有限次元線形表現の作用素は正方行列で表されるが,その行列の跡和を表現の指標という。指標は群上の函数であるが,各共軛類上で一定値を取る。同値な表現の指標は一致する。逆に有限群の有限次元表現は指標が一致すれば同値である。
有限群G上の複素数値函数に対してエルミート内積を以下に定義する。ここで|G|−1を乗するのは定義を無限群に拡張するための都合である。
この内積に関して,既約指標は互いに直交する。
χとχ′がGの異なる既約指標であれば
gとg′がGの異なる共軛類に属する元であれば
である。
{gj}をGの共軛類の完全代表系とし,nj=|gjG|をgjと同じ共軛類に属する元の個数とする。指標が類函数であることに注意すれば第一直交関係は次式で表される。
Aをi行j列がχi(gj)である正方行列,Bをi行j列がχi(gj−1)である正方行列,Dをni/|G|=CG(gj)−1の対角行列とすれば第一直交関係はBDtA=Iと書ける。左右からD−1B−1とBを掛ければtAB=D−1となり,転置して見れば第二直交関係が得られる。
体が複素数体であるときは更に直截的な関係が見られる。即ち,i行j列を
指標には代数的整性があり,それによってバーンサイドの定理の容易な証明が与えられる。
(補題1) χをGの指標とするとき,任意のx∈Gにつき,χ(x)は代数的整数である。
(補題2) ρをGの既約表現とする。各x∈Gにつき,n=|xG|をxの共軛の数として,nχρ(x)/χρ(1)は代数的整数である。
{Ki}をGの共軛類の全体とし,Ki=∑Kiとする。Kiは群環の中心に含まれるが,{Ki}が群環の中心の基底を成すから KpKq=∑rapqrKr と書けて各apqrは整数である。ρを延長して得るρ(Ki)は表現ρと可換であるから,シュールの補題によってスカラーkiとの同一視が可能である。pを止めてqとrを動かせばkpが整数行列(apqr)qrの固有値になることが分かる。
(補題3) xをGの元,ρをGの既約表現とする。xの中心化群の指数とρの次数が互いに素であればχρ(x)=0であるか,或はρ(x)|はスカラーである。
mをxの中心化群の指数とする。ρの次数はχ(1)に等しい。mとχ(1)が互いに素であればam+bχ(1)=1となるaとbが存在する。この両辺にχ(x)/χ(1)を掛ければamχ(x)/χ(1)+bχ(x)=χ(x)/χ(1)となるが,左辺の第一項は補題2によって代数的整数であり,第二項も代数的整数であるから,右辺も代数的整数である。 χ(x)≠0ならば可能性は|χ(x)/χ(1)|=1しかない。これはρ(x)を対角化したときに対角要素が一律になることを意味する。即ち,ρ(x)はスカラーに相似,即ち,それ自体がスカラーである。
(定理1) 中心化群の指数が素数の冪である非自明な元を持つ有限群は単純群でない。
x≠1を有限群Gの元とし,xの中心化群の指数が素数pの冪であるとする。既約指標の第二直交関係から∑χχ(1)χ(x)/p=0となる。恒等指標に関する項は1/pとなって代数的整数でないから,他にも代数的整数でない項がなければ和が0にならない。恒等指標以外,代数的整数でない項を与える指標をχρとする。χρ(x)≠0であり,χρ(1)はpで割れない有理整数である。補題3により,ρ(x)はスカラーである。
χρの核はGの正規部分群であるが,χρが恒等指標でないからGより真に小さい。χρの核が自明であればρの核が自明であり,ρの像がGと同型である。その場合,スカラーであるρ(x)がρ(G)の中心に含まれるからGが自明でない中心を持つ。
(定理2) 位数が二個の素数冪の積である有限群は可解群である。
|G|=paqbを最小位数の反例とし,PをGのシローp部分群とする。Pは自明でない中心を持ち,1≠x∈Z(P)が取れ る。xの中心化群はPを含み,その指数はqの冪である。定理1によりGは正規部分群Nを持つ。NとG/NはGより小さいから可解であり,故にGも可解である。即ち,Gは反例になりえない。
先導項の係数が1である多項式をモニック多項式という。有理整数を係数とするモニック多項式の根になる複素数を代数的整数というが,実際,代数的整数を係数とするモニック多項式の根も再び代数的整数である。代数的整数は環を成す。
例えば,有理整数環Zに代数的整数である√2を添加した環Z[√2]は加群としても1と√2のみで生成される。一方,Z[1/√2]は無限に大きいnについて1/2nを含むからZ上有限生成の加群ではない。これは一般にも真であり,この逆も真である。即ち,xが代数的整数であることとZ[x]が有限生成加群であることとは同値である。
aとbが代数的整数であるとすればZ[a,b]はZ上有限生成であり,Z[a+b]とZ[ab]はZ[a,b]の部分加群である。有限生成加群の部分加群は必ずしも有限生成ではないが,環をネター環に限れば有限生成であるといえる。Z[a+b]とZ[ab]が有限生成であるから,a+bとabは代数的整数である。故に代数的整数は環を成す。
代数的整数を係数とするモニック多項式pが根xを持つとし,pの係数を全てZに添加した環をYと書く。Yは有限個の代数的整数をZに添加したものであるからZ上有限生成である。Y[x]はY上有限生成であり,Z上有限生成でもある。Z[x]はY[x]の部分環であるから有限生成である。故にxは代数的整数である。代数的整係を要素とする正方行列の固有多項式は代数的整係を係数とするモニック多項式であるから,その固有値は代数的整数である。
代数的整数は実軸上で稠密であるが,有理数である代数的整数は有理整数に限られる。絶対値1の代数的整数が1の冪乗根であるとは限らない。
☆ Zに代数的整数を添加した環はZ加群として有限生成である。
☆
Zにxを添加した環が有限生成であればxは代数的整数である。
Z[x]の有限個の生成元を{ai}とする。各aiはxの多項式で表される。勿論,多項式の次数は有限である。それら有限個の多項式の次数の最高をnとする。xn+1は生成元の線形和で表されるが,各生成元はn次以下のxの多項式で表されるから,xを根とするn+1次のモニック多項式が得られる。
☆ a=(−3+√5+i√(2+6√5))/4は1の冪乗根でない。|a|=1である。
aはp(x)=x4+3x3+3x2+3x+1の根であり,an=1を仮定するとq(x)=xn−1の根でもある。q(x)をp(x)で除した剰余をr(x)とする。r(x)は3次以下の整数係数多項式であるが,aが3次以下の整数係数多項式の根になることはなく,故にq(a)=r(a)≠0である。なお,r(x)=0はp(x)が絶対値1以外の根を持つから有りえない。
(補題1) p(x)を重根を持たないn次の複素係数多項式とする。代数学の基本定理によってp(x)はn個の根{ai}を持つ。pi(x)=p(x)/(x−ai)と定義すれば,任意の多項式q(x)は∑di(x)pi(x)の形に表される。任意の多項式とは特に定数1を含む。
p(x)とq(x)の共通根の数に関する帰納法を用いる。共通根がn−1個以上であればq(x)を整除するpi(x)があるから明らかに真である。共通根がk個のときには主張が真であるとする。然し,p(x)とq(x)がk−1個の共通根を持てば,p(x)の根であってq(x)の根でないもの2個を用いてq(x)=q(x)(x−ai)/(aj−ai)−q(x)(x−aj)/(aj−ai)と書ける。この右辺の各項はp(x)とk個の根を共有するから,共通根がk−1のときにも主張は真である。
(定理1)
p(x)を重根を持たない複素係数多項式とする。xに正方行列Aを代入したものが零行列を与えるならばAは対角化可能である。但し,定数項はスカラー行列と見なす。
補題1で得られる等式はxを行列Aに換えても成立する。I=∑di(A)pi(A)とし,各項di(A)pi(A)は(A−ai)を掛ければdi(A)p(A)=0になるから,di(A)pi(A)Vは空でなければ固有値aiの固有空間である。任意のv∈Vについてv=Iv=∑di(A)pi(A)vであるから,Vは固有空間に分解する。
(定理2)
有限群の表現の作用素は対角化可能である。
有限群の元gの位数は有限であるからρ(g)|g|=Iである。多項式x|g|−1は重根を持たず,定理1によってρ(g)は対角化可能である。
(定理3) 有限群の指標は1の冪根の和である。
ρ(g)は定理2によって対角化可能であるが,ρ(g)の|g|乗が単位行列になるためには各対角要素の|g|乗が1にならなければならない。