237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 11:10:17.21 ID:NUG4wRzK0 [3/43]
本日、7/31は俺の誕生日である。
こんな事を言っても決して祝ってくれと押しつけているわけではない。
今時誕生日会なんてやるガラでもないし、ケーキを食べてはしゃぐ年でもない。
…しかし、一日中誰にも祝われないというのも、少し寂しいものがある。
山田には何かの拍子に教えた気がするが、奴は今日に限って妙にそそくさと帰ってしまった。
そんな訳でその日の俺は、少し悲しい気持ちになりながら部室の戸を開けたわけである。
「あ…先輩」
「後輩ちゃんか。…あれ、今日他のみんなは?」
「え?あ、まだ来てないみたいです」
ふーん、とどうでもいいように返事をして、俺は部室の椅子に腰かけた。
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 11:11:00.06 ID:NUG4wRzK0 [4/43]
しばらく借りた本などを読んでいると、不意に後輩ちゃんが口を開いた。
「…先輩、今日誕生日なんですか?」
「あれ、なんで知ってるの?」
「山田先輩から、聞きました」
「へえ…祝ってくれる?」
「ええまあ、一応先輩は先輩ですから。おめでとうございます」
相変わらず変に気高いなと思いながら、俺はありがとうと返して本に目を戻す。
「プレゼントとか、貰ったんですか?」
「おう、全校の美少女たちが俺にプレゼントを渡そうと群がるものだから大変だった。整理券を発行する騒ぎになってな」
「貰えなかったんですか」
「…やかましい」
泣いてないぞ。
「寂しい男ですね、先輩も」
「よし、その喧嘩千円で買ってやる」
「まあ怖い。モテない上に見栄っ張りの先輩は暴力的でいけませんね」
「…お前、俺が相手じゃ無かったら今頃どうなってたか分からんぞ」
「その点は大丈夫です。こんな言い草、先輩以外にしませんから」
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[終わり] 投稿日:2011/07/31(日) 11:11:36.82 ID:NUG4wRzK0 [5/43]
あんまりなその言い方に俺は思わずしかるべきおしおきを執行してやろうかと思ったが、後輩ちゃんはレディーなので踏み止まる。
第二プランの逃避を決行するため、俺はムスッと無視して本に集中する事にした。
「……とはいえ」
無視された事に深く傷ついたのか、後輩ちゃんは俺の方につかつかと歩み寄る。
そして俺の隣に腰かけると、制服の内ポケットから小さくラッピングされた紙袋を取りだした。
「プレゼントを貰えず後輩にもいびられてはあまりに可哀想なので、仕方がないので私から唯一のプレゼントをくれてやります」
差し出されたそれは、可愛らしいリボンのついた包装紙。
「…え?」
「早く受け取って下さい。私がまるで馬鹿みたいじゃないですか」
「あ、うん…開けていい?」
「勝手にどうぞ」
何故かこっちを見ようとしない後輩からプレゼントを受け取り、包装紙を丁寧にはがす。
「これは…腕時計?」
「山田先輩から、時計が壊れたというような事を聞きましたので」
「あ…ありがとう。なんか、普通に嬉しい」
「普通に、ってなんですか、普通にって…」
そう言いつつも決してこちらに目を向けない後輩。…なんとなく、その気持ちが分かってしまう。
異性にプレゼントを貰ったのなんてこちらとしても久しぶりだ。なんというか、嬉しいのだけれど、少し照れ臭くなってしまうのだろう。
気まずいような、くすぐったいような空気が部室に流れる。
後輩との距離が少しだけ近づいてしまったような、そんな気のする誕生日だった。
最終更新:2011年08月05日 16:50