「立夏の楽師 目覚めの前夜 (※がくぽ本人は登場しません)」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
立夏の楽師 目覚めの前夜 (※がくぽ本人は登場しません)」を以下のとおり復元します。
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朝夕は涼しいが、もう日中は日差しが照りつけ蒸し暑くなる季節になっていた。<br />
五人の住まいは最新システムの冷暖房を完備していたが、メイコの意向で使用は控えめだった。<br />
「ちょっとはエコってものを考えてもいいでしょ?こういうことはのめりこまないで身近なところで出来ることをするの」というメイコの言葉に、昨年の秋冬に生まれて初めて夏を体験する三人は反論できなかった。<br />
「そう言えば俺も初めての夏はつらかったなぁ」とカイトが苦笑いする。<br />
なぜか初期型のメイコもカイトも後発機のミクもリンもレンも秋冬に起動しているが、今Y社が総力を上げて開発中だという、今度正式に起動する予定のボーカロイド03は、夏の盛りぐらいには起動できるらしい。<br />
何分リンとレンの滑舌修正作業のために、03は開発が大幅に遅れてしまい、起動も遅れるらしいのだが。<br />
03の情報はまったくと言っていいほど入ってきていないのだが、代わりの情報が入った。<br /><br />
IT製品の開発を得意とするI社から、男性型ボーカロイドが発売されるというのだ。<br /><br />
サンプルヴォイスには、いわゆるビジュアル系の美形でありながら歌唱力の評価も高く、艶めかしい容姿や男らしく甘い声、独特な美的感覚などで熱烈な女性ファンが多く、最近では本人が昔から大ファンだったという人気アニメのリメイク映画の主題歌を歌うなど、話題性にも富んだ男性シンガーが選ばれた。<br />
そのシンガーの名前と「ボーカロイド」をもじり合わせた「VOCALOID2
GACKPOID(がくっぽいど)」という商品名で七月半ばに発売されるという電撃的なプレスリリースが、マスメディアを席巻したのである。<br /><br /><br /><br />
熱気のこもった午後、緩く傾斜した屋根が日差しを遮るテラスでふたつの影がまどろんでいた。<br />
「なんか…へーんな名前……がくっぽいどって」<br />
ラタンの椅子に浅く腰掛け、だらしなく背もたれにもたれかかりながら雑誌を読んでいたレンが言った。<br />
「Y社が商品化を急いでいたのにはこういうわけもあったのね」とメイコが水出しの緑茶が入ったグラスを手に、外気との温度差で曇ったガラスに結露を作り、滴り落ちる水滴を眺めながらからんと氷の音を立てた。<br /><br />
日本で最初の人間型ロボット、つまりアンドロイド――その属性を「歌う」ことに特化した「ボーカル・アンドロイド」、つまり「ボーカロイド」としてメイコが起動して数年、メイコより遅れること約二年で起動したVOCALOID00:KAITO、さらに間を置き、歌手をサンプルヴォイスとしたメイコやカイトとは方向性を変えて、主にアニメファンに支持されている人気声優の声をサンプルヴォイスとしたミク、そしてミクからさして間を置かず、同じく声優を起用し、同時開発・起動された双子のリンとレン――この五人は今まで日本で唯一のボーカロイドであったが、先日なぜか英国にいたレオンからもたらされた情報で、この“五体”のボーカロイドが量産段階に入り、正式に商品化されるという話を聞いたのであった。<br />
メイコとカイトのプログラムを担当し、開発チームのチームリーダー的存在であった人物は、量産・市販決定に至った理由を「二人の実験が成功したから」としか言わなかったが、他にも量産間近のボーカロイドがいたとは、メイコたちのプロデュースを任されているC社はさぞや慌てたことだろう。<br />
「しかもネームバリューが違うしなぁ…」と呟いたレンを、グラスを口にしていたメイコが睨みつけた。<br />
からん、と氷の涼やかな音を立ててグラスをテーブルに置いたメイコは、「何もサンプルヴォイスにネームバリューがあればいいってもんじゃないの」とレンを指差した。<br />
「がくっぽいどはがくっぽいど単体で見てもらえない可能性が高いのよ?やたら人気のある歌手を起用したお陰でその歌手のイメージがずっとついて回ることになるわ。いくらオリジナルを歌っても、がくっぽいどじゃなくガ○トの歌だと言われてガ○トの電子VOICE扱いしかしてもらえないかもしれない」<br />
一気にまくし立てたメイコを横目にレンは凍らせたペプシコーラが溶けかけで浮いているグラスを手に取りからからと振った。<br />
「どーでもいーですけどねー。発売されたらオレたちのライバルに当たるわけだし」<br />
メイコが指を下ろして「素っ気ないわね」とつまらなそうに呟いた。<br />
「だってオレたちはオレたちでやってけばいいんでしょ?別にオレたちと対バンさせられるわけじゃないし」<br />
「そうだけどー」<br />
メイコはまろみのある乳白色のテーブルに突っ伏した。<br />
「あーん、暑い…」<br />
「昼間はリビング以外のエアコンは30度以下にしとけって言ったの姉さんじゃん。家の中にこもってたらよくないから外に行こうって言い出したのもさぁ…」<br />
そうなのだ、レンがリビングでごろごろと寝転がっていたら、「鬱陶しい、ちょっとは季節を満喫しなさい。ちゃんと汗もかいて熱を発散すれば涼しくなるわよ」と言ってテラスに連れ出したのはメイコなのである。<br />
「暇だったんだもの」<br />
おいおい、とストローを咥えて凍結状態から溶けた冷たいコーラを吸いながらレンはがくりと肩を落とした。<br />
「あの子たちもいないしー」<br />
「仕方ないじゃん。仕事なんだし。オレしかいなくて悪かったねー」<br />
カイトとミクとリンは仕事に出かけ、この家に残されていたのはメイコとレンだけだったのである。<br />
「言葉のあやにいちいちケチつけるんじゃないの。誰でもいいから残っている子がいたら誘ってたわ」<br />
「はぁ…もうちょい涼しいところにお誘い頂きたいもんだけどねぇ…。あー…サーティーワン行きたいなー」<br />
「そんなとこ行ったらお土産が必要になるじゃない」<br />
「いいんじゃない?ダッツばかりでも芸がないし、オレもアイス食いたいな。行こうよ、姉さん」<br />
それまでだらしなく椅子からずり落ちそうになっていたレンが俄かに活気づき、椅子に座り直してニコニコとメイコに向かって愛想のよい笑顔を向ける。<br />
まったくこの子は…と半分呆れつつも、メイコはアイスクリームの冷やりとした食感と甘味を思い出し、咽が乾いて無性にアイスを食べたい気分になった。<br />
この世で一番アイスを愛してるかのごとくアイスを愛する弟のアイスへの偏愛ぶりは姉のメイコですら理解に苦しむ嗜好だが、こんなに暑い日だもの、たまにはアイスクリームもいいわよね…とメイコは微笑んだ。<br />
「ふふ。じゃ、ちょっとお出かけの支度でもして暑い最中、冷たいものを食べに行こうかしら?」<br />
「おっけーい、じゃあ決まり!んじゃオレ支度してくるわ」<br />
指を鳴らし、メイコよりも早く立ち上がったレンは慌ただしく部屋の中に戻り、ドアの向こうへ消えて行った。<br />
まぁ…タンクトップとトランクスだけじゃ出かけられないわよね…とメイコは肩をすくめ、「何がいいかな」と独り言を言いながら、空になって表面がすっかり濡れたグラスを持って立ち上がり、今年買ったばかりの赤と白の花柄のオフショルダーワンピースにしようかな?それにエスパドリュー?とこっそり微笑んだ。<br />
夕食は、暑いから庭で焼肉パーティーにしよう、メインディッシュは焼きうどんで。<br />
自分が調理しなくてもみんなで焼くだけだし、いざとなったら用意も片付けもカイトに手伝ってもらえる。<br />
よし、今日は主婦はやめてラクしよう、と決心し、足取り軽くメイコは自室に向かった。<br /><br />
デザートはみんなでサーティーワン。<br />
ほんとは特別なデザートはみんなひとつずつ。<br />
だけどサーティーワンは、あの子はみっつ。<br />
誰も文句を言わない。<br />
みんな幸せそうなあの子を楽しそうに眺めてる。<br /><br /><br />
午後の一番蒸し暑い時間、メイコとレンは二人で連れ立ってアイスを食べにお洒落して出かけた。<br /><br /><br /><br /><br />
夜になって気温は下がり、心地よい夜風の中で簡素なバーベキューが行われた。<br />
「今日がくっぽいどのデモソング聞いたんだよー」とリンが唇についたアイスを舐めながら言った。<br />
肉や野菜、うどんをたっぷり五人前焼いた鉄板はすでに手早く片付けられている。<br />
「へ?どうだった?」<br />
「カッコよかった」<br />
「それじゃ話になんねぇだろが」<br />
げんなりしたレンに「あんたに話す必要ないもんねー」とリンは醒めた口調で言い返した。<br />
「どうだった?アンタよりカッコよかった?」<br />
愉しげに聞くメイコにカイトはアイスを頬張りながら「うん」とあっさり答え、メイコはアイスを吹きそうになる。<br />
「姉さん、アイスもったいない」<br />
「いや…吹き出したりはしないわよ…」とメイコは気を取り直すようにまたアイスを口に運んで飲み込んだ。<br />
「あのね…アンタのライバルになるかもしれないのにあっさり“カッコよかった”ってねぇ…」<br />
「でもカッコよかったよ。俺よりずっと男らしくて強い声だったな」<br />
「あ…そ…」<br />
「本当にいい声だってば。姉さんも聞いてみたらいいよ」<br />
「いや…そのうち聞くから…ありがと…」<br />
仮にも雄だというのにこの闘争本能のなさは一体何なのかと小一時間問い詰めたい衝動に駆られながら、「ま、あんただったらきっとがくっぽいどとも仲良くなれるわよ…」とメイコはアイスを舐めながら呟いた。<br />
「うん、同じボーカロイド同士、仲良くなれたらいいと思ってる」とカイトはにっこりと微笑んだ。<br />
「お兄ちゃんなら誰とでも仲良くなれるよ。だってお兄ちゃんのこと嫌いになる人なんかいないもん♪」とカイトの後ろからミクが顔を出してカイトの手元を覗き込むと、「はい」とカイトが笑いながら食べかけのみっつめのアイスを差し出し、ミクの顔がぱっと明るくなる。<br />
「いいの?最後のいっこなのに…」<br />
「いいよ、姉さんからのお土産だし、ミクが好きなだけ食べて」<br />
「わーい♪大好き、お兄ちゃん♪」<br />
嬉しそうに食べかけのアイスを頬張るミクと、それを穏やかな笑みで見守っているカイトを見て、メイコはやれやれと母親のような気分で目を細めて微笑んだ。<br />
がくっぽいどがどんな性格なのかわからないけど、この子は変わらずのほほんとしているんでしょうね…。<br />
「がくぽが出たらアンタなんかもう用無しよ!」「お前こそ色気ゼロのくせに偉そうにすんな!」とくだらない口論に熱中しているリンとレンをちらりと見てから空を見上げ、「もうすぐ七夕ね」とメイコは呟いた。</p>
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<p>がくっぽいど発売前にフライングSS。</p>
<p>イン○ーネット社がどんな会社なのか知らないので今度調べます~!!!(汗汗</p>
<p>がくぽのVOICEサンプルになった歌手は実在人物ではなく架空のアーティストです。</p>
<p>似ていても違う人物なのでくれぐれも実在の歌手と混同しないように。</p>
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<p>追記:CV03が「がくぽ」じゃないことはわかっていますー!</p>
<p>何か誤解させるような書き方をしてしまったことをお詫び申し上げます。 </p>
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