242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/18(月) 22:59:21.69 ID:zUNCd1ei0 [1/7]
 それは初夏の青空の広がるとてもさわやかな日。
 クラスのみんなが数学の授業を一生懸命に受けているさなか、俺は屋上で日光浴をしていた。

 夏よりも少し涼しめの光が俺の身体をちょうどよい具合に暖めてくれる。
 時折吹き下ろす風が、ズボンから出したYシャツをたなびかせて非常に心地よい。

 これほど豊かな時間を味わえるのだ。数学の時間の一つや二つ、サボッた所で誰も文句は言わないだろう。


 俺、別府タカシは何を隠そう不良である。
 去年新設されたこの「私立VIP高等学校」において俺は「開校以来の悪童」と呼ばれ、
 入学以降、道にゴミを捨てる、トイレットペーパーを使った後補充しない、靴のかかとを踏むなどの悪行をやりまくっていた。
 そんな俺にとって、もはや自主休学など朝飯前である。俺は両手に収まらない空を寝そべってじっと見上げ、心地よい風に身を浸していた。


 キーン、コーン、カーン、コーン…。


 授業終了を告げるチャイムが鳴る。確か今のが4時間目だったから、次は昼休みだ。
 そういえば、今日のメシをまだ買っていなかった。思い出した俺は寝ころんだ体を起こし、屋上入口へ足を向けようとした刹那──。

 だだだだだだだっ!

「あーっ!もう、やっぱりここにいた!」

 と、バッファローの突進と見紛う力強い足運びで屋上に顔を見せる一人の少女がいた。
 カチューシャ、低身長、前髪のないおでこ。そう、この少女こそが我が天敵──学級委員長さまである。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/18(月) 23:00:35.45 ID:zUNCd1ei0 [2/7]
「数学の時間に出て行ったから、怪しいなーとは思ってたけど…まーたこんな所でサボってたのね、このサボり魔っ!」
「相変わらず元気がいいねえ委員長。今日も俺にZOKKONですか?照れるなぁもう」
「うるさい!私はただクラス代表として、別府君の面倒も見なくちゃいけないの!茶化すな、この馬鹿!」
「あはは、委員長は今日も可愛いねぇ」
「誰が可愛いよ!…はえっ!?
 ……ああ、もう、また冗談なのね?すぐそういうので誤魔化すんだから…」

 委員長は呆れたように呟くと、近くのベンチに腰掛を降ろす。
 俺に近くに来るよう手でサインすると、手持ちのお弁当の紐を解き始めた。

「ん、委員長、お弁当持ってきたの?」
「そう。いい天気だから屋上もいいかなって。別府君の事は、そのオマケ」
「…オマケの割には全力疾走だったけど?」
「じゃないと、逃げるでしょ?」
「逃げる、って…委員長、俺への説教にそこまで…」
「それもあるわ。でも今日は別件。岡島先生から、このあと別府君を職員室まで連れてくるように言われてるの」

 勢いよく立って逃走姿勢を取った俺は、すぐに委員長に腕をひっつかまれた。

「逃げるな」
「くそう、それが分かってりゃとっとと隠れたものを…」
「それが分かってたから言わないでおいたの。私がお弁当食べたら連れていくからね」

 改めて委員長は俺の手を取り、ベンチに強引に腰かけさせる。
 逃げないようにという考えからか、委員長のぴったり隣。…体がくっつきそうな距離である。こういう所は、本当に小悪魔ガールだよなぁ。

 そういえば、俺は何も食べていなかった。
 パンを買おうにも、委員長がこの状態では買いに行かせてもらえまい。かといって委員長の小さめお弁当箱からは美味しそうな匂いが漂ってくるし…

244 名前: 忍法帖【Lv=2,xxxP】 [] 投稿日:2011/07/18(月) 23:01:46.78 ID:zUNCd1ei0 [3/7]
「ひょいっと」
「…ああっ!?」

 俺は悩んだ末に、委員長のお弁当箱の中から唐揚げをひとつつまみあげた。

「ちょっと!返しなさいよ!」
「お断る。これは不良としての当然の報復攻撃であるからして」

わけのわからない事をぼやきながら、手早く唐揚げをお口に含む。
パリパリといい音を立てて噛み砕かれた。これはうまい。

「あ、ああああ…せっかく作ってきたのに…こんなやつに食われた…」

 委員長はよほどショックだったのか、ややオーバーに泣き崩れる。そのリアクションに、俺はちょっとやりすぎたかなと反省した。
 …が、悲しきかな男の性。すぐに上記の台詞の中から、聞き逃せないワードに気がついてしまう。

「…委員長、自分でお弁当作ってきたの?」
「…何よ、悪い?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「私だってそりゃあ、たまにはそのくらい作ったりするわよ。女の子なんだし」

「女の子」という言葉を少し多めに強調する委員長。

「なるほど。そう言われると、結構美味い気がするな」
「…別府君のお世辞なんて嬉しくない。まだあんまり上手くないし」
「分かっちゃいないなぁ、こういうのは気分的な問題なんだよ。
 例え普通の唐揚げでも、委員長が俺のために作ってくれたと考えるだけで美味しくなるものなんだ」
「別に、私は別府君のために作った訳じゃないから!」

 とまあ、そんな具合につまみ食いを繰り返しながら俺は委員長と仲良く昼食を終えたのだった。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/18(月) 23:03:06.42 ID:zUNCd1ei0 [4/7]
 昼休みはまだ半分ほど残っている。俺はおもむろに立ち上がり、屋上の階段を下りて廊下をぶらぶらと散策した。
 隣には、なぜだか委員長。

「……委員長」
「なに?」
「昼飯終わったんだし、俺に付き合う義理は無いのでは?」
「私の仕事は、別府君を職員室に連れてくる事まで含まれてるの」
「なんじゃそりゃ、俺は小学生か何かか!?」
「そもそも行こうとしていない奴が言えた義理じゃないわよっ!」
「…畜生、本当に委員長は面倒見がいいと言うかおせっかい焼きというか…」
「ああもう、男のくせにごちゃごちゃとうるさいわね…」

 言いながら、委員長は少し目を伏せて続ける。

「…そもそも別府君、このままじゃ進級危ないでしょ?ちゃんと授業や呼び出しには出ておかないと、ホントに留年するよ?」

 上目遣いのその仕草と、俺のような不良の前途を案ずる委員長のけなげさに思わずどきりと来る。
 俺はてれてれと頬を掻きながら、声ににやけた感じが出ないよう努めて続けた。

「…委員長、そこまで俺の事を思って…?」
「別府君じゃなくて、クラスの事。せっかく一緒のクラスになれたんだから、ちゃんと全員そろって卒業しなくちゃ後味悪いじゃない」

 がっくり、と俺の肩が落ちた。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/18(月) 23:05:03.41 ID:zUNCd1ei0 [5/7]
 そうこうしているうちに、職員室。

「…それじゃ、ちゃんと先生の話は真面目に聞きなさいよ?」
「はいはい…」

 最後まで説教の委員長にひらひらと手を振り、俺はドアをくぐり部屋の中へ消えていった。

「失礼しまーっす」

  ~~~( ・∀・)ソレカラドンドコショ

「失礼しましたー」

 …長かった。普段の授業態度から何から何までこってり搾られてしまった。
 時計を見る。…げ、もう5限目5分前じゃねえか。…あ、4分前になった。
 くそうあの先公、自分も授業あるクセにギリギリまで説教かましやがって、後で覚えてろ。

「失礼しゃーっす」

 そんな事を思いながらドアを開け、廊下に出ると、
 そこには少し前別れたばかりの懐かしい顔がいたりして。

「あ、終わった?」
「…委員長、何故ここに」
「じゃ、教室いこっか」

 俺の言葉をスルーして、こいこいと手を振る委員長。
 …なんなんですか、この方は。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/18(月) 23:06:17.80 ID:zUNCd1ei0 [6/7]
「…話の間、ずっと廊下で待ってたのか?」
「そうよ」
「…なんでまた」
「だって別府君、どうせ五時間目もサボる気でしょ?」

 んな訳無いだろ、と即答できない所が俺の弱みである。
 なにしろ次はろくに出席も取らない物理の時間。この時の俺は、むしろ出席している方が珍しいと言う恐ろしい欠席率を達成している。
 今回は出るつもりだった、と言った所で信じてもらえないのが、いかんせん不良の弱みである。

「だから、私が見張ってたの。これならサボりようもないと思って」

 そう言ってしてやったりの顔をする委員長。
 その動作がいちいち可愛らしくて、脳天からつま先まで抱きしめてやりたくなった。

「…本当、委員長は俺に付きっきりだね」
「別府君のせいでしょ。私が煩わしいなら、もう少し真面目に生活すれば?」
「誰が、委員長の事を煩わしいって?」

 前を歩く委員長に並ぶ。

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[完] 投稿日:2011/07/18(月) 23:07:26.21 ID:zUNCd1ei0 [7/7]
 俺は委員長の手をさっと取り、指を絡めるようにして繋いでやった。

「俺は、委員長が好きで不良やってるようなもんなんだけどな」

 目と目を合わせて、至極真面目に答える。
 委員長はあっけにとられたような顔で、だんだん顔が赤く…っと、流石に台詞が臭すぎたか、なんかこっちまで恥ずかしくなってきてしまった。 

「…さて委員長、もう少し急ごっか!」

 俺は顔を背けるように、委員長の手を引いて走り出す。

「ひゃっ!?ちょ、ちょっと別府君!手を離しなさいよばかぁっ!」

 委員長の命令はいつものように無視して、俺は階段まで全速力で駆けて行ったのだった。
最終更新:2011年07月19日 20:39