3 名前:1/2[sage] 投稿日:2011/04/30(土) 22:50:32.42 ID:y8RvswODP [1/2]
「ふー・・・ごちそうさまでした。今日も美味かったよ」
『ふん、当たり前だ』
言葉はアレだが、その表情はとても嬉しそうだ。普段ならここで冗談のひとつも言うのだが、今日はその暇はない。時間を確認すると、もう9時になろうとしていた。
「よっと・・・」
『ん?どこへ行く。9時から映画見るような事言ってなかったか』
立ち上がりかけたところで、食器を片付け中の嫁に呼び止められた。確かに、今朝新聞を見ながらそういう話をしたが。よく覚えてんな。
「ああ、だから自分の部屋に」
『別に、ここで見ればいいだろう。かなり評判が高いのだろう?私も興味あるし、ここで見ればいいじゃないか。何もわざわざ小さいTVで見ようとしなくてもいいんじゃないか』
心なしか頬が赤くなっている。こいつと一緒に映画を見ると、たいてい映画そっちのけでイチャコラモードに突入するので、それを期待しているんだろう。
まぁそれは俺も望む所なので、普段ならわざわざ自分の部屋の小さいテレビで見ようとはしない。けど今日のはそういうわけにはいかない。
「いや、そうしたいのはやまやまなんだが・・・今日のはホラーだぞ?」
ウチの嫁は学生時代に剣道部主将をつとめたほどの猛者なのだが、お化け屋敷やホラー映画の類は大の苦手だ。唯一の欠点と言ってもいいだろう。
怖がりの彼女とホラー映画を見るというのは男が体験したい王道シチュのひとつなのだが、ウチの嫁はガチで失神とかするのでそこはもうあきらめている。
『う、うぐ・・・だ、だが、映画には厳しいお前がかなり褒めていたじゃないか。それなら見ておくのも一興というもの。わ、私は別に怖くなどないぞ。いいからここで一緒に見るんだ』
ホラー映画という単語を出した途端に声が震えだしたんですけど。・・・まぁ、最後にこいつとホラー映画見たのって何年も前だし、成長してる可能性もある。試してみるのもいいか。
      • しかしこの後、ここで彼女の申し出を受け入れた事を俺は心底後悔する事になった。


4 名前:2/2[sage] 投稿日:2011/04/30(土) 22:51:16.69 ID:y8RvswODP [2/2]
「・・・」
布団に入ってから30分、俺はずっと隣で震える嫁を抱きしめ、頭を撫で続けていた。
『・・・ぐすっ』
「・・・悪かったよ。評判は聞いてたけど、まさかあれほどとは思わなかった。ちゃんと断るべきだった。ごめんな」
『ううう・・・』
結局こいつは失神せずに最後まで視聴できた、成長したもんだ。しかし今回は早々と失神していたほうがよかったかもしれない。
映画の内容は、慣れてる俺でも本当に怖いと思えるようなものだった。評判以上の出来と言えよう。
しかし、俺が失笑しながら見れるようなB級ホラー映画でも俺の服を掴みながらじゃないと見れないこいつには、心底恐怖だったことだろう。
『タカシ・・・ご、ごめんなさい。せっかく休日前の夜なのに、いつもなら、その、そういうことを・・・』
「アホ。余計な事気にしてないで、さっさと寝ちまえ」
この状況じゃ、さすがにそんな気分にゃならねーよ。好きな子と一緒の布団で抱き合っているというのに、俺のはピクリとも反応しなかった。
はぁ、明日はこいつの世話だけで終わっちまいそうだな・・・
そう思いながら、彼女の寝息が聞こえてくるまで優しく頭を撫で続けた。
最終更新:2011年05月01日 20:09