163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 00:51:49.39 ID:VOEoMVDU0 [6/20]
  • ツンデレが10秒間だけ男を自由に出来る権利を得たら

 タカシと中間テストで賭けをした。全教科の総合点で1点につき10秒間、上回った側が
相手を自由に出来るという勝負だ。そしてその結果は……
『521点対520点って……』
「足してみたら、物の見事に1点差かよ。こういう偶然もあるもんだな」
『何、冷静に評価してんのよ!! 10秒なんて何にも出来ないじゃない!! 何でもっと
悪い点取らなかったのよ。こういう時だけ!!』
「無茶言うなよ。俺だってかなみを自分の物にする為に一生懸命勉強したんだぜ」
 タカシのその言葉が妙に卑猥に聞こえて、私の体がゾクッと疼く。それをグッと押し殺
して、私はタカシを睨み付けた。
『変な表現するなっ!! 一体何する気だったのよ。エッチな事禁止なんだからね!!』
 そう、怒鳴りつけると、タカシは難しい顔をして腕を組んだ。
「うーん。時間いっぱい、かなみの可愛らしい手を堪能するとかならセーフだろ? でな
きゃ、全身をマッサージして貰うとか……あとは、隣に座って甘い言葉を囁いて貰うとか」
『セーフだけど、変態よ。変態!! あー、良かった。負けなくて』
 そう言いつつも、負けた時の事を妄想すると、何だか体の芯が熱くなってしまう。
「まあ、勝ったのはお前だからな。残念だが、煮るなり焼くなり好きにしろ。ほら」
『では、不肖ながらタイムキーパーはこのわたくし、友子が勤めさせて頂きます』
「記念撮影は、僕、山田が勤めます」
『ちょ、ちょっと!! タイムキーパーはともかく、何で記念撮影なんてすんのよ!!』
 いつも一緒の新聞部コンビに突っ込むと、友子はニカッと笑って答えた。
『そこはそれ。青春のメモリアルという事で』
『そんなメモリアルはいらん!!』
「まあまあ。別に変な事する訳じゃないんだしさ。いいじゃん。写真くらい」
 タカシにまで宥められて、私は不満気に口を膨らませた。
『うーっ…… だって、何か恥ずかしいし……』
『今更何言ってんのよ。二人のラブラブ写真なんてもういっぱい収めてるんだし、今更一
枚や二枚増えた所で変わりないって』
 爽やかにとんでもない事を言ってのける友子に、私は噛み付いた。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 00:52:24.32 ID:VOEoMVDU0 [7/20]
『そんな写真、いつ、どこで撮ったのよ!! 肖像権の侵害!! 全部寄越しなさいよね。消すから』
『ふはははは。この友ちゃんに掛かれば、人目を忍んで仲睦まじい二人の写真を隠し撮り
する事など、造作もないわ。大丈夫。結婚式までは私と山田以外の誰にも見せないから』
『それでもダメ!! そんな物が存在する事自体、許されないわよ!!』
『ふっふーんだ。もうカメラからは消して、私のパソコンの奥底に、鍵を掛けてしまって
あるもんね。破れるもんなら破ってみなさい』
『ぐぬぬぬぬ……』
 この手の知識はスッカラカンの私が、悔しさに歯軋りすると、山田が宥めに来る。
「諦めなよ。友ちゃんの専用パソコンは、僕でも扱えないんだから。かなみちゃんじゃ、
ファイルを発見する事すら出来ないよ」
『分かってるわよ!! ええい、もう!! 今に見てなさいよね。絶対いつか、仕返しし
てやるんだから』
 私の捨て台詞に、友子は不遜な笑みで答える。
『無理よ。無理無理。さ、そんな事より、そろそろ始めるわよ』
 友子がストップウォッチを出したのを見て、私は慌てた。
『ちょ、ちょっと待ってよ。まだあたし、何やるか考えてない!!』
 しかし、私の抗議を友子はあっさりと却下した。
『時間は待っちゃくれないのよ。別府君だって、ほら。もう好きにして下さいという状態
だし。さあ、行くわよ』
『わわわ……わーっ!!』


この後、まずは失敗編から





165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 00:52:48.46 ID:VOEoMVDU0 [8/20]
~失敗編~

 もはや時が動き出してしまった以上、どうしようもない。あたしは必死で、出来る事を考え始めた。
(どどど、どうしよどうしよ。10秒で出来ること……出来ることって、抱き締める……と
か? いやいやいや。友子の前でそんな事出来る訳ないじゃない。でもでも、じゃあ手だ
け堪能するとか……か、顔をスリスリするとか…… って、違うあたし!! そういう妄
想から離れろ!! じゃあ、髪を弄るとか…… うんうん。髪型を弄って遊ぶとかいって、
堪能する事くらいなら…… こっそり匂いとかも嗅げるし。それくらいなら、冗談で済み――)』
『はい。10秒終わりーっ!!』
 友子の声に、妄想が破られる。私は驚いて抗議した。
『えええええっ!! ちょっと待って。待ってよ!! 10秒ってそんなあたし、まだ何もしてない!!』
 しかし友子は、片手で私をあっさりと制する。
『ノンノンノン。妄想の中で別府君をあれこれ自由にしたんでしょ? それだけでも十分、
幸せじゃない』
『何が幸せよっ!! あと妄想言うな!! 真面目に考えてたんだから』
 自分の頭の中の考えを見抜かれないよう、必死で否定するが、その時山田が私にカメラ
を差し出して言った。
「でも、考えてる時のかなみちゃんの顔、何だか嬉しそうだよ。ほら」
 差し出された画像を見て、私は驚愕した。確かに、私の口元がみっともなくも嬉しそう
に歪んでいる。
『貸しなさいよ!! 消すから!!』
「友ちゃん。パス」
 ひったくろうとした矢先に、カメラは本来の持ち主である友子の手に渡る。
『ナイス山田。さあ、部室行って加工するわよ』
「合点です。部長」
 息の合ったコンビは、スタコラと教室から逃げ出して行く。一瞬呆然として見ていた私
は、ハッと我に返って追いかけた。
『ちょっ!! 待ちなさいよコラ!! 写真消しなさいってばー!!』
 私の出て行ったあとで、タカシがつまらなさそうに呟いたのを、私はもう聞いていなかった。
「結局、待ちぼうけだけかよ。俺……」





172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 01:30:08.95 ID:VOEoMVDU0 [11/20]
~成功編~
163-164の続きから

 友子の掛け声に、慌てて何をしようか考え始める。しかし、焦りばかりが先行して、何
も浮かんで来ない。
『(どうしよどうしよ……!! このままじゃ終わっちゃう……!!)』
『あと5秒よ。ほら』
 友子の声が、更に焦りを加速させた。
『(ヤバイヤバイヤバイッ!! 何か、何かしないと……もったいないよ!!)』
『よーん……さーん……にー……』
 カウントダウンに、焦りと混乱がピークに達した。
『(な、何もしないよりはっ……!!)』
 私はもう、何も考えずに衝動だけで動いていた。
『タカシ。ジッとしてて!!』
「え?」
 思わず顔を上げたタカシの頬に、私は唇を近づけ、チュッと音を立ててキスをしてしまっ
た。と、同時に、友子の合図が響く。
『はい。終了ーっ!! って、キャーッ!!』
 友子らしからぬ黄色い叫び声に、私はキョトンとして友子を見る。
『え? え? え? な、何? どうかしたの……』
『どうかしたのって、やるじゃない!! 自由にしていいって言われてキスするなんて。
やっるーぅ!!』
 友子にバン、と背中を叩かれて、私はハッと我に返った。自分の行動を思い出し、全身
からみるみるうちに熱が噴き出す。私はあわてて、言い訳を始めた。


173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 01:30:34.09 ID:VOEoMVDU0 [12/20]
『ちっ……ちがっ…… あ、あんな事全然したくなかったっていうか、何しようか決まん
ないうちに残り3秒くらいになっちゃったから……だからその、もったいないって思った
ら咄嗟にっていうか、何も考えてないし、だからその、あの……』
 支離滅裂で言葉が上手くまとまらない。と、友子が両肩をガシッと掴んで頷いた。
『それが本能での行動よ。かなみの体は、別府君へのキスを求めていたのよ』
『へ……求めてた……って、違うのよ!! 違うのこれは!!』
『山田!!』
 必死で否定する私を無視して、友子は山田君を呼ぶ。
『今の、写真撮ったでしょうね。キチンと。ブレてたりしたら許さないわよ』
 その問い掛けに、山田君は頷いて答えた。
『バッチリだよ、友ちゃん。僕も随分と友ちゃんに鍛えられたからね。逃さず、キチンと撮れたよ』
 今のを、写真に撮った? 一瞬、呆然としてから、私は慌てて山田君に言った。
『だっ……ダメダメダメ!! そんなのダメよ!! 消してってば!!』
 と、その時、おもむろに椅子が鳴る音がした。ハッとそっちの方を向くと、頬っぺたを
押さえたまま、立ち上がって私を見つめるタカシの姿があった。
「……かなみ」
 その問い掛けに、私は思わずドキッとした。
『な……ななななな、何よっ!! 何かその……文句でもあるの?』
 咄嗟に考えもせずに口走る。それをタカシは、首を横に振って退けた。


174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/09/11(日) 01:30:58.88 ID:VOEoMVDU0 [13/20]
「そんな訳ないだろ? いや、その……驚きはしたけどさ。かなみがまさかキスするなん
て、思ってもみなかったから」
『わた……わた……私だって、するつもりなんてなかったわよ!! 衝動的にっていうか、
自分でも何であんな事したのか……分かんないんだから……』
 恥ずかしくなって、タカシを見ていられなくて、私は顔を逸らす。その視線の端で、タ
カシはもう一度、首を振って言った。
「何だっていいさ。けど、その……ありがとな。何かその……罰ゲームのはずなのに、ご
褒美貰えたみたいで……嬉しかった」
『うれし……かっ……!?』
 タカシが嬉しがってる? その言葉が脳に染み渡る。と同時に、私はクラッと来て、力
なく、タカシにしなだれかかった。
「お、おい? どうしたんだよかなみ!!」
 問い掛けに、小さく首を振って答える。
『分かんない……もう分かんないけど……力入んないの…… このままにさせて……お願
……い……』
 もう、頭がボーッとして何も考えられなくて、とにかくタカシに甘えたくて、私は完全
に身を任せていた。
『さあ。あとは二人きりにさせてあげましょう。行くわよ、山田』
「了解。友ちゃん」
 もはや抜け殻状態の私は、二人が出て行ったことすら、気付かなかったのだった。


終わり
最終更新:2011年09月14日 01:19