314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 19:04:45.36 ID:NUG4wRzK0 [24/43]
放課後の文芸部室で、彼と二人っきり。
こんな狭い密室で男女二人が何をやってるかと言うと、読書しかしてなかったりするわけで。
ちらり、と隣を盗み見る。
ものすごく真剣な表情で「京都・奈良一泊二日完全ガイド」を読む彼。
…なんでその本なんだ、そんなに旅行がしたいのか。
不意に、彼の指が動く。
さっき購買の自販機で買ってきたコーヒーを探しているらしい。
目はあくまで本に固定されており、彼の手はしばらくうろうろと机を動いていた。
やがて彼の手がコーヒーを見つけ、そのまま口に運ぶ。
あっ…と言いかけて、私は口をつむんだ。
そのコーヒーは、彼の隣に置いた私のものだった。
間接キス── 一瞬だけその言葉が浮かび、私は思わず息を吐く。
少しびっくりしたけど、なにが間接キスだ。よく考えたら、高校生にもなって気にするような事か。
315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 19:05:10.61 ID:NUG4wRzK0 [25/43]
私はあえて言うほどの事でもないと判断し、再び落ち着き払った様子で本を読み始める。
それから一分経ち、二分経ち、三分経ち。
妙な緊張状態にあったせいか、今度は私ののどが渇いてきた。
コーヒーに伸ばしかけた手がぴたりと止まる。
片方は、彼の飲みかけのコーヒー。
もう片方は、彼が飲んだ私の飲みかけのコーヒー。
だらだらと汗が垂れる。くそう、こんなトラップがあるなんて聞いてないぞ!
私はしばらく宙で手をウロウロしていたが、こんな事をしていては彼から不審に思われてしまう。
私は1秒間の猛葛藤の末に、私が本来飲んでいたコーヒーに手を伸ばした。
コーヒーをもつ手がぶるぶると震える
間接キス──止む負えないとはいえ、自覚的に行うだけでこんなに恥ずかしくなるものなのだろうか。
私は一分にも感じられる一秒の空白を経て、コーヒーに口づけて飲み干した。
何かをやり遂げてしまった顔でふと彼の方を見ると、何か「しまった」という顔になっている。
「…何?」
「あ、いや…間接キスになったなあ、と」
その言葉に、私の何かが炸裂した。
「~~~~っ! ああもう、もとはといえばアンタが悪いんでしょうがバカーーーーっ!」
私、高校二年生。
まだまだ子供だなと実感してしまったある夏の日であった。
最終更新:2011年08月05日 17:07