122 名前:1/6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 13:58:56.87 ID:lim2Qyek0 [2/9]
私には友達がいない。
両親は私が小学生の時に離婚して、現在私は母と二人で暮らしている。
もともと口下手な私にとって、クラスに馴染むことはそう簡単なことではない。
小学校での友達は3人しかいなかった。
中学校ではいじめにあった。
友達と呼べる人はいなかった。先生ですら敵に見えた。
毎日が苦痛だったが、出席日数ギリギリで卒業はできた。
母は私を心配して、隣の市にある高校へ進学させてくれた。
ここならやり直せると、淡い期待を胸に新学期を向かえた。


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 14:01:02.10 ID:lim2Qyek0 [3/9]
でも現実は厳しかった。
自己紹介で皆が知らない中学校の名前を言って、クラス中から不思議な目で見られた。
他の子たちは
「君はD中出身なんでしょ? 知ってる人がいて良かった~」
「お前S中エースピッチャーの山田じゃね?」
こんな具合だ。
ここでも私の口下手が足を引っ張る。
クラスメイトから話を振られることも何度かあった。
しかし「・・・うん」とか「・・・そうだね」と返すことで精一杯だった。

私がクラスから孤立するのも時間の問題だった。

124 名前:3/6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 14:03:15.65 ID:lim2Qyek0 [4/9]
二年生に進級してクラスが変わった。
しかし一年の頃の私を知っている人もいたため、私に対する扱いは代わらなかった。
クラスのなかでは透明人間のように扱われた。
初めのうちは「寡黙な少女」として何人かは話かけてくれた。
「ねえ君って 高田ちなみ っていうの? 俺ね、別府タカシって言うんだ」
「・・・知ってる。・・・学校一のバカで有名」
「orz」
「・・・なんか・・・用が有るの?」
「せっかく隣のs[おい、別府!]
せっかく会話ができていたのに、不良少年たちに止められてしまった。
それからしばらくしてタカシは戻ってきたが、会話は途切れてしまった。
集団の心理は優秀なもので、一ヶ月もたたないうちに元の一人ぼっちに逆戻りだった。
私に対する無視はそれからも続いた。自分でもよくここまで耐えたと思う。
神様は何でこんなにつらい試練を与えるのだろうか。自分は何のために生きているのだろうか。
あれこれ考えても涙だけは出なかった。いや、枯れてしまったのだろうか。

125 名前:4/6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 14:05:29.69 ID:lim2Qyek0 [5/9]
終業式の日、神様は私に微笑んだ。
皆は授業からの開放のため、一目散に帰宅していった。
私は窓の外の「楽しそうに帰る生徒」を見ていた。
夕焼けに照らされた教室には私だけが残っていた。
急に悲しみがこみ上げ、枯れたものだと思っていた涙腺から涙がこぼれた。
その時、開いていたドアのところから声がした。
「お前・・・泣いてるのか」
クラスにも廊下にも人はいなかったため、その言葉は私に向けられていると気づいた。
そこには手元に追試験願いのプリントを握っていた別府タカシの姿があった。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 14:07:33.17 ID:lim2Qyek0 [6/9]
「・・・話かけてくれるの?」
ふるえた声で、小さく答えた。
タカシはプリントをおいてから答えた。
「その・・・ごめん・・・今まで助けてあげられなくて」
タカシはそのままちなみを抱きしめた。
「えっ・・・タカシ君?」
ちなみの身体はとても華奢だった。
こんなに強く抱きしめると折れてしまいそうなくらいに。
「一人ぼっちでつらかったんだよな、誰かに助けてほしかったんだよな。ごめんな、今まで気づかないフリしてたんだ。
こんな俺を許してくれとは言わない。でもこれだけは言わせてくれ。俺はちなみの敵じゃない、お前の見方だ。
つらい時があったら頼ってくれていい、悲しかったら頼ってくれていい。だから・・・」
タカシは泣いていた。
私のために泣いてくれる人がいた。
ちなみはこらえきれず、今まで溜め込んでいたすべてを吐き出すように泣いた。
「た・・・タカシ・・・ぅ・・・うわぁぁぁぁぁん」

127 名前:6/6[sage] 投稿日:2011/08/29(月) 14:09:39.07 ID:lim2Qyek0 [7/9]
どれだけの間泣いていただろうか。
タカシのブレザーは涙でぬれていた。
「・・・ごめん・・・ぬらしちゃった。」
「いいよこれくらい。それよりも・・・」
「夜に・・・なっちゃったね」
「そうだな、そろそろ見回りの警備員が来るから帰ろうか。電車で来てんだろ、駅まで送っていくよ。」
タカシはカバンを手に取り、立ち上がった。
ちなみもカバンをもって立ち上がり、タカシの目を見て答えた。
「・・・ありがと。」
不意に向けられた笑顔にタカシは赤くなってしまった。
負けじとタカシはちなみと手をつないだ。
今度はちなみが赤くなった。

仲良く帰る二人の背中を、月光が優しく照らしていた。
最終更新:2011年09月01日 01:30