324 名前:1/4[sage] 投稿日:2011/08/08(月) 23:52:42.59 ID:0nz3SO730 [1/4]
298 から始まった妄想だけど、意外とエロくはならないお子様にも安心な仕上がりとなっております。
「あのさ……」
俺はお嬢にたずねてみることにした。前々から疑問だったのがいかんせん尋ねにくい質問であったのだ。というか、こういう
質問をさらりと言える人間ってのはいるし、それを周りが笑って許してくれる空気ができてるなら、リア充は約束されたも同然
と思う。
そして俺も相手もそういう人間ではないので、非常に躊躇することとなったわけだ。
「なんですの?」
お嬢はホテルのバーでカクテルを楽しんでいる。半年ほど前から、彼女の付き添いとの名目であちらこちらのパーティーへ連
れまわされる機会が増え、それがはけた後で2人で一杯やるのが習慣となっていた。だが、バーでは大抵彼女は俺の方を見ず、
グラスに集中しているのが常だった。
今日のファッションは肩を大きく露出したブルーのマーメイドドレス。こんなものを日常的に着る人種がいるのだから、世の
中広い。かくいう俺も仕事で着るよりは上等なスーツを買うことになってしまった。月賦だけどな。
「ちょっと尋ねにくいんだけど……怒らない?」
ここで、こんな前置きしてしまうから、俺はダメなんだろうなな、と考えていると、案の定横目でにらまれる。
「はっきりなさいな。どうせたいしたことではないでのでしょう? あなたの質問はいつも詰まりませんわ」
そりゃ、申し訳ないと思う。なにせ、テーブルマナーも覚束なかったわけで、その度にいちいちお嬢に質問していたのだから。
だが、さっさと尋ねてみるに限るのは一理ある。なにしろこの人、結構気が短い。
手元のグラスを引き寄せ、残りのブラッディマリーを一口で飲み干すと、彼女はバーテンダーに軽く手を上げて、『同じものを』
と仕草だけで注文した。やはり様になっている。そんなことを考えながら、俺は疑問を口にした。
「その、さ……昔から疑問だったんだけど、そういうドレスって下着……どうすんの?」
「……は?」
狐につままれたような顔でこちらを振り向く。だが、質問の内容を理解すると、ただ眉をひそめてみせた。ただそれだけのリア
クションが、かえって俺の心をざわつかせた。罵倒してくれたほうが、まだ楽なのだが。
「本当に、しょうもないことですわね?」
やがて、ぷい、と俺から視線をはずすと、お嬢は深々とため息をつく。
「……ニプレス、っていうものがありますの」
「はぁ……なるほど。あの、ヌーブラってやつは?」
「まぁ、持ってはいますけど。今日はつけてませんわ。その日のドレス次第ですわね」
325 名前:2/4[sage] 投稿日:2011/08/08(月) 23:54:55.36 ID:0nz3SO730 [2/4]
はぁ、なるほど、なるほど。いや、ヌーブラとやらが出回る前にも、この手のドレスってのはあったはずだから、どうしてたん
だろうと疑問だったんだ。なるほど、ニプレスね。それは気付かなかったわ。
「どこ見てますの?」
「え? あ、いや……ははは……」
そんな話をしてれば、視線がそこに行くのは当たり前で。呆れた声を浴びせられて、やっと俺はお嬢に二杯目がきたことに気付
いた体たらく。気まずさを一口のマルガリータで飲み下して、取り繕う。まぁ、失敗してるが。
「本当、もう少し育って頂きたいものですわね。わたくしのエスコートという名誉を得ているのですから」
「はぁ、面目ない。でも俺なんか誘わなくても、もっと適任がいるんじゃないの? エスコート役」
「そうですわね。ごまんと居ますわ。あなたよりも地位も資産も見た目も品も上の殿方が、散々声をかけてきて困ります」
「なら、何で俺なんか……」
……もしかして、俺がずっと聞きたかったことって、これなのかもしれない。高級スーツを月賦で一着買うのがやっとの俺と、
ちょっとした部屋みたいなクローゼットにドレスを山と持っている彼女。どうしたって吊り合わないのが道理というものだ。こう
して一緒にパーティーなどに出かけて、多少は鍛えられたものの、それでも生まれながらにそういった環境にある人間とはどうし
たって内側から違うのだ。
お嬢は無言だった。俺は苦い酒をもう一口飲んだ。悪酔いしそうな味のマルガリータ。
テキーラベースのこのカクテルは、お嬢に連れられていった最初のパーティの、その更に後で行ったバーで、カクテルなんてさ
っぱりわからない俺に、お嬢が一杯目に教えてくれたものだ。それ以来、一杯目はこれを飲むことにしている。その日のバーは、
パーティーの反省会、というよりほとんど俺の不手際に対する査問会だったのを覚えている。
「……そう、ですわね。どうして、貴方なのか」
二杯目のグラスもほとんど空になった頃、お嬢は口を開いた。
「…………まぁ、地位も資産も見た目も品もある方々には、わたくしが今してる下着の話なんてできませんもの」
「……あっそ」
それって、男として見られてないってことだろうか。まぁ、そうなんだろうな。
ため息混じりにグラスを空にすると、俺は帰ろうとバーテンに手を上げた。がっかりしてはいたが、それを見せないくらいの意
地はあった。
しかし、お嬢はその俺の手を抑えてしまう。
「え、おい……」
抗議も疑問も口に出せなかった。それほど強い視線で、見つめられた。抑えられた手は、いつの間にかしっかりと握られていた。
326 名前:3/4[sage] 投稿日:2011/08/08(月) 23:57:39.00 ID:0nz3SO730 [3/4]
「訂正、しますわ」
「……」
「たとえ、どんなに地位も資産もある方であっても……貴方以外に、わたくしのいま着けている下着なんて教えません」
「え……」
「……も、もうこれきりです。ああ、あとのことは、貴方が良いように計らいなさいな! 男なら!」
顔を真っ赤にして、俺の手を離すと再び顔を背けてしまうお嬢。その慌て方がおかしくて、つい顔がほころんでしまった。
「な、何を笑って……わ、わたくしは貴方が、あんまりしょぼくれた顔をしてるから、仕方なくあんな恥ずかしいことまで……
もうっ!」
「はは、ごめん。そうか……でも、そうだな。また次も誘ってくれよな、リナ。いつでもついてくからさ」
「……30点ですわ、莫迦」
そう言うと、リナは一口真っ赤なカクテルを飲むと、何事かぽつりとつぶやいた。聞こえなかったので、
「え? なに?」
と聞き返すと、もういつものようなそっけない表情で
「なんでもありません。これ飲んだら、帰りますわよ」
と淡々と返された。
327 名前:4/4 お嬢サイド[sage] 投稿日:2011/08/08(月) 23:59:56.09 ID:0nz3SO730 [4/4]
「……も、もうこれきりです。ああ、あとのことは、貴方が良いように計らいなさいな! 男なら!」
――まったく、この人は。
いきなり下着の話をしたかと思えば、今度は勝手に人の言葉を後ろ向きに受け取って落ち込んで。本当に手間がかかりますわ。
大体、わたくしが彼を誘うのは、下着の話でも互いのくだらない思い出でも、肩肘張らずに語り合えるからではありますが、それ
を素直に言葉にさせるのは野暮というもの。そこは察して汲み取るというのが、よい男の条件なのです。まぁ、このあたりの腹芸が
通じない点も、決して短所ばかりではないのですが。
そう考えていると、ふいに彼はくすりと笑いました。それがなんだか癪に障って、つい突っかかってしまいます。
「な、何を笑って……わ、わたくしは貴方が、あんまりしょぼくれた顔をしてるから、仕方なくあんな恥ずかしいことまで……
もうっ!」
恥ずかしいのはもうずっとですわ。隣で、自分が最初に教えたカクテルをずっと飲まれる身にもなってみなさいな。照れくさいや
ら嬉しいやら……まともに顔なんか見れるはずありません。
「はは、ごめん。そうか……でも、そうだな。また次も誘ってくれよな、リナ。いつでもついてくからさ」
だ~か~ら~!! この人は。この局面なら、ホテルのルームキーでも出して、『今夜は、帰したくないな』とか言いなさい!
女に恥をかかせるばかりで、気が利かないったらないですわ。
「……30点ですわ、莫迦」
私はそう言いました。また次も付き合ってくれる。そして呼び捨てにされる。それだけで、30点分も嬉しくなってしまうのです
から、我ながらいい年してウブなものです、本当に。
「チキンなのか、鈍いのか、慎重なのか……はっきりなさいな」
聞こえないように呟いたはずのそれは、僅かに彼の耳に届いたようで。
「え? なに?」
と聞き返されましたが、わたくしは答えるはずも無く。
「なんでもありません。これ飲んだら、帰りますわよ」
と、答えるだけなのでした。
終り
最終更新:2011年08月19日 09:34