込み読んだとか分かるようになってるん
だよ。だから読んだ分は一応返事書いとかないとシカトしたと思われるし……」
『そうですか。何となく分かりました』
11 名前:4/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:21:24.63 ID:q5te+lN70 [5/9]
「分かってくれた? いや。素子に誘われて始めたんだけど、結構忙しいって言うかめん
どくさくてさ。話題振ったのに返事しないと向こうも気にするらしいし……って、姉さん、
顔が怖いんだけどっ!!」
『顔が怖いとか失礼な事言わないで下さい。要するにタカシは、食事よりも携帯を弄る方
が大事なんですよね。それとも、素子さんとコミュニケーションを取る方がと言った方が
いいですか?』
「ちが……違うってば。今のは山田の書き込みにレス返しただけだから。仲間うちみんな
だから、5、6人は登録してるし」
『いいです。そんなに携帯でやり取りする方が大事なら、ご飯食べずにそっちを優先すれ
ばいいでしょう? どうせ私の作ったご飯なんて楽しみでも何でもないんでしょうから』
「何拗ねてんだよ。姉さんの作る揚げ物とか、すごい好きだって。コンビニとかで売って
る奴より全然美味いし」
『人のご飯をコンビニのジャンクフードなんかと一緒にしないで下さいっ!! もう、い
いです。さっさと食べちゃって下さい』
「まあ、悪かったよ。明日からは食事中にスマホ弄らないようにするからさ」
『そんなのは当然です。作ってもらっているんだから、最低限のマナーくらいは守って貰
わないと、こっちだって気分悪いんですからね』
「了解。それじゃあ改めて、いただきます」
『(タカシのバカ。私の手料理より素子さんを優先するなんて、信じられません。でも、褒
めてくれたから、まあ許しますけど……)』
~またまた次の日~
『タカシっ!! もうご飯だって言っているじゃないですか。何度言ったら下りて来るん
ですかっ!!』
ドタドタドタドタ
「はいはいはいはい。今行くからっ……と」
『全くもう……どれだけ人を待たせれば気が済むんですか。せっかくのご飯が冷めちゃうっ
ていうのに』
13 名前:5/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:21:55.69 ID:q5te+lN70 [6/9]
「ゴメンゴメン。ちょっと手が離せなくてさ。お? 今日は鶏の唐揚げじゃん。姉さんが
二日連続で揚げ物作ってくれるなんて珍しい」
『そ、それは……ちょっとした気分です。別にタカシが揚げ物が好きだから作った訳じゃ
ないですから……』
「まあいいや。とにかくいただきますっと」
『ちょっとタカシ。そんなにがっついて食べないで、もっとゆっくり味わって食べて下さい』
「ちゃんと……シャクッ……モグモグ……あひわっへふっへ……ゴクンッ……」
『口の中に物を入れたまま答えないで下さい。汚らしいじゃないですか、もう。食事中は
ちゃんとマナーを守って貰わないと困ります』
ズズッ……ガッガッガッ……ゴク……ゴクッ……
「フゥ…… ご馳走様」
『ちょっと、もう食べ終わるなんて早過ぎですっ!! ちゃんと良く噛んで食べてないで
しょう? 早食いは健康にも悪いんですから。大体、何でそんな急いで食べる必要があっ
たんですか』
「悪い。ちょっとオンゲーで友達待たしててさ。説教なら後で聞くから」
バンッ!!
「――っと……姉さん……?」
『……分かりました……』
「へ……分かったって…… な、何が……?」
『タカシは、私の手料理なんかより、テレビだとかスマホだとかゲームの方がよっぽど大
事なんですね?』
「い、いやいやいや。その……たまたま三日くらい忙しいのが重なったけどさ、そんな、
姉さんの飯を蔑ろにしてるとかそういうわけじゃ……
『もういいですっ!!』
「わわっ!!」
『タカシの考えは良く分かりました。人を待たせているんでしょう? 私の事なんて放置
してさっさと行けばいいじゃないですか。その代わり、こっちにだって考えがありますか
ら。せっかくタカシの為にと思って色々と手を掛けてお料理を作ったっていうのに……も
う、知りませんっ!!』
ドタドタ……バタンッ!!
14 名前:6/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:22:26.55 ID:q5te+lN70 [7/9]
「やべえ……何か致命的な失敗した気がするな……」
~数日後。学校~
【有美―っ。何か二年の男の子が用あるってよ。結構可愛い子】
[マジで? ついにあたしにもモテ期が来たか。で、その子はどこにいるの? まさかロッ
カーの中とかいって閉じ込めるパターンは無しよ]
【いやいや。ホントホント。教室の前で待ってるから、早く行ってあげなよ】
[よっしゃ。待ってろイケメン。お姉さんが手取り足取り口取り、優しく指導してあげる
からねーっ!!]
[って、何だぁ。タカシ君じゃん。つまんない]
「つまんないって何だよ。これでも上級生のクラス来て女子を呼び出すのって緊張するん
だぜ。いくら有美ちゃんだからって言ってもさ」
[チッ…… そのだからっていう所がもう女子扱いされてないのよ。で、何の用なの? 愛
しのお姉ちゃんなら、生徒会の用事でホームルームが終わると同時にいなくなったわよ]
「知ってる。帰りが遅くなるから夜はカップ麺かコンビニで済ませろってメール来てたか
ら。あと愛しのとか言うな。人に聞かれたら誤解されるだろが」
[じゃあ何? あたしにガチで用事あるとか? もしかして十四年近く近所付き合いして
きたけど、今になってようやく姉じゃなくてこのあたしの魅力に気付いたとか?]
「いや。それは絶対にない。つか、有美ちゃんが俺にしてきた数々の仕打ちを思えば、惹
かれるとか有り得ないから」
[チッ。恋の告白とかじゃないのか。つまんないなー。タカシ君、結構イケメンだし、告
られたらそれはそれで自慢出来るのに]
「俺と付き合う気なんて無いくせによく言うぜ。つか、本題全然入れないんだけど」
[はいはい。どーぞどーぞ。このお姉さんがご意見番として、青少年の悩みを受け止めて
あげるわよ。で、どんな悩み? 最近現実の女性に興奮しなくなってきたとか。よしきた。
それならこのお姉さんが二人っきりの個人授業で限界ギリギリのエロスを――]
15 名前:7/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:22:57.32 ID:q5te+lN70 [8/9]
「いや。下ネタはいいから。まあ、何つーか……姉さんの事なんだけどさ」
[何よ、ほら。やっぱり大大大好きーな敬ちゃんの事じゃん。ダメよ。あんた達、姉弟な
んだからさ。まあ、好きになるのに垣根なんて無いのかもしれないけど、一応倫理っても
のがあるんだからね]
「茶化さないでくれって。こっちは生活掛かってんだからさ。で、一つ聞くけど……最近
姉さんがちょっとおかしいんだけどさ。何か変わった事あった? 一週間くらい前とか」
[何よ。敬ちゃんがおかしいのなんていつもの事でしょ? 取り立てて気にする必要ない
ってば。それとも、いつにも増してお花畑が咲いちゃってるとか?]
「それはそれで怖いけど、逆だって。有美ちゃんから見てて、何か気付いた事無いか?」
[そうねえ…… まあ最近機嫌悪いけど、それは結構あるし、矢面に立たされんのいっつ
もあたしだから…… そういえば、変わった事といえば最近お弁当持って来なくなったわ
よね。敬ちゃんが購買とか珍しいなって思ってたんだけど…… 逆に何かあった?]
「それなんだけどさ。こないだ3日間くらい、姉さん何故か料理に結構気合入っててさ。
何か手の込んだ料理で、しかも俺の好物ばかり作ってくれてたんだけど、たまたま見たい
テレビがあったりLINEの返信しなくちゃいけなかったりで、そっち優先させてたら怒っ
ちゃってさ。以来ずっと、ロクな飯作ってくれなくなっちゃって…… 俺もだけど親父ま
でとばっちり食らうし。で、何かあったのかなーって」
[一週間前ねえ…… うーん……]
「思いつかない? まあ、姉さんなんてどっかしら何かやってるから、おかしい行動なん
ていつもの事かも知れないけど、何かヒントにでもなるようなことないかな? 些細な事
でもいいんだけど」
[そうねえ…… ああ。そういえば敬ちゃん。珍しくラブレターを何か熱心に読んでたっけ]
「ラブレター? 姉さんにか?」
[そうよ。今の時代、確かに古風だけどね。でも、好きな女の子に全くコネがなかったら、
手紙くらいしか渡す手段ないでしょ? まあ、会って話したいって簡潔な内容から熱い想
いを書いてくる人まで色々いるけどね。あれで敬ちゃん美人だしモテるから。つか一人く
らいこっちに寄越せっての]
「有美ちゃんは自分から狩りすれば草食系男子の一人や二人は食えそうだけどな」
[人を肉食恐竜みたく言うな。これでもうら若き十八の乙女なんだから。失礼だっての]
「ゴメンゴメン。で、そのラブレターって、内容なんだったの? 当然読んだんでしょ?」
16 名前:8/8[sage] 投稿日:2013/06/22(土) 21:23:47.90 ID:q5te+lN70 [9/9]
[まーね。といっても、文章そのまま覚えてる訳じゃないけど、まあ清楚でたおやかで、
それでいて家庭的な雰囲気も持っているところが惹かれるとか何とか。そういえば、別府
さんの手料理なんて食べられたら夢ですとか何とか書いてあったような……]
「手料理? 姉さんの?」
[そうよ。アンタは毎日朝昼晩と食べてるから感じないかもしれないけど、敬ちゃんに憧
れる男子からしてみれば…… あ~あ。なるほどね。そういう事か]
「は? 何がそういう事なんだよ」
[タカシ君さ。今度、敬ちゃんがご飯出してくれたら、何でもいいから褒めてあげなよ]
「褒める? 姉さんの料理をか? 何で今更」
[いいから。今日は外で買い食いしろって言われたんでしょ? じゃあ、明日の夜でも、
多分嫌いなメニューか出来合いのものしか出して来なさそうだけど、手作りだったらやっ
ぱり姉さんの作ってくれるおかずが一番いいとか、レトルトなら姉さんの味が食べたいと
か言ってさ。もの凄く怪訝な顔されると思うけど、多分次の日から普通に戻るから]
「大丈夫なんかな? 今更何言ってるんですかとか、めちゃくちゃ罵られそうなんだけど」
[男の子でしょ? 敬ちゃんの機嫌直したかったら、多少の痛みは我慢しなさい。いい?]
「分かったよ。まあ、有美ちゃんの言う事だし、刺し違える覚悟でやってみるさ」
[(にしても敬子ってば…… 好きな人から手料理を褒めて貰いたいって気持ちは分かる
けどさ。弟だよ? 結婚十年の旦那から褒めて貰うよりもハードル高いってのに……)]
『(ああ、もう……タカシってば信じられません。私がせっかく、一生懸命、タカシが美味
しいって喜んで食べてくれる姿が見たいってだけで手間暇掛けて、大好物の料理を一生懸
命に作ったって言うのに……素子さんとスマホとかゲームとか…… あああ、もう頭に来
て頭に来て……)』
バキッ!!
「か、会長。今日、シャーペン折るの三本目なんですけど……」
終わり
たまたま書き上げた妄想があったので投下しただけなんだからね
最終更新:2013年09月02日 18:31