19 名前:1/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:56:00.75 ID:GnjKBzv/0 [5/13]
  • 男が風呂の中で意識を失っているのをツンデレが発見したら

『いけない。もうこんな時間だわ。お風呂に入らないと』
 時計を見つつ、私はリビングのソファから立ち上がる。先に入ったはずの兄は、もうとっ
くに上がっている頃だが、私は全然気付かなかった。寝巻きを取りに部屋に寄るついでに、
兄に声を掛ける。
『兄さん。お風呂から上がったら、ちゃんと声を掛けて下さいっていつも言ってるじゃな
いですか。そうでないと、私がいつになっても入れないのに!!』
 しかし、兄の部屋からは返事がない。もしかしたらもう寝てしまったのかも知れない。
部屋に入って文句を言おうかとも思ったが、そうすると風呂に入る時間が無くなってしま
う。だから、お説教は後にして、私は先に風呂を済ます事にした。
『もう。兄さんってば、ちょくちょく黙って上がってしまうんだもの……』
 ぶつくさ言いつつ、私は風呂に向かう。時々、こういう事があるから困る。いっそ、一
度くらい私も黙って風呂に入ってしまおうかと思うこともある。そして、ちょうど出てく
る兄と全裸で鉢合わせしたりとか、そんな妄想が浮かんでしまう。
『いけないいけない。全く、私ってば、すぐ変な事考えちゃうんだから……』
 小さな声で自分を戒めつつ、風呂場の脱衣所に入る。すると、浴室の電気が煌々と点い
たままになっていた。
『兄さんってば、こっちも点けっ放しでっ!! 後で、叩き起こしてきつく説教しないと……』
 ブツブツと文句を言いつつ、私は服を脱ぐ。だらしない兄に憤慨するのはそれとして、
まずは目の前の楽しみが優先だ。
――兄さんの残り湯……兄さんの芳香が、たっぷりと染み込んだお湯で……私は、兄さん
を感じられる……
 体の芯が、キュンと疼く。こんな事を考えてはいけない。止めないとと理性では分かっ
ていても、どうしても欲望に負けてしまう。結果、風呂の中でいけない遊びをしてしまう
事もしばしばだ。
 下着まで脱いだ所で、私はようやく、おかしい事に気付いた。
『あれ……? これって、兄さんの……着替え?』


20 名前:2/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:56:21.83 ID:GnjKBzv/0 [6/13]
 私が用意した兄のパジャマが、脱衣所にそのまま置かれているのに、私は気付いた。い
や。本当はもっと早くに気付かなければいけないのに、自らの欲望に目が完全に曇ってし
まっていたのだ。
――まさか……まだ、入ってるなんて事は……? だってもう、一時間以上も経っているのに……
 普通、兄は三十分ほどで風呂から上がる。だから、当然上がったものと考えていたが、
もしかしたらグズグズしていて、風呂に入るの自体が遅くなってしまったのだろうか?
『兄さん。いますか? 兄さん』
 浴室に声を掛けるが、返事はない。また、曇りガラスの向こうで、影が動く気配もなかった。
『やっぱり、いないのかな? でも……ちょっと、確認してみよう……』
 万が一、裸の兄と遭遇したらと思いつつも、このままでは埒が明かない。バスタオルで
胸を隠して、私はそっと浴室のドアを開けた。
『兄さん!?』
 私は思わず声を上げた。兄が、浴槽の中でぐったりとしていたのだ。驚いた私は、慌て
て兄に近寄り、大声で呼び掛ける。
『兄さん!! ちょっと、どうしたんですか兄さん!! しっかりして下さい!!』
 すると、私の呼びかけに答えて兄が身じろぎした。
「何だよ、一体……」
 兄が意識を取り戻し、眩しそうに目を開ける。どうやら倒れていたのではなく、湯船の
中で寝てしまっただけと気付き、私はホッとした。もしも、病気だったりしたら恐らくは
正気を保ってなどいられないだろう。兄を失ったらなど考えたくもない。
 同時に、安堵が怒りに変わり、私は兄をどやしつけた。
『驚かさないで下さい兄さん!! 倒れたのかと思ったじゃないですかっ!! いくら疲
れてるからって、湯船で寝るなんてありえませんっ!! 体の疲れだって取れないし、何
よりも溺れたりする危険だってあるんですから。気をつけて下さいよねっ!!』
 しかし、私を見つめていた兄は、ポカンと口を開いたまま、そのまま無言で静止してい
た。その態度が余計に私の苛立ちを加速させる。


21 名前:3/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:56:52.39 ID:GnjKBzv/0 [7/13]
『聞いているんですか兄さんっ!! いいですか? ただでさえ兄さんは不健康な生活を
送ってるんですから、変なところで心配させないで下さい。いえ、その、別に兄さんなん
てどうなろうが知った事じゃありませんけど、ただその、さすがに妹として倒れられたり
したら放っておくわけには世間体として認められませんし、つまりだからその、非常に迷
惑なんです。分かりますか?』
 だが、私の説教を兄は全く聞いてはいないようだった。一瞬、本当にどこかおかしくなっ
たのかと不安になりつつ、私はもう一度怒鳴った。
『ちょっと兄さん!! 無視しないで下さい。兄さん!!』
 すると兄は、手を上げて私を指差し、躊躇いがちに小声で言った。
「いや、その……お前…………その格好……」
『格好なんて今はどうでもいいんですっ!! 格好なんて……って、え?』
 全然関係ないことを口にする兄に、一体何を言ってるんだろうと思いつつ、説教を続け
ようとして、私はふと違和感に気付く。そして、うつむいて自分の格好を見つめた。無防
備にも全てを露わにした、白い裸身を。そして、次に、湯に浸かった全裸の兄の姿も。
『き…………ゃああああああああああっっっっっ!!!!!!』
 思わず絶叫してから、私は手当たり次第にそこらのものを掴み、片腕で胸を隠しつつ、
兄に投げつけた。
『何見てるんですかっ!! 兄さんのバカ!! 変態!! ドスケベ!! 犯罪者!!』
「痛いっ!! いたっ!! 止めろってちょっ!! い、いいから出て……ゴフッ!!」
 洗面器が顔にヒットし、兄が仰け反る。あらゆるものを投げつけてから、私は兄が倒れ
ていた驚きで落としてしまっていたバスタオルを掴むと、それで辛うじて上半身を覆った。
『もう……信じられませんっ!! 兄さんのバカ!! バカバカバカ!!』
 そのまま私は、浴室から飛び出し、全裸のままで自分の部屋へとまっしぐらに駆け戻っ
たのだった。


22 名前:4/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:57:17.71 ID:GnjKBzv/0 [8/13]
『あああああ……もう、何やってるんだろ……私のバカ!! バカバカバカ!!』
 部屋に戻ってから、ようやく冷静な思考回路を取り戻す。ベッドに顔を埋め、自己嫌悪
で自らを罵った。
『私が勝手に入っただけで、兄さんは悪くないのに……ああああああ……でも、兄さんに
裸を……裸を……』
 いくら動揺したとはいえ、あんな風に全裸で飛び込むなんて、自分はどうかしていると
しか思えない。いや。そもそも、動転して全裸である事すらすっかり忘れていたのだ。
『しかも……見られただけじゃなくて……私も、兄さんのを……』
 それに、私もしっかりと見てしまったのだ。兄の、意外と引き締まった体を。そして、
黒い茂みと、さらに大切な部分までをも。
『あっ……あああああああ……っ!!』
 あまりの羞恥に、私は全身を火照らせつつ、悶絶し続けた。そして、どのくらい経った
のか分からないが、ふと我に返ったとき、私は部屋がノックされたのに気付く。
『え……?』
「良かった。やっと返事してくれた。敬子?」
 兄の声がする。私は自分の格好を見た。何と、風呂からそのまま全力で駆けて来たので、
未だバスタオル一枚の姿である事に気付く。
『なっ……何ですか兄さん……っ!?』
 動揺しつつも、私は閉じたドアの向こうに声を掛けた。すると、躊躇いがちに兄が返事をする。
「いや、その……ちょっと、入ってもいいか?」
『ま、待って下さいっ!! 今はダメです!!』
 私は急いで部屋の電気を点ける。そして、慌てて着る物を探した。Tシャツと部屋着の
ショートパンツを着てから、声を掛ける。
『ど……どうぞ……』
 ドアに背を向けたまま、私は声を掛けた。一体どんな顔で兄を見ればいいのだろうか。
それが全く分からなかった。
「じゃあ、失礼、するぞ……?」
 そう声を掛けてから、そっとドアの開く気配がした。
『……何しに来たんですか、兄さん……』


23 名前:5/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:57:39.41 ID:GnjKBzv/0 [9/13]
 背中越しに兄を睨み付けつつ、私は不機嫌極まりないといった声で聞いた。すると兄が
一瞬息を呑むのが分かる。それから、努めて冷静に、兄が答えを返した。
「その……わ、わざとじゃないとはいえさ。一応その……こういう時は、男から謝るべき
だと思ったから、その……謝罪に来た。つか、さっきはその……悪かったな……本当に、
ゴメン……」
 私の不注意だというのに、兄にそんな風に謝られて、私はどうすればいいのか分からな
かった。もう一度、兄を睨み付けるように見る。すると兄は、照れた様子で完全に私から
視線を逸らしていた。
『謝るのに……相手の方を見ないって、どういう事ですか? 兄さん。それって、失礼じゃ
ないんですか?』
 やっと口に出た言葉が、難癖だった。自分でも何で、こんな事を口走ったのかなんて分
からない。それくらい私も動揺していた。
 私の言葉に、兄もまた動揺する。そして、私の方を見ようとして、また顔を背けてしまう。
『何でこっちをちゃんと見てくれないんですか。それじゃあ……その、謝罪になりません』
 何故かその態度に苛立ちを覚えて、私は兄の方に向き直って言った。兄をジッと見つめ
て返事を待つ。しばらく経ってから、小さく兄が答えた。
「……ゴメン。その……失礼かも知れないけど……ただ、今はその……お前を、見れない……」
 恥ずかしそうにうつむく兄を、私は更に詰問した。
『どうしてですか? 何で私を見れないんですか。申し訳ないと思うんだったら、ちゃん
と見て下さい』
 すると、またしばらく兄は答えに躊躇っていたが、やがて小さく頷くと、小声で、しか
しキッパリと答えた。
「いや、その……今お前を見ると……どうしても、さっきのお前の、その……裸を、思い
出しちまうから……」
 その言葉に、私の全身が羞恥でカッと熱くなる。しかし同時に、心のどこかが嬉しさで
疼いた。兄が、私の裸の記憶に、動揺していることに。私は、更にその真意が確かめたく
なり、聞いた。
『思い出すから……何なんですか?』
 すると兄は、しばし答えを躊躇っていたが、また少しして口を開く。


24 名前:6/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:57:59.59 ID:GnjKBzv/0 [10/13]
「いや、だからさ。お前の裸が目の前に浮かんで来て、どうしようもないんだよ。妹だっ
てのに…… だけど、妹だけど、お前だって立派な女の子なんだよ。それで、俺は男だからさ……」
『欲情するって言うんですか? 妹に……私に対して…… 変態ですね、兄さんは』
 もはや、何だか訳の分からない衝動に、私は突き動かされていた。私の罵りに、兄は自
己嫌悪に顔を歪めつつ、吐き捨てるように言う。
「しょうがねえだろ。お前は美人だしスタイルだって、まあそこそこいいしさ。そんなの
目の前に見せられたら、どうしたって動揺しちまうよ。だからこそ、今は見ないようにし
てんじゃねーか」
『どうせ、スタイルは良くても胸だけは控えめだとか、そう言いたいんですか? 兄さん』
 兄の発言に引っ掛かるものを感じて厳しい口調で問うと、兄は慌てて言い返す。
「だ、誰もそんな事言ってないだろ。つか、大きくないのは確かだけど、その……何て言
うか…………」
 私の胸に対する感想が兄の口の中で小さく消えて行き、私の耳までは届かなかった。そ
れに苛立ちを感じて、私は声を荒げる。
『ああ、もうっ!! どんだけヘタレなんですか兄さんは!! たかが私の裸くらいで、
どれだけ動揺してるんですかっ!! せめてまともにこっちを見て、物を言ってくれたっ
ていいじゃないですか!!』
「いや。そりゃ、さっきも言ったろ。今、こうしてたって、その……瞼の裏に、お前の身
体が焼き付いて離れないんだから……」
 不貞腐れたように、兄は言う。そんなに私の裸を見るのはいけない事なのか? それは
確かに私だって兄に見られた事を思い返せば、死ぬほど恥ずかしい。けれど、そこまでし
て記憶を封じ込めたいのかと思うと、腹が立って仕方が無かった。
『一応言っておきますけど兄さん。私だって兄さんの裸は見たんですよ? それでも私は、
兄さんの方をしっかり見てるじゃないですか。どうして兄さんにはそれが出来ないんですか』
「そりゃ、お前は俺なんかの裸を見ても何とも思わないかも知れないけどさ。俺にとって
は、結構ヤバイんだよ。だから、もうあんまり責めないでくれよな」
 兄の声が辛さを帯びてくる。しかし私は、兄の気持ちを汲んだ上で、強気な口調で言い
返した。
『……私だって、初めてなんですよ……? 何とも、思わない訳ないじゃないですか』


25 名前:7/7[] 投稿日:2011/08/27(土) 19:58:39.99 ID:GnjKBzv/0 [11/13]
 その言葉に、兄の体がピクンと反応する。もう、いい。兄の気持ちは分かる。だけど、
私を拒絶しないで欲しい。そう強く私は思った。そして、Tシャツとショートパンツを脱
ぎ捨て、兄の前に立った。
『顔を上げて、私を見て下さい。兄さん』
 その言葉に呼応して顔を上げた兄が、凍りついた。
「お……おまっ……」
『こうなれば、毒を持って毒を制すです。このままだって、どうせ兄さんは私の全裸を妄
想し続けるに決まってます。だったらいっそ……しっかりと、見て下さい』
「いや、だって、そんな事をしたら……おま……」
 私は、小さく頷いた。
『いいんです……兄さんが、ヘタレじゃなくなるまで……存分に、して下さい……』



終わり
最終更新:2011年08月29日 16:38