711 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/22(月) 15:29:08.97 ID:xQWeU18V0 [6/15]
転校生まつりん 第一話
「結局、悪友の席はどうなった」
朝からクラスが賑やかだにゃーと思ったら、何やら転校生がやって来る様子。そして、先生に連れられて教室に入ってきたの
は、背中にさらりと伸びた黒髪が印象的な、ちんまい女の子だった。どんぐらいちんまいかっていうと、教壇の裏に回ったら、
頭しか見えなくなりそうなくらいである。
(なんだあれ。ホントに高校生かよ……日本に飛び級ってあったっけ?)
「――から転入してきた西城院(さいじょういん)纏(まつり)じゃ。以後よろしくなのじゃ」
気づくと、転校生の自己紹介は終わっていた。終わっていたのだが……。
(何だよ、なのじゃって漫画か)
と、クラス中が思ったはずだ。どうやら皆さん大人なのでスルーしたらしい。
「何だよ、なのじゃって漫画かよ!」
おかげで、思わず口に出してしまった俺だけが、目立つ羽目になった。
「なんじゃ貴様は! わしの言葉遣いに、文句でもあるのか」
「しかも一人称わしかよっ!」
また、俺はいらんことを言ったらしい。ほれ見ろ、転校生が今にも爆発しそうに、全身をわなわなと震えさせているじゃないか。
「だから、何なのじゃ貴様はー!? 名を名乗れ、下郎め!」
「名を名乗れ、と言うからには、まず自分から名乗るべきじゃないか?」
「む、それもそうじゃな……あいすまぬ。わしの名は西城院纏じゃ。……って、さっき名乗ったばっかりじゃあ!」
いきなり下郎とか言ってくるから何かと思ったが、割と素直な子みたいだ。ご丁寧にノリツッコミまでしてるし。
「さっきから、わしだの、じゃだの、もしや関西から来た刺客か?」
「これは方言じゃないわい! 刺客って、お主は命でも狙われておるのか!? あと、どこから来たのかも、さっき言うたであろうが!」
その小さな体で何度も叫んで疲れたのだろう。転校生改め纏は、涙目でゼハーゼハーと呼吸を乱していた。
「自己紹介は名前のとこしか聞いてなかったんだよ。短いんだから、最初から読み直せ」
「自分の不注意なのにまさかの逆ギレじゃと!? というか、後半は一体、何の話じゃ!」
「メタだ!」
「むぅ? ……め、メタとは何じゃ?」
こういうキャラのご多分に漏れず、こいつも横文字に弱いらしい。
「別府貴士です。以後よろしく頼む」
すかさず自己紹介をする俺。
712 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/22(月) 15:32:20.93 ID:xQWeU18V0 [7/15]
まつりはこんらんしている!
「……もう、何なのじゃこやつはぁー……てんしょんの切り替えに着いていけんのじゃあ……」
何だか落ち込んでる様子の纏さんだった。横文字は苦手っぽいけど、流石にテンションという言葉は知ってるのな。アクセント
間違ってるけど。ダンジョンみたいな発音になってるけど。
「まあ、そう落ち込むなよ、まつりん。相談なら乗るぜ?」
「誰のせいで落ち込んでると思うておるんじゃ! あと急にふれんどりーになりすぎじゃ!」
……いや、それはいくらなんでもネタだよね? どうやったらフレンドリーがブルース・リーみたいな発音になるんだ。
おかげで、クラスメイト達みんなが、笑いをこらえるように顔を逸らして俯いている。「ぶふっ」あ、担任のやつ、噴きやがった。
「な、何じゃ? わし、何か変なことでも言うたかの?」
「いや、君は何も変じゃないさ。ずっとそのままの君でいてくれ」
俺は、少女漫画だったら、キラキラっと点描が飛びまくっているに違いないであろう、爽やかな笑顔と共に、決め台詞を放った。
「む、どうしたのじゃ? 気分でも悪いのかの」
すると、纏からは本気で心配そうな表情を向けられた。えっ、俺のキメ顔って他人からどう見えてるの? 隣の席の悪友が、「誰か
エチケット袋持ってない?」とかのたまいやがったので、とりあえず殴っておく。
「まあ、転校生との触れ合いはここまでってことで。良いかな、お二人さん」
さっきまで、教室の隅で爆笑していた担任が、何事もなかったかのように、会話に入ってくる。時計を見れば、もうホームルームは
終わる頃合いだ。
「最初から止めてほしかったのじゃ……」
「俺はこんなに可愛い女の子となら、いくらでも話していたいけどな」
なんて、茶化して言うと、纏の白磁みたいな白い肌が途端に真っ赤に染まる。
「なな、何を言っておるんじゃ突然!? わ、わしが、か、かかかかわいい!?」
「うん、革良い。ワニ革とかヘビ革とか最高だよな」
「なんかわしの思った、かわいいと違った?!」
「ぶわはははは! お前ら最高だわっ」
何やら担任には、俺たちの漫才がいたくお気に召したらしい。
「じゃあ、別府の隣は丁度あいてるし……西城院の席はそこな」
西城院はすかさず「わしは嫌なのですが」と反論したが「先生命令」の一言で黙った。ザ・国家権力の悪用。まあ、俺は
楽しくなりそうだし良いけれど。
「ちょっと待て!? そこは俺の席だっての! 大体、漫画じゃねーんだし、席がそんな都合よくあいてるわけねえだろうが」
と、今まで俺のパンチで吹っ飛んだ後、床にうずくまっていた我が悪友が、やおら立ち上がり、文句をつける。
714 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/22(月) 15:34:26.72 ID:xQWeU18V0 [8/15]
「んだよ、いたのか真田ァ。てめえ、いつもはサボりまくってやがるくせに、何で今日に限っていやがる」
うちの無駄に美人な担任は、何故か我が悪友・真田を前にすると、五割増しで口が悪くなる。多分、年に合わない乙女チックな
理由だと思うが、言ったら殺されるので知らないことにしておこう。
「いやあ、転校生が美人だって聞いたもんで」
「……よぅし。真田、お前今から、先生と職員室でデートと行こうや。これで西城院の席も空くし、一石二鳥だな」
「なん……だと……。藪からヘビどころか、ヤマタノオロチが飛び出してきたぜ」
「馬鹿言え。せいぜいナーガぐらいだ」
「じゃあテュポーン」「ヒドラ」「ニーズホッグ!」「ケツァルコアトル!」「ミズチ!!」「イツァムナー!!」「ウロボロス!!!」
……びたいち基準がわからねえ。
訳のわからない口論に見て見ぬふりをしていると、悪友の脇を通りぬけて、纏が俺の隣の席までやって来た。
「先生命令じゃから、しかたなくじゃ。本当は主の隣なんぞ願い下げじゃがな!」
「はいはい。これからよろしくな、西城院さん」
そう言って、俺は右手を差し出す。それを見た纏は、俺の顔と右手を交互に見やった後、顔を真っ赤にして、下を向いてしまう。
(こりゃ、思ったよりシャイなのかな)
と、考えて右手を戻そうとした、その時。
ぴと、と。
彼女の嘘みたいに小さな左手が、俺の手に寄り添うかの如く差し出されていた。そして俺は、その子供のように体温の高い手を優しく握る。
「んじゃ、改めてよろしく、西城院さん」
「別に…………よい」
再び挨拶をすると、今度は聞こえないくらい小さな声で、ごにょごにょと何か呟いた。
「へ? 何か言った?」
「じゃから、別に纏でよいと言ったんじゃ! さっきまであんなやり取りをしておったのに、西城院さん何ぞと呼ばれては、かえって気味が悪いからの」
お次は、気恥ずかしさを誤魔化すような大声だったので、はっきりと聞こえた。俺は苦笑しつつ、それに答えて言う。
「はいよ。よろしくな、まつりん!」
「うむ、よろしく頼む。……って、また急にふれんどりーになっておる?!」
その叫びでクラス中が、水を打ったように静まり返り。
「ぶわははははは!!」という担任の笑い声を皮切りに、教室がみんなの爆笑で満たされたのだった。
第一話 「結局、悪友の席はどうなった」完
つづかない
最終更新:2011年08月26日 01:33