63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/28(木) 09:49:13.58 ID:KVmeyHRn0 [2/6]
その日は少し風が強く、桜吹雪が舞っていた。
社の境内を桃色の花びらが覆い、目に鮮やかな色どりをもたらす。
俺は縁側に腰かけて、その散りゆく様を漫然と眺めていた。
「…春だねぇ」
誰に言うでもなく、強いて言うなら──隣に座り餅を食んでいる、巫女服の少女に語りかける。
彼女の名前は纏。この神社の巫女である。
「ふむ、いい日和じゃのう」
舞い散る桜の花を見ながら、纏はもぐもぐと忙しなく口を動かしている。
…本当においしそうに食べる人だ。見ていると、こっちまでお腹が空いてきてしまった。
俺はさりげない手つきで、そっと餅の乗せられたお盆へ手を伸ばしたが──。
「あ痛っ」
「たわけ。お主にやる分はないわ」
ぴしゃりと、その手を纏に叩かれた。
「…ケチくさいな、大和撫子なのに」
「知るか、儂の餅じゃ」
そう言うと、再び幸せそうに餅を頬張る纏。
仕方が無いので、美味しそうに餅を食べる纏の姿を俺はじっと観察している事にした。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/28(木) 09:49:58.19 ID:KVmeyHRn0 [3/6]
「………」
「………」
じっと見つめる。
「………」
「………」
じっと見つめる。
そのまま数秒ほど経ち、やがて耐えきれなくなった纏は突然暴れ出した。
「………ええい、出歯亀かお主は!そうじろじろ見るなぁっ!」
「わっ!?…いや、美味しそうだなぁと思って」
「…全く、そんなもの欲しげな目で見られたら食えるものも食えんわ…。ええいもう、一つ分けてやる。これをやるから何処かへ行け、阿呆」
ずい、と餅を差し出される。が、俺はそれをしげしげと見つめ、それから纏を見比べた。
自分で餅を食っても、モチモチするだけである。ならばいっそ──。
「…いや、餅はいいや」
「なっ…お主、儂をバカにしとるのか!?」
「あーいや、そういう意味じゃなくて…。アレだ。餅を食うよりかは、纏の可愛い所を観察してる方が楽しいんじゃないかって思ってね」
「かわっ!?」
「小動物的というか、見ているうちになんか餅食べてるのが可愛く見えてきちゃって。だからまあ、お気になさらず食べてていいよ」
「~~~~っ!そんな話を聞いた後でゆっくり食えるかド阿呆ーーーーっ!」
そう言う纏の両頬は、桜のような薄紅色で染まっていましたとさ。
最終更新:2011年05月01日 19:00