鉄道工場

鉄道工場(てつどうこうじょう)は,明治期に鉄道が開業したときに蒸気機関車や客車,貨車などの修理及び修理などに必要な工具などを製作した新橋修復所に起源とし,その後,名称が鉄道寮新橋工場に変更され,これが鉄道工場の始まりです*1

目次


鉄道工場設置者

明治期の鉄道開業当初の日本には鉄道部品製造を行える民間企業が存在しなかったので,官設鉄道及び民営鉄道会社自身で工場を設置しました*2

鉄道工場の業務

明治期の鉄道工場では車輪やバネ,連結器などを輸入し,木造の客貨車の新製も行いました。蒸気機関車の改造も行い,1893年(明治26年)には官設鉄道の神戸工場で日本初の蒸気機関車860形を製造しました*3

また,車輛だけでなく,鉄道で使用される機械やクレーン,転車台(ターンテーブル),信号機,橋梁,軌道部品などの新製や修理も行いました*4

その後,民間企業でも上記のものが製造できるようになったのですが,昭和10年代になると国策により民間企業で製造された工作機械の納入先は軍需工場が優先されるようになったため,鉄道工場では工作機械を自作することになりました。歯車などの一部の部品は民間企業に発注しましたが,それ以外の部品は鉄道工場で自作しました。自作した主な工作機械は次のようなものです*5

太平洋戦争後は,復旧に必要な機械や設備も製作するようになり,荷役機械や駅のクレーン,機関区の給炭設備(コールタワーなど),貨車移動機(小型の貨車入換用動力車)などを製作しました*6

鉄道工場設備及び機械の動力と駆動

明治期の鉄道工場では工場に設置されたボイラーによる蒸気を動力として使いました。また,重量物を移動させるためのクレーンなどはなく,人力によるリフトで行っていました。工具などの動力も圧縮空気を利用したエアツールがないためヤスリなどによる手作業で行っていました*7

その後,動力は電動機(モーター)となりましたが,明治期の電動機の出力は15kWでした。昭和初期になると電動機の出力が40kWに向上しました。しかし,その動力を工作機械に伝動する方法は以前としてプーリーを使用する方法でした。

電動機の大出力化への移行と時期を同じくして動力伝動方式はプーリー方式から電動機直結方式へ移行しました。それぞれの工作機械に電動機が取り付けられるようになったのです*8

鉄道工場の設備

動力

明治期の鉄道工場の動力には蒸気機関(ボイラー)を使用していました*9

クレーン

鉄道工場に最初に設置されたクレーンは石川島造船所製の50トン天井クレーンで,1912年(明治45年)に建設された浜松工場に設置されました*10

ジャッキ

昭和初期になると車輛検修作業用として車輛を上に上げるためのジャッキが導入されました。ジャッキには次のようにいくつかの種類があります*11
  • ビームジャッキ:車輛の車体前後端部をビームに乗せて,ネジ駆動で上下させる。
  • リフティングジャッキ:車輛の車体前後端部4ヶ所をネジ駆動で上下させる。
  • ドロップピットジャッキ:機関車の1軸だけピットに油圧駆動で上下させる。このジャッキは蒸気機関車の修理において,修理を必要とする車輪だけを取り出すときに使用されました。

工作機械

明治期の鉄道工場では,部品製作用の工作機械として,旋盤ボール盤形削盤グラインダー鍛造機械プレス機械などを設置していました*12

車輪旋盤

旋盤には車輪を切削するための車輪旋盤と汎用の普通旋盤があります。車輪旋盤は走行で偏摩耗した客貨車の車輪を真円に修正加工するためのものです。車輪径の大きな蒸気機関車用には動輪旋盤が使われました。旋盤の動力となる電動機(モーター)は,明治期には15kWでしたが,昭和初期には40kWまで出力が向上しました*13

タイヤの偏摩耗等の修正には,該当する車輪を抜き取って鉄道工場へ送り,真円に修正後に送り返しており,該当車輪の輸送時間が無駄な時間となっていたが,1959年(昭和34年)に車輪転削盤の開発が完了し,主な車輛基地に配備されるようになり,鉄道工場へ送る必要がなくなりました*14

蒸気機関車検修用工作機械

昭和初期の鉄道動力車の主力は蒸気機関車でしたので,蒸気機関車用工作機械が設置されていました。次のようなものがあります*15
  • ピストン棒グラインダー
  • ピストンリング・グラインダー
  • 加減リンク・グラインダー
  • 弁装置グラインダー
  • クランクピン削正機及びグラインダー
  • 棒用2軸中ぐり盤
  • スライドバー・グラインダー
  • 車輪ジャーナル旋盤
  • タイヤ中ぐり盤
  • シリンダー中ぐり盤

作業効率の改善

車輛の近代化に伴い,鉄道工場での作業も機械化が進み,一つのシステムとして機能するように工場の設備・運営が変化しました。次の各プラントには,洗浄装置,測定検査装置,加工装置,組立装置,試験装置が設置されています*16
  • 輪軸検修
  • 台車検修
  • 気動車エンジン検修
  • 電動機検修
  • 鋳造プラント
  • バネ検修
  • 車体塗装

参考文献




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更新日:2010年11月27日

最終更新:2010年11月27日 19:04
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*1 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p147

*2 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p147

*3 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p148

*4 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p148

*5 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p158

*6 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p159

*7 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p148

*8 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p158

*9 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p154

*10 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p155

*11 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p156

*12 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p154

*13 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p157

*14 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』p162

*15 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』pp. 157,158

*16 ) 久保田博『日本の鉄道史セミナー』pp. 162,163