746 名前:1/5[全力で戦闘描写書いてみた] 投稿日:2011/08/22(月) 18:30:49.19 ID:FkO1x2B+0 [2/11]
「ああ、そういえば───」
スポーツボトルから口を離し、別府タカシは少し意地悪な顔で言う。
「これって、間接キスだよな?」
「なっ…!?」
言われたツインテールの少女──椎水かなみの顔はみるみる内に真っ赤に染まる。
彼女は赤面した頬を隠すように、
「何言ってんのよ、バカあ!」
拳を耳の辺りまで引き上げ、手を開いてタカシの胸に掌を打ち込んだ。
ほんの照れ隠しのつもりだったのだろう。
しかし、その掌がタカシの身体を捉える事は、結論から言えば、無かった。
「とっ…!?」
かなみの掌は宙を切る。
確かにかなみの手はタカシを捕らえた。だが、その姿がまるで霧のように散ってしまったのだ。
すぅ、という空気を切る音とともに、タカシはかなみの背後に現れる。
「残像だよ。あーあ、これだから馬鹿力は怖いねぇ」
「う…うるさいっ!」
へらへらとしたタカシの口調にカッとなったかなみは、今度は本物のテレフォンパンチをタカシへ打ち込む。
747 名前:2/5[] 投稿日:2011/08/22(月) 18:31:07.30 ID:FkO1x2B+0 [3/11]
その鋭さはさながら刃。しかし、タカシは表情一つ変える事無くその腕を掠め取った。
「うっ…!」
「だーかーら、もう少し冷静になれっつってんだろう?」
「あ、アンタが変なこと言うからでしょ…!」
「変なこと?」
そう聞いたタカシの口元が、更に意地悪に吊りあがる。
タカシはかなみの手を一度離すと、傍らに置かれたボトルを取って再び口元に近づけた。
「あっ!?」
そうして一息にボトルを突き立てると、残り少ない中身を一度に飲み干す。
「間接キス程度で騒ぐなっての。小学生かオメーは」
「~~~~っ!!(/////)」
再び、かなみの顔は赤く染まる。
今度は羞恥と、怒りと、照れ臭さの入り混じったなんとも複雑な心境で。
「……殺す」
「え?」
「今日こそ殺す!絶対殺してやるーーーーっ!」
「どわっ!?ま、待ておい!」
かなみ、怒りの連打撃。
ノーモーションでの右ストレート、これは回避。
続けざまに左、右、左、右。時折足さえ交えて、かなみは打撃技を的確に連打した。
748 名前:3/5[] 投稿日:2011/08/22(月) 18:31:41.01 ID:FkO1x2B+0 [4/11]
しかしこの程度に屈する別府タカシではない。格闘技の経験は無いが、怒りっぽい幼馴染と血塗れた喧嘩を繰り返して十数年になるのだ。
タカシは繰り出される拳を冷や汗をかきながら的確に交わし、まいったな、と頬を掻いた。
それを少し離れた所で見ている二人がいた。
クラスメイトの友子と山田である。
「…友ちゃん、あいつら何やってるんだお?(;^ω^)」
「…貴方には何も見えないの?」
「えっ…と、友ちゃんには何が見えてるんだお…?(;^ω^)」
「打撃よ。達人の打撃はそのスピードゆえに凡人の目には捉え切れない…最近のチャンピオンでも似た展開あったでしょ」
「し、史上最強の幼馴染喧嘩かお…(;^ω^)」
そんな会話の間にも、尚も攻防は続く。
かなみは手技だけでは埒があかないと察し、足技を重点的に使う変形カポエイラを交えながらタカシへ迫った──スカートの下はスパッツである。
この動きに、流石のタカシの額にも僅かに汗が浮かんだ。
「そこ…隙ありっ!」
そしてその隙をかなみは見逃さない。一瞬だけ逸れた右手の動きに気づき、それによって出来た必殺の間合いへ、右を打ち込む。
「死ねぇっ!」
しかし、それすらもタカシの計略のうちであった。
「ヤだねっ!」
タカシはあっさりと、まるで全て見えていたかのように逸れた右を差し出し、かなみの放った全力の右を掌で受け止めた。
749 名前:4/5[] 投稿日:2011/08/22(月) 18:32:36.45 ID:FkO1x2B+0 [5/11]
「なっ…!?」
そう、この隙すらも、タカシの作り出した罠であったのだ。
呆然とするかなみの右手をタカシは強く握り、振り返す事ができないよう拘束した。
「痛っ…いだだだだだだだっ!?」
「ったく、女が殺すだの死ねだの言ってんじゃねえよ。できっこねーんだからさ」
「う、うるさいうるさいうるさいっ!もとはと言えばアンタが…あだだだだっ!ご、ごめんっ、ごめんなさいってばぁっ!」
拳が砕けそうな握りに思わず涙目で許しを請うかなみに、タカシはやれやれ、と苦笑い気味の笑顔を返した。
「…じゃ、とっとと帰るぞ」
「馬鹿、イジワル、ドS…」
ぐちぐちと負け犬の戯言を言いながら、かなみは投げ捨てた学生カバンを拾った。
「…いつまで、握ってんのよ」
「え?」
「だから、手!」
「あ…ああ、悪い悪い」
750 名前:5/5[] 投稿日:2011/08/22(月) 18:32:55.92 ID:FkO1x2B+0 [6/11]
言われて、タカシは慌ててかなみの手を離す。
かなみは膨れっ面で、
「ダメ、許さない」
「…俺が何をしたってんだ」
「女の子の手、勝手に握ったし。痛くしたし」
「い、いやっ、それを言えばお前だって俺を殺そうと…」
「私は女の子だからいいの!」
「あのなあ…」
「帰り、なんかおごんなさいよ」
「理不尽だなおい。…まあいいや。小遣い入ったところだし、安いもんならな」
「決まりね。じゃ、駅前のドーナツ屋!」
「ちょっ…そこ、安いか高いかで言ったら微妙に高い…おいコラ、待て、逃げるなって!」
夕暮れ時の放課後、二人の少しだけ逞しい男女は、
どこまでもどこまでも、仲睦まじく走っていったそうな。
劇終!
最終更新:2011年08月26日 01:37