253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 12:57:13.87 ID:NUG4wRzK0 [6/43]
  • 大学の後輩に酒飲ませたらキス魔になった。

 ヤバい。何がヤバいってまず俺の貞操がヤバい。
 いやホントそういうつもりじゃなかったんだ。高校時代に演劇部でたくさん面倒見た後輩が俺と同じ大学に一年遅れて入学してきたので、
 歓迎の意を込めて俺の家でパーティやってただけなんだ。さっきまで俺と後輩以外の奴らもたくさんいてどんちゃん騒いでいたんだ。
 夜になってそろそろお開きかという時に、責任感のある後輩は部屋の片づけを手伝ってくれると言ってきたんだ。
 正直ありがたかったし、後輩は少し頑固なくらいしっかりした子だからまかり間違っても過ちは起こるまいと踏んでいたんだ。
 それがどうしてこうなった。
 ああそうだ、確かチューハイが半端にあまり、後輩に軽い気持ちで酒を勧めてみたんだ。
 後輩も意外と興味あったみたいで、舐めるような感じでちびちびと啜ってたんだ。
 そして現在に至るんだ。

「ふぇぇ…せんぱ~い…」

 後輩は潤んだ瞳で俺ににじり寄ってくる。シャツから見え隠れする胸元が空白の一年間での成長を実感させるってアホか!
 そんな場合ではない。問題は明らかに酒の過ちを行ってしまいそうなこの状況だ。
 大学に進学した後輩をかれこれ三ヶ月程見てきたが、こいつの石頭はまったく変わっちゃいない。
 もしここで俺が手を出してしまったあかつきには、俺の事を一生許さないような状況になってしまう事だろう。
 高校二年間かけて積み上げた信頼(積み上がってたのかはなはだ疑問だが)をこんな所で失いたくはない。

「ねぇ…先輩~」
「な、なんですか後輩。ありえねぇくらい甘い声を出して」
「ちゅーしましょうよ、ちゅー」

 な ん で す と ?

「んー…」
「ま、待ちたまえ後輩君。君のジョークは十分に理解したからその小悪魔リップを遠ざけてくれ」
「ジョークじゃないれすよ~…せ・ん・ぱ・い?」

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 12:57:32.25 ID:NUG4wRzK0 [7/43]
 尚も顔を近づけ、執拗に俺の唇を奪い取ろうとする平成の怪盗二十面相。
 ぶっちゃけ流されてしまいたいがそうはイカの金玉焼である。

「なんで避けるんれすかぁ…せんぱい、私のこと…嫌い…?」

 えぐっ、えぐっ、と今度は泣き出す後輩。キス魔に泣き上戸、まったく忙しい人である。

「ああもう、好き好き大好きっ。だから大人しく寝てなさい」
「えへへ…じゃ、ちゅーしてください」

 ふりだしに戻る、である。
 この辺りでらちが開かんと悟った俺は、後輩を無理矢理抱き上げて──。

「ひゃぁっ」

 そのまま、俺のベッドに放り込んだ。
 一仕事終えた顔で片付けを再開する俺の背中に、不満げな後輩の声が掛かる。

「せんぱい、ちゅ~は?」

 その言葉に、俺の何かが吹っ切れる。
 もういいや、どうなっても知らん。俺は捨て鉢にそう呟いて、後輩の額にそっとキスをした。

「さいご、わたしも…」

 後輩は俺の首筋に噛みつくようなキスをすると、そのまま布団に寝転がりすやすやと寝息を立ててしまった。

「……局地的災害か何かか、お前は」

 眠り姫のように安らかな寝顔の後輩にそっと突っ込むと、俺は物音を立てないように片づけを再開した。

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 12:57:55.13 ID:NUG4wRzK0 [8/43]
 翌日、後輩は寝慣れないベッドで目を覚ました。

「ん、ん~~~…。 あ、あれ…ここ、どこ…?」

 見知らぬ天井、見知らぬ部屋。
 見れば台所からは炒め物の香ばしい音と、何故か先輩がエプロン姿で調理している。

「…お、目が覚めたか」
「せ、先輩っ!?な、なんなんですかこれ!?」

 パニック状態に陥る後輩をよそに、先輩はいたって普通に、

「まあ冷静に思い出して見ろ。どこまで覚えてる?」
「え?昨日は確か…ええと、そういえばみんなで先輩の家に行って…片づけを…」
「そこまでか。…いや実は、昨日お前がチューハイの缶開けてな」

 それから先輩は、簡単にことのあらましを説明する。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 12:58:30.04 ID:NUG4wRzK0 [9/43]
「お前が酒飲んで酔っ払って───」

 後輩の目が驚いて見開かれる。

「やたらと俺に甘えてきて───」

 呆然と口が開く。

「次第に、キスをせがんでくるようになって──」

 ぽん、という音と共に顔が真っ赤に染まる。

「らちが開かねえから愛の言葉囁いて、俺のベッドに放り込んで───」

 耳まですっかり赤くなり、顔が俯く。

「キスしないと寝ないなんて言うもんだから、額にキスして寝付かせた」

 拳が、わなわなとふるえる。

「安心しろ、神に誓ってなんにもしてないから」 

 その一言が、むしろ起爆剤となり。

「この…っ!ああもう、ヘタレ先輩がーーーーーーーっ!」
「アミバッ!?」

 後輩怒りの鉄拳が、ニブチンの先輩の顔面を綺麗に捉えたのだった。
最終更新:2011年08月05日 16:51